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255 援軍

さて、宣伝です!

なんと書籍版9巻とコミックス版3巻が

4月28日に発売します。

また、どちらも小冊子とアクリルキーホルダー付きの限定版があるそうです!

各店舗様では、予約の方も始まっているとか。

なにとぞ、よろしくお願いします。

二百五十五




「では、ミラさん。我々はこれから急ぎ合流します」


 簡単な打ち合わせによって、クリスティナは遊撃役という事で決まる。なおその際、目安としてクリスティナが少し実力を披露したところ、明らかに兵士達の目の色が変わっていた。見た目と雰囲気に反して、超一流の剣技の冴えを目の当たりにしたからだ。

 能ある鷹はなんとやらを実感した兵士達。またデズモンドは、ほら見ろやはり流石は精霊女王だと、なぜか得意顔であったりした。

 戦力に不足はなくなった。その確信を得てからの兵士達の動きは迅速だ。今から直ぐに先行している者達を追い、今回の作戦について伝えるとデズモンドは言う。


「うむ。そちらはよろしく頼む」


 ファジーダイスが狙う何か。きっと悪事に繋がるものが、この水路にはある。兵士達が駆け足で水路の奥へと消えていく姿を見送ったミラは、定期的に状況の報告を入れるようにとクリスティナに伝える。


『わかりました! 今は、足跡を辿って進んでいますー』


 早速、返事と共に報告が入る。それを受けてミラは、変化があった時だけで構わないと伝え直した。




 それから少しして、アンルティーネが、ファジーダイスらしき人物を見つけたと、水面から顔を出した。


「灰色のマントをした男の人だけど、この人でいいのよね?」


 水が繋がっていれば、その水を通して周辺を『見る』事が出来るというアンルティーネの能力。その能力をもって、念のために水路の全体まで捜索した結果、それらしい人物は、その一人だけしか見つからなかったそうだ。

 どうやら、また変装していたようである。きっと逃走後に、そのまま名も無い冒険者として世に紛れるつもりだったのだろう。


「うむ、きっとそ奴じゃな。して、どの方向に向かっておる?」


 ファジーダイスが向かう先に水路の出口があるはずだ。そうミラが訊いたところ、アンルティーネは少しだけ思案するように目を閉じてから答えた。隠された出入り口が他にあった場合はわからないが、ファジーダイスは現在、最短で水路の水の出口に向かっていると。


「水の出口……か。なるほどのぅ、このまま街から脱出するつもりじゃな」


 事実、考えてみれば、それが一番リスクの少ない手段であるといえた。下手に街のどこかに隠された他の出入り口から脱出して、その場面を見られでもしたら、民衆や警備といった者の目が折角誘導した水路から離れてしまう。

 だからこそ、誰の目にも触れずに街から出た方が、水路に注目を集めたままにしておけるというものである。

 アンルティーネの話によれば、水路の水の出口は街の南東方面であり、大きな川が最も近くなる場所にあるという。ただ、少々複雑になっているそうで、出口の詳細な場所については、その近くまできたらアンルティーネに誘導してもらう事となった。


「では、アンルティーネ殿はそのまま追跡を頼む。わしは直ぐに空へ上がるのでな」


 何よりもまず、先回りに成功する必要がある。ミラは言いながら足早に階段へと駆けていく。


「ええ、わかったわ」


 そう答えたアンルティーネは、再び水路の中に沈んでいった。そして早速彼女から、怪盗が現在の速度を維持して最短距離を進んだ場合、あと十五分もすれば出口に到着するとの報告が入った。


「急がねばのぅ……」


 下りる時にも時間がかかった階段は、当然上るとなれば長く遠い。そして何よりも、これを駆け上がるとしたら相当に体力を削られる事になるだろう。

 そこでミラは、召喚術が成長した事で新たに可能となった新術を使う事にした。


【武装召喚:ダークナイトフレーム】


 その術を発動すると、ミラの足元に魔法陣が浮かび上がり、ダークナイトが出現した。しかし次の瞬間に、それはミラの全身を覆い、新たな力の形へと変化していく。

 黒い炎となった魔法陣は、やがて一点に集束し、その力を実体として定着させた。


「実戦投入は初めてじゃが、良い具合じゃな」


 その姿はまるで、黒いヴァルキリーのようであった。ミラは、感触を確かめるように少しだけ身体を動かした後、そのまま一気に階段を駆け上がっていく。

 新たな術によって得た新たな力。武具精霊によって武装するという、召喚術を一つ先へ進化させたこの術は、まだ未知の部分が多い。だが合間合間の時間で研究を続けたミラは、この術が、一種のパワーアーマーに近いものであると確認していた。

