232 それぞれの正義
書籍版8巻とコミックス版2巻の特典やら何やらについて、活動報告に記しておきました!
是非ともよろしくお願いします……!
二百三十二
所長の武勇伝語りが影響してか、静かに話し合える環境ではなくなったレストラン。しかしまだ話すべき事は色々と残っているため、ミラが三つ目のパンケーキを完食したところで、場所を変える事となった。
そうして次に訪れた場所は、同ホテル内にある落ち着いた雰囲気のカフェ。しかもカフェでありながら個室のように仕切られており、目立たず話すにはもってこいの店だ。
「しかしまた、随分と脚色したものじゃな」
ミラは席に着くなり、そう口にしつつユリウスからメニューを受け取る。そして素早く、カフェ一番人気のプリンソフトクリームに目をつけた。
「こういう活動もしておかなければ、敵だらけで動きにくくなってしまうからね」
所長は一切悪びれた様子もなく、肩を竦めてみせる。
気にしていない素振りをしてはいたが、やはり義賊として有名な怪盗ファジーダイスを追うというのは、相当な苦労もあるようだ。今回はミラという聞き役がいたため、いつも以上に話題を出し易く、印象操作が楽に出来たと所長は笑う。
「まあ確かに、あれだけファンがいるわけじゃからのぅ……」
ミラは、この街で見かけたファジーダイスのファンらしき者達の事を思い出し、大いに納得する。きっと今すぐ襲われないのも、そういった活動によって敵ではなく、ライバルとして認められているからであろうと。
「して、実際のところはどうだったのじゃ?」
メニューの端からちらりと顔を覗かせたミラは、不敵な笑みを浮かべながら所長を見る。脚色により、壮大に飾られたファジーダイスとの初戦。先程語られた大激戦は、どこまでが真実でどこまでが嘘なのか。
それを問われた所長は「交わした言葉は、そのままだったはずだ」と小声で臆面もなく答えた。
「ああ、ただパンケーキの部分は少々脚色したかな。確かあの時実際は、ゴルドンビーフのミートパイで頼むよ、と言ったはずだ」
所長はおどけたように付け足すと、そのままメニューを広げ「ここはアイスクリームが美味しいんだ」と微笑む。
「言葉だけが本当とは、また相当に盛ったものじゃな」
ミラはメニューをユリウスに返しながら、所長の大口ぶりに苦笑する。そしてより詳しく訊いてみたところ、思った通り一対一で相対するところまでが真実で、壮絶な戦いが丸っと創作であった。
相対した後、ファジーダイスの姿が消えて、背後から気配を感じ振り向くが誰もおらず、かと思えば急激に眠気に見舞われ、意識が飛んだと気付いた時には治療院のベッドの上だったらしい。
「五秒ほどだったかな。圧倒的だったね。正直、どれだけやっても勝てる気がしないよ」
それはきっと本心なのだろう、所長は諦観めいた声で呟く。しかし、不思議とその表情には、うっすらと笑みが浮かんでいた。
「また、口と顔が合ってはおらぬな」
ミラがそう指摘すると、所長はますます嬉しそうに言う。怪盗ファジーダイスは、正しく理想の相手であると。
「私が求めていたものは、冒険者時代に一度も経験せず終わった、困難への挑戦だ。しかし、今更ながらそれを求めても、この歳となるとね。全盛期だったあの頃と違って、色々と難しくなるものなのだよ」
冒険者時代ならば、屋根から落ちる事もなかった。所長はそう笑い飛ばしながら、少しだけ寂しそうに自身の足に目を落とす。
「さて、注文は決まったかな?」
所長は小さく微笑みながらミラに視線を移すと、ミラが持つメニューの表を見つつ「私は、プリンソフトにしてみよう」と続けた。
「む。被ってしまったのぅ。わしもそれにしようと思っておったところじゃ」
注文が被ったところで、別に悪い事ではない。しかしミラには考えがあった。他者が食べているものを見て、あれは美味しそう、あれはそうでもなさそうと、次の注文の参考にするのだ。初めての店ともなれば特に有効な手段だが、同じ注文をしてしまっては使えない。
