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313 包囲

三百十三



『お館様、万事、つつがなく完了しましたにゃ』


 服部にゃん蔵からの報告。その流れは、こうだ。

 何事もなく、無事に王城前に到着。その後、攻略し甲斐のある城を前に昔の血が疼き潜入を試みたところで、有無を言わさず警備兵に御用となる。だが尋問官に突き出されたところで、ようやく勲章を見てもらえ、事なきを得た。

 少しして、十二使徒エスメラルダとの接触に成功。そして暗殺者の件について、先程全て伝え終わったとの事だった。


『何やら、途中で必要のないくだりが入っておるが、まあ良い。ご苦労じゃったな』


 王城に着いたら、警備兵に勲章を見せるだけで済んだはずが何をやっているのか。そう苦笑しつつも、それ以外は予定通りであるため、ミラは深く追及せずに、更に続きを促す。それで、国側はどのように動く予定になっているのかと。


『そうでしたにゃ。制圧部隊を送り込むと言っていましたにゃ』


『むぅ、制圧部隊か』


 服部にゃん蔵の話によると、現在、大急ぎで制圧部隊の編成が行われているそうだ。そして準備が出来次第、服部にゃん蔵の案内で、ここまで来るとの事である。

 その報告に、少し不満気なミラ。出来る事なら、そのまま制圧してしまえというゴーサインが欲しかったからだ。今すぐに動く事が出来なくて残念だが、ここは彼らの国であるため仕方がない。


『にゃにゃ、それともう一つありましたにゃ。こちらの部隊が到着する前に逃げ出す素振りがあったにゃら、先に制圧してほしいという話ですにゃ』


 付け足すように、そう続けた服部にゃん蔵。その内容からして、やはり向こう側にミラの正体はバレているとわかる。Aランクとはいえ一介の冒険者相手に、暗殺者達の隠れ家を制圧しろなどという注文などするはずもないからである。

 そこにいるのが九賢者の一人、『軍勢のダンブルフ』であるからこそ出来る、無茶な要望だ。だがそれはミラにとって、期待していた返事であった。


『ふむ、わかった。その時はそうすると伝えておいてくれ』


 ほくそ笑みながら答えたミラは、どうやって、その素振りをでっち上げようかと思案し始めた。

 こっそり、ダークナイトを暴れさせてみようか。アルフィナ達を目立つところに配置して、圧力をかけてみようか。静寂の力を応用して、怪奇現象でも演出してみようか。などなど、少しでも可能性のありそうな方法を模索する。

 と、そんな事を考えていたところだった。


『誰かがお屋敷に入っていったのー。凄く走っていたのー』


 外で見張っていたポポットワイズから、そんな報告が入ったのだ。走ってきたという事からして、何か急ぐ理由でもあったのか。屋敷に入る際、慎重な様子だった三人を思い出しつつ、その様子の違いに疑問を抱くミラ。

 すると、その数秒後だ。どたどたと慌ただしい足音と共に、男がミラの隠れている部屋に飛び込んできたのだ。きっとポポットワイズが報告してきた男だろう。


(おっと、こやつの事じゃな。ここまで一直線で来たという感じじゃのぅ)


 何をそこまで急いでいるのか、大きく息を乱した男は、それでもなお急かされたように隠し階段の仕掛けを操作し、またドタドタと駆け下りていった。


(ボスのところへ一直線じゃな)


 その動きを《生体感知》で追跡したミラは、男が先程の三人と同じ部屋に勢いよく入っていくのを確認する。それほどまでに急ぎで報告する事でもあったのだろうか。

 いったい、どのような状況になっているのか。そろそろ地下に侵入しようか。そうミラが思い始めたところで、またも動きがあった。

 先程の男が取って返し、地下から飛び出てきて、「急いで荷物をまとめろ! 制圧部隊がここにくるぞ!」と、言い回り出したのだ。


(これはまた……もしや向こうに間者でも紛れておったのか? 情報が早いのぅ)


 服部にゃん蔵から、ちょくちょく入る中間報告によると、制圧部隊は今ようやく編成が整ったところだという。まだ、城を出発はしてはいない状態だ。それでも、男が制圧部隊の出動を知っているという事は、内部の情報が流れていると考えられる。


