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266 移送手段

二百六十六



 ソロモンより、孤児達の受け入れに関する確約は得られた。近いうちに戻れるだろうと自信満々に宣言してから通信を切ったミラは、そこで再び受話器を手に取った。そしてメモを取り出すと、そこに書き留めてあった番号を押す。


『はい、こちらアリオト』


 受話器から響く、応答の声。その主は、五十鈴連盟の幹部であるアリオトだった。そう、いざという時のためにカグラと連絡がとれるように互いの通信装置を登録し、その番号を聞いておいたのだ。


「おお、久しぶりじゃな。わしじゃ、ミラじゃ」


 ミラがそう伝えると、「おお、ミラ様ですか。お久しぶりです」と、明るい声が返ってくる。

 と、そうして久しぶりに連絡をすると、何かと話し込んでしまうものだ。ミラもまた、セントポリーとローズラインはどうなっているか、などと気になり、ついつい話が脱線してしまった。




「そうか。順調そうで何よりじゃな」


 アリオトが言うには、小さな問題はまだまだ残っているが、大きな案件はもうほとんど片付いたとの事であった。今はローズラインと協力して、少しずつ発展しているそうだ。


『ところで、他に用件があったのではないですか?』


 アリオトからそんな言葉をかけられたところ、順調と聞いて安心していたミラは、「おお、そうじゃったそうじゃった」と、ようやく本題を思い出す。


「ちょいとカ……ウズメに頼みたい事があってのぅ」


 そう言ってミラが、彼女と連絡は取れないかと尋ねたところ、少しお待ちいただければとの答えが返ってきた。何でも、本拠地には居残りの式神がいるため、話を伝えれば入れ替わりの術で直ぐにでも戻ってこれる状態にあるそうだ。

 なんとも便利な術であろうか。改めてそう感じながら、ミラはウズメを呼んでくれるように頼んだ。





『はーい、なーにお爺ちゃん? 頼みたい事って、何かあったの?』


 暫し待っていたところで、受話器からカグラの声が響いてきた。それはもう、いつも通りといった調子の声だ。


「おお、実はじゃな、ちょいとそちらの──」


「──その声はカグラちゃんね! お久しぶりね。私よ、アルテシアよ。元気そうでなによりだわ」


 ミラが、単刀直入に用件を告げようとしたところ、その久しぶりに聞く声が嬉しかったのだろう、アルテシアが声を上げた。すると、それに呼応するかのように「久しぶりだな、カグラちゃん!」とラストラーダも続く。


『え? あれ? アルテシアさん!? それと……えーっと、その感じは星崎昴さん?』


「その通りだ!」


 うふふと微笑みを湛えるアルテシアと、暑苦しいラストラーダ。ミラは一先ず、そんな二人と再会した事を簡単に説明してから、改めてカグラに頼み事を伝えた。五十鈴連盟の精霊飛空船を、孤児達の移送に貸して欲しいと。

 そう、それがミラの思い付いた最善策だった。陸路を行くには、やはり限界がある。かといって空を行くにも、現状ではミラの乗ってきたワゴンとペガサスにヒッポグリフが精々だ。陸路より断然早いとはいえ一度で運べるのは、八人程度だろう。片道で二、三日ほどかかるとして、百人を超える子供達を全て送り切るまでに一ヶ月以上はかかる計算だ。

 流石に、それだけの期間、同じ事を繰り返すというのは辛いものだ。アルテシアとラストラーダが見つかった今、その功績を踏まえて少し休みたいというのがミラの心の内である。

 そこで閃いたのが、カグラの所有する精霊飛空船だった。アルカイト王国どころか、所有している国が随分と限られる最新鋭の空飛ぶ船。これならば、百人を超える子供達も全員乗せられるというものだ。


『うん、そういう事ならいいわよ。子供達のため、アルテシアさんのために貸してあげる』


 ミラの話を聞き終えたカグラは、特に悩んだ様子もなく、精霊飛空船を派遣する事を承諾した。彼女が言ったように、子供達とアルテシアのためというのもあるだろうが、やはりアルカイト王国のためもあっての事だろう。