様子をみるために、変更しようか。そうミラが考えていたところ、その事を察したのか、
「それならば、私はアーモンドソフトにしようか。半分ずつ分ければ、二種類の味を楽しめる。更に我が助手も加えれば、三通りを一度に味わえるな。おお、これはいい考えだ」
と、所長は名案だとばかりに口にした。だがしかし、その案は即座に却下される。
「流石にそれは、気持ち悪いじゃろう」
幾ら理想に近い渋さを持つ所長と、実直そうな好青年とはいえ、男とソフトクリームをシェアするなど、ミラにとっては全く考えられない事であった。そしてユリウスもまた、同じように思っていたようだ。
「ミラさんとならともかく、所長までとは……」
そう口にしたユリウスは、「そこまで大きなものでもありませんし、また別に注文すればいいだけかと」と口にする。
だが、その言葉は所長の耳に届いてはいなかった。なぜならば初めのミラの一言により、「気持ち悪い……」と、完膚なきまでに叩きのめされていたからだ。
(ちょっと言い方が悪かったかのぅ……)
男同士でソフトクリームのシェアなど気持ち悪いだろう。ミラが口にしたのはそういう意味であり、これがソロモンとルミナリア相手ならば、そりゃそうだと笑っていたところだ。
だが、今は状況が違う。中身はどうであれ、誰が何て言おうとも、今のミラはとても可愛らしい少女なのだ。そんな少女の口から、気持ち悪いなどと言われれば、大抵のおっさんは深く傷つくというものである。
ゆえに所長は今、余程ショックだったのだろう、愛娘に拒絶された父親の如く盛大に項垂れていた。
どうしたものかと、顔を見合わせるミラとユリウス。
「何か、すまんかった」
「いえ、仕方ないかと」
そう簡単に言葉を交わした後、一先ず注文はプリンソフトクリーム三つに決まったのだった。
ミラとユリウスでどうにかこうにかフォローした事で、暫くの後に所長は息を吹き返した。
所長の格好良い武勇伝が聞きたいな。概ね、そんな流れにもっていった結果、所長の語りたがり気質が、ショックを吹き飛ばしたようだ。
「さて、どこまで話したかな」
表情も穏やかに所長が言うと、ユリウスが答える。求めていたものは困難への挑戦だが、歳のせいで色々と難しくなってきた事。そんな時に現れた怪盗ファジーダイスは、正に理想の相手。というような話だったと。
「そうだったそうだった」
所長は満足そうに頷き、姿勢を整える。
「そうした制限の中、より新しく刺激的な挑戦を探していた時の事だ」
一転して表情を綻ばせた所長は、そこで遂にファジーダイスと出会う事となる依頼を受けたのだと語った。
当時、何かと世間で騒がれていた怪盗ファジーダイス。そんな有名人が、住んでいた町に現れるという噂。その噂の中、舞い込んできた依頼こそ、所長がファジーダイスを追う事となった始まりだった。
「とはいえ、問題は依頼主でね。探偵業を営んでいると、色々聞こえてくるのだよ。悪い噂がね。そして被害者を目にする事も。酷いものだった」
その時の依頼主は、裏で貴族と結託し、密売やら何やらで相当に黒い金を稼いでいるという商会長だったそうだ。所長もまた依頼などではなく、個人的に探ったりもしていたらしい。しかし証拠は巧みに秘匿されており、どうにか告発したところで、証拠やら何やらは全て審議中に、金と権力によってどこへともなく消え去るという。
そんな腐敗の極致ともいえる状況に差し込んだ、一筋の光。それが怪盗ファジーダイスの予告状だ。
「かの有名な怪盗が狙っていると聞いた時、年甲斐もなく興奮したものだ」
悪者を裁くために降臨した、正義のヒーロー。所長もまたファジーダイスの事を、そう認識しているようだった。
と、その予告状が届いた数日後の事。よりにもよって、その悪徳商会長からの依頼が入った。内容は、怪盗ファジーダイスから屋敷にあるものを守る事。その際に手段は問わず、必要なら武具なども支給するというものだ。
「正直、悩んだよ。悪党の片棒を担ぐのは如何なものかとね。けれど同時に興味もあったんだ。巷を騒がせる怪盗とは、どれほどのものなのだろうと」
