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323 ミラ対メイリン

三百二十三



 九賢者の一人であるメイリンを捜しに、ニルヴァーナ皇国までやってきたミラ。その苦労とアルマ女王達の助力もあり、遂にヘンリー・アダムスなる騎士の家で御厄介になっていたメイリンを見つける事に成功する。

 そして二人は今、アダムス家の訓練場で当たり前のように試合を始めていた。


「行くネ!」


 ヘンリーが開始の合図をした直後の事だ。嬉々とした表情から一転、獲物を狙うような鋭い眼差しをみせたメイリンは、その言葉と同時にふっと消えた。

 その光景を前にして目を見開くヘンリーとその弟妹達。対してミラはというと、一切慌てる様子もなく直ぐに索敵を始めていた。


(予想通りじゃな)


 メイリンが消えたように見えたそれは、仙術士の技能の一つ《縮地》だ。ミラもまた多用する技能であるため、その特性もまた重々把握している。

 目にも映らぬほどの速度で移動するという慣性の法則も真っ青なそれは、だからこそ幾つかの欠点も存在した。

 一つは直線でしか移動出来ない事、もう一つは急に停止したりが出来ない事だ。ゆえに、《縮地》に入る瞬間と出る場所がわかれば、回避不可の一撃を見舞う事が可能となる。

 メイリンの言動や性格からすると、《縮地》による真正面からの特攻が最も可能性の高い一手目だ。よって正面を警戒したミラだったが、その耳は僅かな物音も聞き逃さなかった。


「そこじゃ!」


 左後方。ミラにとって聞きなれた音が、そちらの方向より微かに響いてきたのだ。その音とは、《縮地》の出と、入りである。メイリンは、ミラよりもずっと巧みにそれを扱うため、立つ音は極めて小さく、次への繋がりも鮮やかだ。

 しかし、だからこそ、その音はタイミングを計る合図にもなった。

 即座に反応したミラは、音の方向と自身の間に挟むようにして塔盾を部分召喚した。

 裏をとってから、更に《縮地》によって接近する。メイリンは、そんな戦法もまた好んで使うとミラは知っていた。表面から読み取れるイメージとは違い、彼女の戦術は王道から搦め手まで多種多様。中途半端に相手を分析出来る者ほど、この手にかかりやすかっただろう。

 だがミラは、メイリンとの付き合いが長かったからこそ、その選択肢まで読み切っていた。

 両者の間に割り込んだ塔盾。それは、直進しか出来ず急に止まれないという《縮地》の特性からして、衝突は免れないベストなタイミングでそこに現れた。


「甘いネ!」


 衝突したと思った瞬間だ。なんと塔盾が砕け散ったではないか。

 それは、メイリンの一撃によるものだった。彼女は塔盾との衝突を避けるため、その塔盾を破壊するという手段に出たのだ。《縮地》による高速移動からの、鋭い飛び膝蹴り。それは、魔獣の一撃すら防ぎきる塔盾を容易く砕くだけの威力を秘めていた。


「なんと……!」


 即座に飛び退いたミラは、置き土産とばかりにダークナイトを複数召喚し、メイリンを取り囲む。しかし稼げたのは僅かな時間だけ。メイリンは片足で着地するなり勢いそのまま跳躍し、正面のダークナイトを蹴り飛ばした。更にその反動をもって身を翻すと、振り下ろされる黒剣を紙一重で躱しながら、更に回転をつけて残るダークナイトをなぎ倒していく。


(あの頃より、ずっと強くなっておるようじゃな……)


 知る限り、《縮地》から繋げられる攻撃には制限がある。その数少ない一つが飛び膝蹴りなのだが、修行の成果とでもいうべきか、メイリンのそれはゲーム時代よりも更に磨きがかかっていた。威力だけでない。その後の派生まで、より洗練されていたのだ。

 塔盾を一撃で砕かれるどころか、ダークナイトも鎧袖一触にされるとは。そう驚いたミラであったが、メイリンに驚かされる事など、もはや慣れたものである。その後の対応もまた迅速だった。


