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二百六十五
「──というわけでな。一先ずカグラとソウルハウルは確保したのじゃが、抑止力としてはもう一手ほしいところでのぅ」
アルカイト王国の今を話したミラは、これまでの出来事についても流すように語ったところで、いよいよここに来た理由を語る。とある孤児院の噂を耳にした事。その噂の内容からして、もしかしたらアルテシアが関係しているかもしれないと直感した事を。
「結果、見事に予想は的中じゃ。しかも、お主までも見つける事が出来て万々歳じゃよ」
心底笑いながらラストラーダに目を向けたミラは、面倒な捜索が一つ減ったと喜んだ。だが、きっと直ぐにとはいかないだろうとも予感する。
ラストラーダとアルテシアが戦っているという、強大な人身売買組織の存在だ。
そこで、大方の事情は把握出来たと理解を示すラストラーダに、ミラは一つ提案した。
「しかし、直ぐに戻れというのが無理そうならば、わしも手を貸すぞ」
今の二人は、カグラの時と似たような状況に思えた。ならば手を貸して問題を素早く解決し、早めに国に戻ってきてもらう。それが一番手っ取り早いとミラは考える。
しかし、二人が返した言葉は予想外のものだった。
「いや、それには及ばない。今回の仕事で全てのピースが揃ったからな。後は止めを刺すだけだ」
なんでも、これまでの分とハクストハウゼンでの一件で、巨大人身売買組織の喉元に喰らいつけるだけの牙が研ぎ終わったというのだ。もうミラの手を借りるまでもなく、目的は達成する寸前まで来たとの事である。
更にラストラーダは、ここで協力しては、怪盗と精霊女王が通じていると誤解され、先日の一件が茶番になってしまう恐れがあるとも続けた。
「折角、上手い具合にまとまったんだ。こっちの事は俺に任せてくれ。心強い協力者もいるし、何より組織を潰すべく動いているのは、俺達だけじゃないからな」
自信がある、というのではなく、その言葉には確信が込められていた。
大陸中に蔓延る、人身売買組織。強大な悪だからこそ、ラストラーダ以外にも正義を持つ者達が当然動いているわけだ。
「ふむ……お主がそう言うのなら、確かなのじゃろうな。して、その協力者とは、どのような者達なのじゃろうか?」
怪盗業を隠れ蓑にして、人身売買組織の壊滅を狙っていたファジーダイス。教会の動きや兵士長のデズモンドが持っていた強権など、様々な場面で大きな権力の陰が見え隠れしていた。いったいファジーダイスの名は、どこまで影響があるのだろうか。そう気になったミラは、素直にその点を訊いてみた。
「それは……」
「それは……?」
「正義のシークレットだ」
きざったらしく、口元に人差し指をあてがうラストラーダ。出会った当時から、秘密だと約束したらどれだけ親しい相手でも、たとえ親であろうとも明かす事はしない。それが彼の信条だった。
対してミラは、無言のまま不満を顔に浮かべる。
「だが、あれじゃ。ジューダス王は、間違いなく協力者じゃろ?」
秘密などと言われたら、少し突き崩してみたくなるのが人の性というもの。ミラは予想が容易だった人物の名を一人挙げてみせる。すると、実にわかり易く、ラストラーダの顔に動揺が浮かんだ。やはり、ジューダス王が協力していたからこその、デズモンドの強権だったわけだ。
なぜ、気付いたのか。誤魔化せばいいものの、素直なラストラーダは、そう問うた。その問いにミラは、デズモンドにその状況を聞いたから、簡単に予想出来たと答える。
「さりげなくって、言っておいたが……仕方がないか」
ミラでも関係性に気付けたように、他にもその情報から協力者に辿り着く者がいたかもしれない。場合によっては、人身売買組織に目を付けられる事態に繋がる状況だ。しかし、だからこそだろうと、ラストラーダはぼやいた。
協力を持ちかけた際、ジューダス王は他の協力者達の安全を真っ先に気にしていたそうだ。つまり、あえて自身が目立つ状況にして、他の協力者達の影を薄めるよう仕向けたのだろう。そうラストラーダは、ジューダス王が考えていそうな思惑を口にした。
「まあ、あのジューダスの事だから、ただのうっかりっていう線も捨てきれないな」
「そうじゃのぅ」
ジューダスが王になる以前を知っているミラとラストラーダは、むしろ、その方が確率的に高いかもしれないと苦笑する。
そんな中、アルテシアは、せっせとティータイムの準備を進めていた。そしてミラの前には、甘いココアと沢山のケーキが並んでいく。それはやはり、見た目からくる特別待遇だった。
ティータイムにお茶とお菓子、ココアとケーキを挟みながらも、ファジーダイスをとりまく会話は続く。
「とまあ、そういうわけで心配無用さ。しかも聞いた話によると、そろそろ組織の頭目が動かざるを得ない状況に出来そうなんだ」
怪盗ファジーダイスとは別に、協力関係ではないが人身売買組織と戦っている者達がいる。ラストラーダの話によると、その誰かの策によって、現在、組織内で問題が発生しているそうだ。
