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328 女王の私室

三百二十八




 メイリンがいると踏んで、アダムス家にやってきたミラ。予想通りにメイリンを見つけ目的を果たせたその日は、そのままアダムス家で一泊した。

 そして次の日、朝食をご馳走になってからメイリンと共に子供達の朝練に付き合った。

 この際、多少興が乗り過ぎたりもしたが、昨日の事もあり庭は無事なままだ。

 そうこうして一通りの朝の行事を済ませたところで、ミラは城に出仕するヘンリーと共にアダムス家を後にした。

 メイリンについては、一先ず髪を染め衣装も渡せたため、暫くは安心だ。加えてヴァネッサにも幾らか説明して一任してある。『こう見えて、お忍びのアイドル的云々』といった具合にだ。きっと後は彼女が融通を利かせてくれるだろう。

 また何よりも重要なのは、沢山の人の目が集まる闘技大会予選と本戦である。この時にしっかりと変装していれば問題はない。


「弟妹の面倒をみていただき、ありがとうございました。あんなに気合の入っていた朝練は、久しぶりでしたよ」


「構わぬ構わぬ。子供は嫌いではないのでな。それにとても良い子達じゃった。また友人の様子見がてら会いに行ってもよいかのぅ?」


「それはもちろんです。あいつらも喜びますので、むしろお願いしたいくらいですよ」


 ヘンリーの弟妹達は、実に可愛らしかった。ほんの一日の事ながら随分と懐かれたもので、アダムス家を出る時は、なかなかに大変だったものだ。

 そのように二人は歩きながら、他愛のない言葉を交わしていた。

 アダムス家から彼の職場である王城まで、約一キロメートルほど。出仕時はいつも街の見回りなども兼ねて、馬車は使わないそうだ。そして、だからこそヘンリーは、城下の市民達と幅広く知り合いだったりした。


「あ、ヘンリーさん。おはようございます」


「お疲れ様です、ヘンリー殿。またそのうちに皆さんで飲みに来てください」


 乗合馬車の御者や飲み屋の主人など、多くの人が声をかけてくる。そしてヘンリーもまた気さくな笑顔で皆に挨拶を返していた。

 貴族でありながら何ともフレンドリーなやりとりだ。しかも、それでいて両者の態度には敬意を払う様子が見て取れた。国の在り方か、それともヘンリーの人柄か、国民と貴族の理想的な関係がそこにはあり、ミラは感心したように両者のやり取りを見守っていた。

 と、そうしていたところで、いよいよ同行しているミラの存在に気付き、その話題に触れる者が現れた。


「あらあら、そちらの可愛らしい子はもしかして──」


 如何にもお節介で噂話などが好きそうなおばちゃんが、ミラの姿を見るなり声を上げる。その瞬間、ミラの脳内に一連のお決まりなやり取りが、ぱっと浮かび上がった。


『その子はもしかして、彼女さんかい?』『ええ!? いえいえそんな』『そんな可愛い子を連れちゃって、隅に置けないねぇ、このこの』


 といったようなやり取りの後、共に意識し合っている主人公とヒロインが顔を赤くして照れ合うという、恋愛系の物語などでよくある定番のアレだ。

 まさか、そのヒロイン側の立場として、このシチュエーションに遭遇してしまうとはと、心の中で苦笑するミラ。

 そのような事をミラが一瞬のうちに脳内で展開したところで、おばちゃんが続く言葉を口にした。


「──迷子さんかい? こんな朝早くに迷子だなんて大変だねぇ。時間からして、朝市とかではぐれちゃったのかねぇ」


 それは、ミラの予想とはまったく違う言葉だった。瞬間にミラは、『馬鹿な!?』とばかりに目を見開く。これだけの美少女であるのだ。恋人云々という多少の勘違いも仕方がない。そう思っていたところで、まったく別方面の展開へと進んだではないか。