「これならば、どうじゃ?」


 メイリンの回転が止まるより前、体勢を整えきるより早くに、ミラは次の手を打った。

 砕かれたダークナイトに代わり、再びメイリンを取り囲んだのは、六体の灰騎士。かつてより実力を上げているメイリンだが、ミラもまた当時とは違うのだ。


「これは見た事がない術ヨ!」


 同じ武具精霊ながら、ダークナイトやホーリーナイトとは似て非なる存在。より洗練された屈強な騎士の姿に驚きを露わにしたメイリンは、同時に笑う。「面白そうネ」と。

 メイリンの動きは、それこそ流水のように止めどなく、それでいて滑らかに連続する。ほぼ一斉に繰り出された灰騎士のシールドバッシュ。前後左右の逃げ場を塞いでからの容赦ない包囲攻撃だったが、メイリンはそれを上に飛びあがる事で回避していた。


「これでどうじゃ!」


 まるで野生動物かとも思えるほどに素早い動きだが、それは用意しておいた逃げ場だ。ミラは、予定通りに飛び出したメイリンに向けて、仙術の《練衝》を放つ。幾重にも練られた衝撃波の束がメイリンを襲う。


「まだまだネ!」


 直後の事だった。激しい衝撃音が響くと共に、全ての灰騎士が上方へ弾き飛んだのだ。しかもそのうちの一体は、メイリンとミラを結ぶ射線軸上に割り込むようにして舞い上がってきたではないか。


(ここで『掌握』を出してきおったか)


 それは、『掌握のメイリン』などと呼ばれる由来になった技であった。《無手夢想》という名のその技は、手の届く範囲を認識出来る範囲にまで拡張する効果を持つ。

 その意味するところは、離れていてもその手で掴めて(・・・)しまえるという事。つまりメイリンは、手の届く範囲でなければ効果のないゼロ距離専用の仙術を、どの距離からでも繰り出せる状態にあるのだ。

 その技によって行使された術は、《烈衝一握》。強烈な衝撃波によって対象を弾き飛ばし破壊する、強力な仙術である。

 それによって、灰騎士は天井へと吹き飛ばされた。そしてミラの《練衝》は、その灰騎士に直撃し、強烈な破裂音を響かせ、余波で訓練場を震わせるだけに終わったわけだ。

 天井に大きな穴を開けた灰騎士が、ガラガラと音を立てながら床に落ちていく。と、その光景を前にしながら、ミラは既にメイリンの姿がそこにない事に気付いた。

 だがミラの耳は、その音を確かに捉える。鮮やかな《縮地》の出と、入りの音をだ。


「正面じゃな!」


 降り注ぐ灰騎士と共に床へ降り立ち、間髪容れずに正面から。そんなメイリンの動きを気取ったミラは、考えるよりなにより反射的にそこから飛び退く。

 刹那の後、メイリンの飛び蹴りがミラのいた場所を貫いた。僅かにでも遅れていれば直撃していたであろう、正確無比な蹴りだ。


「また避けられたネ!」


 一直線に空を切るメイリンは、嬉しそうに笑う。それと同時だった。《空闊歩》で宙を蹴り強引に軌道を変えて、再びミラに迫ったのである。


「おおっと!」


 隙のない方向転換と連続するメイリンの攻撃。ミラは、どうにか身を捻って対応したが、そこから先が困難だった。

 巧みな足さばきにより、近接戦にもち込んできたメイリン。ミラはというと、多少なりとも近接戦に心得はあるが、そもそもそれは、メイリンに教わった武術が基だ。師弟の差は未だに大きく、近接での戦いにおいてミラに勝ち目はないといっても過言ではなかった。

 それでいて何回と凌げているのは、無尽蔵に召喚し続けるホーリーナイトと、部分召喚によるところが大きい。


「倒しても倒してもきりがないヨー」


 ばったばったとホーリーナイトを殴り倒すメイリンは、それでいて次に出てくるのを楽しみにしている様子だった。実に殴り甲斐のある相手だと、そう感じているようだ。

 距離を離すため、狙いを分散させるために活躍するホーリーナイト。その堅牢な防御力をもってしても数発で粉砕されてしまうが、接近したままという状態を回避出来るのは大きかった。

 また、神出鬼没な部分召喚で牽制する事で、僅かな隙をカバーしていくミラ。

 ただ、それも長くは続かない。ホーリーナイトと部分召喚による波状防衛に慣れてきたのか、メイリンの対応速度がぐんぐんと増してきたからだ。


「もう足止めにもならぬとはのぅ」


 新しい部分召喚として長槍に戦斧、弓なども交えたが、流石はメイリンである。開発してから日の浅いそれらは、既に通用しなくなっていた。

 そして、いよいよミラに最大の危機が訪れる。メイリンの強烈な飛び膝蹴りによりホーリーナイトが砕かれたと思えば、更に宙を足場にしての飛び蹴りが部分召喚の塔盾を貫きミラに迫った。

