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234 ミラ、からまれる

発売日は明日ですが、何やら既に販売されているところもあるようですね。


という事でして、書籍版8巻とコミックス版2巻をよろしくお願いします!


二百三十四



「ところで、その孤児院についてなのじゃが──」


 所長の話に孤児院が出てきた事もあり、ミラは本命の孤児院について訊いてみようとした。調べ回ったという孤児院の中に、該当する場所はなかったかと。だが、その直後である。外から、室内にまで聞こえてくるほどの鐘の音が二つ鳴り響いたのだ。


「おお、もうそんな時間だったか」


 どうやら時刻を知らせる鐘だったらしく、所長は慌てたように懐から手帳を取り出し、それを確認する。


「わざわざ呼んでおいてすまないが、この後に少々、行かなくてはならないところがあってね。出来るならば、明日にまた話をしたいと思うのだがいいだろうか?」


 何やら大事な用事があるようで、所長は手帳を懐に戻しながら、申し訳なさそうに言った。


「うむ、明日じゃな。構わぬぞ。わしもまだまだ、訊きたい事が残っておるからのぅ」


 何かと長く話はしたが、ファジーダイスだけでなく、孤児院の事などについても訊きたい事が出てきた。そのためミラは、所長の申し出を快諾した。




 話のついでに、明日の朝食をご馳走してくれるという約束も取り付けたミラは、所長達と別れた後、大通りをひた歩いていた。昼食時を少し過ぎた時間であり、丁度腹が満足している頃合いだからか、行き交う人々はどこか穏やかな様子である。

 そんな大通りを進み続ける事暫く。ミラは探していた店を発見する。それはディノワール商会の支店だ。冒険者用品を専門に扱う店であるため、どこの街でも組合近くにあるというのが、ディノワール商会の良いところであろう。


「さて、幾らになるかのぅ……」


 これまで街に着くたび、何だかんだとディノワール商会を覗いては、必要のなさそうなものまで買っていたミラ。だが今回、ミラがここを訪れた理由は、買い物ではない。古代地下都市で大量に入手した魔動石の換金が目的なのだ。

 ミラは大きな期待を胸にして店の扉を抜けた。

 ハクストハウゼンもまた歴史は古くかなりの大都市であり、周囲にダンジョンも多い。だからだろう、ディノワール商会ハクストハウゼン支店は、そこらの大店よりも更に一回り大きかった。すると当然、品揃えもそれに比例し圧倒的であり、「おお、これまた凄いのぅ!」とミラの心は踊り出した。

 魔動石の買い取りは、会計とはまた別のカウンターで受け付けているそうだ。

 その事を事前に調べていたミラは、まずは換金を優先して、新商品が誘うように並ぶ棚の引力にどうにかこうにか抗い、買い取りカウンターを探す。

 それは、店内の一角にあった。早速買い取りを頼んだところ、どうやら買い取り待ちが二人ほどいるそうで、ミラは店員から整理券を渡される。

 中々に繁盛しているようだ。繁盛しているという事はそれだけ商品の回転率が高いという事。ならばきっと、良い値段で売れるだろう。ミラはそう期待を膨らませてほくそ笑む。

 そんなミラに、「よろしければ、あちらでお待ちください」と店員が声をかけた。

 その声に促され示された方を見たところ、カウンター横の少し先に、ちょっとした休憩スペースのような場所があった。しかも椅子とテーブルが並ぶそこには、各種ドリンクが無料で置かれているというではないか。


「では、そうさせてもらおうか」


 そこで一休みさせてもらう事にしたミラは、整理券を手に足取り軽く歩いていく。途中、頭上に看板が吊り下げられていた。『子供用 買い取り待ち休憩所』と書かれた看板が。けれど、既にドリンク選びを始めていたミラがそれに気付く事はなかった。



 休憩所には、二人の先客がいた。如何にも術士見習いといった様相の少年と、これまた剣士見習いといった少年だ。知り合い同士か、それともこの場で出会ったばかりかはわからないが、二人は楽しそうに夢と希望に満ちた冒険者の未来の話をしていた。しかしミラが来た途端、その声がぴたりと止んだ。