その影響は相当な規模のようで、情報を掴んでいる協力者の話によると、その作戦が上手くいけば、目標となる人身売買組織のトップが、守りの堅い場所から出て来ざるを得ない状況になるらしい。
「ほぅ、そうなのか」
「あとどのくらいかかるかは、わからないけどな」
そう口にしたラストラーダは、ファジーダイスとして全力を出す最初で最後の仕事になるだろうと、自信満々に言い切ってみせた。
正体は明かせないが、その協力者の情報網は、極めて信頼性が高いという。そのため、そう遠くないうちに決戦の日が来ると、ラストラーダは確信をもって言った。
怪盗ファジーダイスの仕事についての話はまとまった。
何年も調査して証拠を集め、いよいよ人身売買組織の頭目を見つけ出した今、後は容赦なく潰すだけ。そしてその件については、もうラストラーダ側で準備が進んでいるようだ。
カグラの時とは違い、今回ミラの出番はなさそうだった。となれば残る問題は、国への帰還だけだ。
「して、帰国についてじゃが、どうしたものかのぅ?」
怪盗の仕事以外に、何か帰国出来ない理由があったりしないだろうか。そんな不安を抱きつつも、ミラは簡潔にそう問うた。するとラストラーダは、少々困ったように溜め息を吐いてから、言葉を続けた。「ああ、それについてだが、俺達も考えた事があるんだ」と。
なんでも二人は、アルカイト王国への帰還を検討した事があったという。
辺鄙な森よりも、安全な国の中にあった方が子供達の教育にもいい。それならば信頼出来る王のいるアルカイトに帰るのが一番だ。そのようにラストラーダとアルテシアの意見は一致した。
しかし、そうしようにも出来ない事情があった。それは、ファジーダイスの活動や人身売買組織との戦いではなく、ただ単純に孤児院の子供達であった。
「運営費については俺とアルテシアさんで負担するって事にして、とりあえずは総司令に孤児院を用意してもらおうって話してた。だけど、問題はもっと身近にあったんだ」
孤児院をそのままにしておくわけにはいかないため、帰国する際は、当然子供達も一緒だ。けれど、これが思った以上に難しいものだったという。
孤児院の子供達は、百人規模。その全員を、大陸の北にあるこの場所から南にあるアルカイトまで、安全に移動させるのは容易ではないからだ。しかも子供の足と体調が基準になるため、到着まで数ヶ月単位でかかるだろう。
問題は道中の安全だけでなく子供達の健康面にまで及ぶ事から、九賢者二人の力を以ってしても帰還は困難と言わざるを得ず、断念したそうだ。
「確かにそうじゃな……。それだけの子供を連れて、数ヶ月の旅をするなぞ、無謀もいいところか」
非戦闘員で、一人も欠けてはいけない保護対象を百人以上連れての長い旅路。子供もそうだが、引率する者の負担も相当に思え、ミラは唸った。
しかしである。その点さえクリアすれば、二人をまとめて連れ帰る事が出来るという事だ。この好機を逃す手はないと、ミラは方法を考える。
きっと、孤児院の設立については、ソロモンが何とかしてくれるであろう。幸いにも、先日にネブラポリスの地下で見つけた財宝で、国庫は潤っているはずだ。
更に、キメラクローゼン戦で得た国交でローズラインとの正式な商取引も始まり、利益も出ている頃だろう。
となれば、孤児院の設立くらいの融通は利くはずである。しかも、運営資金はアルテシアとラストラーダが負担するとまで言っている。それで九賢者の二人が帰ってくるというのならば安いものだ。
そうすると後はやはり、孤児院の子供達を、どうアルカイトに送り届けるかが問題だ。
百人を超える子供達を、安全に素早くアルカイトへ移送する手段。
初めに浮かんだのは、大陸鉄道を利用する方法だ。きっとあれならば、子供も喜んで乗ってくれるだろう。ただ、駅は非常に混雑するため、迷子にならないかという心配がつきまとう。
そう考えたところで、ミラは更なる妙案を思い付いた。
「あれならば、いけるやもしれぬな」
そう呟き、にやりと笑ったミラは、思い付くと共に立ち上がり、「ちょいと訊いてくる」と口にして部屋を飛び出していった。
「……誰にだ?」
「誰にでしょうね?」
はてと首を傾げたアルテシアとラストラーダは、気になったのか立ち上がり、ミラの後を追うようにして部屋を出るのだった。
一旦話を切り上げてミラが向かったのは、ワゴンであった。
教会前に乗り付けてそのままだったワゴンに乗り込んだミラは、早速押し入れを開けて、その奥に設置してある通信装置を手に取る。
そこに、少し遅れてやってきたアルテシアとラストラーダは、扉が開いたままのワゴンを見つけて、その中を覗き込んだ。
「ああ、もうほら駄目じゃないの。パンツが見えちゃっているわよ」
押し入れに上半身を突っ込んだ状態のミラを見たアルテシアは、そう優しく窘めるようにして、ミラを押し入れから引っこ抜いた。
「おお!? なんじゃ!?」
