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二百三十八
途中、何だかんだと寄り道を挟み、男爵ホテルについたのは夜八時の少し前であった。
「とりあえず、二泊で頼む」
ミラは男爵ホテルの受付にそう告げる。
現状、男爵ホテルには、ユリウスの名刺を利用してワゴンを置いてあるだけで、宿泊するかどうかについては別だった。だが用事も済んで落ち着き、中を眺めてみると、これまた楽しそうな宿だとわかる。とことんまで、貴族のような体験が出来る事を売りにしているようなのだ。
結果ミラは、そのままここに宿泊を決め、チェックインを済ませた。
それから執事風の衣装を着た従業員に案内されて、部屋に通される。その部屋は流石貴族風というだけあり、調度品から小物にいたるまで素晴らしい見栄えであった。ただし、あくまでも貴族風であり、貴金属類は全てがイミテーションだ。
しかしながら室内を一通り確認してみたところ、ソファーやベッドといったものは中々に上質なものを置いているようだった。
「さて。まずは、ひとっぷろじゃな」
テーブルの上にあった、男爵ホテルの利用説明書。落ち着いたところで、それに目を通した後、ミラは部屋を出ると、そのまま大浴場に向かった。
何でも、貴族のようなひと時が体験出来るというコンセプトの『男爵ホテル』では、有料でメイドや執事に一日中世話をしてもらえるというサービスがあるそうだ。
専属のメイドに付きっきりでお世話される。男ならば誰もが夢見る待遇だろう。しかしながらミラは、そのサービスを利用しなかった。そういった類は、アルカイト城の侍女達で間に合っているからだ。
ただ、有料メイドや執事はホテルの案内役という側面も持つため、自由気ままに男爵ホテルの廊下を進んでいたミラは、現在多少の迷子となっていた。ホテル内は雰囲気を重視した造りのため、案内板といったものがないからだ。
そのためミラは大浴場を探して、ホテルをうろつく事になる。その途中、何度か他の宿泊客とすれ違い、かなりの人数がメイド執事サービスを利用している事がわかった。なお、大体の男性客はメイドで、女性客は執事だ。
と、そうして彷徨っていたところでミラは知り合いを見つける。そう、同じくここに宿泊している所長だ。そして、所長の座る安楽椅子を押すのは、ユリウスではなくメイドだった。どうやら彼も、大いにサービスを利用しているようだ。
湯上りなのだろうか、バスローブ姿の妻子持ちな所長は、とても楽しそうな顔でメイドと会話をしていた。
(随分と満喫しておるようじゃな……)
はてさて、お風呂でのサービスというのもあるのだろうか。そんな野暮な事を考えながら所長を遠くから見送った後、ミラはそのまま彼が来た方へ向かって歩き出す。風呂上りだとしたら、きっとその方向に大浴場がある。そう信じて。
予想は当たり、ミラは大浴場に辿り着けた。堂々と女性用の入り口を抜けると、そこはシャンデリアが輝く更衣室だ。
(やはり執事は、いなさそうじゃな)
あらゆるお世話をする有料サービスとはいっても、流石に風呂までは付いてこないようだ。更衣室を見回して、女性客が全て一人でいる事を確認したミラは、まあそんなものだろうと、服を脱ぎ始める。
ただ、その途中でふと思う。一人だとしたら、所長は風呂に入るのも苦労するのではないだろうかと。
(……いや、まだユリウスが風呂に入っているのかもしれぬしな)
所長の入浴を手伝った後はメイドに任せ、ユリウスはゆっくりと風呂を満喫しているのだろう。ミラはそう信じて浴場の扉を開いた。
「思った以上にゴージャスじゃのぅ……」
浴室は、金銀きらめく全面大理石造りになっていた。床や壁、浴槽は全て大理石で、蛇口やシャワー、そしてシャンデリアも金色銀色に輝いている。また、魅惑の女体もそこここに見受けられた。何て贅沢な光景だろうか。
ミラは感心しながらも、本当の貴族に、このような浴場を持つ者など果たしているのだろうかと笑う。