 少年二人は、黙ったままミラの一挙手一投足を見つめる。一目ぼれだった。



(あの少年共が買い取り待ちの二人とやらか)


 ミラは、ローズバニラオレをコップに注ぎながら、ちらりとテーブルの方を見やる。

 少年二人は、ひそひそと何かを話し合っていた。そしてばれていないとでも思っているのだろうか、ディノワール商会の商品目録を見るフリをしながら、ミラを窺うように目を向けていた。


(ふむ、わしが気になるようじゃな)


 可愛い女の子がいると、ついあれこれと誤魔化しながら見てしまうものだ。二人の少年の心境を大いに理解出来るミラは、どこか微笑ましい気持ちを抱きながら、少し離れた椅子に腰かけた。


(今後、わしのこの可愛さが基準にならねば良いのじゃがのぅ)


 甘酸っぱい青春時代の一ページ。そんな事を思い出しながら、ミラは初々しい反応の少年二人を心の中で心配した。

 と、そんなミラの耳に、小さくだが少年達の会話が聞こえてくる。余り明瞭ではなく、ところどころ飛んではいるが、概ねどういった内容について話していたのかはわかった。

 その内容とは、可愛いやら好きやらといった初々しい時期を飛び越えて、まさかのミラとの家族計画だった。稼ぎは幾らという話の他、更には甲斐性だ何だといった事から、生まれた子供への責任と義務、それゆえに子供は何人までにまで及ぶ。そして極めつけは、夜の営み云々ときたものだ。


(この世界の情操教育は、進んでおるのぅ……)


 少年らしくない内緒話が交わされていると知り、ミラは絶句する。この世界だからか、それとも親がそういう教育方針だったのか。二人の少年は、見た目と違い随分と大人びているようだ。

 どちらが満足させられるか。今度はそんな話を始めた少年達から顔を逸らしたミラは、手にしたコップに口をつけ、そっと傾ける。口にした瞬間に、薔薇とバニラの香りがふわりと花開くローズバニラオレ。ミラは、その新しい甘さと香りを楽しみながら、遠い目をして苦笑した。




 暫くして買取査定が終わったと、剣士見習いの少年が呼び出された。少年はとてもゆっくりとした動作で立ち上がりながら、見溜めとばかりにミラの事をちらちらと見つめる。けれど二回目の呼び出しが聞こえると、慌てたように買い取りカウンターへ駆けていった。


(これで後、一人待ちじゃな)


 思った以上に居心地がいい休憩所。ミラは大いに寛ぎながら、ふとローブ姿の少年に目を向けた。

 話し相手がいなくなったからか、少年はどことなく所在なげな様子だ。かといってミラは、話し相手になってやろうとは思わなかった。先程、僅かに聞こえてきた内容の話についていける気がしなかったからだ。

 と、そんな時、窺うようにして顔を上げた少年と目が合った。だがそれも、ほんの一瞬。少年は恥ずかしそうに視線を逸らし、中空を幾らか彷徨わせてから再び目録に目を落とした。

 どうやら、話しの内容は大人びているが、中身は、まだまだピュアな少年であるらしい。


(わし、罪作りな女)


 何となくだが、何かに安心したミラは、少しだけ威厳のありそうなポーズを決めながら、のんびりと順番を待った。




 待ち時間の途中で、一人の少女が休憩所にやってきた。ミラの次の買い取り順番待ちのようだ。

 少女は、コップにオレンジジュースを注いでから少々うろうろした後、ミラの手前辺りの椅子に座る。丈の長い簡素なローブと、腰には初心者用の短杖。見た限りでいえば、彼女も見習い術士のようだ。

 少女の歳の頃は十二、三。見た目だけでいえばミラと同じ程度だろうか。少し気弱そうな印象があるその少女は、コップを口にしながら、どこか好奇心を目いっぱいに湛えてミラの事を見ていた。

 その視線に気付き、顔を上げるミラ。すると少女は僅かに目を逸らしたものの、再びミラを見つめ、意を決したように口を開いた。


「あの……。もしかして、精霊女王さんですか?」


 少女は、そっと控え目にそう言った。だが、そんな声とは裏腹に、表情はこれでもかというほどの期待に満ちている。その様子は正に、街でばったり有名人に出会ったというものだった。


(ほぅ……子供にまで知られておるとは、わしも有名になったものじゃな!)


