216 マーテル公認
なんとコミック版がまたまた重版だそうで。ありがとうございます。
そこで何やら複製原画プレゼントなるものが。
https://twitter.com/MMKTCs/status/879288460045041664
書籍版共々よろしくお願いします!
二百十六
『アストラというと、星に関係する意味だったはずです。となれば、その習得法もまた、星にまつわる何か、とも考えられますね』
「ふむ、星か……。星のぅ……」
そうこうして二人は、《アストラの十界陣》の習得方法について考察を進めていた。これまでの陣、アルカナの制約陣とロザリオの召喚陣の習得方法を基にして、二種類のやり方を思い付いたものの、どうにもしっくりこない。
そのために二人は、三つ目の方法を考える。
『正確な意味を思い出せると良かったのですが……』
「十界というのも気になるところじゃな」
『そうですね。そちらも気になるところです。確か、宗教関係にそのような言葉……──!?』
アストラと十界。特徴的なその固有名詞に注目してみようと始まった三つ目の考察。しかしその最中、言葉を交わし合っていた時、ふとクレオスが言葉を切った。
「ぬ? どうしたのじゃ? 何か気付いたか!?」
『いえ、その、何といいますか。……急な用事が出来てしまいまして。直ぐに出なくてはならなくなりました……』
心当たりでもあったのだろうか。そうミラが期待して声をかけたところ、クレオスから返って来た言葉は、どこか不自然で性急なものだった。だが、相当な焦りの色も窺える。何か事件でも起こったのだろうか。ミラが心配してそう訊いたところ、私用なのでそのあたりは問題ないとクレオスはきっぱりと答えた。
『申し訳ありません、ミラ様。この件については、また今度、ゆっくり出来る時に致しましょう。その時までには、アストラと十界について、きっとご存じであろうスレイマン様に訊いておきます。では、これで失礼します』
余程の急用だったのだろうか、最後はまくし立てるように言って、クレオスはどこかへと飛び出していった。
果たして、クレオスがあそこまで慌てる用事とは何なのだろう。術談義が興にのってきたところだったので、少し残念に感じるミラ。だが、そうして落ち着いたところで思い出した。
「おお、すまぬマリアナ。ついつい話し込んでしもうた!」
そう、マリアナの事だ。途中で飛び込んできたクレオスと、あれよあれよと召喚術談義が始まり今に至る。つまりはその間、マリアナの事をほったらかしにしてしまっていたというわけだ。
最近一番の大事だったので、ついつい気付いたら超越召喚の事ばかりに。まるで浮気をした亭主の如く、そのような言い訳を並べて謝り倒すミラ。
『いえ、お気になさらないでください、ミラ様。私はミラ様のお声が聞けるだけで十分です。術の事でクレオス様と話すミラ様は楽しそうで、私も嬉しく思っておりました。これからもミラ様が思うように、好きなようになさってください。ただ……今日みたいに少しでも気にかけていただけると、凄く嬉しいです』
どれだけ待たされても、全てを赦すというマリアナ。それは、心の底からの言葉であった。偽りのないマリアナの本音だ。
(そこまでわしの事を……!)
