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263 推薦

二百六十三



「おかえり! そしてありがとう!」


 リナを宿まで送ったところ、ミラは迎えに出てきた姉のニナに強く抱きしめられた。きっとリナが、これまでにないくらい充実した表情をしていたからだろう。


「構わぬ構わぬ。約束じゃったからのぅ。それにわしも、新しい才能と出会えて良い刺激になった。お主達の妹は、将来有望じゃぞ」


 まんざらでもなさそうに抱きしめられたまま、ミラは特訓の際に思った事を素直に伝えた。するとリナはますます喜び、続けて出てきたミナとナナが、そんなミラの言葉に激しく反応する。

 それはつまり、精霊女王から見て、リナは召喚術士としての才能があるという事かと。


「うむ、そうじゃな。覚えはよく、理解も早い。そして何より頑張り屋さんじゃ。このまま努力を続けられれば、一流の召喚術士になれる事じゃろう」


 事実、リナはこれまでミラが見てきた中で、一番呑み込みが早く、才能に溢れていた。ミラがそう伝えると、ニナ達はまるで我が事のように喜んで、リナを抱きしめる。


「凄いよ、リナ」「やったね、頑張ってたもんね」「良かった」


 姉達のような冒険者に憧れ、しかし今は落ち目の召喚術士の才能だけしかなく、途方に暮れていた日々。そこに差し込んだ、精霊女王という一流の輝き。通り過ぎていった日々を思い出したのか、リナは目に涙を浮かべ「うん!」と、笑顔を咲かせた。

 しかし、そんな笑顔が曇る時がやってきた。そう、別れの時間である。


「ではな。才能に溺れる事なく、しかと精進するのじゃよ」


 ミラがそれを口にした瞬間、リナの表情が深く沈み込む。しかし、直ぐに俯き目を伏せて「はい」と答えた。ミラがずっと先生をしてくれるはずはない。そう頭ではわかっているが、心が受け入れられないようだ。

 そしてミラもまた、そんなリナの心境を察すると共に、思う事があった。今日は自分が直接教える事が出来て、これだけ彼女の才能を伸ばせた。では、明日以降はどうするべきかと。

 当分の間は、今日の反復で十分だろう。しかし習得する召喚術が増え、選べる手段が増えた時、果たしてそれらを確実にものに出来るだろうか。

 今の召喚術に足りないのは、先人の教え。そしてミラが気になった点は、それを補うための教材の少なさだ。基礎的な知識については、完璧といえるリナ。しかし、応用や発展といった部分は、まだまだであった。

 それもこれも、深く研究された学術書や教本が、召喚術には、ほとんどないからだ。


(良い師を得て、召喚術を学んでいければ、きっとクレオスくらいにはなれるじゃろうにのぅ)


 ミラは、惜しいと感じ、この才能をこのままにしておいていいのかと考える。すると次には、それを解決出来そうな妙案を思い付いた。打って付けの場所があるではないかと。


「ところでお主達のグループは、この街を拠点にしておるのか?」


 ミラは、ふとそんな言葉を口にした。対してニナは、僅かに疑問を顔に浮かべながらも、「ここに来たのは今流行りのファジーダイスを見てみよう、っていう、そんな理由です」と、少し恥ずかし気に答える。

 またミナが、特にこれといって特定の拠点はないとも続けた。今は大陸中を巡って、ここだという国を探している段階だそうだ。


「ふむ、そうか。それならば次は、アルカイトに行ってみてはどうじゃろうか。そこの首都にある学園には、優秀な指導者が揃っておる。きっとリナの才能も伸ばせるはずじゃよ」


 妙案だとばかりにミラが提案したところ、どうした事か、ニナ達の顔にふと陰りが差し込む。


「アルカイト学園ですよね。一度考えた事があるんですが──」


 どうやらリナが召喚術で悩んでいた時、学園に入学させる事も考えたそうだ。アルカイト学園の術士科は、術士を目指す者にとって最高峰の学び舎。だからこそ、リナの事もどうにか出来るのではないかと。

 しかし、その門は恐ろしく狭いものだったという。調べれば調べるほど、何の実績もない冒険者の妹が、おいそれと入れるところではないとわかり、諦めたという事だ。


「ふむ……そういう事ならば、どうにかなるかもしれぬが、どうじゃろうか?」


 今のアルカイト学園の召喚術科は、今までで一番盛り上がっている時期だ。となれば、特に才能溢れたリナならば、問題なく受け入れられるだろう。召喚術科を取り仕切るクレオスに一言入れれば、一人や二人、どうにかなるというものである。

 そして何よりも、これだけの才能をこのまま放置するのは、もったいないというのが、ミラがそう提案した理由の半分を占めていた。

 と、そんな考えで軽く提案したミラであったが、ニナ達の反応は、まず驚きが強かった。


「え? どうにかって、だって、あのアルカイト学園ですよ? え?」


 余りにも唐突過ぎたのか、困惑し始めたニナ。また、ミナとナナも、どういう事かと顔を見合わせる。

 王立アルカイト学園。ミラは詳しく知らなかったが、その入学基準は相当に高い。特に、花形ともいえる各術科は、術士の国という呼び方に恥じぬほどであり、当然、学べる知識も随一だ。

