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320 研究費用

今回も、二話同時更新となっております!


あと、先週にコミック版の五巻が発売になりました。

是非とも、よろしくお願いします!

三百二十



「じゃが、護衛に就く前に一つ用事があるのじゃが、それを済ませてからでよいか?」


 巫女の護衛を引き受けた後、ミラはそう切り出した。

 頑張る巫女のために引き受けたとはいえ、ミラはミラで、ここにはメイリンを見つけるという任務でやってきている。それを達成するまでは、まだ動き回れる状態でなければいけないのだ。


「あ、そうだったんだ。どんな用事!? 私達に出来る事があったら何でも言って!」


 ミラが護衛を引き受けた事に対する感謝はかなりのもので、アルマは任せろとばかりに胸を張る。そしてエスメラルダもまた、「ええ、私に出来る事なら手を貸しますわ」と続けた。


「おお、そう言ってくれるとありがたい。ならば、頼みたい事があるのじゃが──」


 二人の言葉は、正しく今求めているものだった。よってミラは、ここぞとばかりにそれを口にする。「大会の参加者名簿を確認させてくれぬか」と。


「大会の参加者名簿?」


 ミラの頼み事に対して、首を傾げるアルマ。そんなものを確認してどうするのかと疑問を浮かべながらも、その目は興味の色で染まっていた。


「ミラ子さんが、それを望むのなら構いませんわ」


 エスメラルダには、なぜ参加者名簿などをといった疑問を持った様子はなかった。だがアルマ同様、興味を抱いたようだ。


「大会参加者は、今の時点でも数千人になっていますわよ。それを確認するのかしら? 相当に大変な事ですけど……なんならそちらも手伝いましょうか?」


 そんな理由をつけて手伝いを申し出たエスメラルダ。いわく、手伝うので参加者名簿の何を確認するつもりなのか教えてくれという意味が、その言葉にはこめられていた。


「うんうん、何でもするよー」


 更に便乗するアルマ。そんな二人の様子に苦笑するミラ。ただ、どのみち参加者名簿を確認するのに人手はほしかったところだ。


「それならば手を貸してもらおうかのぅ」


 そう返したミラは、「実はじゃな──」と、そもそもニルヴァーナまでやってきた理由について二人に語り始める。といっても、九賢者を捜しているという事は、既に説明済みだ。よって説明は簡単に終わった。

 かの九賢者が一人『掌握のメイリン』を捕まえにきたとだけ話せば、だいたいは伝わるというものだ。


「まあ、メイちゃんが来てるの!? あ、でもそうね、そうよね。これだけおっきな大会だものね」


 実際、エスメラルダは事情を直ぐに把握していた。少し驚きつつも納得といった顔だ。同時に嬉しそうでもあった。九賢者と十二使徒の関係はなかなかに深く、また不思議と馬が合うようで、メイリンとエスメラルダは特に仲が良かったからだろう。


「なるほどなるほど……。そうだよね、メイリンちゃんなら絶対来てるよね。うん、わかった。ばっちり手伝っちゃう!」


 参加者名簿を確認してどうするのか。アルマとエスメラルダは、その意味まで察したようだ。今夜中に手配して、明日には全部用意しておくと約束してくれた。




 護衛だ任務だといった話は一通り終わり、自然とその場は乙女達(?)のお茶会に変わっていった。

 ゲーム時代の事や、この世界に来てからの事などを面白おかしく語らうミラ達。他愛もない話を交わしながら、お茶とお菓子を楽しむ優雅な一時である。


「しかしまた、とんでもない大会を開催したものじゃな。いったい運営するのにどれくらいの資金がかかっておるのじゃ?」


 そこでふと、ミラは興味でそんな質問を口にした。

 無差別級の優勝賞金が五十億リフという、とんでもない金額である事に加え、伝説級やら何やらといった高級な武具がゴロゴロ賞品として並んでいる闘技大会。更には巨大な闘技場と、各催し物のスペースなど。会場は、ちょっとしたテーマパークさながらな雰囲気で溢れていた。

 アルカイト王国では間違いなく実現不可能である規模の大会。実に夢のある一大イベントだが、これだけのものを用意するには、どれくらいのお金が必要なのかと気になったミラ。

