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248 作戦開始

二百四十八




「さて、最後に『悪食旅団』だが、当然、ただの魔獣退治屋ではない」


 二つの退治屋の話が終わったのも束の間。所長は即座に口を開き、『悪食旅団』について語り始めた。

 所長がいうに、術士を主軸とした編成のその者達は、魔獣退治屋の中でも特に忌避される、不死系統の魔獣を優先的に狩る集団であるそうだ。

 不死系統の魔獣。その特徴は、なんといっても呪いである。それは様々な状態異常を誘発するため、これらの魔獣は、俗に言うデバフ特化型に分類される。


「高位の治療が必要となったり、後遺症があったりと、このタイプの魔獣は討伐後も厄介な事になる場合が多い。そのため、魔獣専門の退治屋ですら、これを引き受ける事はほとんど無いのが実情だった」


 そのため、人里の近隣に現れた場合、恐ろしい勢いで被害が広がっていく。それらを踏まえて、十数年前に討伐報酬が三倍に増額されたそうだ。


「随分と太っ腹な条件じゃのぅ」


 魔獣討伐は、最低でも二千万リフは下らないという。となれば不死系統は、最低でも六千万だ。その大金に、ニナ達もにわかに沸き立つ。

 ただ当然、それだけ、このタイプの魔獣が厄介という事。一時期は討伐依頼を引き受ける退治屋も増えたが、それは年々減少していった。被害も甚大であるからだ。


「報酬は高いが、リスクも高い。今のご時世、この条件に手を出すのは、勇者かギャンブラーくらいのものだよ」


 そう言った後、所長はミラをじっと見つめ、「ミラ殿の場合は、勇者になるのかな」と笑った。


 不死系統の魔獣について、ミラはその厄介さをよく知っていた。かつて何度も苦しめられた事があるからだ。

 しかしそれはもう昔の話。今ならば、所長が例に挙げた下位のタイプ程度は問題なく倒す事が出来る。しかもそれだけで六千万リフだ。ミラの心は、その報酬額に釘付けになっており、そんな心情を所長は見抜いていた。


「はて、何の事じゃろうか」


 そうとぼけながらも、ミラの皮算用は止まらない。

 マリアナに妖精の加護を更新してもらえば、状態異常を完全に無効化出来るようになる。とすると、もう不死系統の魔獣など、身体能力が同ランクより劣るだけの存在に成り果てる。こうなったのなら後は簡単な仕事だ。

 ミラは思う。今の実力で倒せる最大級の不死系統魔獣を退治したなら、その報酬はどれほどのものになるのだろうかと。

 最低でも報酬は六千万リフ。普通の中位魔獣もまたそのあたりの額という事は、不死系統になれば一億八千万。もし計算そのままで上位魔獣になったなら、五億四千万リフだ。

 最上位と超越クラスでなければ、一人でも十分に倒せる範囲だ。それだけの報酬を独り占め出来れば、新しい精錬装備作製に相当役立つ事だろう。また、不死系統の魔獣素材は、精錬装備と相性の良いものが多い。


(一石二鳥じゃな)


 魔獣の出現には色々な要素があり、出会うには運が必要だ。人によっては悪運にもなるが、情報があったならば積極的に狩っていこうとミラは心に決めた。

 すると所長は、ミラが不死系統の魔物をターゲットにした事に勘付いたようで、「やはり二つ名持ちともなると、考え方が一つ二つ違うようだ」と苦笑した。

 それから所長は、昔はもちろんの事、色々と経験したいと思う今も、正直不死系統の魔獣退治には参加したくはないと話す。そして、「しかし、『悪食旅団』の戦いぶりは一度見学してみたくはある」と続け、いよいよ『悪食旅団』とは、という部分に話が進んでいった。


「リスクを最小限にまで抑え、増額分の報酬を出来る限り享受する。それが大半の退治屋が出した方針であり、限界だった。しかし、『悪食旅団』は違う。彼らは、このリスクを完全に取り払ってしまったのだよ」


 所長は語る。不死系統という特殊性の高い魔獣を相手にするために適応した彼らの戦いぶりもまた特殊性に富んだものであったと。


「それまでの退治屋は、不死の魔獣が操る特殊な能力をどのように逸らすか、どのように抑えるかといった方針で動いていた。しかし彼らはそこで、どのように耐えるか、といった点を追求したわけだ」


