29 賢者 対 悪魔
二十九
「でもミラちゃん、相手は悪魔よ。確かにミラちゃんが強い事は分かったけど……でも!」
「そうだ。せめて、俺達でさっきのアルフィナを呼ぶ時間位は稼がねぇと」
エメラは息を呑み、アスバルは大槌を強く握り締めながら、悪魔と対峙するミラに言う。だがミラは、そんな二人に振り返らず、
「その様な時間は無さそうじゃ!」
言いながらダークナイトを正面に召喚する。同時に金属のぶつかる甲高い音が響くと、弾かれた空気が波紋の様に広がる。次の瞬間エメラとアスバルが目にしたのは、悪魔の鎌の軌跡の先に大剣を突き出し受け止めていたダークナイトの姿だ。
「こいつは……っ!」
アスバルの頬を冷や汗が伝う。エメラはその光景に反応出来ず、一歩遅れて剣を向けるのが精一杯だった。そしてこの接触が、二人に悪魔という存在との実力差を思い知らせる結果にもなる。
「お主らは下がっておれ!」
ミラはもう一度、エカルラートカリヨンのメンバーに忠告する。
「でも、それじゃあ……」
まだ少女ともいえるミラに大の大人が戦闘を任せる事など、エメラだけでなくアスバルも素直に頷く事は出来なかった。しかし、その相手は自分達が太刀打ち出来る様な相手でもなく、囮となり皆を逃がそうとしたところで十秒も持たないだろう事を先程の一撃で悟っている。
「二人とも、城まで引きましょう!」
「そうだぜ、そうした方がいい!」
たたらを踏むエメラとアスバルの背後から声が届く。二人が振り返ると、フリッカとゼフが焦りにも似た表情で二人を煽る様に手で招く。
だがしかし、そうエメラとアスバルが口に出そうとした時、
「私達が居てはミラちゃんが全力を出せません!」
そうフリッカが言った。彼女には見えたのだ、幽鬼の如く佇む悪魔から漲る魔力を覆う程の、強大な魔力がミラから立ち昇っているのを。
フリッカの言葉に二人はもう一度ミラに振り返ると、何も語らぬその小さくも大きな背中から、フリッカの言う通りなのだなと察する。
「すまん嬢ちゃん。頼んだ!」
「ミラちゃん。勝てない様だったらすぐに退いて。私が何としても食い止めるから!」
そう意志を託して、二人はフリッカ、ゼフと合流し城へと走って戻る。アスバルはその時、まだ少女である小さな背中に、かつての英雄の姿を幻視した。
「まさかな」
アスバルはそう呟き、雰囲気に流されただけだろうと頭を切り替える。
「どこへ行こうと我からは逃げられんぞ、人間どもよ」
不気味な笑みを零すと交差させた互いの得物を打ち鳴らし、悪魔はダークナイトを一瞥してから飛び退いた。全力とまではいかないが、それでも良く力の乗った一撃を難なく受け止めたダークナイトを相応の敵であると認めたからだ。
「まずは挨拶といこうか、強者よ。我はヴォルフト・ベイン。ヴァルナレスの魂狩騎士であり伯爵三位である」
改まった悪魔は、彼我の距離を計りミラを凝視したまま、あえて恭しく礼を取る。悪魔であるが爵位を持つヴォルフトは、貴族の矜持というのを持っている。とはいえ、悪魔の矜持など人間からすれば非道で下劣であるため理解は出来ないものだが。
「わしはミラ。見ての通り召喚術士じゃ」
ミラはダークナイトを目で示しながら、ヴォルフトに正面から向き合い礼を返す。
「ククククク、召喚術士。ならばその騎士を切り伏せれば終いという事か」
言い終わるが早いか、ヴォルフトは地を蹴り跳躍すると、重力と自重を合わせた渾身の一撃をダークナイトに振り下ろした。すると今度は鈍い金属音と何かが砕ける音が響く。ダークナイトは大剣を上段に翳し一撃を防ぐも、その強烈な一撃に地面が耐え切れずダークナイトの足場が砕けたのだ。そして姿勢を崩したダークナイトの隙をヴォルフトは見逃さなかった。