 そうして、精霊飛空船を貸してもらえると決まったところで、通信装置越しの打ち合わせが始まった。精霊飛空船を飛ばすと一言で言っても、色々あるそうだ。




『それじゃあ、また後で。とりあえずは、わかり易いところに目印をお願いね』


「うむ、わかった」


 一通りの打ち合わせが済んだところで通信は切れた。これから精霊飛空船の発進準備を進める中、こちらにピー助を寄越すとの事である。発着陸出来る場所を確認するため、直接周囲を見ておきたいという。

 概ねの座標は、カグラに伝えてある。そのためピー助は二、三時間ほどで近くに到着する予定だ。そして、その時間が近くなったところで、ミラがペガサスに乗って空で待機し、ピー助を迎えるという手筈となっている。


「ありがとうね、ミラちゃん。早速、皆に伝えてくるわ」


 子供達を、より広く恵まれた場所で育てられる事になった。それが余程嬉しかったのだろう、アルテシアは実に機嫌良く教会に駆けていった。


「それじゃあ、司令。俺も戻るよ。今日は年長組の訓練日でね。これ以上待たせると、俺の株がやばい。あそこにある赤い屋根の家を準備しておいたから、司令室に使ってくれ」


 教会の数軒隣にある家を指さしたラストラーダは、「夕食は一緒に食おうな!」と言い残し、そのままどこかへと去っていった。アルテシアほどとはいわないが、彼もまた、子供達の面倒を見るのが好きなようだ。


「ふむ……まずはピー助を待つとするか」


 折角だから少しゆっくりしていよう。忙しそうな二人を見送った後、一先ず五十鈴連盟の連絡先番号のメモをポケットにしまったミラは、ラストラーダが言っていた家に向かう事にした。

 ガーディアンアッシュにワゴンを牽いてもらい到着した、赤い屋根の家。近づいてみると、その屋根は綺麗な赤い花が屋根の様に広がっていたからだとわかる。

 また、見ればその近くの家は、どれもカラフルな屋根をしていた。樹上の村に、カラフル屋根のツリーハウス。なんともメルヘンな光景だ。


「これはなかなか、悪くないのぅ」


 葉の緑と花々の色は、賑やかでありながらも調和しており、そこに不思議な安らぎとなって広がっていた。

 ガーディアンアッシュを送還したミラは、そんな花々を眺めながら、赤い屋根の家に入る。すると今度は、温かな木の香りが鼻先を過った。

 そうしてミラは、自然の優しさに囲まれながら技能大全を手に、のんびりとピー助の到着を待つのだった。




 ピー助を迎えるため、予定の時間より少しだけ早く空に上がったミラは、ペガサスと一緒に周辺を見て回る。


「近くに人里は、まったく見当たらぬな」


 深い森の中にある樹上の村。これまでずっと見つからなかったのは、その隠れ具合もあるが、やはり人の通り道になっていないというのが大きいだろう。

 ただただ噂をもとに捜しにきただけでは、きっと発見出来なかったはずだ。ファジーダイスに目をつけて正解だった。改めてそう思いながら、ふと思う。


「そういえば、組織の親玉とは何者だったのじゃろうな」


 ラストラーダは、巨大人身売買組織を潰す算段はついたと言っていた。必ず正義をやり遂げてきた彼がそう言うのならば、もう気にする必要はないのだろう。

 ただ、世界の裏には、そういった組織が幾つもあるらしい。

 ミラは、その一つであっただろうキメラクローゼンを思い出しつつ、この先、またそういった組織が出てきたりするのだろうかと考える。

 何かと癖の強い賢者達の事だ。どこかでやりあっていないとも限らない。二度ある事は三度ある。そう、今後の賢者捜しに一抹の不安を覚えるミラであった。




 ピー助は、ほぼ予定通りの時間にやってきた。空の上で合流した後、そのまま周囲を巡回し、精霊飛空船が発着陸出来そうな場所を探す。


『あれなら、いけそうね』


 村から少し北にいったところにある大きな湖。カグラは、そこに目星を付けたようだ。近づいて調べてみると、直径で二百メートルはあり、水深もまた相当に深そうだとわかった。

