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26 暗丞の鏡

二十六



 アルフィナが地下へと向けて疾走して行く姿を見送った一行。

 これでもう何の問題も無いなと、ミラは先程のグールの姿を振り払う様に目を強く瞬かせる。


「さあ、行くとしようかのぅ」


 ミラがそう言い進行方向へ視線を向けると、タクトがてててっと傍まで駆け寄りミラの手を握る。フリッカもその後を追う様に駆けるとミラの隣に身を寄せた。

 一方、エメラとアスバル、ゼフはアルフィナの向かった先を見つめたまま硬直していた。


「二人はさっきの見えた?」


「ああ、見えた。とんでもねぇな」


「そこもまた素敵だと思うんだ」


 三人が目にしたのは剣を抜き放ち駆け出して行く、アルフィナから溢れ出ていた闘気だ。敵も味方も戦闘体勢に入る事で、その実力相応の闘気を身に纏う。戦士クラスはそれを視認する事ができるのだが、三人が見たアルフィナの闘気は今まで見た事も無い程、膨大なものだったのだ。

 三人は、満足げに胸を反らせたままのミラへ視線を送る。それ程の実力を持つアルフィナに主と呼ばれる少女は一体何者なのかと。


「召喚術とはすごいのですね。初めて見ましたが大変驚きました」


「……お主は誰じゃ……」


 ミラはそう言い話しかけてきた女性、フリッカを見つめる。初見の時と今の雰囲気が違いすぎるのだ。ミラの事を可愛いと弄っていた時の表情はどこへ行ったのか、今は夜のコスモスの様にひっそりと輝く瞳をミラへと向けている。その知性的な印象は、ミラにしてみれば初見の他人と何ら変わら無い。


「ずっと一緒に居たじゃないですか。可笑しな事をおっしゃいますね」


 くいっと眼鏡を上げる仕草をしながらフリッカが答える。


「エメラ、エメラー。フリッカの様子が変じゃー!」


 微笑を浮かべて控え目にミラの頭を撫でるフリッカの態度に、底知れぬ何かを感じたミラはエメラに助けを求める。


「えっと、どうしたのかな?」


 放心気味だったエメラは自分の名前を呼ぶ声に意識を戻すと、声の主へ歩み寄る。


「フリッカの様子が変なんじゃ。やけに落ち着いたというか知性的とでも言うのか。とにかく変なんじゃ」


「あー。そういう事かー」


 合点がいった様に頷いたエメラは、その身をフリッカに寄せてそのまま抱きしめる。


「何エメラ? ふざけないで」


 フリッカはそう言いながら軽くエメラの手を払いその腕から抜け出した。


「で、何なんじゃ?」


「ミラちゃんも私と同じ事してみて」


「な、なぜわしがその様な事をっ」


 明らかに動揺を見せるミラ。それもそのはず、エメラの言った事とは知的美人のフリッカに抱きつけという事だ。それは許されるならしたいと思うミラだが、流石に一歩を踏み出せない。


「ほら、やってみれば分かるから」


 見かねたエメラはミラの背後から両手を取ると、そのままフリッカに正面から抱きつかせた。


「わっぷっ、何をするんじゃエメラ……ァァァァァー!?」


「ミラちゃんかっわゆーーーい! お姉ちゃんともふもふしたいのかなー? したいんだねー。ほーらもふもふー!」


 唐突だった。唐突にフリッカのクールでインテリジェンスな表情が崩壊すると、胸に飛び込んできたミラを押し倒すかの如く抱きしめる。そしてそのまま頬を摺り寄せ、ミラの柔らかほっぺを堪能し始めた。


