235 いつものお買い物
二百三十五
査定員が独自に調べたという魔動石の価格変動の歴史を聞き終えた後、ミラは大量に収獲した魔動石の一部を、更に追加で買い取りに出した。
査定は、大きさではなく内包するマナ量で決まるため若干の誤差は出るが、先程査定してもらった結果と、そこまで大きくは変わらない。その事を踏まえて、ミラは中と大の魔動石をざっと三百万リフ分見繕い、買い取ってもらった。
なおミラは、小さな魔動石を手元に残しておく事にした。手持ちの道具にそのまま利用出来たりと、意外にも汎用性が高いからだ。
また買取の際、ふと思いついたミラは身分証明としての冒険者証と一緒に優待券も提出してみた。ディノワール商会の商品が二割引きで購入出来るという特典の付いた優待券だが、それが買い取りにも効果はないだろうかと考えたのだ。
すると、これまたありがたい事に、優待券の効果で買い取り額に一割が上乗せされるそうだ。
結果、ミラが手にした金額は、約三百三十万リフにもなった。
これはもう、今後も魔動石の買い取りはディノワール商会で決まりだ。そう、まんまとセドリック・ディノワールの思惑通りな思考に至るミラだった。
三百三十万リフ。それは金貨にして六十六枚となるため、ずしりとした重さがあり、なかなかに嵩張るものだ。だがミラはそれだけの大金を、組合振り込みではなく現金で受け取っていた。
「この重さが、何ともたまらぬのぅ」
買い取り用の受付を後にしたミラは、店内に設置された普通の休憩スペースで、金貨が詰まった革袋を手にほくそ笑む。金の重みは、何と心地良いものなのかと実感しながら。
じゃらじゃらと金貨と金貨が擦れ合う音を十分に堪能したミラは、さてとアイテムボックスを開いた。
この世界にきたばかりの頃、ミラはソロモンから教えられた事があった。金貨やら銀貨やらのお金は、アイテムではなく金銭に分類されるため、アイテムボックスに入れられないと。
だが後に、それを解決する方法を聞いていた。金貨などは、そのままでは入れられないというだけであり、金貨の入った袋というアイテムであれば、幾らでもアイテムボックスを利用出来るのだと。
重量制限のある操者の腕輪の場合、数千万にもなる大金を常時入れておくのは難しいが、その制限のない元プレイヤーならば貯蓄し放題というわけだ。
ミラは金貨を六枚、三十万リフを別にして、残りは革袋に入れたままアイテムボックスに収納した。
優待券で得した三十万リフ。これを今回の予算として、ミラは意気揚々とディノワール商会の店内に繰り出していく。
ディノワール商会は広く、ミラはあっちへふらふら、こっちへふらふらと、店内中を巡るように見て回った。多様性に富んだ冒険者用品の品揃えは幾ら見ても飽きる事なく、ミラの冒険魂を熱くする。用もないのにどこか惹かれるサバイバルセットや、実際には役に立たなそうな探偵の七つ道具のような子供心を擽る何かを、冒険者用品から感じていたからだろう。
概ねミラの心境はそのような感じだが、冒険者用品の性能自体は子供騙しなどではなく本物だ。生きるため、冒険のための知識がふんだんに活かされたものばかりである。
だからこそ余計にミラは夢中になって、商品を吟味していく。ミラにとっては召喚術、精霊達の力によって十分に代用出来る機能の商品が多いものの、やはり便利な道具というのは、不思議と惹かれるものだ。
ミラが店内巡りを始めて、一時間ほど経っただろうか。幾つかの商品をカゴに確保したミラは、いよいよ一番楽しみにしていた新商品のコーナーに足を踏み入れた。
流石は冒険者御用達の新商品というべきか、結構な数の冒険者が、そのコーナーには集まっていた。商品を念入りに確認する者や、サンプルを試している者、また店員を質問攻めにしている者など、相当に大盛況な様子だ。
「ほぅ、こっちはセール中か」
ミラは新商品コーナーの直ぐ隣にセールコーナーがあるのを発見した。棚一つを丸ごと使ったコーナーだが、既に棚の半分は空になっている。相当な人気商品のようだ。
そこに置かれていたのは、『魔動式服下用冷却クルクール』という商品だった。セールの文字の下には、これからの季節に大活躍と書かれている。
更にその下には商品説明があった。それによるとこの商品は、服の下に入れておく事で身体を冷ます事が出来るそうだ。服の中に入れられる小型のクーラーとでもいった商品だろうか。