地に足を着けると同時に、ヴォルフトが身体を半回転させると大鎌が唸りを上げてダークナイトの脇腹に鋭く突き刺さり、勢いそのままに黒騎士を吹き飛ばす。
「クカカカカ! これまでの様だな!」
遠心力に逆らわず一回転する様に振り返りながら顔を愉悦に歪ませ、ヴォルフトは介錯人の如く鎌を少女に向かって打ち下ろす。
しかし黒い刃が突き刺したのは無機質な岩盤。ほんの数瞬前までその場に居た少女はヴォルフトの視界から消え失せていた。
「どこにっ……!」
【仙術・天:練衝】
ヴォルフトが首を巡らせた一瞬、その表情が歪み、破裂音と共に黒い巨体が大きく宙を舞う。ミラはヴォルフトが振り返る瞬間に、その身を懐に潜り込ませて仙術を叩きつけたのだ。幾重にも練られた衝撃波は油断しきったヴォルフトの腹に荒れ狂う波となって打ち寄せる。
(ふむ……まあまあじゃな)
ミラはその手応えを確かめる様に反芻すると、軽く拳を握り構える。戦闘感覚に差異はほぼ無いと、その拳は伝えた。リーチの長さに違いは出ているが、半歩大きく踏み込めばいい。そして身体が小さくなった分、影に潜り込みやすい。ミラは一回の接触で、そこまでの分析を行えた。
ミラが一番不安だったのは、仮想ではなく現実となった事による物理的な差異だ。空気抵抗やロジックでは計算出来ない空間の動き。だが、それらはあっても、ミラの動きを阻害出来る程のものではなかった。
何よりも、五感がハッキリとした事で全身で気配や空気の流れを感じられ、直感がより機敏に反応する様になっていたのだ。そしてそもそもの強さの要因。本人自身が会得している技術や能力が、それらを一つに纏め上げて力に変えている。
その要因を生み出したのは何者でもなく、アークアース オンラインであった。
非常識なまでに現実的なゲーム世界は、オンラインゲームとしてはあり得ない程プレイヤースキルに左右された。
ゲームを始めたばかりでも、格闘技経験者や空手の王者等は、中級の魔物だろうと敵対プレイヤーだろうとその身一つで殴り飛ばせたのだ。故に、強くなるにはシステム的だけではなく、現実的にも技術を磨く必要がある。
事実、ゲーム内で魔物と拳で語り合っていた猛者、拳王コジローというプレイヤーは、まったくの素人だったのが全国の空手大会で上位に入賞を果たすという実績も上げている。それ以上は肉体的な原因で負けたのだが。
それ故に仙術士として近接戦をこなすミラもまた、技術だけならば世界でも通用する域にあった。
そう、通用するのだ。今まで通り、いつも通りにすれば十分に悪魔と戦える。
ミラは深く呼吸を繰り返し、意識を切り替えていく。ゲームであった時の自分を思い出し、そこに今を重ねる。
「貴様、何をした!」
空中で身体を捻り苛立たしげに地に降り立ったヴォルフトが、声を荒げてミラを睨みつける。
「軽く触れただけじゃ。そういきり立つでない、小童が」
ミラは自然と当たり前であるかの様に、ダンブルフだった頃の自分に気持ちが戻っていくのを感じた。小気味良い緊張感から不敵に微笑み返したミラに、ヴォルフトは怒りを顕にすると鎌に炎を滾らせて突進する。
「なめるでないわ小娘!」
ミラは炎を帯びて繰り出される斬撃を足の運びだけで、右に左にと身を逸らして躱す。交差を始めて序盤は緊張からか、その動きは大きく過剰な回避距離を取っていたが、繰り返す毎にそれは徐々に最適化されていく。