マリアナの良く出来た女房の如きその言葉に、ミラは陥落した。そして確信する。もう、相思相愛で間違いないと。
「少しなどではないぞ。わしにとっては、マリアナが一番じゃからな!」
ミラがそう宣言すると、受話器の向こうから、はにかむように、それでいて喜びに満ちた声が返って来た。『私もです』と。
それから二人は、より親密な様子で、更に一時間にも及び話し続けた。冒険譚だけでなく、好きなもの嫌いなものといった定番から、深く私的な事まで色々とだ。
「随分と話し込んだものじゃな。もう、こんな時間じゃ。朝の忙しい時間にすまんかったのぅ」
存分に話した後、自然と生まれた間。丁度の頃合いと思われるところで、ミラはそう話の終わりを告げる。思い返せば連絡を入れた時、マリアナは塔の掃除をしているとクレオスは言っていた。つまりは今の今まで、それを中断させていたという事になる。
だがそれは、マリアナにとって些細な事だった。
『いえ、またいつでもご連絡ください。ミラ様以上に大切なものなどございませんので』
マリアナは、そう丁寧にはっきりと、心の底からの想いを伝えるように言った。それに対してミラもまた「わしもじゃ」と答え頬を綻ばせると、締まりのない笑顔を浮かべる。
「無理をせぬようにな。身体には気を付けるのじゃぞ」
『はい、ミラ様もご自愛くださいね』
互いを気遣う言葉をかけ合い、いよいよ通信終了間近となる。
「うむ、わかった。……ではな」
『はい』
終わりの言葉を告げて、ミラはそっと耳元から受話器を離す。だがこういった時、どうにも切りにくいというものだ。そしてそれはマリアナも同じようで、少ししてもまだ通信が切れる様子はなかった。
だからこそミラは、ここで男気をみせる。どことない抵抗を感じながらも、先に受話器をそっと置いたのだ。かちりと、通信が切れた音が小さく鳴った。
瞬間に、ふとした静けさを覚える。そして、急に遠くなったような感覚に寂しく思いながらも、ミラは通信装置に蓋をした。そしてそのまま、暫しそれを見つめる。
こういった機器を使えば、遠く離れていても話が出来る。文明が発達した世界では、既に当たり前の事。しかし、こうして改めてみると、それが余程の事だと気付くというものである。
交わしたのは他愛のない会話。けれど声さえ伝わるならば、遠く離れていても想いも伝わる。言葉とは魔法のようだ。ミラはその事を実感しながら、もぞりもぞりと押し入れから這い出した。
と、そんな時である。やはりというべきか、ミラの脳裏に少し興奮気味な声が響いてきた。
『ミラさんミラさん! マリアナさんとのお話、随分と長かったわねぇ。それに、一番、だなんて。ねぇ、ミラさん。どう考えても、ただの補佐官さんとは思えないのだけど。するとやっぱり、お嫁さんっていうのは……!?』
一時間以上に亘ってミラとマリアナで交わしていたやり取りは、二人の関係の深さを如実に物語るものであり、それをマーテルの嗅覚が逃すはずもなかった。お節介な親戚の如く、早速とばかりに首を突っ込んでくるマーテル。
『すまないな、ミラ殿。私用には余り触れるなと言っておいたのだが……』
『ワーズ君が聞いているのは良くて、私がダメだなんてずるいじゃない』
申し訳なさそうに謝罪する精霊王の声に続き、どうにも理不尽な言い訳を述べるマーテル。ワーズ君。つまり静寂の精霊ワーズランベールがミラの傍で、その会話を聞いているのに、なぜ自分は聞いてはいけないのかという主張だ。
なお、この声は当人にも伝わっていたようで、ここでまさかの言い訳に使われたワーズランベールは、明らかに狼狽える。かといってマーテル相手に反論する事も出来ず、その名に相応しい沈黙を守った。
『と、こんな調子でな。……ところで実際、そういう事だと思って良いのだろうか?』
数千年の孤独から解放されたマーテル。その色恋話への飽くなき探求心は、留まるところを知らぬようだ。そして、どうやら精霊王も、それに少々感化され始めたらしい。興味津々といった精霊王の声までもが、ミラの脳裏に響く。
『まあ、そうじゃな。聞いての通りじゃ』
マリアナとの関係。マリアナを好いているという事。もう特に隠しておくようなものでもないとして、ミラは堂々と肯定した。
『素敵! 素敵よ、ミラさん!』
『うむ、そうだな。良い感情だ』
ミラとマリアナの関係に、一層盛り上がりをみせるマーテルと精霊王。二人にとって男だ女だというのは余り関係ないようだ。
ただ、人と人の間に生じる愛という感情は尊いものだと、精霊王はしみじみと話す。そして、それを知る精霊は少ないのだとマーテルが続けた。
『あの頃、愛を知った彼は、とても嬉しそうだったわ』