 強力な魔力を持つため、魔獣が操るそれらの力は、常識的に考えれば、人の身で耐えられるようなものではない。

 ミラとて、下位の魔獣ならともかく中位くらいになるとレジストに不安が出始め、上位になればもう出来るだけ避ける事が当然となる状況だ。

 術士の中でも最上位の魔力を持つミラですら、それが限界である。そのため魔獣の特殊能力を耐えるなどという方法は、現実的とは思えない事だった。


「ほぅ、あれを耐える、か。方法が気になるところじゃな」


 興味深げにミラが呟くと、所長は待ってましたとばかりに笑みを浮かべて、言葉を続けた。それは彼らが相乗効果を追求した結果であると。


 術士を中心とした『悪食旅団』。彼らは特別な修行を積む事で、呪いや霊障を祓う聖気を身に着け、精神汚染に対抗するべく心を鍛えた。更には少量を服毒し続ける事で身体を慣らし、遂には多少の毒をものともしない身体を手に入れるにまで至ったという。


「つまりは、人の可能性というものを追求したのだな。そこまで完成させるために、相当な苦労があっただろう」


 人の可能性を追い求め、遂には不死の魔獣を討伐出来るまでに至る。それは正に王道といえるだろう。ミラもまた、『悪食旅団』などという名からは想像出来ない、その物語に感心した。

 かつてミラが暮らしていた現実世界と、この世界での人の限界は大きく違う。現実では百メートルを九秒台で走れればチャンピオンクラスであったが、こちらの世界では、それを二秒、三秒で駆け抜けてしまう者がそれなりにいるというほどに。

 また、そうした身体面以外にも、この世界では魔法といった要素が加わる。最早、人の可能性は無限大といっても過言ではないだろう。それをその身で経験しているミラは、何よりもその可能性を信じており、また、だからこそ慢心は出来ないと考えていた。


「努力の賜物という事じゃな。……しかし、それだけではないのじゃろう?」


 人の限界は高い。しかし限界が高くなったのは、何も人だけではない。特に魔法的要素ともなれば、不死系統の魔獣は、そもそも基礎値が人とは大きく違っている。どれだけ努力をしたとしても、全ての不死の魔獣に対応出来るかといえば、それはまず不可能であるのだ。

 かつての数えきれないほどの経験をもとに、そうミラが問うたところ、所長は満足そうに頷き答えた。


「その通りだ。それだけで太刀打ち出来るほど、魔獣は甘くない」


 そう続けた所長は、『悪食旅団』が持つ、別の要素について話し始めた。

 彼らは、相手ごとに特化した装備を用意していた。しかも補助系の術をふんだんに、また適切な場面で活用する事で連携を行い、それらを相乗的に高めたのだ。少しでもタイミングがずれたならば、効果を最大限に発揮出来ないだろう。しかし彼らは、実戦でそれをやってのける。つまり、それだけの信頼で結ばれているという事だ。

 徹底的に鍛えた身体と、状況に適した装備、そしてその全てを強化する術と、それを活かす連携。この四つの柱によって、『悪食旅団』は不死系統の魔獣がばら撒くリスクの欠片を全て払いのける事に成功したわけである。


「きっと、どれか一つでも欠けていたなら、それを成す事は出来なかったであろうな」


 そう締め括った所長は、最後に「王道過ぎるからこそ、彼らを誰も真似出来ないようだ」と口にした。その時の所長の目は、どこか憧れにも似た色が秘められたものだった。


「友情、努力、勝利じゃな。これは、なかなかの猛者共じゃのぅ」


 確かに王道だと納得するミラ。と、その裏では精霊王とマーテルが盛り上がっていた。知恵を巡らせ工夫を凝らし、格上の相手にも毅然と立ち向かう。今も昔も、人のそういうところは変わっていない。フォーセシアと彼女の仲間達もまた、試行錯誤して様々な魔獣に挑み、これを討伐したものだと、感慨深げだ。


(はて……何じゃろうか。この後ろめたい気持ちは……)


 悩み苦しみながらも、対抗手段を模索する。そうして強敵を乗り越えてきたという退治屋と、かつての英雄王フォーセシア達。魔獣退治と一言でいっても、そこにはきっと深いドラマが数多くあった事だろう。

 そんな魔獣退治についてミラが思った事といえば、報酬三倍はおいしい、ともう一つ、マリアナに妖精の加護を更新してもらえば楽勝だ、というものだった。

 ミラにとっては、苦労せずとも得られる完全耐性。更に今ならば、灰騎士を複数召喚するだけで、中級の魔獣すら直接手を下さずとも討伐出来るだろう。

 だが、それは正に、知恵と努力を武器に困難へと挑む者達をあざ笑うかのような所業と思えた。それに気付いたミラは、そっと心の中で魔獣退治の優先度を下げる。近くに退治屋がいたなら、手出しはしない事にしよう、と。


