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247 圧倒的

二百四十七




「十、九、八、七──!」


 それは、所長の話が終わって直ぐの時だった。ふと、大通りの方から、そんな声が響いてくる。


「ぬ? ……ああ、もうこんな時間じゃったか」


 まるで年末のそれのような声に何事かと反応したミラだったが、即座にその意味を察して現在時刻を確認した。

 今は、午後六時の数秒前。そう、大通りから響いてきたそれは、怪盗ファジーダイスの予告時間までを数えるカウントダウンだったのだ。

「ゼロー!」という言葉と共に、大通りはこれまで以上のお祭り騒ぎとなる。


「何だか凄い盛り上がり様ね」


 店内にありながらも、大通りからはファジーダイスファンの熱気が、これでもかと伝わってくる。ニナは立ち上がると窓から少しだけ顔を覗かせて、その様子を確認し、途端に苦笑を浮かべた。

 所長の話からして、そこに集まっているファンは、皆が上級者。だからだろうか、その盛り上がり方には、どこか一貫性があった。羽目を外しているように見えて、それは何かの約束事のように連携のとれた声援が繰り返し響く。


「これは、かなり気合を入れないとだね」


「ここまで弾けるのかぁ。予想以上だなぁ」


 ニナ達の仕事は、ファジーダイスに熱狂するファン達の演技だ。更にいうならば、その道にどっぷり浸かっている上級者の真似をする事である。ニナに続き外を見たミナとナナは、話に聞いていた以上の盛り上がり方を前にして、これを演技するのかと表情を引きつらせた。

と、ニナ達がそう言いながらも、ファジーダイスファン達の挙動の観察を始めたところで、何やら鈴のような音が鳴り始める。それは所長が持つ通信用の術具から発せられた音だった。


「どうやら、現れたようだね」


 術具を手に取った所長は、そこに並ぶ文字を確認して、そう呟く。ドーレス商会で待機していたユリウスからの連絡だ。予告通り、標的の屋敷に怪盗ファジーダイスが現れたとの事である。


「さて、今回は何分で終わるか」


 所長は懐中時計と手帳を取り出すと、そう呟く。その言葉の意味は、ファジーダイスが何分でドーレス商会を制圧するか、といったものだ。既に所長の中では、ファジーダイスの勝利が確定していた。そもそも今回の作戦は、それが前提で成り立っている事から、所長もまたある意味でファジーダイスを信頼しているようだ。


「いつもは、大体何分くらいなのじゃろう?」


 ミラもまた、ファジーダイスについては話で聞いただけだが、その勝利を疑ってはいなかった。代わりに、これまでの記録の方が気になったようで、最後のババロアを食べ終わったその口で、所長に問う。


「いつも、か。ふーむ、平均にすると大体十分といったところだね。長くても十五分以上かかった事はない」


 所長は手帳に目を走らせながら、そう答えた。どうやら所長が手にする手帳には、そういった記録が書き込まれているようだ。


(十五分か……。案外、時間がかかっておるような)


 ミラは、ちらりと見たドーレス商会の警備網を思い出し、そんな事を考えた。随分と武装してはいたが、ファジーダイスの睡眠に抵抗出来そうな者は見た限り、存在しなかった。また、道具や薬を使って睡眠を免れたとしても、ファジーダイスならば第二第三の手段を用意しているだろう。

 だとしたら結局のところ、一瞬で決着がついてしまうのではとさえミラは予想していた。ドーレス商会の警備ならば、正面からやりあっても五分とかからず全滅させる事が出来る。それならば、睡眠を使えばもっと早く済むはずだと。

 多少、自分基準で考えているミラ。そんなミラの様子を窺っていた所長は、あからさまに口端を吊り上げて不敵に微笑んだ。


「ちなみに、だ。これはかの怪盗が、現場での仕事を終えるまでの時間となる。眠らせるだけならば、もっと早く済むだろうね」


 いつもの手口で眠らせて終わるのなら、もっと早いのでは。その考えに至った理由までは読み切れなかっただろうが、所長は概ねそんなミラの疑問を察知したようだ。じっくりと間をおいてからそう続けると、ここぞとばかりに詳細な情報を口にした。

 長くても十五分という意味は、ファジーダイスが警備を全て無力化するための時間だけではない。更に関係者の捕縛に加え、全ての証拠と溜め込んだ財産を盗み出すまでにかかる時間であるのだと。