なお、あくまでも男爵ホテルのコンセプトは、一般向けの貴族風である。つまり本物の貴族ではなく、本物の貴族を知らない一般の者が思い描く貴族像を形にしたのが、ここというわけだ。
やり過ぎくらいが丁度いいと、ミラはその贅沢なひと時を存分に満喫する事にした。
風呂から上がったミラは、簡素なワンピースを身に纏う。マリアナがカバンに用意してくれていた湯上り用のワンピースだ。
それから多少迷いつつも自室に戻ると、ベルを鳴らして呼んだ従業員に食事を注文した。夕食には少し遅い時間だが、何と男爵ホテルでは二十四時間対応だ。
そうして貴族風の食事を済ませたミラは、残りの時間をゆったりと過ごす。技能大全や研究書に目を通したり、ケット・シーで《意識同調》の練習をしたり、灰騎士のグレードアップについて考察したりと、大いに好きな事に取り組んだ。
そして午前零時。いよいよ眠気に逆らえなくなった頃、ミラはもぞりとベッドに潜り込み、たちまち寝息を立て始めるのだった。
男爵ホテルで迎えた朝は、実に快適なものだった。
朝の七時を少し過ぎた頃に目を覚ました後、ベッドからずるりと抜け出したミラは、のんびりと朝の支度を済ませた。それから眠気覚ましとばかりにコーヒー牛乳を飲み干すと、約束通り、八時に所長と待ち合わせの約束をしていた食堂に赴く。
所長達は、既に食堂にいた。そして簡単に朝の挨拶を済ませたところで、共に朝食を食べながら昨日の続きとなる話を始めた。
「昨日は、急に済まなかったね。どうしても外せない用事だったのだよ。それはもう、とても大切な、ね」
始めにそんな謝罪を口にした所長だったが、どうにもその視線で訴えかけてきていた。是非とも、どのような用事だったのか訊いてくれと。
「えっと、昨日は途中で何かを言いかけていましたよね。孤児院が、どうとか」
これでもかと主張する所長を、そっと押し退けたユリウスは、そう促すようにミラに目を向ける。そして、これは無視しても構いません、とばかりに目で語っていた。
「うむ。そうじゃったそうじゃった。実は以前にのぅ、グリムダート北東の森深くにあるという名も無い村に、戦災孤児を集めた孤児院があるという噂を小耳に挟んだのじゃが、所長殿が調べ回ったという中に、該当する場所はないじゃろうかと訊きたかったのじゃよ」
所長よりもユリウスの意思を尊重したミラは、早速昨日の続きとなる質問を口にした。
何といっても一番の目的は、ファジーダイスを捕まえるのではなく、アルテシアを見つける事。捜している孤児院の場所がわかれば、もはやファジーダイスなど関係ないのだ。
所長は多くの孤児院を見てきたという。ならば、その時に、所長はアルテシアに会っているかもしれない。たとえ会っていなくとも、何だかんだで凄腕っぽい探偵の所長なら、知っている事があるかもしれない。
そう所長に期待の目を向けるミラ。対して所長は、少し残念そうにしながらも、直ぐそれに応えようと考え込み始めた。しかし十数秒の後、「小さな集落は幾つかあった。だが、そのような場所で孤児院を見た事はなかったよ」と答えた。
どうやら所長が調査した中に、該当する場所はなかったようだ。
「むぅ、そうか。結局噂は噂だったという事じゃろうか……」
グリムダート北東の森。その深くに幾つかの集落があるらしい事はわかった。しかし、肝心の孤児院がなければ意味はない。今回は空振りだろうかと気落ちするミラ。だが、そんなミラに所長は優しく声をかける。「いや、そうとも限らないな」と。
「私が調べた孤児院は、全て公式に登録されているものだけだ。その噂の孤児院が、登録の申請を出さずに運営していた場合。そこは未調査となる。無いと断定するのは早いだろう」
「ほぅ……!」
所長のその言葉に、ミラは希望を取り戻す。
所長が言うに、もとより孤児院の登録申請云々というのは、必須ではないそうだ。ただ、申請し受理されていれば、いざという時、子供達の医療費が無料になるという。そのため大半の孤児院は、登録されているとの事だ。
「これを申請せずに運営されている孤児院というのも確かにある。そしてこれら未登録の孤児院というのは……、ろくでもないところが多い」