「まあ、それでも、そろそろ決着がついている頃だ」


 ミラが魔獣退治屋達の努力に敬意を払っていたところ、所長がさも当然だとばかりに、そんな事を口にした。

 強力な魔獣すら打倒してみせる強者ばかりが揃っているドーレス商会の屋敷。流石のファジーダイスも、かなりの苦戦を強いられるのではないか。そうミラが感じていたところで、この言葉だ。

 ユリウスからファジーダイス出現の連絡が来て、既に十三分を超えた。これまでの記録からすれば、とっくに決着がついていてもおかしくはない時間だ。

 ただ所長の話を聞いたからか、多少退治屋達に情が移った事もあり、ミラはもう少し善戦しているのではと返した。

 だが所長は、「難しいだろう」と答える。それは何よりも最前線でファジーダイスと相対した事のある所長が、その経験から導いた揺るぎない予想だった。


「確かに、彼らは素晴らしい腕前を持っている。イレギュラーへの対応や対処についても経験豊富だろう。しかし、あくまでもそれは対魔獣に特化したものなのだよ。どれだけ規格外とはいえ、ファジーダイスは、人である事を忘れてはいけない」


 つまり魔獣と人では、その思考が大いに違うという事。そしてファジーダイスは、それを巧みに突けるだけの技量があり、余裕もある。また、何よりも肝心な事は、これまで睡眠毒についてばかり語ってきたが、ファジーダイスを倒すなり捕まえるなりするには、その更に先にまで踏み込んでいく必要があると所長は言う。

 一番の問題は、睡眠毒だけでも多くの種類を操るファジーダイスの実力だ。むしろそれらの毒は一つ目の関門に過ぎず、そこを乗り越えた先に、本当の闘いが待っているわけだ。

 そう語った所長は、だからこそ挑み甲斐があると笑い、だからこそ先が見えないと苦笑した。




 ユリウスより最初の報告がきてから二十分が経過した時。遂に二報目が届く。


「予定通り、ファジーダイスが仕事を終わらせたようだが、彼らは相当に善戦したようだね。驚きの新記録だ」


 今までは、遅くとも十五分で現場での仕事を終わらせていたファジーダイスだったが、今回は五分も遅かった。とはいえ、上級の退治屋を相手にして二十分で怪盗の仕事を終わらせるという事が、そもそも尋常ではないのだが、最早そのあたりの感覚は霞んでしまっているようだ。


「流石のファジーダイスでも、やはり戦いにくい相手だったのじゃろうな」


 これまで直接的な攻撃はせず、戦った相手に傷を負わせる事なく、全てを無力化していたファジーダイス。今回も、これを守っていたとなると、魔獣退治屋達は、相当に厄介であっただろう。そう考えたミラが、ぽつりとそれを口にしたところ、もう一度ユリウスからの報告が入った。


「やはり今回も、負傷者はいないようだ。そして……ふむ……これは……」


 所長が確認していると、その間にも報告が入り、それが何度か続いた。その全てに目を通した所長は、どうにも今回はいつもと違うようだと眉根を寄せる。

 何でもユリウスの報告によると、ドーレス商会の屋敷の地下。ファジーダイスが破ったと思われる扉の奥で、身元不明の子供が複数人見つかったという事だった。


「子供、じゃと? 身元不明というと、その屋敷の子ではないわけじゃな」


 ミラがそう口にすると、所長は「そういう事になる」と答え表情を顰める。そして「やはり、これが狙いなのか……?」と小さく呟いた。


「狙い? 所長殿は、何か心当たりでもあるのじゃろうか?」


 屋敷の地下にいた、身元不明の子供達。それと何かの事件を結び付けたような所長の言葉に興味を持ったミラは、そう問いかけた。

 すると所長は、「おや、気になってしまったかな?」と、語りたがりの極みともいえるほどの笑みを浮かべ、それを口にした。

 曰く、ファジーダイスが現れる場所には、いつも子供の人身売買を行う闇の組織の気配がすると。


「まあ、私の気のせいかもしれないけれどね」


 最後にそう付け加えた所長は、そこで懐中時計を確認し、「おっと、まずは急いで配置につこうか」と続けた。




 所長が車椅子を見事に操り術士組合へと走っていった後、ミラ達もまた店主に声をかけてから店の三階に上がる。そこでファジーダイスファンの証ともいえるマスクを着けると、ベランダに出て辺りの様子を窺った。