 むしろ警備の相手や関係者の捕縛は、いつも三分とはかからず、ほとんどの時間が金庫破りと証拠品の隠し場所の発見に費やされている、との事であった。


「なるほどのぅ、そういう意味じゃったか」


 所長の記録によると、人の相手をするのは三分以下だそうだ。どれだけ警備が厳重で数が多くても、範囲に睡眠毒をばら撒けるのなら、その早さも納得である。

 また、所長が嬉々として追加した情報によれば、警備側の方も色々な対策をした結果が、これであるという。

 ファジーダイスが睡眠毒を使ってくる事は、既に周知の事実として関係者は把握している。ゆえに、薬や術具、耐性上昇の付術(エンチャント)装備などで対策を施す。しかしファジーダイスは、それらの存在を知っているかのように、いつも完璧に対応してくるそうだ。

 ディノワール商会印の完全睡眠抵抗薬を服用した時は、いつの間にか中身が睡眠薬にすり替えられており、始まる前から勝負が決したという。また、多少抵抗力を上げた程度ではファジーダイスの術に逆らえず、目が覚めるのが早くなる程度だったと所長は笑う。

 術具は随分と色々なものを試したらしい。だがどれも、大した成果はなかったという。

 しかし付術装備は、そこそこの効果があったそうだ。


「けれど……その時は酷いものだった」


 当時を思い出したのか、所長は苦笑しつつ肩を竦めてみせると、その時の出来事を簡潔に語った。

 いわく、老若男女問わず、その場にいた全員が丸裸にされてしまった、と。

 付術装備の効果によって見事ファジーダイスの睡眠毒に打ち勝ったと思いきや、次の瞬間に、それらの装備が朽ち始めたというのだ。


「布や金属などを風化させる魔法を使う霊獣がいると聞いた事がある。それが降魔術にあるのかは知らないが、きっと、あの時の霧には睡眠毒だけでなく、そういった術か何かも混ざっていたのだろうな」


 その結果、身ぐるみを剥がされた警備一同は素っ裸のまま眠らされ、これまでのファジーダイス戦において最大級の混沌とした現場になったと、所長は遠い目をして締め括った。


「それはまた、えげつないのぅ……」


 きっと、現場には今のようにファジーダイスのファン達も集まっていた事だろう。そんな彼女達の前で裸に剥かれ昏睡させられる警備兵達。誰一人、傷を負わせず事を収めるには、それが迅速かつ確実だったのであろうが、なかなかに罪深い所業だと、その当時にあったであろう光景を想像しつつ、ミラはその者達に同情した。


「そういった色々な事が現場では起こるのだが、さて、今回はどうなるか少し楽しみでもあるな」


 改めるようにそう言った所長は、どこか思わせぶりな表情で、ちらりとミラを窺う。

 何かと語る材料を得るため、いちいち遠回しな言い方をする所長だが、探偵とはそのような人種であると理解したミラは、もう特に気にする事もなく、その期待に応える事にする。


「楽しみというと、ドーレス商会とやらは、何か特別な対抗策でも用意しているという事じゃろうか?」


 意味深な言葉にミラが訊き返すと、所長はふと笑みを深くして「その通りだ」と答え、ドーレス商会が用意したとっておきについて話し始めた。

 所長が言うにドーレス商会は、ファジーダイスに対抗するため、相当に優秀な傭兵を集めたそうだ。

 かなりの報酬を用意してドーレス商会が雇い入れた傭兵は三グループ。一つは『レラファントム』。もう一つは『蛇杯騎士隊』。そして最後に『悪食旅団』。

 この者達は傭兵として随分と有名なようで、きっといつもとは違う展開が繰り広げられるのではないだろうかと、所長は期待を覗かせる。


「ファジーダイス相手に、彼らがどこまで善戦出来るか。ユリウス君の報告が楽しみだよ」


 足がこんな状態でなければ、是非見学したかった。そんな事を口にしながらも所長は楽し気な様子で、「丁度対決も佳境に入ったところかな」と懐中時計に目をやって呟く。

 またニナ達も、所長が挙げた傭兵グループについて知っているようで、感心したような面持ちだ。更にニナは、「確か、ファジーダイスは降魔術士かもしれないんでしたっけ」という言葉を口にしていた。


(はて……ファジーダイスが降魔術士である事と、その傭兵達に何か関係があるのじゃろうか?)