 前回の街、グランリングスでは微妙に噂が錯綜しており、精霊女王という名前が一人歩きしていたが、どうやらこの街には子供でも判断出来るほどに伝わっているようだ。

 そう感じとったミラは、喜びを表に出さないように気持ちを落ち着けつつ、至って冷静に努めた顔で少女に視線を返す。


「うむ、何やら世間ではそう呼ばれておるようじゃな」


 あくまでも周りがそう勝手に呼んでいるだけであり、自分はそのような事気にしてはいない。などという態度を装いながら答えるミラ。すると途端に少女は、表情を輝かせた。


「やっぱりそうでしたか! そうじゃないかなって思ったんです!」


 余程嬉しかったのだろうか、これまで控え目だった少女が興奮したように声のトーンを上げた。と同時に遠巻きから様子を窺っていた少年が、その声に驚き、びくりと肩を震わせていた。

 ミラが精霊女王だと知った少女は「遇えて感激です」と続けると同時、そこから一気にミラの隣の椅子にまで距離を詰めてきた。そして少女は、またも爛々とした期待を目に宿し、ミラに質問を投げかけた。「セロ様と一緒に戦ったんですよね?」と。

 少女が言うセロ様とは、つまりエカルラートカリヨンの団長であるセロの事で間違いないだろう。


「うむ、一緒じゃったのぅ」


 はて、なぜここでセロの名前が出たのだろう。そんな疑問を抱きながらも、ミラは無垢な笑顔をみせる少女に快く頷き答えた。そしてミラは思い知る。少女の真の興味が、どこに向いていたのかを。

 その後ミラは、少女からセロについてのあれやこれやを訊かれた。好きな食べ物や好きな女性のタイプといった、いわゆる定番のものから、どんな匂いだったかや、ミラはどんな敬称で呼ばれていたのかという独特なものまで。それは数十にも及ぶ怒涛の質問攻めだった。

 そう、少女の目的は、有名人である精霊女王のミラ本人ではなく、その繋がりにあったセロの方だった。その時の様子は正しく夢見る少女そのものだったが、ミラはふと感じ取る。どこか僅かに一途が過ぎたような気配もまた垣間見えると。

 そのため、少女が質問の最後に口にした「セロ様とは、どんな関係なのですか?」という問いに、ミラは「たまたま戦線を共にした、冒険者と冒険者じゃっ」と、震えを隠しながら答えたのだった。



 そうこうして、ミラが病み気味な少女に絡まれている時の事。術士見習いの少年も買い取り査定の順番がきたと呼び出されていた。その際、席を立った少年は、ぐいぐいと少女に迫られているミラの姿に、新たな扉を開きかけたりする。そして、その光景を胸に刻み買い取りカウンターに歩を進めていった。

 休憩所には、ミラとセロのファンの少女の他、また新たに数名の子供が来て買い取り待ちをしていた。

 新たにやって来た子供達は、一様にミラと少女から随分と距離をおいた場所に座っている。そして、何やらひそひそと話していた。


「あの女の子、新人かな?」「見ない顔だね」「うん、可愛い」「ここは初めてなのかな」「そうみたいだね。可哀想に」


 そんな言葉を交わす子供達。彼等彼女等は知っていた。この買い取り休憩所に現れる、ヤンデレ少女の事を。そして捕まったら最後、その一途過ぎる愛を延々と語られ続ける事を。

 しかし誰かが捕まっているなら、他に害が及ぶ事はない。今ならば冒険者の話をしても、少女がセロの話を引っ提げて交ざり込んでくる事はないのだ。

 子供達はミラの犠牲に感謝しながら、大好きな冒険者の話で盛り上がった。




「そうか、凄いのぅ」


(早く……早くわしの番号を呼んでくれ……!)