大きさは大体手帳ほどで、表面には『止弱中強』の文字と摘み型のスイッチがあった。実に夏を思い起こさせる作りである。
「これは、素晴らしいのぅ!」
生まれ育った世界にも、これほど小型で便利なものはなかった。
既に八月を間近に控えた季節。精霊屋敷の中は精霊の力によっていつでも快適な温度に保たれているが、外に出ると暑さに襲われ、じわりと汗が噴き出してくる。そんな季節だ。
服を脱ぐにも限界があり、暑さを凌ぐのは、なかなかに難しいところである。それをこれ一つで緩和出来るというのなら、もう買うしかないだろう。
しかしそこで、ミラの目に肝心の値段が入ってきた。セール中でありながらも、その価格は二十万リフもしたのだ。なお、本来の販売価格は三十万リフのようだ。
予定していた予算の三分の二が、この一つで消えてしまう事になる。
「しかし、これは必要じゃろう……!」
少しだけ考えた後、予算の増額を可決したミラは、幾つか種類がある内、ローブ用と書かれた方を手に取って即カゴに入れた。
むしろたったの二十万で、外出時の暑さを凌げるのなら安い買い物だろう。そう誰にともなく心の中で言い訳を重ねながら、ミラは今一度、新商品のコーナーに戻る。
ただ新商品とはいえ、流石に入れ替わりはそう多くなく、半数以上は前にも見た事があるものだ。しかし、幾つか覚えのない品も交ざっており、ミラはそれらを一つ一つ吟味していく。
と、そんな中で、特に気になるものを見つけたミラは、早速それを手に取った。
「ほほぅ、これはソロモンが喜びそうじゃのぅ」
見た瞬間にミラはソロモンの事を思い出す。軍事関連が大好きという軍オタな側面を持つソロモンの事をだ。
特に奇抜な形をしたそれが置かれていた棚には、使用に関しての詳しい説明文が書かれていた。確認してみると、やはり見た目通りの性能のようである。
(ふむ、薄霧草由来の成分を使用しておるのか)
ミラが手にしたそれは、正しくガスマスクであった。空気を浄化する性質を持つ薄霧草。その成分を利用した装置と光源となる術具を埋め込み、空気のない場所や、毒素が漂う場所でも呼吸が出来るという優れものだ。
どちらかといえば、ガスマスクより酸素マスクといった方がいいだろう。しかし見た目は、病院などでよく見る酸素マスクとは全く違う。特殊部隊が着けていそうな、軍事用のガスマスクそのものだった。
そんなガスマスクの正式名称は、『安心呼吸マスク水陸両用タイプ』である。どうやら水中でも使えるらしい。ますます便利そうだ。
「どれどれ……」
使い勝手はどうだろう。ミラは早速試供品として置かれている安心呼吸マスクを被ってみた。しかし、どうにも試供品用のマスクはサイズが大きいようで、ミラの顔には合わず、呼吸をするたびに隙間から息がもれ、その都度音が鳴った。
「ほぅ。思ったより良く見えるのじゃな」
シュコーシュコーと怪しげな音を立てながら、ミラはゴーグルの部分から見える周囲を見回す。幾らか視界は遮られるものの、性能を考慮すれば十分に及第点だろう。そんな事を独自基準で採点しつつ、ミラは制式採用してもいいのではと考慮する。
実はかねてより何かとソロモンの軍オタ趣味に付き合わされていたミラは、その中で少しだけ興味を芽生えさせていた。
「うむ、作戦行動に支障はなさそうじゃなっ」
だからだろうか、特殊部隊さながらのガスマスクを着けたミラは、特殊部隊員にでもなったかのような気分を味わえご満悦であった。
ミラが安心呼吸マスクにうつつを抜かしていた時の事。新商品コーナーの近く。可愛らしい魔法少女風の衣装に身を包んだ女の子が、いかついマスクを着けて、近くの棚に張り付きステルス行動をしている姿を数人の客が目撃していた。
彼等は後に、こう語る。あれは少しだけ微笑ましくも、言葉に出来ない奇妙な光景であった、と。
マスクとは不思議なもので、着けていると周りの視線が希薄に感じられる事がある。ミラは安心呼吸マスクを堪能した後、他の新商品も一つずつ確認していった。
商品のバリエーションや確かな性能に一つ一つ感心すると共に試したりもしながら、歩を進めていく。
途中、料理のレシピ集がコーナーに並んでいるのを見て、ミラは疑問符を浮かべた。なぜ冒険者用品の新商品コーナーに料理のレシピ集があるのかと。