丸一日ほど悩んだ末に、所長は依頼を受けたという。ただただ怪盗への興味と未知への挑戦が、悪党云々よりも勝ったそうだ。どのような立場になろうとも、かの怪盗と相対する舞台に上がれる。それが魅力的だったと。
そうして万全に準備を整えてから挑んだ、怪盗ファジーダイスとの初戦。その結果は話した通り、あっという間の出来事だった。
「完全に差を見せつけられた思いだった。挑戦するにしても、ファジーダイスという壁は余りにも高過ぎた。けれど私は、自分の完敗を知った時、とても興奮していたんだ」
冒険者時代には確実な依頼のみをこなしていた。探偵業を始めてからは、そこそこ無茶な依頼を受けて、成功や失敗などを経験した。その結果、達成感や満足感というものを理解出来るようになった。
成功だけだったかつてより、失敗もある今の方が充実している。そんな中で遭遇した怪盗ファジーダイス。勝利の可能性が微塵も見えない大敗。圧倒的にも感じられた力の差。それを大いに味わった所長は、だからこそ口端を吊り上げる。
「それだけの相手と対峙しながらも、まだ私は生きている。このような事、冒険者時代ではあり得なかったはずだ。あれだけの強烈な敗北感は、実に不思議な感覚だったよ」
敗北とは、同時に死を意味する事が多い。戦いの場ならば尚更に。けれど所長は、初戦後に何事もなく目を覚ました。そして、かすり傷一つすらない事に気付いたという。聞けば、一緒に警備していた者達もまた同じだったそうだ。
この事に興味をもった所長は、過去の件も含め、より詳細に調べたらしい。怪盗ファジーダイスの犯行時、警備などに当たっていた者達の結末を。
その結果、負傷者が数名いる他は無傷だという事が判明した。
ファジーダイスが活動を始めてから、随分とこの件にかかわる者は増えている。これまでの犯行を合わせれば、警備に当たった者の数は千を超えるだろう。それでありながら、確認された負傷者は数名。規模からして、随分と少ない人数だ。
しかし驚いたのは、そこではないと所長は言う。記録にあったその負傷者達の怪我の原因は、誰もが別グループとの喧嘩やら階段を踏み外しただのという、ファジーダイス自身が関与していないものだったのだと。
「つまりファジーダイスは、誰一人傷つける事無く犯行を完了していたという事だ。そしてその記録は、今でもまだ更新中なのだよ」
初戦の時、所長以外が眠らされていたように、過去全ての犯行において、警備に当たっている者は、眠らされるなり何なりで無力化されているそうだ。
「怪我人を出さず、しかも狙うのは悪党のみか。それは人気も出るはずじゃな」
正に義賊といわんばかりなファジーダイスの徹底した仕事ぶりに舌を巻くミラ。敵であろうと傷つけず、裁くのは法の下。完全にヒーローの所業である。
しかし所長は、そんなヒーローを追う道を選んだ。その理由は、ある意味で理に適ったもの。
「人を傷つけない。これだけ徹底しているとなれば、それこそが怪盗ファジーダイスの流儀なのだろう。だからこそ私は、かの怪盗をとことん追う事にしたのだよ」
そう口にした所長は、これまでとは違い狡猾そうな表情を浮かべていた。そんな所長に、ミラは問う。なぜ、だからこそなのかと。
すると所長は、待ってましたとばかりに応えた。ファジーダイスの流儀がそれなら、傷つけられる事はない。つまり、あれだけの格上を相手にしながら、命の心配をせずに戦えるわけだ、と。
「ほぼリスクのない状態で、とことん困難に挑める。正に理想の相手だ。いやはや、そういうわけで彼には甘えさせてもらっているよ」
結局はファジーダイスのさじ加減一つであるが、余程かの怪盗を信頼しているのだろう。所長は清々しいほどはっきりとそう言うと、今はファジーダイスをあっと驚かせる事が目標だと続けた。
「何というか、少々歪んでおるのぅ……」
所長がファジーダイスを追う理由。そこに探偵だの怪盗だのという要素は切っ掛け以外に皆無であり、それどころか随分な内容だったとミラは苦笑する。
「ああ、私もそう思う」