 武具精霊の力によって身体能力を補助し、また装甲によって防御力を高める。ゆえに、これの使い方を確立し、広く伝える事が出来れば、召喚術士の弱点である術者本人の弱さを補えるようになるわけだ。

 それはきっと、今後の召喚術界において、ターニングポイントにもなるだろう。


「うむ……素晴らしいのぅ。まるで翼が生えたようじゃ!」


 長い上り階段も、ダークナイトフレームのアシスト効果によって難なく上っていける。

 この先に待つのは、怪盗ファジーダイス。義賊として名高く強者としても有名な彼ならば、ダークナイトフレームの性能テストにもうってつけだ。

 孤児院の場所を訊き出す以外に、そんな事を目論みつつ、ミラはあっという間に屋敷の地下室にまで戻った。


「む……。どういう事じゃ」


 地下室を見回したミラは、はてと首を傾げる。来た道をただ戻っただけのはずだが、どういうわけか、その戻り道が見当たらなくなっていたのだ。つまり、水路へと繋がるこの地下室は今、完全に密室となってしまっているわけである。


「確かこの辺りのはずじゃったが……」


 出入り口があったであろう壁を念入りに調べるミラ。だがそこには、石の壁がそそり立つだけで、扉や、隠しスイッチ的なものは一切見当たらなかった。


「これは、つまり……」


 前にあるのは、完全に封鎖された地下室の壁。分厚い石の壁に囲まれたそこを内側よりこじ開けるのは、並の者では不可能だろう。

 後ろにあるのは、複雑に入り組んだ地下水路。ミラならばアンルティーネの力を借りる事で、難なく脱出可能だ。しかし、もしも兵士や傭兵達だけだった場合はどうだろうか。下手をすると延々と彷徨う事になるかもしれない。

 ミラは地下室の壁を睨みながら、そういうつもりかと察した。きっと、ここの屋敷の主人は、全てを地下水路に閉じ込めて、なかった事にしようとしているのだろうと。


「随分な強硬策に出たものじゃな」


 浅はかな考えである。外には兵士と傭兵が屋敷に入っていく場面を目撃した者達が大勢いる。地下水路については知らないまでも、皆が戻ってこなければ、余計に何かあると疑われる事になるはずだ。


「まあ、無駄な足掻きじゃがのぅ」


【召喚術:ノーミード】


 石の壁を前にしたミラは、街中で待機しているノーミードを一度送還してから、再度召喚した。すると、魔法陣から小人が現れる。

 土の精霊、ノーミード。身長三十センチほどの少女の姿をした彼女は、それでいて自身と同じくらい大きな石のハンマーを軽々と手にしていた。


「さぁ、頼むぞノーミードや。そこの壁に穴を開けるのじゃ」


 ミラがそう指示すると、ノーミードはこくりと大きく頷いて、ハンマーを担ぎ壁の前にまで駆けていった。そして、ハンマーを掲げてから一気に振り下ろす。するとどうだろうか、頑丈な石壁の一部が突如として砂に変わり、崩れ去ったではないか。

 更に、それだけでは終わらない。山となった砂は、まるで生き物のように動き始め、そのまま通行の邪魔にならない場所に移動したのだ。


「うむ、ようやった。偉いぞ」


 褒めて褒めてとばかりにミラの足元で飛び跳ねていたノーミードを抱き上げて、そっと頭を撫でてやるミラ。それが嬉しかったのか、ノーミードはハンマーを振り回して喜んだ。


「おーおー、元気じゃのぅ」


 石で出来たハンマーは、そこそこの重量があるため、ノーミードがハンマーを振るたびに、その反動でミラの身体が左右にぐらつく。簡単に抱えられるサイズ感だが、ハンマーを持ったノーミードの重量はかなりのものであり、武装召喚状態でなければ、きっと支えきれなかった事だろう。