 ミラは整理券を握りしめながらそう願い、当たり障りのない範囲で相槌を打っていた。セロについての質問が終わると、今度はどれだけセロを愛しているのかを少女が語り出したのだ。

 その内容はもはや一途を通り過ぎた何かであり、ところどころに妄想まで混じったとんでもないものであった。


(モテる有名人というのは、大変なのじゃな……)


 まるで深淵を覗き込んでいるかのような目で、混沌(こんこん)と語る少女。その狂おしいほどの愛は純粋で、また病的だった。

 今はまだ、ミラがセロと共闘しただけという理由で少女は語りかけてきているが、もしもセロと食事を共にした事があり、仲良く話した事があり、部屋を訪れた事があると知ったらどうなるか。

 決して下手な事は言えない。失言を警戒するミラは多くの言葉を返さず、少女の声にただただ相槌のみで答え続けていた。

 と、そんな話が続く中、遂にミラが待ち望んでいた呼び出しの声が響く。買取査定の番がやってきたのだ。


「おっと、すまぬな。どうやらわしの番のようじゃ」


 待ってましたとばかりに立ち上がったミラは、途中で話を切り上げる正当な理由を盾にして少女の言葉を遮る。


「まだお聞かせしたい事はいっぱいありましたのに、残念です」


 ここに来た目的、ここにいる意味は、何といっても魔動石の買い取り査定である。それは何をしても話題を変えなかった少女であろうと、納得させられるだけの理由となった。


「ではな」


 そう短く告げたミラは、逃げるように買い取りカウンターへ駆けていった。『行き過ぎた想い、それもまた愛よね』などとのたまうマーテルの声を聞き流しながら。




 ミラが脱出したその後の休憩所には、一人の少女と、一ヶ所にまとまった子供達が残されていた。そこに音はない。これまで大好きな冒険者の話で盛り上がっていた子供達は、ミラという防壁がいなくなった途端に沈黙した。このまま続けていた場合、それを耳にした少女がセロという最高の冒険者がいると語り始めてくるのが確実だからだ。

 とはいえ、ずっと沈黙を続けるのは難しく、何より子供達がそんな空気に耐えられるはずもなかった。

 沈黙が続いていた中、一人がぽつりと口を開く。とはいえそれは、これまで盛り上がっていた冒険者談義とは違う話。今、巷で噂の怪盗ファジーダイスについてであった。

 正義の怪盗ファジーダイスは、どうやら子供達にも大人気のようだ。悪党を成敗するヒーローのように語る少年達と、弱きを救うヒーローのように語る少女達。若干認識に差はあるが、どちらも今回の活躍を期待しており、先程と同じくらいに盛り上がり始めた。

 と、その最中、子供達の背筋が凍りつく。ファジーダイスの話が飛び交う中に、「セロ様は、もっと多くの人を救っているヒーローなのよ」という言葉が交ざり込んだからだ。

 子供達は、いつの間にか一団に加わっていた少女の姿に戦慄した。そしてあっという間にファジーダイスの話は正義のセロ様に乗っ取られ、少女の整理券番号が早く呼ばれる時を待ちながら、先程のミラのように、ただただ相槌を打つだけの機械となるのだった。




 逃げた後の休憩所が、そのような惨事になっているとは気付く事もなく、ミラは買い取りカウンターで説明を受けていた。買い取りが初めてだと伝えたところ、受付員が丁寧に教えてくれたのだ。