登録の利点は、この一つだけであるため、いざという時に対応出来る者が近くにいるならば、登録の手続きを省く事もあるらしい。だが、そのような人材を恒久的に確保する事は容易ではない。小さな村だというのなら尚更に。
子供のためを考えるならば登録が当たり前。登録に手間がかかるという点はあるものの、孤児院にとって一つも損はない。
そんな登録をあえてしない理由。所長は過去に、その例を幾つか見た事があるそうだ。
「あれはまだ、私が冒険者だった頃だ──」
所長は眉間にしわを寄せて、またも語り始めた。それは所長の過去、冒険者時代の武勇伝だったが、その内容は自慢ではなく戒めのようでもあった。
冒険者時代、アース大陸だけでなく、アーク大陸も股にかけ活躍していた所長。そうした行動範囲の広さから、彼は数えきれないほどの街や村などを訪れていた。
すると当然、それだけ多くの出会いがあり、様々な環境というのを目にする事となるものだ。そしてその中には幾つもの孤児院もあり、幾つもの孤児院の中には、登録申請が行われていないものも存在した。
所長は、重々しく語る。未登録のほとんどが、非合法な人身売買の温床であったと。しかもその中には、孤児ではなく誘拐された子供までいたそうだ。
「もしかしたら、あの頃が一番大変だったかもしれないな」
決して無茶はせず分相応な依頼をこなしてきた当時の所長は、それでいて幾つもの人身売買組織を潰した事があるという。
所長曰く、決して正面からはやり合わず、裏からじっくりと攻略したとの事だ。
まず徹底的に対象を調べ上げ証拠を集める。重役が一人でいる時のみを狙い捕縛して情報を訊き出す。そうして様々な法的証拠を全て揃えた上で、教会の越境法制官に報告。神の威光によって組織を壊滅させたそうだ。
所長は、他にも数多くの組織を同じ方法で攻略したと笑う。
「無茶な事はせず、情報収集に徹したが、それでも多少の冒険はあったように思える。そして、そう思えばあの頃に培ったノウハウが、今一番の糧になっている気がするな」
そう話を締め括った所長は、どこか思い出に浸るように宙を見つめながら、「やはり、冒険こそ成長の鍵なのだろうか」とそっと呟いた。
「見事な手際じゃな。その頃から探偵の才能はあったようじゃのぅ」
「もしかしたら、こちらが天職だったのかもしれないな」
ミラがおだてると、所長は冗談交じりに応えながらも、実に良い笑みを浮かべる。生活のための冒険者と、趣味で始めた探偵業。実入りは雲泥の差であるものの、所長にとっては後者の方が大事なようで、満更でもない様子だ。
「何にしても酷い話じゃな」
未登録の場合、表向きは孤児院だが、裏では人身売買に利用されていたりする。そしてその歴史は今、かつての所長の活躍により、孤児院運営者に広がっているそうだ。つまり未登録の孤児院は、犯罪にかかわっていると怪しまれるぞ、という意味で。
怪しまれたくなければ、登録した方が良い。そういった風潮が出来上がっているらしい。
そして、その結果、そういった後ろめたい未登録の孤児院が減少したと、ユリウスが補足する。後々にも影響を残す所長の仕事。正にお手柄といえるだろう。
「素晴らしいのぅ。子供達のヒーローじゃな」
素直にそう称賛したミラ。すると所長は「これも、私の歴史の極一部にしか過ぎないけれどね」と決めてみせる。だが褒められた事が嬉しかったのか、その表情は微妙に緩んでおり、実に締まらない様相になっていた事に、本人が気付く事はなかった。
「しかしまた、あれじゃな。証拠を集めて何たらというやり口は、話に聞いた怪盗のやり口に似ておるのぅ」
探偵の如く法的に効果のある証拠を集め、告発した所長。対してファジーダイスのやり口は、法的に効果のある証拠を盗み出し、公の下に晒すというもの。
形は違えど、その結果は同じ。どちらの場合も、悪人は法によって厳重に裁かれている。
「確かにそうだ。とはいえ、ああいった組織を個人でどうこうするには限界がある。それをどうにかしようとするなら、国や教会といった、より大きな力に頼るのが正解といえるだろう」