「何事じゃーーー!?」


 その豹変振りに慌てふためくミラ。初見の時の印象から多少の警戒はしていたが、今まで何の素振りもなかったので完全に油断していたのだ。


「フリッカは、可愛い女の子に目が無いの。普段は冷静沈着で、頼れる後衛なんだけどね。見ての通り何か切っ掛けがあると今の状態になるのよね」


「ならば口で説明してくれればいいじゃろぅ!」


「見た方が早いかと。てへっ」


「あほーーーーー!」


 ミラの悲鳴は、静寂を取り戻した地下墓地に虚しく響き渡る。しかしそれを気にする者は誰もおらず、エカルラートカリヨンの面々はご愁傷様と目線で伝えるだけで、何かをする素振りはない。唯一タクトだけは、ミラの手をぎゅっと握り小さく自己主張していた。




 フリッカが存分に可愛い分を補給し終えると、ミラはやっとの事で開放された。拘束されてからかれこれ十分は経過している。その間、ゼフはグールの成れの果てを漁り魔物の固有ドロップアイテムを物色していた。どの様な事にも物怖じしないため、魔物素材の選別はお手の物だ。


 それから一行は、ようやく進軍を進める。グールと初遭遇したエリアから通路に入り、次の広間。そこには一切の音も無く、所々に灰の山が散乱している。


「気配は感じないぞー」


 念のために広間を覗き込み確認したゼフが右手を振って安全を告げる。

 ミラ達が広間に入ると、ゼフはそのまま周囲を探り回る。そして灰の山を前にして、その中に光る何かを見つけた。


「お、こりゃあ魔動石じゃん」


 ゼフはそう言い、灰の中からビー玉程度の大きさの紫の石を拾い上げる。それを見たアスバルは近くの灰の山を蹴り上げ、そこから魔動石が転げ出すのを認めると、広場の全域に視線を巡らせる。


「もしや、この灰の山全てが魔物の成れの果てだというのか……」


 アスバルが見渡した二十メートル四方の部屋には、十は超える灰の山が築かれていた。

 そんな中、ミラは灰の山の一つから魔動石を取り上げる。


(ふむ、ちゃんと落とすんじゃな)


 魔動石とは主に不死系の魔物から採取できる素材アイテムの一つだ。死体を動かすための動力となる魔力が秘められており、その魔力は様々な分野で利用する事が出来るため常に需要がある。現実となった今でも当時と変わらず地下墓地の魔物は魔動石を落とす様だ。

 かつてはこれを目当てに、地下墓地の魔物は盛大にプレイヤー達に乱獲されていた事もあった。プレイヤーの間で墓参りといえば、地下墓地乱獲の事として広く伝わっていた程だ。


 ミラがそんな事を思い出していると、いつの間にかゼフは全ての灰の山を駆け巡り魔動石を回収してきていた。その数は計十四個となる。


「思ったんだが、これって全部さっきのアルフィナさん? がやったんだよな」


「状況から考えてそうだろう」


「なんで灰になってんだろうな。持ってたのは剣じゃなかったっけ。炎の魔術とかでも使うんかな?」


「魔術でも余程の高位術式でなければ、ここまで跡形も無く灰には出来ません。ですがここには上位術式を行使した残滓は残っていませんので、魔術では無いでしょう」


 ゼフが言うとフリッカが魔術説を否定する。

 ゼフの言うように、アルフィナの持っていたのは剣だ。もしも骸が転がっているならば斬撃による裂傷が残っているはずだが、骸と思われるものは塵の様に積もった灰だけ。かなり高位な炎による攻撃でもないと、全てを灰になるまで焼き尽くす事は不可能である。そしてその可能性として魔術があるが、それが出来るのは高位魔術。しかし強大な力を行使する故に残る痕跡が、どこにも見当たらないためフリッカは違うと判断した。

 そんな事実に皆が疑問符を浮かべると、一時の間の後、全ての視線がミラへと集まった。


「ミラちゃん、回答よろしくぅっ」


 ゼフのウィンクと共に説明を求められたミラは、その答えを紡ぐ。それはまず第一に、無数にある召喚術の中でどうしてアルフィナを選んだかに及ぶ。


「アルフィナの剣は光を凝縮して打ち鍛えられた滅魔の剣なんじゃよ。魔なる者に対しては斬りつけると同時に閃光を放ち焼き尽くすんじゃ。ここに出るのは全て不死系じゃからな、アルフィナを止められるものは居らぬじゃろう」