「ご苦労じゃったな」


 ノーミードに労いの言葉をかけてから送還したミラは、武装召喚の強化効果にも満足しながら再び駆け出して、大きく空いた穴を抜けていった。


「随分と片付いておるな」


 ここの主人はあれだが、使用人の方はずっと優秀なようだ。初めに見た時は、割れたワインやら何やらで散々な状態であった廊下が、今は既にその面影もない。ただその代わりに、心底疲れ切った表情の使用人達が転がっているだけだ。

 そんな使用人達が、ミラの姿を目にするなり驚愕の表情を露にした。そして同時に「お待ちください」と口にするも、その声が届く事はなく、ミラは悠々と屋敷の廊下を駆け抜けていく。

 そうこうして、玄関にまで戻ってきたミラ。外に出たらペガサスを召喚し、一気に水路の出口まで直行だ。と、次の行動を考えていた時だった。


「確かに来たが、もうここにはいない。とっくに出ていったぞ」


「また、御冗談を。聞いたところ、入っていくのは見たが、出ていくのを見たという者は一人もおりませんでしたよ」


 何やら誰かの言い争うような声が、出入り口の向こう側から響いてきたのである。


(この声は……屋敷の主人か……? 相手は誰じゃろうか)


 はて、何を言い争っているのか。気になったミラは、扉の前で立ち止まり、そのままそっと聞き耳を立てた。

 両者の口論は、なおも続き、次第にその内容が明らかになってくる。

 どうにも聞いた限り、屋敷の主人が言い合う相手は、デズモンドの上司にあたる人物のようで、ギーズ大隊長と呼ばれていた。

 そして、そんなギーズと屋敷の主人が言い争う内容だが、それは正に、つい先程の事についてであった。

 ギーズは、調査のために屋敷に踏み入ったデズモンドの隊を支援しにきた。しかし屋敷の主人は、確かに彼らが来たが、怪しいところはないとして、既に帰っていったと答えたわけだ。

 とはいえ、それを鵜呑みにせず、まだここにいるはずだと主張するギーズ。その根拠は何よりも、この屋敷を取り囲むファジーダイスのファン達全員の証言だ。屋敷に入っていくところは見たが、まだ出てきてはいないと。

 しかし屋敷の主人は、堂々とした口調で、この屋敷には、もういないと宣言する。そして、なんなら『剣の審判』を受けてもいいなどと口にした。


(ぬけぬけと、よう言ったものじゃ)


 そんな屋敷の主人の言葉に、ミラは呆れたように苦笑する。

 三神の一柱、正義の神を祀る大国グリムダートには、神器の剣がある。神の力を秘めているというそれは、極めて強力な武具であると共に、その光で偽りを露にするという効果を秘めていた。

 先程言葉に出た『剣の審判』とは、そんな神器の力によって、発言の真偽を問うというものだ。そして、その結果は絶対の証拠とされるが、それゆえに慎重な扱いが求められるものでもあった。

 だからこそミラは、屋敷の主人の言い回しに嫌悪感を抱いた。『この屋敷には、もういない』。それは真実だ。デズモンド達は今、屋敷ではなく地下水路にいる。屋敷にいない事は確かであるのだから。


「では、こうしよう。そこまで言うのなら、好きなだけ調べればいい。もしも探している人物がいた場合は、どのような罰も受けようではないか。だが、何も出なかった場合は……覚悟する事だ」


 言い合いが平行線となったところで、屋敷の主人が妥協したとでもいった体で、そんな事を言い放った。

 屋敷にデズモンド達がいない事を確かめる。仕方がないとばかりな口調であったが、屋敷の主人のその言葉には、罠に誘い込むかのような狡猾さが滲んでいた。

 事実、幾ら探しても見つかるはずはない。だが彼は、まだ知らない。ミラがその言葉を聞いていた事を。そして、ミラがそこにいる事も。


「……では、調べさせてもらおう」


 熟考の後、ファン達の目撃証言と自身の直感を信じる事にしたのだろう。ギーズは、そう答えた。そして、少ししてから正面玄関の扉が開く。


「な……貴様は!?」


 その声を発したのは、屋敷の主人だった。罠に嵌ったとばかりな笑みを浮かべていた彼は、扉の先にいたミラの姿を目の当たりにして、その表情を一変させた。

 ただ、それも仕方のない事だろう。聞こえてきた話の流れからして、今の状況で絶対に会いたくないであろう人物がいたのだから。


(やはりあれは、故意だったようじゃな)