これまでにファジーダイスが暴いてきた悪事は、その全てに大きな組織が絡んでいた。これを相手取るのは、たとえAランク冒険者の揃ったギルドでも難しいと所長は言う。こういった裏の組織は横の繋がりが広く、非合法な事を平然とやってくるため、いつかどこかで足を掬われてしまうのだと。
「大事なものを守るためには、時に信念を曲げる必要がある。そして私は、そんな彼等を立派だと思っているよ」
何かを思い出したのだろうか、所長はふとそんな事を口にしながら目を伏せた。
表立って悪に立ち向かう。正しくヒーローの姿といえるだろう。しかし、目立てば目立つほどつけ入る隙もまた生まれる。正義のヒーローの情報が出回れば特にだ。
果たして、家族や親族を犠牲にしてまで、正義を貫けるヒーローはいるのだろうか。所長が言った言葉は、つまりそういう意味である。
「正義を貫くのも大変なのじゃな」
「まあ、こんなに厄介なのは人を相手にした場合だけだと思うがね」
皮肉めいた口調で応えた所長は、ポテトサラダを一気に頬張る。そして口周りを汚したまま、改めてファジーダイスは良い敵役だと目を細めた。
「ちと、トイレに行ってくる」
眠気覚ましのコーヒー牛乳が効いたのか、ふと催してきたミラは、そう言って席を立ちトイレに向かう。
と、その途中で、ちらりと隣の個室席が目に入った。
(何とまぁ、こんな朝からスイーツ三昧とは……。ふむ……ありじゃな)
垣間見えた人物は、これといった特徴のない男であり、美味しそうにクリームブリュレを食べていた。しかも、その隣には完食済みの皿が三枚置かれている。そのどれにもクリームらしきものが残っている事から、ミラはその男が所長にも匹敵するほどの甘党なのではと睨む。
朝食は所長持ちという事で、デザートは何にしようかなどと考えながら、ミラはトイレの戸を開き中に入る。
と、その後姿を、特徴のない男がそっと見つめていた。
(ふむ……。しかしまぁ、人身売買の温床か)
ミラは用を足しながら、所長の話を思い返す。
陰に徹したまま正義を遂行したという所長。その功績によって、未登録の孤児院は激減したという。だがそれでもまだ、あるところにはあるようだ。
容易ではないが、治療のあれこれを自前で用意出来る孤児院である。
ミラは考える。噂通りグリムダート北東の森深くに村があり、そこに孤児院があった場合。そしてその創設者がミラの予想通りだとしたら、未登録も十分にあり得るだろうと。
ミラが予想する人物。それは、九賢者の一人、聖術士である『相克のアルテシア』だ。
聖術とは、治療や回復、補助といった効果に特化した術種であり、その頂点がいるともなれば、それはもう孤児院の登録など不要である。登録したところで、怪我においては、アルテシアのそれを超えられる者などいないだろう。また、聖術の効果が及ばぬ病気などについても、高い調薬技術を持つ彼女ならば、どうとでもないはずだ。
そして当然、人身売買などとも完全に無縁である。子煩悩なアルテシアが、それを許すはずもなく、もしも近くにそのような場所があったなら、その逆鱗に触れて物理的に壊滅する事となるだろうからだ。
(これは、本当にもしかするかもしれぬのぅ)
噂で聞いた孤児院に、アルテシアがいる可能性は十分にある。しかし、その手がかりはファジーダイス次第。まだ所長から得られる情報はあるだろうか。ミラは意気込みながら立ち上がりパンツを上げると、意気揚々に席へ戻った。
「ミラ殿は、その森深くにあるという未登録の孤児院を見つけるため、ファジーダイスを捕まえようとしているわけだね」
ミラがトイレから戻った矢先、突如ずばりと所長が目的を言い当ててきた。ミラの言動からして、所長にとっては容易い推理だったという事だ。
「うむ、その通りじゃ」
素直に頷き答えたミラ。すると所長は正解したのが嬉しいようで、「やはりそうか」と笑みを浮かべた。