(まあ、その辺りは、あ奴らの問題じゃからな)


 ニルヴァーナ国内のそういった事情は、ニルヴァーナのお偉いさん方に任せておけば良い。だが代わりに頼まれた通り、逃げる素振りを見せたこの暗殺者集団は、責任を持って制圧しておこう。

 そう大義名分を得たミラは、早速とばかりに行動を開始した。

 手始めに《意識同調》でポポットワイズの視覚を共有したミラは、ここで再び、塔で続けていた訓練の成果を遺憾なく発揮した。

 召喚術を発動するために必要な要素の一つである、召喚地点。これまでのミラの場合、自身を中心にして半径五十メートル以内の目に見える範囲なら、どこにでも配置出来た。

 だが今は、その基礎に更なる磨きがかかっていた。特訓により、《意識同調》を併用しての配置を会得したのだ。

 これによりミラは屋敷の中に潜みながらも、ポポットワイズの視界を介して屋敷の外に召喚地点を配置出来た。そして次の瞬間、四十五体ものホーリーナイトと、五体の灰騎士によって、屋敷の包囲を成功させる。


(おーおー、早速獲物がかかりおったな)


 余程身軽だったのだろう、簡単な荷物だけを手にして一番に飛び出してきた男が一人。だがその者は、直後、そこで待ち構えていたホーリーナイトの痛烈なシールドバッシュにより屋敷内へと弾き返された。その数瞬後に強烈な衝突音が響く。

 ポポットワイズに見える位置まで移動してもらったところ、男が壁に激突したのがわかる。ぐったりと倒れ、完全に気を失っているようだ。

 かなりの衝突音だったためかゾロゾロと人が集まり、倒れた男を見て、次に開いた扉の向こうに佇むホーリーナイトを見た。そしてその直後、火が点いたように騒ぎが広がった。


「どういう事だ! もう来ているぞ!」


「まだ、到着するまで時間があるんじゃなかったのか!?」


「嘘だろ。既に囲まれているじゃないか!」


 どうやら彼らは、ホーリーナイト達を制圧部隊と勘違いしたようだ。どうやって逃げればいいのかと騒ぎが広がる中、先程屋敷に駆け込んできた男に対しての糾弾が始まった。


「そんなはずは……。俺は情報を掴んで直ぐに来た! まだ、時間に余裕はあったはずだ!」


「じゃあ、もう敷地内にいるあいつらはなんだ! 抜け出す隙間もないじゃないか!」


 そう言い争う中、まだ編成中であるはずだと主張する男は、そこでホーリーナイトの姿を目にして、その顔を驚愕に染めた。


「なんだ、あいつは……。あれは制圧部隊じゃない……。あんなの、ここの軍部で見た事がないぞ……」


 どうにか隙間を突こうとする者、果敢に挑み強行突破を図る者。屋敷から逃げ出そうとした者は皆、ホーリーナイトの手によって、悉く叩きのめされていった。

 しかし、事はそれだけで終わらない。逃げ場を塞いだまま、五体の灰騎士が、それぞれ屋敷へと進入していったのだ。

 追い詰められて反撃に出る者、立ち竦む者、奥へと逃げ出す者。その全てが一人、また一人と、灰騎士の手で打ちのめされ地に伏せていく。

 見知らぬ騎士。急を告げた男もまた、その存在相手に為す術なく、仲間達と同様に一瞬で意識を刈り取られていた。


(さて、後はこっちじゃな)


 屋敷の表は問題なさそうだ。となれば後は、地下に潜む者達を一網打尽にするだけだ。そう判断したミラは《意識同調》を切り、部屋の隅にある獅子の像の口に手を突っ込んだ。そして指先に触れた小さな輪っかを引っ張る。すると隠し戸が開き、地下へ進む階段が現れた。


「では、行くとしようか」


「ええ、参りましょう」


 そう簡潔に言葉を交わしたところで、ワーズランベールが光学迷彩と気配遮断を同時に発動させる。それを確認したミラは、いよいよとばかりに地下へと足を踏み入れていった。



 暗殺者達の隠れ家の地下は長い廊下になっており、ところどころに扉があった。その数からして、最低でも十の部屋はありそうだ。

 ただ、何よりも目についたのは、その絢爛さだ。きっとこの地下は、幹部クラスの者達の専用となっているのだろう。廊下でありながらも、ちょっと置かれた調度品は、貴族邸のそれと大差ない輝きを放っている。