 対するアルマは、にやりと笑って答えた。「二兆くらい」と。


「ちょ……う、じゃと……?」


 それは、億よりも上の単位であった。個人でお目にかかる機会など皆無な桁であり、国家規模でみても、おいそれと動かせるような額ではない。

 そんな、アルカイト王国では国家予算にも匹敵する金額が、一度のイベントで使われたというわけだ。


(プレイヤー国家ランキング第二位だけあって、桁違いじゃのぅ……)


 片や小国のアルカイト王国がこれだけの大会を開催したとしたら、それはきっと終国祭になるだろう。


「流石はニルヴァーナじゃな。大会のために、それだけの金をぽんと出せるとは……」


 そう返したミラは、国力の違いにただただ苦笑する。だが、ドヤ顔のアルマに比べて、エスメラルダの表情はどこか呆れた様子であった。


「もう、アルマったら。そんなに自慢しないの。あのね、ミラ子さん。いくらうちでも、ぽんとは出せないのよ。私達全員が私財を持ち寄って補填して、やっとだったんだから」


 何やらエスメラルダが、そう暴露したところ、アルマが「うっ」と息を詰まらせる。

 続くエスメラルダの話によると、何でも少しずつ進めていた大会計画を、今年に入って少し過ぎたあたりから一気に推し進めていったのだという。

 その理由は、『イラ・ムエルテ』の状態の変化だ。

 巫女の力に加え、他の何かしらが関係し大幅に弱体化する様子をみせたという。そこで、もとより計画していた大会に焦る『イラ・ムエルテ』を誘い込む作戦を組みこんで実現したのが、今の闘技大会だった。

 ただ、既に今年度の予算については割り当てが決まっていた。よって加速する大会準備に拡大した規模、そして運営費に割ける資金は少なく、超過分については全て十二使徒達が自腹を切ったという。

 結果、ゲーム時代に貯め込んだ蓄えが、全て消し飛んだとの事だ。

 その額、なんと一兆リフ。十二人で出し合ったとはいえ、一人当たりの負担は八百三十億リフほど。ミラにとって、この時点でもう途方もない金額であった。


「よくもまあ、それだけの私財を抱えておったものじゃな……。わしには、その一パーセントも残っておらぬというのに」


 驚くべきは、個人でそれだけ貯め込んでいた十二使徒達の懐だ。

 同格の実力を持ち、ゲーム当時も同じくらいに活躍していた九賢者。だが全員で私財を持ち寄ってどれだけの額になるかといえば、きっと百億あればいい方だったとミラは思い返す。


「やはり、国という大きな基盤の違いによるものなのかのぅ……」


 どこでそれだけの差が生まれてしまったのだろうか。思えば、地位に比べて給与はそれほどでもなかった、などと考え出すミラ。だが、そんなミラにアルマとエスメラルダの視線が突き刺さった。


「それはそうでしょ。じぃじのところは皆、実験だなんだって派手に散財していたじゃない」


「国というより、個人の違いでしょうねぇ。私達は決められた予算でやりくりしていましたけど、ミラ子さん達はちょっと……」


 そう言って二人は、盛大に溜め息を吐いた。あれだけ豪快に稼ぎを使っていながら、お金がないと嘆くなど、何をほざいているのかと。


「う……いくらわしらとて、そこまでは……そこまで……む……うぬぬ……」


 確かに、それなりに実験はしていた。そこそこの金額もかかっていた。だが、数百億単位の差が生まれるほどのものではない。ましてや、合わせて兆にまで届くほどなど、流石にありえない。

 そう反論しようとしたミラであったが、思い返せば思い返すほど、心当たりになりそうな記憶がぽつりぽつりと浮かんできて、徐々に表情を曇らせていった。


(あの時に建てた神殿は、いくらかかったのじゃったか……)


 聖なる遺物に触れたり、由緒正しき神殿で祈りを捧げる事により会得出来る聖術の数々。

 はて、そこで誰ぞが思い付いたのは、新しい神殿を建てて由緒正しい場所にしたら、聖術は会得出来るのかというもの。

 そうして出来たのがルナティックレイクよりいくらか西にある、大聖区という場所だ。三神を祀る大神殿と、多くの信徒達が暮らす寮、そしてそこまで続く道を整備した何て事もあった。