 ミラはそれをミラージュステップでもって、かろうじて回避する。だが、メイリンの捕捉からは逃れられない。素早く方向転換した後、メイリンの鋭い拳打が、遂にミラへと炸裂したのだ。

 その一撃は、ミラの意識を刈り取るだけの十分な威力を秘めていた。メイリンは何合と打ち合っていた際に、そんな加減まで計測していたのだ。ゆえにそれは、たとえ両腕を交差して直撃を防いだとしても、その防御を抜けてミラを戦闘不能に陥らせるだけの威力を秘めていた。


「やはり、とんでもない連撃じゃな」


 圧倒的な命中率を誇る、メイリンの二連撃。きっと初見だったなら、ここで勝負は決まっていただろう。だがミラは、その技を知っていた。そして対策も用意してあった。だからこそ、あえてメイリンがそれを繰り出してくる状況を作ったのだ。

 ミラは、両腕を交差させるようにして、その一撃を防ぐ。しかし、ただ防いだわけではない。

 直前にホーリーナイトフレームを纏っての防御だ。近接戦に影響する全ての能力値でメイリンに劣るミラが、それでいて不利を補うための武装召喚を温存していたのは、この一瞬のためであった。メイリンの直感的で完璧な威力調整を狂わせ、僅かな好機を生み出すために。

 ずしりと重く、身体の芯にまで響いてくるような衝撃。それを受け止めきったミラは、瞬間にメイリンの手を掴まえる。


「なんと、耐えられたネ!?」


 メイリンが浮かべた表情。それは、これまでしていた何かを期待するかのような感情が混じったものでありながら、倒しきれなかったという驚きも含まれたものだった。


「召喚術には、こういった使い方もあるのじゃよ!」


 これぞ召喚術の新たな可能性だとばかりに叫んだミラは、腕を掴んだまま、バットをフルスイングするかのようにしてメイリンをぶん投げた。

 ただのミラが投げ飛ばしただけならば、そう大した事にはならなかっただろう。しかし現在、ミラはホーリーナイトフレームを装着している。

 これは、防御力を補うためだけの代物ではない。装着者にホーリーナイトと同等の筋力も与える術である。

 ゆえにその渾身のフルスイングによって投げられたメイリンは、直線を描き猛烈な勢いで壁に激突した。

 激しい衝突音が響き、壁にあった掲示板も砕け散る。それは誰の目から見ても、ただでは済まないと思える激突っぷりだった。ヘンリー達も、大丈夫なのかと息を呑む。

 しかしだ。


「今のはびっくりしたヨ!」


 次に聞こえてきたのは、嬉しそうなメイリンの声であった。まるで壁に着地するかのように両脚をバネにして、激突の衝撃を緩和していたのである。


「そうじゃろう、そうじゃろう」


 対してミラは、一切のダメージもないメイリンを前にしても動揺する事無く、そう笑った。ミラはわかっていたのだ。メイリンが苦も無く激突を回避する事を。あの程度では、どうにもならないと。

 だが次の瞬間、ミラの顔に驚きが浮かんだ。


「もっともっと上げていくネ!」


 そう気合を入れたメイリンが、そのまま床に下りぬまま立ち上がり、壁を歩き出したからだ。そして遂には天井に、逆さまに立ち構えたではないか。まるで重力を無視したような光景にヘンリー達もどよめく。


「随分とまた、器用な事をするものじゃな」


 ミラは、それを見て直ぐに思い出した。五十鈴連盟の精鋭であったヒドゥンのサソリも、同じ技を使っていたと。

 グリムダートの西の森にあるというサソリの出身地。カラサワの里に伝わるという伝統の技。才能があれば、外部の者に教える事もあるというような事をサソリが言っていたが、メイリンのそれは同じものなのかどうか。


「ところで、わしにもそれのやり方を教えてくれぬじゃろうか」


 いずれカラサワの里を訪れて教えてもらおうと考えていたミラは、試しとばかりにそう頼んでみた。


「それは出来ないヨ。誰かに教えるのはダメと言われているネ」


 その返事からして、それはサソリと同じ技能のようだと推察するミラ。流石はメイリンというべきか。その才能を認められ、教えてもらえたようだ。見事な天井立ちっぷりである。