 精霊飛空船を下ろす場所は、何も陸に限らない。船というのだから、水場でも構わないわけだ。

 木々に囲まれた深い森の中、ぽかりと開いた空が見えるこの湖は、正に絶好の場所といえた。

 確認を終えた後、ミラは小さくなったピー助を頭に乗せて、村に戻った。その際、見事なカモフラージュ具合から、村の場所を見失ったりもしたが、心配になって迎えに出てきたラストラーダのお陰で事なきを得る。

 そうして戻った教会の一室。アルテシアの待つそこで、ピー助と入れ替わりにカグラがやってきたところで、ここに九賢者のうち四人が揃う事となった。

 ミラにとっては、まだ数ヶ月程度だが、カグラとアルテシア、ラストラーダにとっては何年振りになるのだろうか。となれば積もる話もあるものだ。移送作戦について話す前に、まずは皆で、その再会を喜び語り合った。




 五十鈴連盟の事、ファジーダイスの事、孤児院の事、九賢者捜しの事など。これまでの状況や現状についての話が一通り終わったところで、いよいよアルカイト王国への孤児移送作戦についての会議が始まった。

 といっても、だいたいの打ち合わせは通信装置越しに済んでいるため、ここで話す事は、それほど多くない。精霊飛空船の到着日時予定や発着陸場所である湖までの移動についてといったところだ。


「あの湖か。となると、森を突っ切る事になるな」


「近くに魔物は出ないけど、念のため四班くらいに分けた方がいいかしら」


 この村から湖まで正規のルートはない。つまり、自然そのままの森を、百人規模の子供達を連れて進む事となる。それは流石に危険だろうという流れになったところで、ミラが任せろと名乗り出た。


「それならばコロポックル姉妹に、湖までの道を開いてもらえば良い」


 森歩きの達人、コロポックル。その姉妹に頼めば、どれだけ険しい森であろうと、舗装された道の如く楽に進めるようになる。

 そんなミラの提案は即採用となり、当日の先頭はミラとラストラーダが担当する事となった。

 そのような流れで当日の打ち合わせは進み、そうかからず完了した。




 精霊飛空船の準備を進めるため、帰っていったカグラ。代わりに戻ってきたピー助は、そのまま小鳥の姿になって待機モードだ。

 そしてミラ達は、これから夕飯の時間だという事で、教会にある大食堂にやってきていた。


「おねーちゃんは冒険者さんなの? 強いの?」


「お兄ちゃんとどっちが強いんだ?」


 わいわいと賑やかな大食堂には、村中の子供達が集まっており、簡単に紹介が終わったところで、ミラは早速少年少女達に囲まれ質問攻めに合う。


「当然、わしに決まっておるじゃろう」


 大人げなく胸を反らし答えるミラと、盛り上がる子供達。また、そんなミラに興味を抱く者が他にもいた。教師陣だ。少女でありながら、Aランクの冒険者で二つ名持ちなミラの実力が気になる様子だった。

 ただ、その興味の方向は、強い奴と戦いたい、などという汗臭いものではない。術士としての教師役にどうだろうかという、実に教師らしい観点からであった。

 と、そうして騒々しくもどこか温かな夕食の時間は、瞬く間に過ぎていくのだった。




 夕食の後。ところ変わって、ミラは教会脇にある浴場にいた。アルテシアに年少組の二十人ほどの面倒を任されたのだ。


「正義執行! ジャスティスダーイブ!」


「ほれ、大人しくせぬか!」


 誰の何を見て覚えたのか、だいたい察しながらも、湯船に飛び込む男の子を注意するミラ。そんなミラの背後に、一人の女の子が近づいていく。


「お姉ちゃんの髪綺麗ねー」


「これこれ、引っ張るでない!」


 悪戯っこな男の子と女の子を捕まえては座らせて髪を洗うミラ。終っては次、終わっては次と繰り返していく。

 そして一通り済んだら湯船に浸からせ、肩を揉ませた。童謡を歌いながらミラの肩を揉む子供達。人数は少ないはずが、それは夕食の時よりも賑やかな入浴タイムとなった。


「まったく、遊ぶのは服を着てからにせい」


 しかし、ミラの多忙はまだ続く。湯上り後、裸で駆け出す子供達の多い事多い事。そんな子供達を追い回し、とっ捕まえてはタオルで拭いて服を着せていくのだが、その際に、パンツ一枚で駆け回っていたミラもまた子供達と同類だったのは、本人も気付かぬ事であった。