(これはまた、贅沢しておるのぅ)


 それらは全て、ここにいる暗殺者達の所有物だ。だからこそ制圧後の処遇は、だいたい決まっている。この屋敷は国によって封鎖され、こういった貴重品は、そのまま所有者無しとなり国庫へと接収されるのだ。

 ならば、一つや二つくらい、貰っていってもいいのではないか。今後、家具精霊などを探すために色々と入用になるのだから。と、そんな事を考えたミラであったが、寸前で思い留まった。どんな理由があっても、結局は泥棒だとわかっているからだ。


(まっとうに稼いだ金だからこそ、誠実に向き合えるというものじゃ)


 売ればきっと、一千万リフは下らないはずだが、そんな贅沢な調度品の誘惑を断ち切ったミラは、褒賞金くらいもらえないかなと思いながら地下室の様子を探っていった。


「おいおい、そんなのまで持っていく気かよ」


「別にいいだろ、気に入ってんだ」


 廊下の途中、隙間の空いた扉の向こう側から、そんな声が聞こえてきた。覗いてみると、そこにはあまり趣味がいいとはいえない壺を抱えた男と、呆れた顔をした男の姿があった。しかも、その二人ともが不気味な仮面をしている。これもまた趣味がいいとはいえない仮面だ。

 上の屋敷は現在、ミラの召喚した武具精霊によって阿鼻叫喚の大騒ぎとなっているが、地下は随分と落ち着いた様子だ。

 枕が代わると寝られないだとか、もうすぐ芽を出す予定だとか、出来るだけ金目のものを、などなど。別の部屋も覗いてみたところ、誰もが随分と余裕をもって撤退準備を進めているのがわかる。

 もしや、上の状況が伝わっていないのだろうか。そう思ったミラだったが、そうではないようだ。


「予定よりも随分と早いご到着だが、まあ問題はなさそうだな」


「ですね。ここに気付くには、まだまだかかるでしょうし」


 廊下の一番奥。大きな広間に、一人また一人と集まってくる幹部達。その中の二人が、そんな言葉を交わしていた。上がどうなろうと、自分達は逃げられる。そう信じて疑わない態度と意思が、そこからは感じとれた。

 その言葉通り、通常ならば地下に本命の隠れ家がある事に気付くまで、隠し階段を開く方法を暴くのに相当な時間を要した事だろう。そして、その時間があれば、十分に逃げられる備えも確かにここにはあるようだ。

 また、その会話からして、彼らが幹部クラスである事も間違いないと判明した。そして幹部達は全員、それぞれが仮面をしており、その仮面の特徴で呼び合っているという事もわかった。


(ふーむ……。やはり秘密の地下室じゃからな。どこかに逃げ道くらいは用意してあると思うたが……どうやらこの部屋らしいのぅ)


 こういった隠れ家に秘密の脱出口というのは、もはや定番だ。だからこそ、それを先に押さえてしまおうと地下にやってきたミラは、早速当たりを付ける。幹部達が集まってくるこの部屋にこそ、それがあると。

 そっと部屋に侵入したミラは、隅っこの方に潜んで様子を窺う。隠し通路から一人も逃がさないため、そして一網打尽にするために、残りの幹部が集まるのを待つ構えだ。

 と、そうしている間に、部屋の奥で動きがあった。そこにいたのは、先程尾行させてもらった暗殺者の三人、暗殺者A、B、Cである。彼らは、ここのアジトのボスであろうガリディア族の男の指示で壁紙を剥がし始めた。


「あ、このレバーですね」


「早く逃げましょう!」


 三人が何をやっているのか。その理由は直ぐにわかる。壁紙を剥がしたところにあった窪みに、何やらレバーらしきものがあったのだ。きっと、秘密の逃げ道を開くためのものだろう。みるとその三人は幹部とは違うのか落ち着かない様子で、レバーの近くに寄っていく。