「そんな剣があるんだ……」


 エメラは瞳を輝かせながら灰の山に視線を送る。今回エカルラートカリヨンの団長に無理を言って精霊剣を借りてきたのも、実は使ってみたかったからというのが理由の半分を占める。エメラは名剣といった類に目が無いのだ。


「なるほどな。そのような剣を持つ者すら召喚してしまうとは恐れ入った」


 アスバルはそう召喚術に対しての認識を更に上方修正する。




 Cランクダンジョンである古代神殿ネブラポリスの攻略は当初エメラが思っていたよりも難無く、というより最早攻略とも言えなくなっていた。

 ダンジョンで最も警戒するべき魔物が全て灰の山に置き換えられ、ゼフが意気揚々とそれを漁る。唯一冒険らしいといえば、複数の通路のある部屋で、エメラがマップを開き進行方向を確認する時くらいなものだ。


「オレ等って何しに来たんだっけ? 魔動石うまー?」


 灰の山から粗方アイテムを回収したゼフが、ふとそんな事を漏らした。本人からしてみれば大した意もない言葉だったが、中心となっていたエメラは「うっ……」と息詰まる。

 タクトを暗丞の間まで護衛する。これが目的だったのだが、現状から察する事が出来るのはミラ一人で十分成し遂げられるであろうという事実。

 Cクラスダンジョンという上級冒険者でも用意を怠れば危険な場所に、少年少女だけで行かせるわけにはいかない。そう言い半ば無理矢理付いて来たエメラは、まだ一度しか振るっていない精霊剣を手に苦笑する。


「寄生うまー?」


「言わないでーーーー!」


 抉り込む様な単語に頭を抱えて苦悶するエメラだった。




 それから更に進み続け三層目の中程の広場。一際大きな灰の山が中央に積まれていた。そしてそこに居たであろう魔物こそが、ミラが絶対に相対したくないと召喚術を行使させた元凶、ジャイアントグールだ。今ではその成れの果てとなり、ゼフに蹴散らかされているが。


「うおっしゃー! 魔動結晶きた!」


 灰の中から掌ほどの大きな石を見つけたゼフは、高々と掲げ上げる。するとそれまでは余り感心を示していなかったエカルラートカリヨンの面々が表情を一変させる。

 それもそのはずで、魔動結晶は倒す事の難しい大型の不死系の魔物から極稀に手に入る素材系アイテムだからだ。


「すっごい! 見せて見せて」


「おいおいマジかよ」


「とても幸運ですね」


 完全に開き直ったエメラがゼフに突撃していくと、アスバルはゼフの手中にある宝石のようなそれを遠目に見つめている。フリッカは表情さえ変えなかったが若干頬を上気させていた。

 そんな面々に対してタクトは何事かまったく分からないながらも、その場の盛り上がる空気を感じ楽しそうに微笑んでいる。ミラはミラで、魔動結晶を落とすとは珍しいと他人事の様に眺めていた。



 そうこうしながら進み続け、遂に目的地である暗丞の間のある五層目へと到着する。

 そこでも周囲は至って変わらず、魔物の気配は無く灰の山だけが延々と続く。しかしその数は明らかに多く大きくなっており、アルフィナの勇猛振りが実際に目にせずとも窺え、エメラとアスバルは息を呑む。本来ならば、これらの矢面に立っていたのは自分達だったのだから。


「殲滅完了しました」


 そんなアルフィナが広間で待っていた。息を切らした様子も無く、鎧にはキズ一つ付いてない。


「うむ、ご苦労じゃった。流石はアルフィナじゃ」


「お褒めの言葉、光栄でございます」


 ミラは跪き礼をするアルフィナに手を翳す。


「ゆっくりと休むが良い」


 そう帰還を命じると、アルフィナは現れた魔方陣に包み込まれて霞む様にして消えていった。

 その様子を皆はじっと見つめていた。ゼフだけはとても残念そうだ。



 五層目の構造は到ってシンプルで、階段から降りて通路を進んだ先にある正方形の大広間には、上下左右に一本ずつ通路が伸びている。四層目に戻る通路を抜かして、進む通路は三つ。左が倉庫に通じ正面が最下層へと向かう道。つまりタクトが行きたがっていた暗丞の間へは、右の通路を進めばいい。