だがそれは、その直ぐ上に置かれていた新商品を見て判明する。
そこにあったのは、『魔動式冷凍保存袋』なる代物だった。これまで販売していた魔動式冷蔵保存袋の発展型のようだ。食材などを冷凍した状態で運べるようになるため、これの登場により旅先での料理の幅が随分と広がったという。
よく見れば料理のレシピ集には主に、冷凍出来る食材とその下処理、そしてそれらを使った料理が掲載されていた。だからこそ、レシピ集がここに置かれていたというわけだ。
「ふむ……」
ミラが持つアイテムボックスは、操者の腕輪のものと違い、中に入れたものを入れた時の状態のまま保っておける。そのため、わざわざ保存のために冷凍する必要はないので、この保存袋を買う理由はなさそうだ。しかしレシピ集に目を通したミラは、「これは買いじゃな」と呟きながら保存袋とレシピ集をカゴに入れた。
ミラは初め、食材を冷凍保存するための『魔動式冷凍保存袋』だと思っていた。けれど、これが秘めた性能はそれだけではなかったのだ。
レシピ集には、保存袋をも利用したレシピが載っていたのである。
それは、冷凍すると美味しさが増す食材から始まり、シャーベットやアイスクリームの作り方といったものまで網羅していた。
旅の途中、草原の只中で星空を見上げながら口にするアイスクリームは、どれだけ美味しい事だろうか。そんなロマンのある状況を思い浮かべたミラは、それ用の食材を買い足しておこうと決めた。
次にミラが興味を惹かれた新商品は、『同化している魔動式迷彩マント』なる商品だった。一見すると地味な灰色のマントだが、魔動式という名が示す通り、スイッチ一つでその柄ががらりと変わるという仕様である。
その迷彩パターンは幾つもあり、草原に森、荒野に砂地、水辺に海原まで、数多く用意されているようだ。
正面からではなく、遠距離からの攻撃、または聖術士などのサポートを得意とする冒険者に人気らしい。更には、狩りで生計を立てるハンターにも売れているそうだ。
続いてミラが目を留めた品は、『魔動式暗闇解消暗視ゴーグル』だった。説明書きによるとその名の通り、暗闇の中でもはっきりと視界がとれる逸品だという事だ。しかも先程の『安心呼吸マスク水陸両用タイプ』の上からでも装着出来る設計らしい。
光源を必要としないため、真っ暗な夜でも気付かれず狩りが出来る。また見張りの時も、光の届かない遠くまで見通せる優れものだ。
(ファンタジーの暗視ゴーグルは、どこまで見えるのじゃろうな)
そう気になったところで、一つの扉がミラの目に入った。どうやらこの『暗闇解消暗視ゴーグル』は、新商品の中でも特に一押しなのだろう、その効果の程を確かめるための暗室が隣に用意されているようだ。
(しかしまた、これの開発に元プレイヤーがかかわっているのは間違いないじゃろうな。デザインから何から、ザ・暗視ゴーグルといわんばかりじゃ)
もしやソロモンと同類か。そんな事を想像しながら、ミラはお試し用のゴーグルを手に取った。
ガスマスクに迷彩、そして暗視ゴーグルと軍事寄りな品々が並んだ事で、ミラの脳裏には、ますますソロモンに関係した色々が浮かび上がっていた。こういったものを一式借りて、サバイバルゲームに参加した事もあったな、と。
VRでサバイバルゲームを遊ぶ場合と実際に身体を動かす場合とでは、やはり違うもので、ミラはあの時の疲労感は何とも心地良かったなと思い出す。
「ふむ……折角じゃ」
試供品の迷彩マントを羽織ったミラは、更に安心呼吸マスクを被り、その上に暗闇解消暗視ゴーグルを装着するという完全武装で暗室に入っていった。
余程ゴーグルの性能に自信があるのか、暗室の中はこれでもかというくらいに真っ暗だった。暗闇の中で暫く待機して目を慣らしても、僅かな輪郭すら映らないほどだ。
(ふむ……これは、通路になっているのじゃろうか)
まずミラは、暗闇の中を手探りで歩いてみた。そしてわかったのは、暗室の中は細い通路になっているという事だった。
夜の闇よりもなお深い、暗室の暗闇。裸眼ではどうにもならない事を実感した後、ミラはいよいよ暗視ゴーグルのスイッチを入れた。
「おお!」
瞬間、ミラは驚きの声を上げる。これまで一寸先も見えなかった前方が、ありありとその目に広がったからだ。
暗視ゴーグルらしい緑がかった視界には、どのように通路が延びているのかが鮮明に映った。流石はディノワール商会、その性能は確かである。