「いいか、まだ引くなよ」


 そんなA、B、Cに忠告するボス。なんでも、レバーを引く事で逃げ道の扉は開くが、それから三分ほどで入り口が崩落する仕掛けになっているそうだ。よって全員が揃ってからでなければ脱出は出来ないとボスは言う。


(ふむ……三分経ったら、追跡は困難というわけじゃな)


 その仕組みのお陰で、個別に逃げられる事はなくなった。実に好都合だ。そう、にやりと笑ったミラは、残る幹部が集まるのを待ち、絶好のタイミングが来るのを虎視眈々と窺った。


「俺にも操者の腕輪さえあればな」


「一度剥奪されたんだろ? なら諦めろ」


 そうしているところに、大きな荷物を抱えた者達が、一人また一人とやって来る。余程、残していく高級調度品に未練があるのか、その愚痴は止まらない。だが、やはり制圧部隊を相手にするのは不利と判断したようで、逃げの一手に注力していた。


「とりあえず入口を塞いできたが、上はもう大惨事だったぞ。制圧部隊の戦力が、話に聞いていたよりずっと酷い。特に中まで進入してきた灰色の奴が、とび抜けていた。前に報告上げた奴は誰だよ、まったく」


 部屋に入るなり、そんな愚痴を零し始めたのは、どこか知的な印象のある男だった。実際にどうかはわからないが、いうなればボスの右腕とでもいった雰囲気を醸し出している。


「到着の早さに加え、戦力の差か。どうにも我々は、奴等に偽の情報を掴まされていた、というわけだな」


 静かに、だが忌々し気な怒りを顔に浮かべたボスは、次に「この借りは、必ず返してやろう」と続け、不敵に笑う。そして右腕の男もまた、「私達を本気にさせた事、後悔させてやりましょう」と答え、口端を吊り上げた。


(すまぬな。きっと本来は、その話に聞いていた通りの制圧部隊だったはずじゃ)


 ミラが召喚した武具精霊達の事を、制圧部隊だと勘違いしている幹部達。「次は、容赦なくやってやりましょう」だとか、「今度は、俺が偵察に行きますよ」などとか言って、次の作戦計画についてで盛り上がる。


(再びすまぬな。お主達は、ここで終いじゃ)


 待たせてすまないと言って男が部屋にやってきた。それが残る最後の幹部だったようだ。ボスが「では、脱出だ」と告げ、レバーを引くように指示を出す。

 念のため《生体感知》で確認したところ、確かに地下にいる全員が、この部屋に集合しているとわかる。

 条件は整った。いよいよ動く時がやって来たと張り切るミラは、部屋の全体を見回してから、そっと扉を開いた。


「ん? なんか独りでに扉が開いたような……」


 全員の視線がレバーを引く三人に集中していた瞬間、極僅かな音を聞き分けた男が振り返る。そして、僅かに隙間が出来ている扉を見て疑問を抱いた、その直後。


(そーれ、わしからのプレゼントじゃ)


 ワーズランベールと共にするりと扉から外に出たミラは、にやりと微笑みつつ、手にした複数の魔封爆石を部屋の中へと放り込んだ。


「なんだ!?」


 光学迷彩の圏外に出た事で可視化した魔封爆石。それを真っ先に目にした男の困惑した声が響いた瞬間、何事かという他の声の全てを打ち消す轟音が響き、ずしんという大きな振動が地下室全体を揺らした。







最近は、プチ贅沢として冷凍チャーハンを堪能しております。

あの六百グラムぐらい入った、大入りタイプのチャーハンです。

流石に一度に食べると勿体ないので、二回にわけて贅沢しているのですが……


先日、運命の出会いがありました。

同じように大入りの冷凍で見つけたそれは……


テーブルマークの肉めし


というやつです!!


言ってみるなら、焼肉のタレで味付けしたチャーハンです!

これがもう、美味しいのなんの!


これまでは、稀に入荷しているというくらいの出現率でしたが

二日前にスーパーにいったところ、なんと定番入りに!


と、ここ最近で一番嬉しいニュースでした。

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[一言] 密閉された部屋に爆発物を放り込む。 鬼かな?
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