 思い出す限り、その時で既に少なくとも千億リフほどかかっていた。なお実験結果は、未だ出ていない。由緒正しい場所と認識されるには、やはり時間がかかるものであるからだろう。


(それと、あ奴の実験は随分と豪快じゃったな……)


 様々なアイテムを触媒として燃やす事で会得出来る魔術。力ある品には、その力の基盤となっている何かがある。それらを炎によって抽出し、パズルのように組み合わせ、一つの術式として完成させる事が魔術を会得する方法の一つだ。

 だが、まずはピースの形を知らなければ、組み合わせ方などわからないというもの。そのために魔術の塔の九賢者であるルミナリアは、入手可能なほぼ全てのアイテムと武具を集め、片っ端から燃やしていくという手段に出た。それこそ名品から英雄級、果ては伝説級までを燃やし尽くしたのだ。


(特に伝説級ともなれば数十億としておったからのぅ。貯まるはずもなしじゃな)


 その結果、解明した術式は五つほど。加えてわかったのは、魔術会得の組み合わせは、そう単純なものではないという事実だった。


(ソウルハウルの奴も、思えば遺品やら何やらと集めておったな……)


 聖人や英雄などと呼ばれる者達は、特別な力を秘めている場合が多い。そんな者達が生前に愛用していた、そして死の直前に傍にあった品というのは、特別な力が移りやすかった。

 死霊術は、こういった品から取り出した力を術式に組み込む事が出来た。

 力持ちの英雄の遺品より、『物理攻撃力上昇』の術を獲得するといった具合だ。

 よってソウルハウルは、聖人や英雄といわれていた者や、稀代の大悪党、天才学者、更には歴史に名を残す芸術家まで、数多くの著名人の遺品を蒐集していた。これもまた全て合わせれば相当な額になる事だろう。


(今思えば、あれにも随分とかかった気がするのぅ……)


 色々と心当たりを思い返す中、自身が取り組んでいた大仕事に行き着いたミラ。

 その大仕事とは、荒れ果てた聖域を、かつての状態に戻すといったものだ。

 アルカイト王国より、幾らか北東。そこにある山地の中程に、遥か昔は楽園と呼ばれていた聖域があった。多くの霊獣が暮らしていたという、平和で豊かな場所だ。

 しかしその場所は、遠い昔に起きた大戦の戦火に巻き込まれて焼失してしまった。

 そんな聖地を復興させようと尽力したのがミラである。神秘な薬やら何やらを使い森を蘇らせ、戦火などに巻き込まれないように周囲を補強したのだ。

 そんな努力の甲斐もあり、今一度聖域として機能し始めたその場所には、霊獣や聖獣などがちらほらと集まるようになった。そして当然と言うべきか、かつてダンブルフは、それらとの召喚契約を目論み足しげく通っていたりした。

 しかも、そんな聖域が他にも幾つかあったりする。これもまた全ての復興費を合わせると、かなりの額である。

 また、どんな術の実験でも出来るように巨大な実験場を銀の連塔の地下に造ったり、実験に必要な素材を育てるために盛大な治水工事を始めたりと、考えれば考えるほど、どれだけ散財していたかがみえてくる。

 予算内でやりくりしていた者達と、思い付くまま突っ走っていた者達。違いが出るのも当然といえた。


「色々と積み重なって今があるのじゃな。うむ、うむ」


 出費だけじゃない。色々あったからこそ、今の力を手にする事が出来た。などと都合よくまとめるミラだったが、アルマとエスメラルダの視線は厳しいままであった。







一先ず、引っ越し作業が終わりました!

これからは新居での生活となります。

未開封の荷物(漫画本)はまだ残っておりますが、執筆の合間合間に少しずつ片付けている状態です。


ただ、大家さんから本棚を貰って容量が増えたはずなのに、もう限界が見え始めているという……。

いったいうちには何冊の漫画本があるというのか……。


荷物といえば、一つだけ心配な事があるんですよね。

引っ越し作業時、食パンが二枚だけ残っていたのですが……


その二枚が行方不明なんです……

ちゃんと持ってきていたはずなのにどこへいったのか。

目ぼしいところは探したのですが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] その割に同格な十二使徒は貯めこんでいる不思議。
[一言] 研究するにも金がいる・・・ 術師系統を極めようとしたら幾らあっても足りないくらい、か 金策研究してるプレイヤーとかいそう
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