「カラサワの里の村長にじゃな?」


「その通りネ」


 ミラの質問に胸を張って答えるメイリン。やはり伝統技能であるためか、そのあたりはきっちりしているようだ。

 技術を習得する才能もだが、きっと約束を守れるかどうかについても、見極められているのだろう。一見すると騙し易そうなメイリンであるが、約束した事はきっちり守る真面目な性格である。この場でメイリンに教わるというのは出来そうになかった。

 だが、そんなメイリンが何やら続けて口にする。「でも、私に勝てたら考えてもいいネ」と、それはもう爛々とした顔でだ。


「ほぅ、その言葉、忘れるでないぞ」


 口止めされていながらも、考えてもいいなどと言ったメイリンの心内を、付き合いの長かったミラは確かに読み取っていた。

 一つは、もっと本気を出してきてほしいという要望。そしてもう一つは、負けるはずがないという圧倒的自信である。

 ただ、それでいて、メイリンの言葉には『考えてもいい』などという、いざという時の予防線が張られていた。考えたけどダメ、というよくあるパターンだ。実に卑怯な手である。

 ただ、これについては、ソロモンの入れ知恵の結果だったりする。九賢者といえど、全戦全勝という事もない。勝ったり負けたりと様々だ。

 その結果、売り言葉に買い言葉の末、メイリンがちらほらと秘密の作戦やら何やらを話してしまっていたものだから、ソロモンが教えたのだ。そういう時は「勝てたら考えてやる」と言えばいいのだと。

 とにかく本気で戦えるのならそれでいいというメイリンは、素直にそれを使い始めた。そしてそのまま今に至るわけだ。

 ゆえにミラは、ここで勝ったところではぐらかされるとわかっていた。それでいて、その口車にのっかったのは、単純にミラもまた本気で新戦術の実験がしたいからであった。



 両者が構えると、しんとした静けさが広がった。

 次に何が起きるのか。ミラとメイリンが見せた先程の攻防を目にした子供達は、一瞬たりとも見逃すまいといった目で二人を見つめる。ヘンリーもまた、思わぬレベルの戦いを前にして興奮気味だった。壊れていく訓練場が気にならない程に……。

 先に動いたのはメイリンだ。天井を駆けたかと思いきや、《縮地》によってその姿を消す。

 次に動いたのはミラだ。僅かな音を聞き分けて、背後から迫るメイリンの飛び蹴りを両腕で受け止めてみせた。

 と、そこまでは先程と同じようなやりとりだった。だがその先より、ステージが一つ上がる。受け止めた直後、中空に現れた腕が黒剣を振り下ろすと、その剣線上にいたメイリンの姿が再び掻き消えたのだ。

 しかも次の瞬間、メイリンの拳がミラの背に打ち込まれていた。それは確かな威力を秘めた重い一撃であった。


「ぬぅ……!」


 振り向きざま、間髪容れずに背後を一閃する。だがそこには既にメイリンの姿はない。それどころか、今度は側面から一撃を見舞われるミラ。素早く反応したものの、既にメイリンはそこにいない。


(やはり、こうなると不利じゃな……)


 メイリンを相手に向かい合っての近接戦ほど勝ち目の薄い戦いはない。加えて室内となれば尚更だ。壁や天井などを足場にして三次元に動き回るメイリンは、もはや手の付けようがなくなるからである。

 それでいて直ぐに決着がつかないのは、ひとえにホーリーナイトフレームのお陰といえた。召喚術によって生み出された外装は、通常の鎧などにはない特殊な性能を秘めている。

 それは、防護効果だ。召喚時に召喚体へ付与される防護膜が、ホーリーナイトフレームにも付与されているのだ。この効果によって防御力を補えるだけでなく、一定のダメージを無効化出来た。

 つまり武装召喚が健在の時は、怪我などを気にせず戦えるというわけだ。


「それ、思ったよりずっと堅そうネ」


 ミラを強かに蹴り飛ばしたメイリンは、それでいて直ぐに起き上がるミラを興味深げな目で見つめる。ホーリーナイトフレームの性能を確かめているようだ。先程から、完全な死角をつき威力の違う攻撃を繰り返してきていた。