愛を知った数少ない精霊、異空間を司る始祖精霊リーズレイン。彼の愛は悲恋で終わってしまったが、それでも当時は確かに希望に満ち溢れていたと、マーテルは語る。
『私、ミラさんの事、全力で応援するわよ!』
親身に、それでいて力強く宣言するマーテル。もしかしたら彼女は、色恋話が好きなのではなく、愛の行く先が幸せである事を確かめたいのかもしれない。悲恋で終わらぬ結末を。
『しかも、女の子と女の子だなんて……。いいわねぇ。燃えてくるわ!』
否、ただの偏食気のある色恋話が好きな精霊というだけかもしれない。
次の目的地、ハクストハウゼンに飛び立つ前。ミラは、必要物資の買い出しと称して、グランリングスの商店街に来ていた。
(残りは、二十万とそこそこか……。まあ足りるじゃろう)
ソロモンから貰った軍資金は残り僅かだが、余程の贅沢をしなければ問題はない。いざとなれば、集めた魔動石を売却すればいい。そう判断したミラは、商店街の屋台広場へと繰り出していった。
これまた人の集まるところには、どこにでもある印象の屋台。数多く立ち並ぶそれらは、様々な匂いを漂わせ、周囲の者達の食欲を煽る。空腹でなくても、つい誘われてしまう魅力がそこには詰まっていた。
もうじき昼時という事もあり、徐々に人が増えつつある屋台広場。各街の屋台を巡り歩いてきたミラは、慣れたものだと、そんな広場を華麗に駆け抜けていく。そして目ぼしい屋台を回り、次々に購入していった。
「これも美味そうじゃのぅ。買いじゃな。ほぅ、焼肉弁当か。これは鉄板じゃろう」
屋台では定番といえる料理から、手の込んだ弁当まで多くの種類を確保して、全てをアイテムボックスに保存していくミラ。その行動には、昨夜の夕飯時に感じた思いが影響していた。
その思いとは、実に今更であり、酷く単純なもの。つまり、出来合いの料理は手軽で美味しいという事だ。
初級から上級まで、多くの冒険者に人気のダンジョン、古代地下都市。その最下層まで攻略するとして、他の冒険者と同じように準備をしたミラ。その際、知らず知らずの内に、周りにいる多くの冒険者達の熱に当てられていた。
冒険者とは、キャンプして料理するもの。そのようなイメージがあり、どこか心の隅で憧れてもいたからか、ミラは完全にその気になっていた。
その結果が、大量の食材の買い込みだ。ミラ達、元プレイヤーが持つアイテムボックスは操者の腕輪と違い、収納したものの状態、食材ならば鮮度を維持し続けるという破格の性能を秘めている。
ゆえにミラは、その性能を大いに活かし、新鮮な食材を買い込んだ。と、ここまでは良かった。他の冒険者達より一歩先の食糧事情であり、不足気味な野菜類も豊富だ。
けれどミラには、それらのポテンシャルを最大限に引き出せる腕がなかった。となれば、価値も半減というものだろう。加えて、慣れていない分、手間もかかる。
そんな経験から行き着いた答えが、今回のこれである。美味しい料理が作れないなら、美味しい料理を買えばいいじゃない。というわけだ。
鮮度が保てるなら、出来立ての料理だっていつでも出来立てのまま。本当に今更な事だが、実際に現地で料理したという経験もまた、きっと無駄にはならない……はずだ。
「うむ、このくらいで十分じゃろう」
アイテムボックスに詰め込んだ料理の数々を確認したミラは、そう満足げに呟いて、屋台広場を後にする。残金の半分が屋台料理に変わっていた。
なお、屋台を巡りに巡り買い込んだ料理は、最終的に百種にまで及ぶ。おやつも含め、当分は食事に困らない量だ。
そうして大量に買い漁っていったミラが立ち去った後、やはりこれだけ一気に散財していったミラの事は、屋台店員達の間で噂になった。銀髪の美少女が、一人で食べきれるはずもない量を一度に買っていったと。
そして、そんな彼等は後に、組合で広がっていた噂、今流行りの精霊女王とは、銀髪の美女ではなく美少女だったという事を聞く。
組合での噂、屋台店員達の噂。そのどちらにも共通する容姿的特徴が、全て一致した。その結果、精霊女王という通り名に、食いしん坊という属性が付与される事になる。
だが、当の本人がそれを知るのは、ずっと先の事だ。
色々と動画を見ていたのですが、
その影響か最近、サバゲーに興味が出始めてまいりました。
運動不足解消と、ダイエットにも良さそうな気配がします。
いつか、余裕が出てきたらトライしてみたいものです。
そういえば、叙々苑ってあるじゃないですか。
美味しいですね、叙々苑。これがあの有名な叙々苑かと感動しました。
そしてこないだ買った土鍋でがっつりとご飯を炊いて、焼肉を堪能しましたよ!
お家でも楽しめる叙々苑の味!
とはいえ他のタレよりずっと高いので、そう頻繁には使えなさそうです。