「しかしまた、とんでもない賑わいようじゃな」


 下方に見える大通りは、多くのファンで埋め尽くされており、その様子は正にカーニバルとでもいった様相を呈していた。


「話には聞いていたけど、ここまでとは驚きました。上手く溶け込めるでしょうか」


 ニナもまた、大いに盛り上がるファン達を眺めつつ、どこか心配そうに笑う。彼女達の役割はファンに扮して、ベランダからファジーダイスを狙うミラを目立たなくする事だ。

 しかしながら、そのファン達のはしゃぎぶりといったら相当なものである。しかも、まだファジーダイスが遠くにいるにもかかわらずだ。いざ、本人が現れた時、いったい彼女達の感情は、どれほど爆発するだろうか。

 ニナは、演技でそれについていけるか不安になってきたようだ。ミナとナナもまた同じような事を思っているのだろう、じっくりとファン達を観察していた。


(おっと。もう一つの保険もかけておくとしようか)


 所長の話を聞いていた際、ある保険を思い付いていたミラは、少し後ろに引っ込むとアイテムボックスを開いた。


『確か……これで良かったじゃろうか?』


 ミラが遠く離れた相手にそう訊くと、その相手から答えが返ってくる。『ええ、それでばっちりよ』と。

 それはマーテルの声だ。ミラがアイテムボックスから取り出したものは、以前マーテルから貰った沢山の果実の内、特別に作られた中の一つだった。

 淡く透き通るような紫色の実は、そこらの食べ物とは違い、非常に優れた食事効果を得られる究極のドーピング剤である。

 怪盗ファジーダイスとやり合う事になる場合を想定して、ミラはその実を食べた。マーテル特製の果実は、腹がババロアで随分といっぱいになっていながらも負担を感じないほど、すんなりと食べられてしまうほどに美味であった。


(やはり格別じゃのぅ!)


 今回ミラが食べた果実は、マーテルいわく、能力値の他、魔法類に対するレジスト率を飛躍的に高めるという効果があるとの事だ。状態異常をばらまくファジーダイス相手には、かなり相性の良いドーピングであるといえるだろう。ただ、その分、能力値の上昇量は他の果実に比べ控え目だ。

 なお、マーテル特製のドーピング果実は、複数食べると腹を下すという欠点があるため注意が必要らしい。



 諸々の準備を完了したミラは、『ロックオンM弐型』を手にしたまま、ニナ達の隣で待機していた。そしてニナ達はといえば、随分と慣れてきた、というより気分がのってきたようだ。そこらのファンと遜色ない様子で盛り上がっていた。


(これで演技というのじゃから、演者というのは凄いのぅ)


 ミラは三人の様子を眺めながら、その見事ななりきり振りに心底感心した。ただそれと同時に、目立たぬように隠れているとはいえ、まったく盛り上がっていない自分が、相当に目立っているような感覚に陥る。しかしながら演技の心得などないミラは、中途半端に真似したところで、余計に悪目立ちしてしまいそうだと考えた。

 その結果、ミラは予定通りに出来るだけ目立たぬようにするため、ニナとミナの隙間に姿勢を低くして、そっと潜り込んだ。その様子はまるで、祭り時を狙う痴漢といった様相だったが、今の少女という容姿のお陰で、一見した限りでは引っ込み思案な女の子程度で済んでいる。


(ああ、なんじゃろう。良い匂いがするのぅ)


 だが、中身の方はといえば、もうどうしようもなかった。

 ミラが二人の隙間に入り込んだ後、ニナが白いマントを広げて、そんなミラの身体を覆う。それにより、小さなミラの身体はすっぽりと隠れ、随分と目立たなくなった。


「ふむ、良く見える良く見える」


 年頃の女性二人に挟まれて、しかも密着して上機嫌なミラだが、ここにいる役割も忘れてはいない。ターゲットが現れ、侵入を図ると予想される術士組合のベランダ。そこにしっかりと狙いをつけて、その時が来るのを冷静に待つ。その姿たるや、まるでスナイパーの如くだ。