突然引っ張り出されたミラは、驚いたように声を上げると、次にはアルテシアの顔を見て押し黙った。彼女の顔が、前に何度も見た事のあるお説教モードになっていたからだ。
「女の子なんだから、気を付けないと駄目よ。それが出来ないのなら、下にスコートとか穿く事」
そんな言葉から始まったお説教は、ミラがパンツを隠すものもちゃんと持っていると反論した事で更に加熱し、十分ほど続いた。持っていても、穿いていなければ意味はない、と。
「女の子は、もっと意識しなくちゃ駄目よ。可愛いんだから、悪い人達に狙われちゃうの。今はカメラとかも開発されてて、写真に撮られちゃうんだから」
「うむ……以後気を付けよう」
ようやく落ち着いた説教に頷き返したミラは、早速アルテシアに言われるまま、スパッツを取り出して足を通す。そして合格を貰うと、ほっと胸を撫で下ろした。
「さて、改めて……」
アルテシアの目があるため、これまでのような事は出来ない。よってミラは、いつもの通信体勢を諦め、通信装置を押し入れから出して炬燵の上においた。そして早速、番号を押してソロモンを呼び出す。
「おお、通信装置か」
「あら、素敵なものを持っているのね」
ミラが良く使っている通信装置であるが、実はかなりの高級品である。それが押し入れからポンと出てきた事に、ラストラーダとアルテシアは驚いた表情を見せた。
(あやつもきっと驚くじゃろうな)
ミラは、そんな二人の様子に少しだけ得意になりながら、受話器を気取って構えた。
『こちら、ソロモン』
少しして通信が繋がり、ワゴン内にソロモンの声が響く。
「おー、わしじゃわしじゃー」
ミラがそう言うと共に、アルテシアが受話器に顔を近づけてきて、「お久しぶりね、ソロモン君。アルテシアよ」と続けた。
『え? あ、ああー。会えたんだね。良かった良かった、お久しぶりです』
流石のソロモンも、急なアルテシアの登場により驚いたようだ。一瞬困惑した後、少し遅れて嬉し気な声を響かせる。だが、ソロモンの驚きは止まらない。
「総司令! 久しぶり! 俺だ! 星崎昴の登場だ!」
そうラストラーダが告げたところ、『ええ!?』と、ミラが思い描いていた理想通りの反応が返ってきた。
『もしかしてレッド君も一緒? うわぁ、どうしたのさ。凄い事になってるね!』
アルテシアの事らしき噂を確かめるために向かった先から、アルテシアだけでなく更にラストラーダとまで合流したという報告が入る。それはソロモンにとって予想以上の吉報であったのだから、驚くのも無理はないだろう。
なお、レッドというのは、ラストラーダのニックネームである。
「実はじゃな。怪盗の正体が、こやつだったのじゃよ」
ミラは、ソロモンの反応に上機嫌で答えた。そしてそのままの流れで、ファジーダイスが目指していた目的についても話し、要所要所をラストラーダが補足していった。
『なるほどねぇ。それで怪盗を』
話を聞き終わったところで、ソロモンは納得の声を上げた。やはりソロモンも、裏社会に潜む強大な犯罪組織について知っている様子だ。だからだろう、その大本の尻尾を掴んだという話に興味が出たようである。
しかしソロモンが、その件についてそれ以上訊く事はなかった。ただ一言「慎重にね」と告げるだけだ。
「とまあ、そういう事で無事に出会えたのじゃが、孤児院の件がちとあってな──」
ファジーダイスの仕事については、もう解決目前であるため問題はない。強大な組織といえど、ラストラーダと協力者達がいる。相当な自信が窺える事からして、もう大丈夫だろう。
となればあとは孤児院の事だけだ。ミラはそのまま、アルテシアとラストラーダがアルカイト王国に戻るための条件などについて説明した。
『そういう事なら問題ないよ。学園の裏にある屋敷を孤児院として使えるように整備しておいたから』
最も重要な点、アルテシアが帰るために必須な孤児達の受け入れについて、ソロモンは即答した。なんと、ミラがその噂話を持ち帰った時から、こうなる事を予想して、下準備だけは済ませておいたそうだ。後は運営責任者の登録と、教会への手続きだけのところまで進んでいるという。
学園設立前に臨時校舎として利用していた建物があるので、それを孤児院にしたらしい。しかも、既に予算も確保済みとの事だ。
「まあまあ、ありがとうソロモン君。嬉しいわ」
「流石総司令、話が早い!」
最大の必須条件が、交渉するまでもなく受け入れられていた事に、アルテシアとラストラーダは笑顔で喜び合った。二人にしても、やはりアルカイト王国に戻れる事が理想なのだろう。二人の顔には安堵が浮かんでいた。
先日、なんと行きつけのスーパーで豚バラが特売になっていました!
普段は100gで120円とかなんですが、
その日はなんと89円!
それはもう、買っちゃいましたね。薄切りと厚切り両方買っちゃいました。
現在は、厚切りを半分食べた状態です。
やっぱり……バラ肉は美味しい……。脂身が多いけど……だからこそ美味しい……。
まだまだお肉は残っております。
そんな幸せ。