自覚はあるのか頷き答えた所長だが、次には「そんな自分が、最近好きになってきたよ」と笑った。
ファジーダイスの実力は如何ほどか。そんな質問から始まった所長の物語が丁度一段落したところで、注文していたプリンソフトクリームが運ばれてきた。
「味は、濃厚なプリンそのものじゃな」
口に含んだ途端に広がるカスタードの風味。流石は店一番の人気だと絶賛するミラ。所長とユリウスもまた、これは美味しいとミラの感想に同意した。
こうして一時の、おやつタイムとなる。
(ふーむ、降魔術士か。しかも、相当な凄腕ときた)
プリンソフトクリームを堪能しつつも目的は忘れない。ファジーダイスの実力については、霊獣アクタルキアと戦い勝利出来てしまえるほどである事はわかった。しかし、それが上限なのか下限なのかは不明のままだ。たとえ術士最強の座である九賢者であったとはいえ、世界は広い。格上も存在している。三神国の将軍などが、その最たる例だ。
とはいえ流石に、かの将軍クラスの猛者がそこらにいては、たまったものではない。しかし、九賢者の前後あたりに匹敵するほどの実力となれば、幾らか数は増える。
プレイヤーが建国したアトランティスやニルヴァーナの将軍位といった、最上位プレイヤー。そして地下闘技場のチャンピオンという経歴を持つキングスブレイド司祭を始めとする存在など。いるところにはいるものだ。
つまるところ、ファジーダイスもまた、この一人という場合も十分にあり得た。
(ここは、入念に準備しておいた方が良いかもしれぬな)
ファジーダイスについての話を聞くまでは、頭のどこかで手先が器用でそこそこ強い怪盗だと思っていたミラ。しかし今回の話で、それはどうにも未知数となったため、考えを改める。本気を出す機会もありそうだと。
(しかし……降魔術士か。そして義賊、のぅ……。ふーむ、ヒーローと義賊。あながち遠くもなさそうじゃが……)
相当な実力者であると思われる降魔術士の怪盗ファジーダイス。そしてその活躍は、悪党を懲らしめる義賊であり、民衆から見ればヒーローそのものだ。
それらの事から、ミラはふと、ある人物を思い出していた。
その人物とは他でもない、九賢者の一人、降魔術士『奇縁のラストラーダ』である。
(今のところ、奴の情報が一つもないが……。可能性としては、あり得そうじゃな……)
これまでの冒険で、ラストラーダについての情報は一つとして聞いた覚えがない。何だかんだで癖の強い者達ばかりの九賢者。その中でも特に目立ちそうな者こそ、このラストラーダだ。
九賢者『奇縁のラストラーダ』。彼は自他共に認めるヒーローオタクであり、その行動もまた筋金入りだったと、ミラは思い出すと同時に苦笑する。
中でも特撮ヒーローが好きなラストラーダは、かつて現実世界において、その恰好をして深夜の見回りをしていたという過去があった。
本人曰く、正義遂行中との事だが、その姿は紛う事なき不審者のそれであり、案の定通報され連行されたという経歴を持つ。
警察官から、こっぴどく説教されたラストラーダ。しかしそれでも、彼の正義の心は挫けなかった。
彼の正義は、VR世界へと繋がっていく。
インターネット原始時代と呼ばれる二千年代初頭。ミラ達が生まれた時代はその頃より法整備もずっと進み、VR世界はそれなりに平和であった。しかし、いつの時代にも、システムや法の隙間を掻い潜る悪党が存在するものだ。
彼は、そんな悪と戦った。独自に組んだプログラムによって、不正行為を見つけ出し、次々とネット警察に通報していったのである。
好きな事への情熱とは、時にとんでもない結果を生み出すもので、彼は紆余曲折を経て、ヒーローオタクから、国が管理するネットワークセキュリティ部門所属という大躍進を遂げる。ネットワークの世界を守るヒーローとなったのだ。
こうして重要な役職を得た彼だが、その根幹は変わっていない。彼はいつだって、正義の味方だった。アーク・アース オンラインというゲームの中であっても。
(思い返せば思い返すほど、そうではないかと思えてしまうのぅ)