そこには身体に染み付いた技術と、経験に裏打ちされた確かな実力があった。自らの型を取り戻したミラは、紙一重で大鎌を見送りながら、自然な形でヴォルフトの隙へと拳を誘導していく。
幾度となく小突かれ堪りかねたヴォルフトは、完全に我を失っていた。だがそれも仕方無いだろう。相手は自分よりも小柄で幼く、更には女であるのだ。貴族であり優等種である悪魔の自分が、劣等種の人間に一対一で後れを取るなど矜持が許さなかった。
大きく唸りを上げる大鎌の一撃は、ミラの脇を掠めて紅蓮の炎を撒き散らして地面に突き刺さる。ミラは避けた勢いのまま大きく横に身体をずらし、同時に腰を捻り悪魔の黒い表皮に守られた膝裏を蹴り抜く。ヴォルフトが、その衝撃に体勢を崩すと、ミラはがら空きとなった背中を駆け上がり右手で角の生えた頭を掴む。
【仙術 地:紅蓮一握】
ミラが意識を集中すると、指向性を持った爆炎がヴォルフトの頭部を包むと一際輝き、勢い良く弾き飛ばした。
「ぐがぁぁーーー!」
地面を転げ焼かれた頭を庇う様に立ち上がるヴォルフトは、いよいよもって狂気染みた炎を瞳に湛える。
「ふむ……やはり打撃では通らぬか」
幾度と交錯した攻防で悪魔の身体に打ち立てた拳は、その強靭な甲殻ともいえる体表に阻まれ、ミラは大した手応えを感じていなかった。それどころか、拳はじんわりと痛む。だがそれも当然ともいえる。近接系強化の装備をクレオスに渡しているミラの素の肉体能力は、一般の術士と大差無いのだ。
仙術スキルは筋力のステータスが影響するものが多いが、ミラは魔力の高さが異常ともいえる域にあるので、その分でそれなりに補えている。それでも高威力の仙術は筋力がメインなため、威力は伸び悩む。
本来、仙術士の戦闘スタイルは、近接戦と仙術によるコンビネーションが真骨頂だ。ミラもそのために格闘術を教えてもらい修練してきた。だが、装備が無く打撃が通じない今、それに拘る必要も無い。それに高い魔力のお陰でダメージを与える事は出来るのだ。
【仙術奥義:開眼】
完全にかつてのダンブルフの感覚を取り戻したミラは、ここからが本番だとばかりに仙術の秘伝、真眼を開く。軽く瞳を閉じた後、見開かれると、その瞳孔は空よりも透き通った蒼に染まっていた。開眼中は全ての能力に補正がかかり、仙術を強化する効果がある。
更に跳ね上がったミラの魔力は、城から様子を窺うフリッカの目にも届く。思わず気圧されて尻餅をついたフリッカは、感じた事の無い膨大な魔力の奔流に飲まれていた。
「どうしたのフリッカ?」
突然よろめいたフリッカに手を伸ばしながらエメラが問う。
「すみません。ただ……ミラちゃんの雰囲気が変わりました。更に強く、更に……深く」
ふらりと立ち上がりながら言うフリッカの言葉に、その場に居る全員が静かに息を飲んだ。
ミラと悪魔の戦闘はより激しさを増していった。狂気に塗れながらも、理性を取り戻したヴォルフトは両手に黒い焔を纏い、炎の鎌との波状攻撃を仕掛ける。
鎌が振り下ろされ、ミラがそれを躱すと黒い焔が弾けて追撃を繰り出す。
【仙術 地:風纏】
黒い焔に対抗し、ミラも両手に風を纏わせると追撃の黒炎を手で弾き、もう片手で掌底を打ち込むと同時に巻き起こる真空と旋風の乱流が、ヴォルフトの脇腹に傷を付けた。
「ぬぉぉぉーーー!」
だがそれを物ともせず、ヴォルフトは振り下ろした鎌を捻り上げる。与えた傷は浅く、その動きに支障をきたす事は無く、鋭く風を切る炎の尾は即座に身を引いたミラの手前を一閃する。更に、振り上げ終わり切らぬタイミングでヴォルフトは片方の手を突き出し、黒炎による追撃を掛けた。