 それだけに競争率も高く、盛り上がってきている召喚術科もまた、相応にまで生徒が増えてきていた。よって今では、余程の事がない限り、中途入学は難しい状況だ。

 けれど、ミラが推薦するのならば話は別である。召喚術の賢者の推薦を蔑ろに出来る者など学園には一人もなく、何よりクレオスがそれを見過ごすはずがないからだ。


「学校、行けるの?」


 リナもアルカイト学園については知っていたのだろう。その顔に少しだけ期待が浮かんだ。するとニナ達もまた、ミラに改まるようにして問う。「本当に入れるのでしょうか?」と。


「うむ。ちょいとばかし、コネがあるのでな。本気で行きたいという気持ちがあるならば、向こうにはわしから言付けておこうではないか」


 自信満々に笑ってみせたミラは、そこから更に、自分の拠点も本来はアルカイト王国である事を告げた。更に時間が出来たら、また召喚術を教えられる日があるかもしれないと続ける。


「私、行きたい!」


 また憧れの精霊女王に教えてもらえる。それが何よりも大きかったのか、リナは姉達に向かってはっきりと口にした。そして冒険者の仕事に支障が出るのなら、一人でも構わないと、涙ながらに言う。

 そんなリナを、ニナ達は再び抱きしめた。


「お姉ちゃん達も行くよ!」


「きっと皆も賛成してくれるはずだから」


「絶対に説得する」


 そう、ひとしきり姉妹愛が交わされたところで改まったニナは、「是非、よろしくお願いします!」とミラに向かって力強く口にするのだった。




 リナのアルカイト学園入学の口利きを約束したミラは、彼女達と笑顔で別れた後、男爵ホテルに帰って早々ワゴンに乗り込んだ。早速、その旨を伝えるためだ。

 なお、ニナ達は、これから冒険者グループの皆と夕食であり、その際にアルカイト行きの件を提案するつもりだという。そしてファジーダイスのイベントも終わった事で、次はどこに行こうか考えていたところだったため、その成功率は百%だとニナは豪語していた。


「こういう事は、早めに伝えておかねばな」


 そんな事を呟きながら、ワゴンの押し入れを開けたミラの目的は、通信装置だ。こういう時にも便利だと、番号のボタンを押して連絡する先は、召喚術の塔。召喚術科の責任者であるクレオスに話を伝えておけば、後は彼が準備を整えてくれるだろうと考えての事だ。


『はい、召喚術の塔、補佐官のマリアナです』


 呼び鈴の後、通信装置に出たのはマリアナだった。


「おお、マリアナか! わしじゃわしじゃ」


 数日振りに聞くマリアナの声に嬉しくなったミラは、そのままハクストハウゼンでのあれこれを話し始めた。

 愛する妻に単身赴任先から電話をかけるようなそれは、一時間も続いた。満足したミラは受話器を置き……かけたところで大事な件を思い出す。

 慌ててクレオスを呼び出し、リナの入学について伝える。するとクレオスはミラ直々の推薦という事で、大きな期待を抱いたようだ。それはもう受話器口からでもわかるほど嬉しそうな声で、手続きしておきますと返ってきたのだった。



 ファジーダイス騒動が過ぎ去った二日目の朝。支度を終えて部屋を出ようとしたその時に、ミラは扉の下から差し込まれていた封書を見つけた。映画や何かで見た事のある状態のそれだ。

 ホラーなどの場合『次はオマエだ』などと書かれていたりするものだが、現状からして差出人には見当がつく。ミラは、ようやく連絡してきたかとそれを拾い上げ、手紙に目を通す。

 予想通り、その手紙はラストラーダからのものであり、そこにはただ一つの座標だけが記されていた。

 その場所はハクストハウゼンの街よりも北東の森にある、小さな湖の畔。周りには他に何もない、ありふれた地点だ。ただ、わざわざそんな座標を伝えてきたという事は、何かしらがそこにあるのだろう。


「ここに来いというわけじゃな」


 その意味するところを察したミラは、男爵ホテルをチェックアウトして、旅支度を始めた。

 ガーディアンアッシュにワゴンを牽いてもらい、大通りを進みつつ、目ぼしい店に立ち寄っては、色々と購入していく。

 現在、アイテムボックスには、便利な冒険者用品が揃っていた。そして食料もまた、十分過ぎるほど満載されている。しかしミラは、主に食料関係を見て回った。

 一ヶ月くらいならば補給なしに食いつなげるだけの食料を保管しながらも、更に買い込んでいくミラ。ただ、そこには少しだけ違いがあった。

 今回、ミラが補充したのは、メインどころではなく、スイーツ系だったのだ。気に入ったパンケーキを始め、各種のケーキにババロアやショコラと続き、街にあるスイーツ店をはしごしていく。