そうしてはっきりと見えるようになった事もあり、ミラは暗室の中がどうなっていたのかも知る事が出来た。
複雑に入り組んだ通路と無数の障害物、そして少し進めば小さな小部屋まであるではないか。
「これはまた、燃えてくるのぅ」
暗闇の中に広がるその空間は、まるでサバイバルゲームの室内フィールドのようであった。
ますます当時を思い出し、より興が乗ってきたミラ。傍の壁を背に張り付くと、その手に読んで字の如くな空気銃を握り、通路の角からちょこんと顔を覗かせる。気分は完全に作戦行動中の特殊部隊のそれであった。
「クリア。ターゲットはいない」
居もしない部隊員と連携しつつ、ミラは暗室を慎重に進んでいく。複雑な通路を進み、小部屋をクリアリングし、そして背の低い障害物の傍では床に伏せ、匍匐前進を開始する。
ずりずりと進んでいくミラ。その気分は正に、夜襲を仕掛ける特殊部隊である。
と、そんな調子で通路を行き角を曲がった時の事だ。直後にその更に先の角から、一人の男が顔を覗かせた。
通路の長さは、ほんの五メートルほどだが、視界が床に近いミラは、僅かに顔だけを覗かせた男に気付いていない様子だ。
特殊部隊員として作戦行動中のミラ。そんなミラの姿を目にした男は、その顔にありありと恐怖を浮かべて停止した。
彼は、ミラより先に暗室でゴーグルの性能を試していた。そして、その性能の素晴らしさを実感していたところだった。
暗視ゴーグルがなければ真っ暗な部屋の中。そのような環境下で、ずりずりと何かを引きずるような音がしたと思ったら、迷彩のマントをまとい、ガスマスクの上に暗視ゴーグルをつけた何者かが、よりにもよって地を這い現れた。流石の男でも、これに恐怖を感じるなというのは無理だろう。
男は一瞬硬直した後、気付かれないように足音を殺し、そっとその場から大急ぎで逃げ出した。
ミラはといえば、そんな男には気付く事もなく作戦行動を続け、存分に浸ってから暗室を後にするのだった。
それは、ミラが暗室で特殊部隊ごっこに興じていた時の事。ディノワール商会の扉を勢い良く開き、一人の男が慌てた様子で飛び込んできた。
「これはフリオさん。如何なさいました?」
丁度出かける途中だったのだろう、入口近くにいた店員が男に声をかける。すると男は店員に駆け寄って、開口一番にこう言った。「こちらの店に精霊女王が来ていると聞いたのですが」と。
その男の名はフリオ。現在、子供のみならず、大人達にまで大人気のカードゲーム『レジェンドオブアステリア』の発売元である『グリモワールカンパニー』の営業担当であった。
フリオの仕事は数あれど、その中でも特に重要な役目がある。それは、カードの絵柄となる人物との交渉だ。
今後のバリエーションの他、何より憧れの存在を手に出来るという興奮を、カードゲーマー達に提供するために欠かせない仕事。新星のように現れる逸材、また名を馳せる冒険者などと交渉を行いカード化の了承を得る事こそが、フリオが請け負う中で最も重要な仕事だった。
「精霊女王ですか? 実はグラマラス美女ではなくちんまり美少女だった、とか言われている?」
悪意はないのだろうが、少しだけ残念そうな声で店員は答える。どうやら彼は巨乳派のようだ。
「ええそうです、その精霊女王です! こちらの買い取り受付に来られたと聞いたので、飛んできたのですが。今どちらにいらっしゃるかわかりますか!?」
言葉通り、フリオは大急ぎで駆けてきたのだろう、流れる汗も意に介さず店員に迫る。
ここに精霊女王のミラがいるという事を知った彼の情報源。それは、ミラが休憩所で出会ったセロ好きの少女だった。精霊女王からセロの話を沢山聞いたと少女が仲間に語っていたところを、フリオが丁度耳にしたのだ。
「うーん、すみません。私は先ほどまで書類整理で裏にいまして。今の店内の客層は把握していないもので」
店員は手にした書類を抱え直しながら、「噂通りなら、結構分かり易いはずですけど──」と呟きつつ、店内を見回した。
「そうなんですよね。長い銀髪に碧眼、魔法少女風の衣装を着こなす美少女、と。特徴で随分と絞れるはずですが」
フリオもまた、そう応えながら店内を一望する。
二人は店の入り口付近にいるため、店内の様子が良く見えた。入って直ぐに全体を見渡せる絶妙なレイアウトであり、多くの利用客達の姿もまた、その場から見て取れる。