 もしかしたら、降魔術士、または術士に特別強い傭兵達なのだろうか。所長の口調とニナ達の反応からして相当に有名な傭兵のようだが、ミラはその点がさっぱりであり、どうにも要領を得ないもどかしさに、じっと所長を睨む。こういう時こそ、いちいち語るべきだろうと。

 そうしてミラが睨み続ける事少々。その視線に気付いた所長は、何やら睨まれているその様子に、はてと戸惑った後、その意味を察したのだろう、にやりと微笑んだ。


「もしやミラ殿は、彼らについて聞いた事はないのかな?」


 確信めいた表情で、そう問うてきた所長。ミラは、その余裕すら浮かんだ笑みに思わず否と言いそうになるも、ぐっと抑えてそれを肯定した。すると所長は満足げに頷いて、ミラが気になっていた情報を詳細に語ってくれた。

 ドーレス商会が雇った三グループの傭兵と、降魔術士であろうファジーダイスの関連性。それはひとえに、この傭兵が何を専門としているのかに集約されていた。


「ローグクラスが中心の『レラファントム』。騎士や剣士がメインの『蛇杯騎士隊』。術士が主軸となる『悪食旅団』。拠点や構成メンバー、戦闘方針と何もかもがバラバラだが、この三グループには一つだけ共通点がある」


 やはりというべきか、説明する時はとことんまで詳しく説明するようだ。所長は、実に回りくどくそう前置きすると、いよいよその肝となる共通点とやらを口にした。「それは彼らが皆、魔獣討伐を専門としている事だ」と。


「ほぅ……あの者共は警備や警護ではなく、魔獣退治が本来の生業じゃったのか」


 前日にドーレス商会の屋敷を覗いてみた時、巨体の怪物とやり合えそうなほど大きな剣を持った者がいた。その事を思い出したミラは、だからこそ彼らはあのような武器を持っており、だからこそ所長は、彼らがファジーダイスの相手としてどこまでやれるか気になっていたのだなと納得する。


「魔獣退治屋と、魔獣の力を操る降魔術士。いったいどんな状況になっているのだろうね」


 所長は、やっぱり観戦したかったと再び嘆き、ため息を零した。

 降魔術とは、魔物や魔獣、霊獣に聖獣などが使う魔法を習得して行使するものだ。その中でも特に多いのは魔獣から習得出来る術であり、ミラが記憶している限りでも、その六割方は魔獣の魔法が基礎となっていた。

 ゲーム時代。多くの者が降魔術士と戦った後に、似たような言葉を口にしている。

 まるで、複数の魔獣を同時に相手しているようだった、と。

 どうやら、その感覚は今でも変わっていないようだ。だからこそドーレス商会はファジーダイス対策として、魔獣退治の専門家を招集したのだろう。降魔術に対抗するために。

 正式にはファジーダイスが降魔術士だと決まってはいない。だがドーレス商会がそのように考慮し準備していた事から、所長がその身で実験した結果は関係者達の間で有名だったようだ。


「しかしじゃな、ファジーダイスが操るのは魔獣のものだけではないじゃろうに。その点は大丈夫かのぅ」


 ミラはふと思った。きっと傭兵達は魔獣退治を専門とする点からして、魔獣が扱う魔法を基にした降魔術への対策は完璧なのだろう。しかし、ファジーダイスが頻繁に使う睡眠の術には、聖獣アクタルキアの魔法を基礎としているものもあった。

 聖獣や霊獣というのは、その大半が三神国の法によって守られている。アクタルキアもまたその例外ではない。ゆえに傭兵達も戦った事はなく、また術の習得を望む降魔術士でなければ戦う必要もないため、対処法を把握していないはずだ。

 アクタルキアから習得出来る《楽園の白霧》をファジーダイスが使ったらそれまでであると、ミラは考えた。それと同時に、ニナ達もその可能性に気付いたようで、興味深げに所長を窺う。