 エメラはその事をマップで確認すると、広間を抜けて右の通路へと進んで行く。灰を漁っていたゼフは遅れ気味で一行の後を追いかける。


「ここが、暗丞の間みたいね」


 通路の突き当たり、銅細工の扉を開いて中に入ると、壁中に不可解な図形の描かれた部屋に到着する。ミラも、その異様な光景は忘れておらず、入って正面の壁際にアンティーク調の姿見を確認する。

 エメラとアスバルは一通り室内を見回したが、その部屋には魔物どころか灰の山も見当たらない。只、鏡が一枚あるだけだった。ミラの記憶でもこの部屋に魔物が現れたという記憶は無い。

 ランタンの光に薄っすらと照らされ不気味に浮かび上がったシルエットは、死者を映すという効果以外にも、何かあるんじゃないかと疑わせる程の風貌で佇んでいた。


 誰かが発した、ゴクリと息を呑む音が静寂に掻き消える。


「おやーん。こんなところで固まってどうしたんだー。目的のぶつは見つかったのか?」


 追いついてきたゼフが声を掛け、その声に驚いたエメラがビクリと身体を震わせる。


「み、見つかったわよ。あれよあれ!」


 これしきの事で驚いてと、羞恥心に顔を赤らめながら前方の姿見を指し示す。


「やったなタクト。これで父ちゃん母ちゃんと再会出来るんだな」


「はい、皆さんのおかげです。ありがとうございます!」


 暗丞の鏡を確認したゼフは、自分の事のように喜びタクトの頭を撫で繰り回した。タクトは目の端に涙を浮かべながら笑顔で答える。


「ほれ、会って来い」


 ミラはタクトの手を離すと、代わりに背中を優しく叩く。押される様に一歩前に出たタクトは、「うん!」と大きく頷くと暗丞の鏡の前に立ち両親の名を呼んだ。

 暗丞の鏡の使い方は至極単純で、会いたい者を思いながら名を呼ぶだけだ。そしてタクトも、微かに残る両親を思い浮かべ、鏡に向かって呼びかけた。


 ……。


 …………。


「もう、出たの?」


 固唾を呑んで見守る中、逸る気持ちを抑えきれずエメラが声を発する。しかし、直後フリッカに睨まれると肩を窄めて、すごすごと身を引く。


 ……。


 …………。


「俺たちには見えねえのか?」


 アスバルは、満ちた沈黙に堪らず疑問を投げかける。しかしその疑問に答えられる者は無く、タクトの背中をじっと見つめる事しか出来ない。


 ……。


「タクトっ」


 その変化に真っ先に気付いたのはミラだった。ミラは小走りでタクトに駆け寄ると、肩を震わせて涙を流すタクトの頭をそっと撫でる。

 その様子を見ていた四人も何事かと踏み出したところで、タクトは声を上げて泣き出し、温もりを求めてミラの胸に縋りついた。


「お父さん……お母……さん……っ」


 ミラは関を切った様に止めどなく伝う涙を受け止めながら、その背中をぽんぽんと優しく撫でる。


「どうしたんじゃ。別れの言葉は悲しかったか?」


 ミラの言葉に、タクトは頭を横に振って答えると、涙を湛えたままの瞳で見上げて、


「お父さんもお母さんも、僕に会いたくないんだっ」


 そう言い、また涙を流す。

 どうやら両親には会えなかったらしい。エメラとフリッカは、そんなタクトの肩に手を添え、気落ちした表情で薄っすらと涙を浮かべていた。

 アスバルはどうしたらいいのか分からず狼狽中だ。アイテム欄を開き、お菓子だのジュースだのを探している。

 そしてゼフは、暗丞の鏡の前に立ち思案気に観察していた。もしかしたらもう壊れていて、死者と会えるという効果が消え失せているのではないかと。


「リリカ」


 ゼフはぼそりと呟いた。その名は、病気で先に逝ってしまった妹の名。ゼフにしてみても思わず口に出た声だった。


 ……──!