 夜になり、子供達を寝かしつけた後、ミラはラストラーダと酒を飲み交わしていた。


「なるほどのぅ……。もうそんな段階から筒抜けじゃったわけか」


 幾らかの会話から続き、二人は今、ファジーダイスの件について話しているところだ。探偵と怪盗、それぞれの側にあったゆえに、それは答え合わせのような会話となった。

 ラストラーダの話によると、やはりというべきか、ミラと所長の会話は筒抜けだったそうだ。一般人に扮して、直ぐ近くで作戦会議に耳をそばだてていたという。


「けど、その事も織り込み済みで動いているんだから大変さ」


 実際には、ミラと立てていた作戦は陽動であり、真の作戦は所長の中だけにあった。上手く逃げおおせはしたものの正体を見破られたラストラーダは、回を重ねる毎に所長の策は鋭く厄介になっていくと、溜め息混じりに苦笑する。


「時に、次で目的を果たせると言うておったが、それが終われば怪盗も廃業となるのか?」


 ラストラーダが怪盗ファジーダイスとなった目的は、巨大人身売買組織を潰すため。今回の仕事で、その組織の長に繋がる情報が揃ったため、次で全てが完了するという話だ。


「いや……正確に言うなら、今回で廃業だな」


 完了したら怪盗ファジーダイスはどうなるのか。そんなミラの問いに、ラストラーダはそう答えた。

 予告状を送り、その通りに盗み出す、大胆不敵な大怪盗。その仕事は今回までだと彼は言う。何でも最後のターゲットは、予告状なしに終わらせる予定だそうだ。それほどに組織の長は大物であり、厳重に身辺を固められた場合、つけ入る隙がなくなるとの事である。


「それほどまでの相手か……。して、そ奴は何者なのじゃ?」


 ラストラーダの実力を以ってして、そう思わせる人物。それが誰なのか気になり訊いてみたところ、驚きの答えが返ってきた。


「公爵だ。グリムダートのな」


「なんと……」


 大陸の三大国家の一つ、グリムダート。その公爵ともなれば、持ちうる力は、そこらの小国の王など軽く消し飛ぶほどに強大であった。

 そのような大物を相手にしては、流石のラストラーダ──怪盗ファジーダイスとて、厳しいのではないだろうか。そう予感したミラは、やはり手を貸そうかと再度提案する。

 しかしラストラーダは、それを不敵に微笑みながら断った。何でも今回は直接やり合わず、全て裏から手を回していくため、むしろ今までよりも楽かもしれないとの事だ。

 そして何よりも総仕上げとなる最後の仕事は、とっておきの協力者が動くという話である。


「結果は、きっと大ニュースになって大陸中に伝わるだろうから、それを楽しみにしていてくれよな」


 下準備が長かっただけあり、仕上げには相当な自信があるようだ。ラストラーダは正義に満ちた顔で、そう言ってみせたのだった。







食パンでホットドッグサンドを作ってみました。

6枚切りの食パンを2枚と、ウィンナーを贅沢に6本使います!

作り方は簡単。トーストした食パンに、上手くウィンナーを並べ、たっぷりケチャップをかけてサンドするだけです。

どこを食べてもウィンナーに当たるようにするのがコツですね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 食生活がドンドン良くなってきているようで何よりですね。 及ばずながら応援しております。
[一言] さらにイエローマスタード、ピクルスを加えるとさらに美味しくなりますよ。 そしてそんな時に便利な両方入ったハインツのホットドッグレリッシュをどうぞ。
[一言] 公爵って、ほぼ王じゃん。 大物過ぎる。腐敗もここまでかよ! 全員が乗れる籠をこさえてアイゼンファルドで吊るして運ぶんじゃダメか? 皇竜飛んでくるのはやっぱダメ? 降魔術の幻影で誤魔化せない…
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