 答えを求めるミラ達。四人の女性の視線を集めた所長は、またももったいぶるような表情を浮かべ、「そうとは限らないのだよ」と口にした。


「魔獣退治と言っても、その方法となると千差万別だ」


 そう前置きした所長は、今回、ドーレス商会側として参加した、三つの傭兵グループについて話し始めた。




 ところ変わって、ドーレス商会長の屋敷前。中央に背の高い石像が立つ大きな庭では今、時間通りに現れたファジーダイスと、傭兵達の激しい戦いが繰り広げられていた。


「これはこれは、見事な伏兵ですね。驚きましたよ」


 奇抜なデザインのマスクを着けた男、ファジーダイスは、陰から忍び寄ってきた男の一撃をひらりとかわし、うっすらと笑う。


「背中に何個目玉が付いていりゃ、今のを見切れるんだよ……」


 対して男、『レラファントム』のリーダーは、表情を歪めてファジーダイスを睨む。確実に捉えたはずが、掠りもしなかったからだ。 

 ローグクラスを中心に編成された、『レラファントム』。このグループの戦い方は、そのクラスの特性を最も活かしたステルス戦だった。

 彼らは様々な罠の他、実に多種多様な毒物に精通している。そしてそれらの知識と技術を大いに活用し、時間をかけて確実に魔獣を弱らせて討ち取るという戦法を使うのだ。


「貴方もなかなかですよ。この中で意識を保てているのですから」


 そっと両手を広げながら、ファジーダイスはふわりと傍の石像の上に立つ。

 この中、つまり屋敷の庭は、既にファジーダイスがまき散らした睡眠毒で満たされていた。しかし、そんな場所にあり、不意打ちまで決行したリーダーは、その毒に抗えているという事だ。


「よく言うぜ……。わざと俺だけ、遅効系の毒にしたんだろうがよ」


 彼ら『レラファントム』は、毒物の扱いに長けているという特徴があった。メンバーは全員がポイズンマスターであり、だからこそ解毒という面においても、彼らに隙は無い。症状一つで、その種類と生毒か魔毒かを見極め、即座に解毒出来る判断力があるからだ。

 毒について知り尽くしているからこそ対処が出来る。それが今回、彼らがここに呼ばれた理由の一つだ。ただ、難点があるとしたら、全員まとめて一瞬で眠らされたら、どうにもならないという事だ。


「さて、何の事でしょう」


 あからさまな声色で、そう答えたファジーダイス。『レラファントム』の者達は既に眠らされ、そこらに転がっていた。唯一立っているリーダーは、睡眠毒の効果が出るまでに時間がかかったからこそ、自分で解毒する事が出来たのだ。ただ、それは明らかに、ファジーダイスが毒を調整したからだとわかる状況でもあった。


「何のつもりだ……」


 仲間を解毒したくとも、ファジーダイスが睨む中、それが出来るはずもない。リーダーはその目に警戒を浮かべながら問う。わざわざ、自分だけを残した理由は何かと。


「いえ、ただ後ほど足元の掃除を手伝ってほしいと、そう伝えたかっただけです」


 ファジーダイスは、ふと優し気な声色で、そう答えた。そこに悪意のようなものはなく、ただただ手伝って欲しいという感情だけが声に浮かぶ。


「どういう意味だ」


「それはきっと、目覚めた後にわかるはずです」


 どうにも要領を得ない言葉にリーダーが訊き返すも、ファジーダイスはそう短く答え右手をゆっくりと広げる。すると途端にリーダーは膝をつき、そのまま地に伏せ、寝息を立て始めた。

 それは余りにも、鮮やかな勝利であった。



「そんなバカな……。もう彼らが敗れたというのか」


 外の異変に気付いたのだろう、屋敷内を警備していた傭兵、『蛇杯騎士隊』が庭に飛び出してきた。そして、そこに広がる惨状を前に驚愕する。

 ほとんどが騎士と剣士で構成されたグループである彼らもまた、そこらの魔獣退治屋とは違った特徴を備えていた。

 彼ら『蛇杯騎士隊』は、『レラファントム』の真逆に位置する存在であり、また、だからこそ『レラファントム』の実力を認めていた。

 それが、予告時間になって、一分ほどで全滅だ。騎士隊の全員に緊張が走る。


「この中でも、動けるとは、流石蛇杯の方々ですね」


 ファジーダイスは、石像の上からそう声をかけた。庭は今でもまだ、睡眠毒が漂っている状態だ。けれど騎士隊の者達は、その中にありながら眠る事もなく、警戒をファジーダイスに向けている。

 毒を得意とする『レラファントム』と正反対の関係にある彼らは、全員が薬学のスペシャリストであった。

 この騎士隊の隊長は、とある大国に従軍していた経験のある退役軍人であり、当時は衛生兵だった。その経験から、医療技術の他、特に薬学についての造詣が深い。『蛇杯騎士隊』とは、そんな彼が退役後に立ち上げた傭兵団で、それらの知識を叩き込んだ結果、いつの間にかメンバーが皆、薬学のスペシャリストになっていたという経歴を持つ。