 暗丞の鏡から僅かに光が漏れ出すと、次の瞬間にはその向こうに一人の少女が映った。年の頃は一五、六。赤いワンピースに二つに結った茶色い髪。人懐っこそうな笑顔で鏡の前に立つゼフを見上げている。


「嘘……だろ……」


 その姿は紛れも無く妹のリリカだった。亡くなった頃と変わらぬ年頃で、お気に入りのワンピースに、何度も結ってとせがまれて覚えてしまった髪型。ゼフの最後の記憶にあるリリカの姿で鏡の中に現れたのだ。

 そしてその姿は、ゼフだけでなくミラや他の者達にもはっきりと確認できた。タクトを宥めながら、ミラもエメラもフリッカも、鏡に視線が釘付けとなる。


「リリカ……リリカっ!」


 ゼフは思わず鏡に縋りつき、妹の名を呼ぶ。


「お兄……ちゃん?」


 言葉に反応して小首を傾げる鏡の中の少女リリカ。ゼフは自分の声が聞こえるのだと確信すると、今までの感情を爆発させた。


「リリカ、ゴメン。助けてやれなくてゴメン! オレがもっと早く帰っていれば。お前は……」


 ゼフが紡ぐ謝罪の声は、途中から擦れて言葉の形を成さなくなっていた。それでもゼフは声をあげる。時折混じるゴメンという言葉と共に。

 感情のままに内に堪り続けたものを吐き出し続けるゼフを止めたのは、何者でもないリリカ自身だった。


「お兄ちゃん。なんで、謝るの? お兄ちゃんは悪い事をしたの?」


「オレは……、リリカを助けられなかった。オレがもっと早く村に帰っていればリリカは死ななくて済んだんだ!」


 ゼフはまるで誰かに懺悔するかの様に叫ぶ。この事について唯一事情を知っているアスバルは、表情を顰めながらゼフの元へと歩き出す。

 それはお前のせいじゃないだろう。アスバルがそう言おうとした時、


「お兄ちゃんのせいじゃない! わたしは病気で死んじゃったんだよ。お兄ちゃんのせいなんかじゃないよ! わたしがお兄ちゃんに会いに来たのは、ごめんなさいを聞くためじゃない。ありがとうって言いたかったからだよ!」


 鏡の中の少女は、顔を赤くして兄であるゼフを叱咤する。心外だったからだ。その様な理由で謝られる事が。そして、その様な理由で自分自身を責めている事が。


「お兄ちゃん!」


「は、はい!」


 怒気を孕んだリリカの声に、ゼフは思わず姿勢を正す。そしてそれを見た途端にリリカは破顔すると、クスクスと笑い出す。


「リ……リリカ?」


「変わってないね。お兄ちゃん」


「え、あ、ああ」


 まだリリカが生きていた頃、やんちゃが過ぎるゼフは時折こうやって叱られていた。その頃より随分経っているが、まだ身体が覚えていた。リリカの声。


「お兄ちゃん。私が死んだのは流行り病。お兄ちゃんは余計な責任を背負わないで」


「でもな、リリカ」


「でもじゃないの。私は、お兄ちゃんが私のために頑張ってくれてた事知ってるよ。だから、ありがとう。大好きだよ、お兄ちゃん」


 リリカがそう言うと、その姿がゆっくりと透き通っていく。そろそろ時間切れの様だ。


「オレもだ。オレも大好きだぞ!」


 ゼフは消えかけるリリカの影に叫ぶ。直後、皆は微かに微笑んだ少女の笑顔を見た気がした。

定番の過去話ですが。

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