あれだけの正義感を持つ彼が、目立たないわけがない。しかし、噂には聞こえてこない。
もしかして正義を遂行していないのだろうか。そんな考えが浮かぶものの、それはないとミラは思う。彼の筋金入りの正義は、もはや呼吸と同義なのだから。
とすれば、既にそれらしい噂が耳に入っていてもおかしくはない。そして、それらしい噂として今一番に挙げられるのが、怪盗ファジーダイスであった。
(悪事の証拠を見つけ出し、法の下に晒す。手口は、一致しておるのじゃがのぅ……)
考えるほど、ファジーダイスがラストラーダであるように思えてくる。しかし、ミラがそう確定出来ないのは、彼の事を良く知っているがゆえだった。
(あ奴が予告状などというものを出すとは、どうにも思えぬ)
ミラは、ラストラーダの正義を幾らか把握していた。彼は、何かしらの正義を遂行する時、決して自ら口外しないのだ。
彼は正義の一環として、慈善活動にもよく参加していた。その際、SNSのような場で『ボランティア活動に行ってきます』だの『してきました』だといった事を言わず、いつの間にかどこかに参加して、いつの間にか帰ってきているのが彼の日常だ。
ネットワークを独自に守っていた時もそうだった。誰に言う事もなく、ネット警察に通報していた。
(初めに聞いた時は、そこまで正義バカだったのかと、驚いたものじゃ)
これらの事をミラが知ったのは、話の流れから仲間内で現実の仕事について話していた時である。
それまでラストラーダは、ただの特撮ヒーローオタクという印象だけだった。しかし、ネットワークセキュリティ所属というところから、その経緯を遡っていったところで、彼が数々の正義を遂行していた事を知る。
ラストラーダにとって、正義遂行とは、報告するような特別な事ではないというわけだ。訊いて確かめない限り、彼は自分の行ってきた正義を話さない。そしてそこには、彼独自の正義理論があった。
彼の考え方は、正義と悪は表裏一体というもの。正義あるところに悪もある。つまり、正義が執行されている時、悪もまたそこに存在しているというわけだ。
平和に暮らしている者達に、悪の存在を見せる必要はない。そのような考えに基づいて、ラストラーダは誰にも言わずに正義を遂行しているのである。
(予告状なぞ、まるきり正反対じゃからな……。やはり別人じゃろうか)
悪がそこにいて、これから正義を遂行する。怪盗ファジーダイスの予告状は、世間で概ねそのような意味に捉えられている。始まりはどうであれ、予告状の意味がこうなった今、それを続ける事は、ミラの知るラストラーダの正義に反するはずだ。
とするなら、やはりファジーダイスの正体は、別の凄腕降魔術士だろうか。
しかし、かの怪盗がもたらした結果を見れば、ラストラーダともとれる。過程を見ると、どうにも違う。
予告状にしても、今ではそれ自体に正義が付随するだけの効力がある。世間の注目を集める事により、群衆が正義の目となるのだ。こうなれば、秘密裏に闇から闇へ、といった手段が使えなくなる。
知ったからには、群衆が納得出来る説明が必要となるからだ。
確実性という面でみるなら、予告状はとても効果的といえるだろう。しかし、ミラは思う。
(あの正義バカが、そこまで考えるじゃろうか……)
世間の注目。それがもたらす効果。そして後々の影響。ミラの知るラストラーダは、そういった細かい事を考えない正義バカであった。
そのため、考えれば考えるほど、予告状の存在が際立ってくる。そしてもう一つ、証拠と共に持ち出される金品は、正義遂行に必要なのだろうかという疑問もあった。
はて、もしもラストラーダだったとして、どんな理由が。そう悩むミラだったが、そこはやはりいつもの如く、暫くの後に早々と頭を切り替えた。
(まあ、捕まえてみればはっきりするじゃろう)
本人だろうと、そうでなかろうと、捕まえてマスクを引っぺがせばいいだけの話。ミラは、あれやこれやと面倒に考える事を止めて、プリンソフトクリームの最後の一口をじっくりと味わうのだった。