「ほう! やるではないか、小童!」
ミラは両手を交差させて宿った風全てで受けきると、蒼く透き通る真眼でヴォルフトを見据える。
「小娘、どこまで我を愚弄するか!」
怒声を響かせながら後方に飛んだ悪魔ヴォルフトの魔力が、急激に高まっていく。同時に黒い焔が膨れ上がり、その全身を包み込んだ。
「貴様は手土産にはせぬ。この場で焼き尽くしてやろう!」
ヴォルフトが吼えると、漆黒の炎弾となり地を駆ける。だが岩盤を踏み砕く程の速度で迫る悪魔の姿を、ミラの真眼はハッキリと捉えていた。
「朽ち果てるがいい!」
勢いを増す黒炎が鎌も黒く染めて鈍く輝き、振り上げられたその瞬間、
「断る!」
【仙術歩法:縮地】
ミラは予備動作も無く一瞬でヴォルフトの懐に飛び込むと掌を突き上げ【仙術・天:練衝】を叩き込んだ。
「なん……っ!?」
黒い焔を撒き散らかし天高く打ち上げられたヴォルフトは、苦悶の表情を浮かべながら、どうにか翼を羽ばたかせて急制動を掛ける。ダメージ自体はそれ程でもない。防御力には自信のあるヴォルフトの体表は、その自信に見合うだけの強度を誇っていた。只の悪魔では、繰り返されるミラの攻撃で既に動けなくなっていただろう。
「小娘が……どこまでっ!」
たとえ攻撃がほぼ効いていなかろうが、人間の子供にいいようにあしらわれれば穏やかではいられないだろう。忌々しく歯噛みしながら地面を睨みつけるヴォルフト。しかしそこにあった信じられない光景に、一瞬身を竦ませてしまう。
【仙術歩法:空闊歩】
階段を駆け上がるかのように目の前までミラが迫っていた。
「おのれぇ!」
振り上げては間に合わない。ヴォルフトは鎌の柄に手を当てると、そのまま弾き上げるように最短距離を薙ぎ払う。だが苦し紛れの一撃をミラは更に高く飛び上がり眼下に映すと、逆立ちした姿勢でヴォルフトの頭に手をつく。
フワリとスカートが捲れ上がり、太ももから腹部までが露出すると同時に、ミラはその手に意識を集中する。
「これはどうじゃ」
「っ……!」
【仙術 地:烈衝一握】
衝撃の塊がミラの掌の中に生じると同時に、抗えぬ波となってヴォルフトの頭を吹き飛ばそうと荒れ狂う。あまりにも暴力的な力に、空中で踏ん張りの利かないヴォルフトは、その身体ごと地面に向けて吹き飛ばされる。
岩盤の砕ける音が周囲に響き渡り、一息遅れてミラが離れた地面に降り立つ。その瞳は瓦礫から這い出る黒い悪魔を見据えていた。
「よもやこれ程の人間が居ようとはな」
近距離高威力系の仙術を二発受けても尚、ダメージらしいダメージを受けた素振りの無い悪魔。その頑丈さは、誰から見ても常軌を逸したものだ。
(これ程硬い悪魔がおるとはのぅ)
だが、ミラは気にする素振りもなく悪魔を視界に捉えている。
「だが効かぬ! 感じぬ! 我が鍛えし肉体に、その程度の攻撃など通じぬ!」
ヴォルフトは、己の意志を保つ為にもそう宣言する。仙術自体のダメージはそれなりに通っているのは確かだが、それでもヴォルフトが身の危険を感じる程にはまだ至っていない。
「良い手合いであったが、もう終いにしよう。小童」
【秘匿仙術:魔眼解禁】
そう言いスキルを発動させるとミラの右の瞳の色が黒く、そして瞳孔は金色に変化する。
魔を孕み、烏羽玉の夜に輝く凶月を幻想させるオッドアイ。その瞳に見据えられ、視線だけで射抜かれてしまいそうな峻烈感に纏わり付かれたヴォルフトは、目の前の少女から発せられる上位種の気配に、無意識に身体を震わした。
(あり得ぬ……、我が恐怖を……だと……。あり得ぬ!)