「いや、この辺じゃあ見かけない子だ。この大会を見物に来た家族の迷子かもしれないぞ。となれば、朝早くからやっているイベントエリアから迷い出てきたのかもしれん」


 まさかの流れにミラが困惑する中、おばちゃんだけでなく、道行くおじちゃんも心配そうな表情で話に加わってきた。そして、親の名前はもう聞いているのか、女の子の名前は、どこで保護したのか、などと続けるおばちゃん達。しかもそれだけに留まらず、周りの人達を巻き込み始めた。皆は親捜しに協力するよと、優しさに溢れたいい笑顔をしていた。実に人情と温かみのある者達だ。

 だがしかしである。


「いえ、あのですね、このお方は──」


 あまりの勢いと熱意にたじろいでしまっていたヘンリーだったが、ここでようやく真相を話し始める事が出来た。

 ここからが重要だ。完全に迷子の少女という印象から、どこまで凄腕冒険者という威厳を取り戻せるのか。それはヘンリーの双肩にかかっており、ミラはただ、彼の弁護を祈るように聞きながら、住民達の反応を確かめるのだった。




 ヘンリーの活躍のお陰で、どうにか迷子の少女という汚名だけは払拭出来たミラ。しかし、おばちゃんおじちゃん達は冒険者事情に詳しくなく、『精霊女王』の名は、さほど響かなかったようだ。

 とにもかくにもミラ達は、そのようなイベントを交えつつ大通りを進み、暫くの後に王城へと到着した。


「ではミラ様、またいつでもいらしてください。弟達も喜びますので」


「うむ、近いうちにそうさせてもらうとしよう」


 ニルヴァーナ王城内にある王室の前で、二人はそう言葉を交わす。その後ヘンリーは持ち場に戻り、ミラはそのまま王室へと進んだ。

 メイリンの件については、半分が済んだといってもいい。あとやれる事は、メイリンがしっかりと変装したままバレずに闘技大会を終えるのを見守るだけだ。

 肩の荷が一つ下りたというものである。そうして身軽になったミラは、一昨日に頼まれた巫女の護衛の件について詳細を話し合うためにやってきた。これもまた重要な案件である。


「あと十……十五分くらいで終わるから、じぃじは奥で待ってて」


「ふむ、わかった」


 王室に顔を出したところ、アルマは朝も早くから書類仕事に追われていた。しかも今は闘技大会の期間中で、いつもより仕事が割り増しなのだそうだ。

 朝の内に終わらせておかなければいけない仕事が少し残っているらしい。護衛の件については、その後にゆっくりと。という事で、ミラは暫しの間、奥の部屋で待つ事となった。

 現在アルマが政務を行っている部屋は、沢山の資料が並ぶ本棚に囲まれている事に加え、壁にはニルヴァーナの国旗の他、繋がりの強い国の国旗も、その隣に並べられていた。そしてその中には、ミラもよく知る国章が描かれた国旗──アルカイト王国のものもあった。

 そんな、如何にも偉そうな執務室の奥にある扉。その先の部屋で待っていてと言われたミラは、特に何も考えず返事をして、そのドアノブに手をかける。するとそこで「あ、冷蔵庫のものは好きに食べていいからー」などとアルマが続けた。


「おお、そうか」


 ならば遠慮なく。そう答えながら扉を開き奥の部屋に踏み込んだところ、ミラはその光景を前に「おおぉ……」と感嘆の声を上げた。

 女王の仕事場として、きっちり整えられていた先程の執務室。その奥にあったのは、超一流ホテルのVIPルームをも超えるのではないかというほどの、贅沢な居住空間だったのだ。

 テーブルや椅子にソファー、食器棚などは、一目見て最高級だとわかるものばかりが揃っており、照明や冷蔵庫、そして空調装置など、さり気なく置かれた生活用術具の類も、そこらの一般家庭で使われているものとは明らかに品質が違っていた。