「お前の使う睡眠毒については、だいたい察しがついているからな。予め、準備させてもらったさ」


 毒に対し、予め準備する事が出来る。それが『蛇杯騎士隊』の大きな特徴だった。

 彼らもまた、症状から使われた毒の種類を判断する事が可能だが、かの隊が特別に調合した薬には、一時的にだが免疫を大幅に強化する効果が含まれていた。よってその薬を用いて睡眠毒を治療した場合、二十四時間は同じ毒が効かなくなるわけだ。

 予めファジーダイスが使ってきそうな睡眠毒を服毒する。それが、騎士隊の作戦だった。

 昼頃にでも服毒した後に治療しておけば今日一日は、同種の降魔術の毒を無効化出来る。となれば後は、ファジーダイスがどれだけの術を習得しているかがカギだ。

 ただ、服毒しておくという対処法は一見すると万能そうだが、その分制約も多い。無効化するための毒を用意するというのも、なかなかに難しいものだからだ。

 今回は彼らにとって、ファジーダイスに全員が眠らされるのが先か、全ての術を無効に出来るようになるのが先かの勝負となるわけだ。


「では、これなら、どうですか」


 ファジーダイスが、左手をひらめかせた。すると途端に、庭にいた騎士隊全員の身体がぐらりと傾き、そのまま地に伏せてしまった。

 そう、ファジーダイスは騎士隊が予防出来ていなかった睡眠毒を、改めて散布したのだ。

 しかし次の瞬間である。複数の球体が、突如として屋敷の方から飛来してきた。

 素早く飛び退くファジーダイス。しかしそれは彼を狙ったものではなかった。地面に落ちると砕け散り、緑の煙が広がっていく。

 すると少しした後、その煙の中から騎士達が次々と起き上がったではないか。

 どうやら今のもまた、騎士隊特製の解毒薬だったらしい。どうやら屋敷の中に解毒担当が潜んでいたようだ。


「さあ、仕切り直しだ」


 立ち上がるや否や、隊長は退役するほどの歳でありながらも一気に距離を詰めて、剣を走らせる。そこらの冒険者では目で追う事すらも出来ないほどの鋭く速い一撃だ。けれどファジーダイスの前に、それはピタリと止まってしまう。


「くっ……これは……!?」


 見ると隊長の剣は、無数に束ねられた蜘蛛糸に絡まってしまっていた。そして、押すも引くも出来ない状態となる。

 けれど、経験の成せる業か。隊長はすかさず《闘術》を繰り出し、蜘蛛糸を振り払うと、次々に折り重なってくる糸をものともせず、斬り捨てていく。


「おっと、やはり強い」


 時に足に絡めて動きを止め、また足場にするなどと蜘蛛糸を巧みに操り、隊長の猛攻を躱すファジーダイス。

 そして、その間にも隊員達が、その包囲を完成させていく。


「さあ、もう後がないぞ」


 途中、幾度か眠らされながらも、その都度解毒し復活した隊長は、油断なく構えながら、じりじりと距離をつめていく。

 ファジーダイスはといえば、またも石像の上に立ち、周囲を囲む騎士達を見回していた。


「そうですね。完璧な状態です」


 にやりと微笑んだファジーダイスは、その手を頭上に掲げた。思わせぶりな言葉と行動に、警戒しその手を睨む騎士達。すると、その瞬間に閃光が奔った。

 それは、ファジーダイスの手から放たれ一瞬の内に消える。

 ただ、その効果は絶大であった。周囲を取り囲んでいた騎士達が、一斉に眠ってしまっていたのだ。

 直後、またも解毒薬が飛んでくる。しかし、今度は誰も起き上がる事はなかった。

 そう、それは睡眠毒ではなく、光を介した催眠であったからだ。


「あと数人と、一グループか」


 ぽつり呟いたファジーダイスは、そのまま屋敷の中に突入していく。そして入り口の近くで小さな悲鳴が二つ響いたが、それは直ぐに収まった。







いよいよ発売になりましたね。モンハンワールド。

色々考えた末、メインはスラッシュアックスに落ち着きました。

しかし、やっているうちに、あれもこれもと使いたくなる今日この頃です。


救難信号っていいですね。基本ボッチな自分でも、マルチがやりやすいです。

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怪獣退治の専門家♪
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