「小癪な人間風情がぁぁぁ!」
ヴォルフトは声を張り上げて漆黒の焔と共に鎌を天に向ける。しかしその直後、手からその鎌が滑り落ちるとヴォルフトは身体の変調に気付く。
(これは……ぐっ……麻痺か!? 小癪、小癪!!)
【仙瞳術:痺命之魔視】
魔眼で見据えた相手を麻痺に侵し、更には麻痺状態の相手を内部から破壊する仙術の最上位スキル。発動条件は、対象を一定時間魔眼の視界に捉える事。ミラが、若干離れた位置に降り立ったのも、視界を広く保つためだ。
「ぬ……ぉぉぉぉぉおおおおお!」
「流石は、悪魔か。それ程長くは持たぬ様じゃな」
指、腕、肩、と徐々にだが麻痺を解いていくヴォルフト。悪魔は総じて状態異常に対して高い耐性を持っている。それでも麻痺にかかったのは、偏にミラの魔力の成せる業だ。
もちろん、ミラもその事は重々承知している。狙いは、更に痺命之魔視を重ねての内部破壊では無い。ほんの少し溜めの時間が欲しかっただけだ。
何度も打ち合い吹き飛ばしヴォルフトを圧倒していたミラだったが、その余りの硬さには難儀していた。自身の力ではあの装甲を打ち砕くのに、かなりの時間を要すると。
「だが、もう終いじゃ」
ミラがそう言った次の瞬間、ヴォルフトは背後に怖気立つような気配を感じる。しかし痺れはまだ解けきっておらず忌々しく歯噛みすると、胸部から黒い体液を滴らせた漆黒の刃が突き出した。
「ぐ……ぉぉ……。バカ……な」
ヴォルフトは口から噴き出す体液を噛み砕き、麻痺に抗い首を回し背後に視線を向けると、その表情を驚愕に染める。
そこには、開始早々に薙ぎ払った黒騎士の赤く揺らめく双眸が浮かんでいた。
今の拳では有効な一撃は与えられないが、ミラのダークナイトの一撃はそれを遥かに凌駕する鋭さを持つ。それでも、ヴォルフトの身体は硬いため、防御を貫くだけの力を溜める必要があった。その為の麻痺だ。
「なぜ……だ……いつから……。こいつは……」
「わしのダークナイトを、そう容易く屠れると思うたか。小童」
悠然と歩み寄っていくミラ。歩幅は狭いが、その一歩一歩は地面に揺ぎ無き勝利を刻み込んでいく。
「よもや……この様に敗れ……よう……とは」
「初めに言うたであろう。わしは召喚術士じゃ」
「そう……だったな」
ヴォルフトの正面に立ち、ミラは真眼と魔眼でその姿を見つめる。ヴォルフトは、その瞳を真正面から見つめ返すと、薄っすらと微笑んだ。その表情は、真の強者と戦い、そして敗れたという現状に納得したものだった。
ダークナイトが、突き立てた大剣を引き抜き斜に構える。
「……見事……」
ヴォルフトの最後の言葉と同時に大剣は悪魔の首を刎ね、剣先から黒い体液を中空へと放つ。突っ伏す様に崩れ落ちる黒い肢体の脇には、満足そうに天を見上げたヴォルフトの頭が寄り添っていた。