 と、そうして準備が整った直後の事。これまでも賑やかだった大通りから、今日一番の歓声が上がる。そう、遂に怪盗ファジーダイスがやって来たのだ。

 その盛り上がりようは尋常ではなく、歓声と悲鳴が入り交じって夜空に響き渡り、もはや大声合戦とでもいった状態だった。


「あ、来た来た! ファジーダイス様ー!」


「私も盗んでー!」


「ファジー〇×△◇〇△△×□ー!」


 瞬間、ミラの直ぐ傍からも、そんな声援が上がった。ニナ達だ。一気に爆発したファン達を素早く確認して、即座にその様子を真似たようである。歓声の中に最も多い言葉、ところどころで上がっている熱っぽい声、そして何を叫んでいるのか聞き取れない声。彼女達の叫びは見事にそれらと調和して、どこからどう見ても、そこらへんのファン達と同じにみえた。

 大通りの向こう側から、まるで波のように迫ってくる歓声。怪盗ファジーダイスは、そんな歓声の波に乗るかのように屋根の上を疾走して来る。

 その姿を目にして、最高潮に盛り上がるファジーダイスファン。一見すると目立つ位置にいるミラ達だが、そんなファン達を模倣するニナ達によって、それらの一部に溶け込む事が出来ていた。


「カードの絵柄のまんまじゃな」


 ニナのマントの隙間から顔を覗かせたミラは、ファジーダイスの姿を確認して、そう呟く。レジェンドオブアステリアというカードゲームの絵柄になっていた怪盗ファジーダイス。その絵柄と実物は、完全にそのままの姿であったため、万が一にも人違いという事はなさそうだ。

 ファン達の歓声に迎えられるようにして、術士組合の屋根に降り立つファジーダイス。ミラは素早く『ロックオンM弐型』のスコープを覗き込み、その姿を捉えた。


(やはり、顔を窺うチャンスはなさそうじゃのぅ)


 顔が見えたなら調べる(・・・)事が可能だ。名前さえわかれば、このまま逃したとしてもどうにかなる。また、元プレイヤーだとしたら、むしろ同郷という事で話し合いに応じてくれるかもしれない。だが、きっちりと嵌められた仮面に隙はなく、ちょっとやそっとでは落ちそうになかった。

 ファジーダイスは周囲を警戒しつつ、組合内に侵入するべく動く。ミラは息を潜めながら、その動きが止まるのを待った。

 この術具は、連射する事が出来ない。一度使うと、十秒のチャージが必要となるのだ。ゆえに、一発で決める必要がある。

 最大の好機は、所長との話し合いによって決まっている。それは、ファジーダイスがベランダの扉を開ける直前。所長がいうには、時間を稼ぐために何かを仕掛けておいたそうだ。

 何でも、それを前にしたファジーダイスは、必ず屈むという。


(そろそろじゃな……)


 屋根からベランダに下りたファジーダイスは、ファン達の声援に応えるようにして手を振りながら、いよいよその扉の前に立った。ここまで来たら、後は扉を開けて組合の中に入るだけだ。

 さて、どうなるのか。照準を定めたままミラが見守っていると、ファジーダイスが扉の前で屈み込んだではないか。


(今じゃ!)


 何を仕掛けたのかはわからないが、所長の予言通りになった今の好機を逃してはいけない。ミラは、ここぞとばかりにトリガーを引いた。

 音もなく光もなく、静かに『ロックオンM弐型』が起動する。そして見事、照準に捉えたファジーダイスのマナを記録する事に成功した。


「よし、ばっちりじゃ」


 表示をみると、追跡用のカーソルが確かにファジーダイスを指し示している。見事に作戦成功であった。

 何だかんだで緊張していたミラは一安心しながら、ニナ達に上手くいった事を伝える。するとニナ達も久しぶりの演技という事で緊張していたらしく、「ああ、良かったー……」と安堵のため息をもらした。

 そうしてミラ達の作戦が静かに完了した後、立ち上がったファジーダイスの手には、猫が抱かれていた。どうやら所長が仕掛けたというのは、あの猫のようだ。術士組合のベランダにある扉は外開き。つまり、扉の前に猫がいては開けられない、という罠である。

 猫が途中で動いてしまったら、どうするつもりだったのだろうか。内容を知った今、どことなく不安要素のある所長の策に苦笑しながらも、結果上手くいったのだから、まあいいかと笑って、ミラは組合の中に入っていくファジーダイスを見送った。






という事でして、節分でしたね。

豆は撒きませんでしたが、なんと今年は、前々から気になっていた恵方巻を買っちゃいました!

毎年スーパーに並び気になっていたものの、なかなか手の出せなかった恵方巻ですが、今年は頑張りました。


買ったのは

ロースとんかつ恵方巻です。

最高に美味しかったです。

また来年も食べられるように頑張っていきたいと思います!

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ねこ~
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