「最近のお気に入りじゃからな。ちょっとやそっとで傷つく代物ではないのじゃよ」


 生身だったなら既に十回はノックアウトされていただろうが、ミラはけろりとした顔で立ち上がり構え直す。とはいえ縦横無尽に飛び回るメイリンを目で捉えるのは不可能に近く、また速さもぐんと増しているため、音で判断するのも困難を極めた。

 五感で捉えた時には既に一撃を打ち込まれる寸前。ミラに出来るのは、《生体感知》によってどこから打ち込まれるかに備える事だけだった。

 頑丈とはいえ、もう数発も受ければホーリーナイトフレームは砕けてしまうだろう。だがミラは、ただ打たれ続けるばかりではなかった。目で捉えるのは不可能でも、追うように視線を走らせ続けていたミラは、いよいよ準備の整ったそれを発動させる。


「それともう一つ。お気に入りに加えるかどうか、試させてもらうとしようかのぅ!」


 さあ実験だとばかりな顔でにやりと笑ったミラ。その周囲から更に拡大して、訓練室全体に無数の魔法陣が一斉に浮かび上がった。


「おお、凄いマナを感じるヨ!」


 それらを前にして警戒する、というより何が出てくるのか楽しみといった様子のメイリン。対して訓練室の端で、その光景にただただ驚愕するヘンリー達。そうした様々な感情が入り交じった目の先に、それらは姿を現した。


「これは、さっきと変わらないネ」


 じっくり見つめたメイリンは、少々不満げに首を傾げる。

 訓練室に数十と立ち並んだのは、ホーリーナイトだった。先程まで、メイリンに幾度となく打ち倒されてきたのと変わりのない、いつものミラのホーリーナイトだ。

 違うところがあるとすれば、その数だろうか。今回は、訓練室を埋め尽くさんとするほどに、その数は多かった。


「なに、これからじゃよ」


 より一層笑みを深めたミラは、そこでいよいよ仕上げにかかった。召喚した全てをホーリーロードに変異させたのだ。

 壁のような盾を両手に持った、極端なほどに防御特化のホーリーロード。その防御力をもってすれば、メイリンの攻撃にだっていくらか耐える事が可能だろう。

 しかもこれだけの数が揃った今、訓練室内は渋滞状態。壁や天井を足場に出来たところで、これだけ障害物が多くては、その速度が活かせなくなる。つまりメイリンは、ホーリーロードをどうにかしない限り、これまで通りの機動力を発揮する事が出来なくなったわけだ。

 だがミラの策は、そこで終わらなかった。精霊王の加護を使い、そこへ光の精霊の力を加えて、ホーリーロードをこれでもかと輝かせたのである。

 その結果、訓練室内は目も開けていられない程に眩しい光で溢れ返る事となった。


「これは眩し過ぎるネー」


 堪らずといった様子で目を塞ぐメイリン。その声にミラは「そうじゃろう、そうじゃろう!」と笑いながら、こちらも目を閉じていた。


「これも召喚術なのか。面白い効果だ」


「兄ちゃん、何も見えなーい」


 ヘンリーとその弟妹達もまた、太陽のように眩く光り輝くホーリーロードを前に目を閉じた。誰も目を開けていられないほど、その光は強烈であり、だからこそ続く召喚術のえげつない活用法を見られずに済んだともいえる。


「さて、この状態でどう戦う」


 共に目で相手を確認する事は出来ない状態。だがミラは、《生体感知》でメイリンの場所を特定出来ていた。とはいえ、それは仙術士であるメイリンも同じだろう。ミラの居場所は、わかっているはずだ。しかし決定的な違いが二人にはあった。

 召喚主であるミラはホーリーロードの配置の全てを把握しているが、メイリンには出来ていないという点だ。


「これは、厄介ネ」


 光の中を自在に動き回るミラとホーリーロード。どうにか近づこうとするメイリンの動きを確認すると、ホーリーロードによって通せんぼする。更には凶器そのものといえる巨大な盾で、さりげなくシールドバッシュを狙っていくではないか。

 音と気配を察知しているのか、それを紙一重で躱すメイリンは流石といえた。しかしミラ側も、そのままでは終わらない。数十というホーリーロードの中に、静寂の力を組み込んだ消音タイプを数体紛れ込ませていたのだ。

 数秒の後、その強烈なシールドバッシュが炸裂し、鈍い音が響いた。


「むむ! 今のは何ヨ、気付けなかったネ!」


 通常は紙装甲なミラとは違い、修行によって確かな頑丈さを備え、更には仙術による強化も可能なメイリンの防御力は、その鈍器の一撃を受けてなお、さほどダメージはないようだ。