 まず買い取りには、身分を証明出来るものが必要だという。これは冒険者証などでもいいようで、ほとんどの客が冒険者証を提示しているそうだ。

 査定自体は、売り手の立ち合いのもと、別室で行うらしい。なお買い取り額は、魔動石の大きさではなく、含まれるマナの量によって決まるようだ。

 そうして査定した金額に納得し同意した時、その金額が支払われるのだが、受け取り方が二種類あるという事だった。

 一つは、現金での受け渡し。もう一つは、冒険者総合組合の口座だそうだ。ちなみに、ここを利用する子供達は皆、口座振り込みだと受付員は言っていた。


「では、こちらへどうぞ」


 説明を聞いた後、ミラは査定が行われる別室、受付の隣にある扉の中に通された。

 部屋の中は、簡素な客室といった様子だ。しかし査定などに使うのだろう大きな装置がところどころに置かれており、更には部屋の中央に置かれた椅子には白衣を纏った少女が座っていた。そのためか、どことなく研究所にも似た雰囲気があった。


「ようこそ。じゃあ早速、そこに魔動石を置いてね」


 優しい笑顔を浮かべながら、テーブルに置かれたトレーを指し示した少女の背には、薄い蝶のような羽が見えた。どうやら査定員は妖精族のようだ。


(夜にでも、マリアナに連絡してみようかのぅ)


 妻の声が聞きたい。どこか単身赴任中の夫にでもなった気分で、そんな事を考えながら、ミラは査定してもらう魔動石を取り出すべくアイテムボックスを開く。


(さて、どれが幾らくらいになるじゃろうか)


 アイテムボックスには、古代地下都市で手に入れた魔動石がたんまり入っている。小石程度のものから、拳大もあるものまでより取り見取りだ。当然、サイズが大きいほど、内包するマナ量もまた大きく、買い取り価格も高くなる事だろう。


「では、これを頼む」


 どれがどの程度の値段になるのか。ミラは数ある魔動石の中から、小中大とそれぞれを一つずつ取り出してトレーに置いた。


「あらー、こんなに大きいのは久しぶりね」


 査定員は、どこか嬉しそうな様子で、何かの装置にトレーごと置いてスイッチを入れた。その際、興味が赴くまま、その装置はどういったものなのかとミラが訊いたところ、査定員は、魔動石に含まれるマナを量るためのものだと教えてくれた。

 静かに響く装置の駆動音は、それからほんの十秒くらい経ったところで止んだ。どうやら査定結果が出たようだ。


「お待たせしました」


 査定員はトレーをミラの前に戻すと、そこに置かれた魔動石を一つずつ示しながら、その値段を提示した。

 まず、小が千リフ。中が二万リフ。そして大が十万リフ程度という結果となった。


(おお、小さくとも千はいったか。あの頃の倍はするのじゃな。しかし中と大は、小に比べると大きな差はないようじゃのぅ)


 魔動石の査定結果とゲーム当時の相場を比較したミラは、計算以下にならなくて済んだ事を喜びながらも、需要の増加で期待していた値上がりもさほどなかった事に少しだけがっかりした。

 魔動式という道具の登場によって、魔動石の需要は跳ね上がったと聞いていたミラ。けれども小の魔動石以外は、三十年前とほぼ変わらぬ相場だ。

 何故だろうか。単純に気になったミラは、その事を査定員に尋ねてみた。ただただそのまま、三十年前より需要が増えているはずだが、ほぼ当時と変わらないのはなんでだろう、と。


「当時の相場を知っているなんて、物知りなんですね!」


 査定員はミラの質問に笑顔を返すと、少しだけ嬉しそうに「これは、私の推測なんですが」と前置きして、得意げに語り始めた。

 ディノワール商会が扱う魔動式の道具や、その他様々な術具など、今現在、魔動石を利用するアイテムは三十年前にくらべて数えきれないほど増えているのは事実だ。

 そのため、需要が増えた魔動石の価格もまた値上がりしそうなものだが、そうならずに安定しているのは、三十年前のある出来事が関係していると査定員は言う。


「私が調べたところによりますと、今と当時では、生産に使われる魔動石の量が全然違いました。消費量が三十年前の半分くらいしかなかったのです!」


 どこからともなく資料を持ってきた査定員は、そこに手書きされたグラフを指しながら、どうだといわんばかりの表情を浮かべていた。

 見ると資料には、魔動石の消費量が分類ごとに分けて書かれている。どうやら彼女には研究者の資質もあるようだ。見事なもので、中でも特に武具製作における消費量が急速に減っているのが見て取れた。