「これまで調べた結果から、ファジーダイスが孤児院に寄付をしているのは確かだ。更に被害額と寄付金を計算したところ、幾つか合わない部分もあった。自分の懐に入れているというのならそれまでだが、全てを寄付しているとした場合、それが未登録の孤児院に流れていると考えてもおかしくはないな。そして、かの怪盗ならば、未登録の孤児院を知っている可能性は高い。となれば、その中にミラ殿が捜している孤児院もありそうなものだ」
そう一通りを口にした所長は、徹底した義賊ぶりから考えて、ファジーダイスはほぼ間違いなく未登録の孤児院と繋がりがあるだろうと続けた。
「ふむ。所長殿がそう言うならば、間違いないように思えてくるのぅ」
きっとファジーダイスについて一番詳しいであろう所長が認めた可能性。これまでは、どことなく思い付きでファジーダイスを狙っていたが、やはり他者からの同意を得られるというのは心強いものだ。ミラは、より目標に近づいた事を実感する。
(しかしまあ、人気も出るはずじゃのぅ)
所長が、徹底した義賊ぶりと称賛する怪盗ファジーダイス。ミラもまた、これまでの話を聞いてきた中で、そう感じていた。かの怪盗は、私利私欲で動いているわけではなさそうだと。
聞けば聞くほど正義のヒーローに思えてくる怪盗ファジーダイスの印象。状況が違っていたなら、きっと自分も応援していたであろうとミラは思う。そして、だからこそ戦災孤児を集めた孤児院などというものが存在した場合、きっと関係しているだろうと信じられた。
ファジーダイスに会えば、何かがわかる。ミラがそう確信していた時の事。ふと所長が口にした次の言葉にミラは動揺した。
「つまりミラ殿は、その孤児院の場所さえわかれば、ファジーダイスを捕まえる理由はないというわけか」
探偵らしく鋭い視線でミラを射抜く所長。ミラはその視線に、若干の後ろめたさを感じる。それもそのはず、これまでファジーダイスを捕まえるためという同一の目的で、色々と貴重な話を聞いてきた。しかも、所長の奢りでパンケーキとソフトクリームの食べ放題という状況である。
しかしそんな中、条件によってはファジーダイスを捕まえないという掌返しときたものだ。更にはそれを相手に言い当てられたときては、決まりが悪い。
「色々と話を聞いておいて何じゃが、そういう事になるかのぅ」
瞬間押し黙るも、ミラははっきりと答えた。ファジーダイスを捕まえるというのは、目的の場所を知るための手段の一つであったと。すると所長は、その鋭い表情から一転、頬を緩めた。
「いや、それについては全然構わない。私が好きで話しただけだからね」
どうやら所長は、一切気にしてはいないようだ。しかも続けて、「もしも私がミラ殿の立場だったとしたら、情報を与える代わりに見逃せと提案された時、きっとそれを承諾した事だろう」などと擁護するような言葉まで口にした。
「ふむ、そうか。所長殿がそう言うのなら、良いのじゃが」
「ああ、そうだ。気にしないでくれ。それと何より、こうして男二人では頼みにくいものを存分に楽しめた事が、私としては喜ばしい限りでね。ミラ殿には感謝しているよ」
所長がそう言ったところで、丁度やってきた店員がチョコレートパフェをミラの前に置いた。どうやらミラがトイレに行っている時に注文していたようだ。そして、店員が去った後、ユリウスがパフェをそっと所長の前に置き直す。
「ずっと気になっていてね」
所長は、芸術作品のようなパフェにスプーンを差し込み、それを口に運ぶと、実に幸せそうな笑みを浮かべた。そして、「探偵業は、硬派な印象の方が受けが良いのだよ」や「好感度と探偵業は、意外と結びつきにくいんだ」というような言葉をところどころで挟む。そして最後に「ほんと、感謝しているよ」と心の底からといった様子で口にした所長は、パフェを片手にとても良い笑顔であった。
いよいよあの日まで、一ヶ月をきりましたね。
そう、ケンタッキーの日です。
今年も贅沢しちゃう予定です!
そして出来れば半額ケーキも……といいたいところですが、こちらは二連敗中なので望みは薄そうです。
しかし、ケーキは憧れます。場合によっては、ショートなやつだけでも……。