(かなり強めにいったのじゃがな……怯まぬどころかカウンターまで決めてくるとはのぅ。何とも恐ろしい武道娘じゃ)


 近接クラスにも負けないほど丈夫なメイリン。その事をよく知るミラは、だからこそ強めに仕掛けたが、結果は予想を更に超えていた。

 目を塞ぎ耳を誤魔化した事で、メイリン相手に痛烈な一撃を叩き込む事に成功する。だが次の瞬間に、そのホーリーロードは痛烈な反撃によって砕け散ったのだ。

 その反応速度と、合わせてくるタイミング。武者修行をしていた成果か、よく知る当時の頃よりも更に洗練されているようだった。

 わかってはいたが、メイリンに勝利するのは並大抵の事ではないと改めて感じたミラは、それでいて次はどのような作戦を試してみようかと笑う。


「これは、面倒ヨ」


 視界を封じられながらも、的確にミラがいる場所へと仙術による攻撃を仕掛けてくるメイリン。対してミラは決して射線が開かないように注意しつつホーリーロードを動かし、常に一体ではなく複数体で攻撃を受け止めさせた。

 加減を調整しているのだろう、繰り返すごとに威力が増していくメイリンの一撃。彼女の事である。全力を出したなら、ホーリーロードといえど、まとめて蹴散らされてしまうだろう。だがそうしないのは、ひとえにここがヘンリーの実家だからである。

 これだけの頑丈さを誇るホーリーロードを打ち倒すには、相応の一撃を繰り出す必要があった。一体だけならば、先程の反撃のような一撃で十分だ。しかし今は、常に数体がかりで受け止めている。これをまとめて打ち砕くとなると、それこそ屋敷を半壊させるだけの破壊力が必要になる。

 流石のメイリンも、そのあたりはわきまえているようだ。大技は一つも使わず、様々な応用技で対応していく。とはいえ、ほどほど程度の破壊には気が回らないようだ。徐々に訓練場が荒れ始めていた。

 と、そうした攻防の末、この包囲戦もいよいよ終わりの時が近づいてきた。


「次は、このパターンじゃ!」


 輝くホーリーロードによる様々な戦術。そこから派生する別の策を試そうとした時だった。加減具合を把握したメイリンにより、包囲陣に穴が開いたのである。

 メイリンが放った一撃は、五体のホーリーロ−ドを軽く吹き飛ばしてしまうほどのものだった。とはいえその程度ならば、居並ぶ他のホーリーロードが受け止めて終いだ。

 だが、そうはならなかった。見事に狙いすまされた一撃は、訓練場の一面を占める大きな窓から、ホーリーロードを叩き出してしまったではないか。


「なんと……!」


 メイリンは、二重に並べないように動いていた。そして、もっとも守りが薄くなったところを完璧に抜いてみせたわけだ。更に、輝くホーリーロードが埋め尽くす室内では不利と判断したのだろう、華麗に対応してみせながら、ミラが驚いた一瞬をついて自らも庭に飛び出していった。


「やっと眩しくないネ」


 庭に転がったホーリーロードに素早く止めを刺したメイリンは、光の漏れ出る訓練場を向いて、さあこいとばかりに手招きをする。


「逃げられてしまったのぅ。まあ、仕方がないわい」


 戦いの場を庭に変えての継戦。屋内の次は野外での実験だとばかりに張り切り出したミラは、早速とばかりに庭へと飛び出していった。







新居暮らしを始めて、もうすぐ一ヶ月。

そんな中、遂に奴と出遭ってしまいました……。


そう、この時期において最もエンカウントを避けたい相手……


這い回るGです!!!!


対策は、もちろんしておりました。

ブラックキャップをしっかり設置していました!

前の部屋では、それでもう何年もずっとGが部屋に出た事はありませんでした。


しかし奴は現れました……!

ふと見た天井に張り付いていやがったのです!


保険として、しっかりゴキジェットプロを用意しておいてよかったです……。

一度は逃げられましたが、暫くの後に逃げ込んだところを調べてみると……

隅っこでひっくり返っていました。

ほっと一安心です。

逃げられたままですと、落ち着いて眠れませんからね……。


今後はとりあえず、ブラックキャップを更に置いて様子を見る事にします!

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