 そして、十数店舗目に訪れたパン屋で、ミラは見覚えのあるパンを発見した。


「おお、これは!」


 それは予告日の当日、街が大いに賑わっていた時にクリスティナを《退避の導き》で呼び戻した際、彼女が手にしていた丸パンであった。

 手の平サイズのお手軽なクリームパン。『特製カスタードクリームがたっぷり』と書かれたポップに引き寄せられたミラは、早速一個を購入し、イートインコーナーで食べてみた。そして、その美味しさに感動する。


「あー、あったあった。この店だよー」


 と、そんなところで、二人組の女性客が来店した。彼女達は、丸パンが置いてある台に直行する。どうやらその様子からして、このパン屋の丸パンが目的だったようだ。


「これが、あの時配られてたやつだよね?」


「うんうん、きっとそうだよ」


 二人が交わす会話からして、やはりクリスティナが食べていたあのパンは、これで間違いなさそうだ。と、そうしてミラが確信していたところで、何やら気になる会話が耳に入った。


「でもさ、あの騎士っぽい女の人凄かったよね」


「あー、あのツインテールの人だよね。凄かったよねぇ。何個食べてたんだろ」


「あれは、十個は軽く超えていたと思う」


「まあ、美味しかったから仕方がないよねぇ」


「でも、急に消えたように見えたけど、あれは何の術だったんだろ」


「さぁ、何だったんだろうね。実はパンの精霊だったりとか?」


「なにそれー」


 楽しそうに言葉を交わし、クスクスと笑う二人の女性客。対してその内容から、ある想像がミラの脳裏に過った。

 ミラは、それとなく店主に訊いてみる。もしかしてあの日、うちの仲間が世話になったのではないかと。クリスティナの特徴を挙げて。


「それはもう、すっごく美味しそうに食べて下さって、私も何だか幸せな気持ちになりましたよ」


 店主の返事は、肯定であった。

 強引に薦められ一つだけ受け取ったと言っていたクリスティナだったが、どうやら真実は別のところにあったようだ。

 ミラは、丸パンを二十個ほど購入すると店主に礼を言ってからパン屋を後にした。そして、アルフィナに告げ口する件が出来たなと、僅かにほくそ笑みながら、旅支度を進めていった。




 大きな灰色の熊であるガーディアンアッシュを見慣れない者は多いのだろう。そこそこ目立つようで、ミラのワゴンは大通りの中で注目を浴びていた。

 また、「あれが精霊女王だ」「見れば見るほど高貴そうだな」、といった声が、ところどころで上がっている。ファジーダイスと、教会への寄付の件で、その名が更に広まったようだ。

 甘いものの補給を存分に済ませたミラは、その注目具合に、しめしめとほくそ笑む。そして、あえて見せつけるように御者台に座り、ガーディアンアッシュを送還する。

 召喚術の可能性をわかってもらう絶好の機会だ。そう考えたミラは、注目される中でガルーダを召喚してみせた。

 魔法陣が浮かび上がると、そこから極彩色の翼を持つ怪鳥が現れ空を舞う。

 ざわつく民衆。だが次の瞬間、ガルーダがワゴンの上部にある支柱を掴むと、そのざわめきが驚愕に変わった。もしかして、飛ぶのか、と。

 ガルーダが羽ばたくと、優しい風がふわりと抜ける。そして、ワゴンはゆっくりと上昇していった。

 これは凄いと、人々がどよめく。そして召喚術は、こんな事が出来たのかと誰かが口にすれば、それは広く伝播していき、いずれ冒険者達の耳にまで届く事となる。

 成長した召喚術士は、こうして空の旅までも可能にする。民衆の反応からして、その事実を知らしめる事に成功したと確信したミラは、ガルーダに目的地の座標を伝え、清々しい気持ちでハクストハウゼンの街を後にするのだった。







先日、久しぶりにほっともっとへ行ってみました。

お気に入りだったしょうが焼きコンビ弁当がなくなって暫く、それに代わる新しい限定メニューが何なのかを確認するためです。

そしたら何と……


地域限定メニューが消えていました……。メニュー欄から完全にです……。

もうやらないようです……。



追伸

とうとう100円中華まんもなくなってしまいました。

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― 新着の感想 ―
普通は“ダンブルフの弟子ミラ”名義で、学校への紹介状を書くところではないのかな?
[気になる点] クリスティナによる子供達の救出劇と、クリームパンの買い食い。ミラはどちらを重点的にアルフィナに報告したのでしょう。
[一言] クリームパンを“おあずけ”され、良い笑顔の長姉から特別訓練をひたすら受け続けさせられる末妹。 それを眺めながら主から賜ったクリームパンをパクつく5人の姉。 だが彼女たちは知らない。 食べ終わ…
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