 査定員は言う。どういうわけかこの三十年前を境に、一流の職人の多くが隠居しているのだと。


「ああ……なるほどのぅ」


 三十年前とは、つまりこの世界が現実になった頃であり、多くのプレイヤーがこの世界から消えた時期ともいえる。

 ミラは、需要が増えた魔動石の相場が変わらなかった理由の一端を理解した。

 プレイヤーの職人達が一斉にいなくなった。中でも特に武具を扱う職人にとって、強力なものを作製する際には、特別な炉やら何やらの利用が欠かせない。 そして、それを稼働させるためには、大量の魔動石が必要だった。

 ゲーム当時、魔動石はプレイヤー産出量の五割近くが、この生産によって消費されていたほどだ。しかし三十年前にその職人達がいなくなり、需要がなくなった分が、道具や術具の動力として使われているという事である。

 そういう事かと納得したミラだったが、査定員の話は、そこで終わらなかった。更にもっと踏み込んだ調査結果を述べ始めたのだ。

 魔動石の価格が安定している、もう一つの理由。それは、冒険者総合組合が出来た事だと査定員は語る。

 その事により、冒険者を生業とする者が激増し、それに伴い魔動石の総産出量が当時よりも増えているそうだ。

 更に近年、隠居していたはずの職人達がちらほらとまた戻ってきているらしい。けれどそんな上級職人達が使う道具や技術が当時よりもずっと進化しているようで、魔動石の消費量が抑えられていた。

 そして何よりここ十年ほど前から、特別な燃料や精霊の力を借りるという方法が職人達の間で流行っているとの事だ。何でも、これまでの製造法より上質に仕上げられるそうである。非常に難易度の高い方法であり扱えるのは上級職人でも一部だけだが、魔動石を大量に使うのもまたそんな職人ばかりなので、消費が抑えられる結果となるわけだ。

 そういった様々な理由から、魔動石の需要と供給は安定していると査定員は締め括った。


「ほほぅ、更に上質なものが……」


 査定員の話を聞き終えたミラは、魔動石よりも、その話の中にあった製造法に興味を惹かれていた。

 今現在ミラが画策している、最強装備作製計画。その第一歩となる最高品質の素材は、マキナガーディアンから回収出来た。次は職人探しだが、この件についてはソウルハウルより、元プレイヤーの職人が集まる研究所という有力な情報を得ているので問題はない。

 それらに加えて、今回の情報だ。かつて伝説級にも匹敵する武具の数々を生み出してきた職人達が、最高品質の素材をその新たな技術を用いて加工したらどうなるのだろうか。


(もしや、神話級がわしの手に……!?)


 かつてのミラ、九賢者であろうとも易々とは手に出来なかった神話級。だが、その性能は良く知っていた。唯一、アルカイト王国に存在する神話級をソロモンが所持しているからだ。

 頭一つ飛び抜けた性能の武具が、自分の手に。ミラはそんな夢を思い描きながら、いつか九賢者が揃った時、皆に自慢出来たらいいなとほくそ笑むのだった。






今月の頭頃にですね

やってたじゃないですか

ドミノピザの半額キャンペーンが。


ええ……誘惑に逆らえませんでしたとも。

ピザとかダイエットの正反対に位置していそうな食べ物ですが、

だからこそ、美味しかったです。


で、ですね……。

その時に、クーポン券も貰ったんですよ。

なんと、次も半額になるという、凄いやつです。



……有効期限が昨日まででして……


ええ、また食べてしまいましたとも。

おいしゅうございました。


半額

その誘惑といったらもう……。

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[良い点] 買取所の描写がわかりやすくてよかったです 話が進んでよかった [気になる点] 買取所にくるのが子供ばかりなのはなぜ? [一言] 楽しく読ませてもらってます
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