フリオと店員は、そこにいる客達の姿を一通り確認していく。
利用客はほとんどが冒険者であり、いかにもな軽鎧やローブ姿の客が半数以上を占めていた。残りは日常使いが出来る商品を買いに来た市民と、今流行りの魔法少女風衣装を纏った女性達だ。
流行っているという事もあって、魔法少女風衣装で探しても、結構な人数が店内には存在した。
だがそこは、この仕事の長いフリオである。該当する衣装の客達を素早く見定め、精霊女王として知る特徴が当てはまるかどうかを判断する。
銀髪の女性、しかしとても胸が大きいので違う。銀髪だが長さが肩までしかないので違う。ちんまりしているが妖精族なので違う。長い銀髪だが……女装なので違う。
「見当たりませんね」
「そのようですね」
一通り見た限り、入口から見える範囲に該当の人物はいないと二人は判断する。
「買い取りに来ていたというのなら、一先ずそちらで聞いてみてはどうでしょう?」
店員は少し考えてから、そのように提案する。まずは原点から辿ってみてはどうかと。
「なるほど確かに。そうします!」
もしかしたら買い取りを受け付けた者が、何か知っているかもしれない。また、その近くにいた者が、精霊女王がどこへ向かったか見ていたかもしれない。そう思い至ったフリオは、店員に礼を告げると、早速とばかりに買い取りカウンターに向けて駆け出した。
と、その途中。フリオは新商品が並ぶコーナーに目を向けた。
(今回、精霊女王との交渉が上手くいけば、ボーナスが。そしたら絶対にクルクールを買う!)
フリオは額から流れる汗を拭いつつ、新商品の棚に熱い眼差しを向ける。営業職であるフリオは、外を歩き回る事が非常に多い。ゆえに夏は、ダントツで辛い季節なのだ。
しかし『魔動式服下用冷却クルクール』を手に入れれば、そんな辛さとはおさらば出来る。一月ほど前にクルクールを試させてもらった事のあるフリオは、それ以来ずっと購入の機会を窺っていた。しかしその価格は二十万リフ。一般職には、なかなか手が出しにくい価格である。
ディノワール商会が扱う品々は、ずば抜けた利便性を持つ。だがそれらは全て、命を対価にして数十万数百万と稼ぐ冒険者達向けに開発された道具である。そのため一般には、高級雑貨といった扱いになっているようだ。特に主婦達の間では、ディノワール商会製の調理器具を幾つ持っているかがステータスとされていたりする。
「こういう時のために、貯金しておけば良かった……」
そう呟き誘惑を振り切るように一歩を踏み出したフリオは、その直後、実に不可解な人物をその目にして、ビクリと立ち止まった。
新商品コーナーの傍。隣接する位置にある部屋。その奥側にある扉から、迷彩マントで身を包み、顔にはガスマスクと暗視ゴーグルを着けた何者かが、ゆらりと出てきたからだ。
その姿は異様の一言に尽きた。表情も視線もわからず、全身を覆ったマントは体型から何からを全て隠している。だがフリオは、僅かにだけ見えた頭に注目した。
「銀髪……」
扉から出てきた後、両手を不自然な形で構えたまま壁に張り付き、出てきた扉の中を覗き込むという謎の行動を繰り返すその人物。更には、突入とばかりに再び部屋の中に飛び込んではまた飛び出してくるなど、不審な行動を続けていた。
「あれは流石に、ないか」
見た限り、噂との共通点は銀髪というだけ。魔法少女風の服なのかもわからず、顔も見えないため、現状では性別すら判断出来ない。そして何より、あんなに怪しい人物と間違えたら、本物の精霊女王に怒られそうだ。
かつて人違いで交渉に大きな支障を出してしまったという営業仲間。彼の事を思い出したフリオは、慎重に考えた末そう結論した。まずは、買い取りカウンターで、精霊女王の詳しい特徴を訊いてからだ。
(ここで最優先対象の許可を得られれば、かなりのボーナスが貰えるはずだ!)
現実的な目的を胸に抱きながら、精霊女王がこの街にやってきた事を感謝しつつ、フリオは歩き出す。果たして彼がボーナスを手にする日は訪れるのだろうか……。
実は先日、我が家にあの家電がやってきました!
今の場所に越してきてから、十数年。遂にこの時が!
今までは、紙とかでどうにかこうにかしていましたが、
いやはや、やはり専用機は違いますね。一瞬です。
流石、ダイソン!!