 そこは正しく、女王の居室に相応しい煌びやかさと威厳に溢れた空間であった。


「なんとまた、こういうちゃんとした部屋もあるのじゃな」


 一昨日お邪魔したアルマの庶民的な私室とは雲泥の差だ。ちょっと見て回ると、お手洗いの他にも風呂や寝室などの居住環境が完璧に整っていた。立派なキッチンもあるため、手の込んだ料理も作れそうである。

 ここもまたアルマの私室なのだろう。だが普段は、あの庶民的な私室で寝起きしている様子だ。この場所には、生活感がほとんどなかった。


「まあ、何となくわかる気もするのぅ」


 豪華な部屋に憧れというのはあるものの、毎日暮らすとなったら気疲れしてしまいそうだ。庶民気質のミラは、アルマの気持ちをそのように理解する。ただ、時たま贅沢するのは最高だ。そして最もわかりやすい贅沢といえば、食関係だろう。

 ミラは早速とばかりにキッチン横に置かれた大きな箱の術具──冷蔵庫に駆け寄ってその中を確かめた。


「入っておる入っておる」


 成人男性一人くらいの高さのある黒い箱。ひんやりとしたその中には、幾らかの野菜や果物、瓶などが並んでいる。場所的にアルマしか使わないであろう事から、食材の量は、そこまでではない。だが、その代わりとばかりに瓶が沢山あり、容量の半分以上を占めていた。


「はて、これは……いや、もしや……!」


 透明な瓶には、赤だったり紫だったり琥珀だったりと、随分カラフルな液体が入っている。これはいったい何なのだろうか。そう考えたミラの脳裏に、すぐさま一つの可能性が過った。そしてその予感は的中し、蓋を開けてみれば実に芳醇な香りが鼻腔に広がったではないか。


「おお……なんと香しい……」


 瓶の中身は酒であった。様々な果実酒にビール、ウィスキーや日本酒まで、一通り揃えられている。それこそ、気分によって幾らでも選べるほどに盛り沢山だ。

 ゲーム時代からアルマが大の酒好きであると知っていたミラは、ここに並ぶ瓶を眺めながら、今でも相変わらずのようだと苦笑する。だが同時に、むくむくと興味を膨らませていた。

 ソロモンのところで飲んだ酒は、流石は一国の王が楽しむだけあり、そこらの酒場で飲む酒に比べて頭一つ抜けた何かがあった。

 その例を前面に置き、改めて目の前にある酒を見てみるとどうだ。場所的に考えて、それらは酒に目がない女王アルマが、個人でゆっくり楽しむために用意したもの。加えて、言っては何だが、アルカイト王国よりもニルヴァーナ皇国の国力は圧倒的だ。

 瓶に入っているのは、そんな上から数えた方が早い大国の女王が嗜む酒。気にならないはずがない。


「一杯だけならば……」


 そう瓶に手を伸ばしたミラであったが、直後にその手を止めて、そのまま冷蔵庫を閉じた。

 女王の酒に大変興味はあるものの、これから護衛対象である巫女と会う予定だ。一杯ひっかけてからというのは、いくらなんでもと思い直したのである。







遂に……

遂に買ってしまいました。


アイフォン!

……ではなく、アイポッドタッチを!


お出かけ時の音楽ツールとしてPSPを持ち歩いていたのは、いつ頃だったか


PSPが壊れてから随分と経った今、再びこの手に携帯出来る音楽ツールが戻ってきました!

しかもかつてに比べて、超絶進化しております!!


そしてこのアイポッドタッチ、なんとゲームアプリなんかも楽しめちゃうというもの!


フフフフフフフフフ。

とりあえず、FGOとポケマスとロマサガを入れてみました!


他には、どんな面白いものがあるのか……ワクワクですね!

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― 新着の感想 ―
[一言] おばちゃんたちの反応は正しい。 本来そうあるべき。 鑑くんを筆頭にあのような反応をしている方がおかしい。 ↑何をいまさら。同穴狢のくせに。
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