 水路に続く地下室は、完全に封鎖されていた。そして主人は、その隠蔽具合に余程の自信があったようだ。そこにもう一つの地下室があるなどと、気付かれない自信が。

 けれど今、そんな場所に入っていったはずのミラは、ここにいる。屋敷の主人の表情と相反するように、ミラは不敵な笑みを湛えた。


「その主人の言った事は間違いではない。ただ、少々言葉が足らぬようじゃ」


 ミラは明らかに狼狽する屋敷の主人を、してやったりとばかりに睨みつけた後、その視線を兵士達の先頭に立つ者へ向けた。


「そう、なのか? して、貴女は何者だろうか?」


 中年を少し過ぎたあたりだろうか。男の渋みが出てきたその者こそが、ギーズで間違いないようだ。

 ミラに真っすぐと向かい合うギーズ。そんな彼にミラは、簡単に自己紹介をした。召喚術士のミラであると、特に召喚術士の部分を強めにだ。


「とすると、貴女が先程聞いた精霊女王か」


「そのようにも最近呼ばれておるようじゃな」


 どうやらファジーダイスファン達が、ここに精霊女王も来ていたと話していたらしい。そしてデズモンド達と屋敷に入っていったという事まで、ギーズ達は把握しているようだった。

 ならば話は早いと、ミラはここまでの経緯を簡潔に説明する。屋敷内に残されていたファジーダイスの痕跡と、それを隠そうとする使用人達。そして、痕跡を辿った先に見つけた地下水路への入口と、戻ってきた時の状態についての全てをだ。


「なるほど……それであのような言い回しを」


 ミラの話から、ギーズも屋敷の主人が目論んでいた事に気付いたようだ。睨むように振り返ると、屋敷の主人は明らかに動揺を浮かべて執事に助けを求める。だが、執事も最早お手上げのようで、ただ首を横に振って応えるだけだった。


「では早速、デズモンドの隊を援護するために、その地下水路とやらに行くとしよう」


 そう言って進み始めるギーズ達。対してミラは、反対に玄関扉へ向かう。


「わかり易く痕跡が残っておるからな。それを辿れば追いつけるはずじゃ」


 すれ違う際に、ミラがそう口にしたところ、ふとギーズから疑問の声があがった。「案内しにきてくれたのでは、なかったのか?」と。

 どうやらギースは、ミラがデズモンドに頼まれて、援軍を呼びに来たと思っていたようだ。


「いや、わしは外側から先回りするために出てきただけじゃ。援軍だのなんだのといった事は、聞いておらぬな」


 ミラがそのように答えたところ、ギーズは呆れたような表情を浮かべ「また、あいつは……」と呟いた。ギーズ曰く、兵士長の中でもデズモンドは、他の隊を置き去りに直感でばかり動く問題児だそうだ。だがそれでいて、その直感が外れた事はないらしい。


「ともかく、情報感謝致します」


 愚痴めいた言葉を吐いた後、改めるように礼を言ったギースは、使用人の一人を案内として捕まえると、急ぎ足で屋敷の奥へと入っていった。


「もう、余計な事をするでないぞ?」


 威嚇代わりの素振りをするダークナイトを召喚して見せつけながら、睨みを利かせるミラ。すると屋敷の主人らは、しきりに頷き応え、同意の意を示した。


「さて、わしも急がねばな」


 こうしている内にも、ファジーダイスは出口に近づいている。アンルティーネから逐一入る報告によれば、あと七分もなさそうだ。

 ミラはすぐさま屋敷から飛び出すと、そのままペガサスを召喚して颯爽と空へ飛びあがっていった。







いよいよ次回……決戦!


ところでホットドッグって美味しいですよね。

シンプルで贅沢感がありながら、そこそこの値段で作れるのが素敵だと最近気付きました。

そしていつかは……お高いソーセージで贅沢なホットドッグを……。

夢が広がりますね……!



台紙は、まだ見つけられず……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちらっと他の方の感想も見たが、やっぱみんなも所長編が苦痛と感じるのね...所長さん本当に出来た探偵キャラだな...(建前) [一言] 電子書籍の全巻買ったけど、書籍版のこの辺もなかなか…
[一言] 威嚇の素振りとして素振りをするダークナイト。
[良い点] 高水脈の伏線回収 [一言] ファジーダイス編なんですが読むの苦痛です ダラダラ長い割に進展がない 抽象的な設定とご都合展開 つらい
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