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213 次の標的

二百十三



『まさか、そこまで話が大きくなっているとはね……。しかも調査隊に……か。でも、うん、状況はまあ、だいたい把握したよ』


 ミラが全てを伝え終えると、少しだけ間を置いてからソロモンの返事が響く。その声には、驚きと戸惑いが見て取れた。流石のソロモンも事の重大さに、少々困惑しているようだ。しかし、それも僅かな間の事。


『まずは、その骸の一部というものの足取りを追わなくちゃだね。そんな厄介そうなものがあると知った以上、放っては置けないし』


 ソロモンはいつも通りといった様子で、そう次の優先事項を決定する。この即断即決するところは、ソロモンが王になってから培われた資質である。


「となれば、やはりわしも一度帰ろうか? 骸を追うなら、どこかで必ず悪魔と遭遇するはずじゃからのぅ」


 たとえ最下級の、爵位のない悪魔であっても、その強さは中級の冒険者に勝る。それでいて今回、暗躍していると思しき悪魔は、伯爵三位未満。向こう側の情報が少なく、かなりの幅があるとはいえ、最悪の場合、子爵一位に匹敵するほどの強敵が現れる事もあるわけだ。手練れの上級冒険者が複数人は必要な難敵である。下手に調査員を送り込んだところで、返り討ちは必至だろう。

 つまり骸の追跡には、子爵一位であろうと打倒出来るだけの戦力が必要となるわけだ。ゆえにミラは、その役を担うというような旨を口にした。

 しかしソロモンは、それに問題はないと返した。


『大丈夫、こっちでどうにか出来ると思うから。君はそのまま予定通りに、孤児院を探しちゃってよ。僕としては、早く皆を見つけてくれた方がありがたいしね』


 どことなく暢気にも聞こえるソロモンの声。しかしそこには強がりなど一切なく、悪魔が相手であろうが本当に何とか出来るという確かな自信が窺えた。


「それならば良いが……。本当に良いのか?」


 疑うというよりは、友人を、そして国を憂うからこそ、ミラは今一度問う。するとソロモンは、『じゃあ、教えちゃおっかな』などともったいぶりながら、こほんと一つ咳払いをする。そして、満を持してとばかりに、


『何を隠そう、前々から育てていた精鋭部隊が、ようやく形になったんだよね!』


 と、いつもよりテンション高く、その自信の理由を話し始めた。

 何でも、今より十年ほど前。かの条約を締結したその日に、この計画は動き始めたのだとソロモンは言った。

 軍の中から才能溢れる若者を選抜。更にそこから厳しくふるい分け、過酷な訓練を耐え抜けた最精鋭チーム。精鋭中の精鋭であるその部隊の名は『ゲーティア』というそうだ。

 部隊の目的は至極単純。ルミナリア以外の九賢者が戻ってこなかった時のための備えである。

 今はミラが、かつての仲間達を探して東奔西走しており、結果カグラとソウルハウルに帰国の約束を取り付けている。九賢者が二人は戻って来る予定だ。

 しかし、それは運良くミラがこの土壇場になってやって来たからの結果でもある。終戦当時、未来にミラが来訪する事など、願う事は出来ても予期出来るはずはなく、またそれを頼りに出来るはずもない。そのため、それに代わる備えが必要だった。

 その備えが、かつて見せられたアーコードキャノン。始祖の種子を取りに行かされた、プロティアンドールという名の戦闘人形。最後のもう一つが、精鋭部隊ゲーティアだ。

 五組のツーマンセルからなるゲーティアは、前衛が一人、後衛が一人の計十人という編成になっているという。そして前衛をソロモンが、後衛をルミナリアが中心となって徹底的に鍛え上げたそうだ。

 なお、ゲーティアの訓練には、必ず聖術士の塔の代行が同席していた。むしろ代行の彼女がいなければ、訓練が始まらなかった。重傷が日常茶飯事だったほど、その訓練は苛烈を極めていたからだ。


『君達ほどとはいかなくても、それなりに戦況を左右させる事が出来るくらいにはしなくちゃいけないからね。約十年で、よくここまで来れたと正直僕も感動しているよ』


 大陸最強と謳われる九賢者。その代役を務められるだけの力を十年で。中々無茶な話であり、完全な代役は当然無理だが、そこそこ形にはなったとソロモンは嬉し気に語る。


『で、決め手は先日君にも話した宝物庫の財宝! 強力な武具も沢山あったからね、予定よりもずっと高品質な装備で揃えられたよ。しかも相性も良さそうで、予定していた戦力を三割は上回っているように見えたね!』


 ソロモンの話は更に続いた。宝物庫の財宝。それは、先ほどまで話していたネブラポリスの地下に眠っていたものである。そこには金銀財宝だけでなく、秘宝クラスの武具までもが揃っていた。どうやらソロモンは、それらの武具をゲーティアに優先して与えたようだ。

 武具の違いによる戦力差は、なかなか侮れない。特に、不思議な力を秘めたものなら尚更である。

 結果、一組毎の強さは、十分信頼に足るものになったとソロモンはご機嫌だ。


「なるほどのぅ……。つまり、その部隊を追跡に充てるという事じゃな」


『そういう事。あとは実戦経験を積ませるだけでね。今回の追跡は、丁度いいかもと思ったんだ』


 わざわざミラが戻るまでもないという理由。それはつまり、この部隊の投入を意味したものだった。

 聖騎士の中でも最高クラスであるソロモンと、大陸最強の魔術士ルミナリア。この二人に鍛え抜かれた精鋭が、超一級品の武具を扱う。それは確かに悪魔が相手としても後れは取らぬだろうという説得力があった。

 聞いた限り、子爵一位クラスどころか伯爵級が相手でも後れはとらぬだろう。もしもここで後れをとっていては、九賢者の代役など務まるはずもない。そういう事からも今回の件は、最終試験も兼ねているとソロモンは明かす。


『そんなわけでさ、近いうちにゲーティアと調査員の混合チームを任務に当たらせるから、君は君で動いて大丈夫だよ』


「ふむ、そのようじゃな。では、そうさせてもらうとしようか」


 ソロモンが自信をもって言うのなら、ゲーティアとはきっと間違いなく精鋭なのだろう。よってミラは、そう気兼ねなく了解した。



『ところでさ。確か、その孤児院がある場所って、グリムダート北東の山奥にある名もない村、だったよね? 場所の見当はついているの?』


 そうこうして話は再び、ミラの任務に戻る。

 聖術の賢者アルテシアらしき人物の影が垣間見える孤児院。ミラが初めに持ち帰ったその孤児院の情報は、ソロモンが言ったようにグリムダート北東の山奥にある名もない村、という事だけだった。

 なお、その話からソロモンは調査に幾らかの人員を送ったそうだ。しかし、相当に情報が出回っていないのか、それとも何かしらの力で規制されているのか、それらしい村は発見出来なかったという。


「その点には、ちと考えがあるのじゃよ」


 一国の王でも探り切れなかった村の情報。それをやってのける作戦があると、ミラは堪らずほくそ笑む。


『へぇ。それは凄いね。どんな考えなんだい?』


 興味が引かれたのか、ソロモンの声の調子が少し上がった。その様子にミラはますます調子付き、「ふむ、聞きたいか?」と問い返す。


『聞きたい聞きたい!』


「ならば仕方がないのぅ」


 ソロモンの興味津々といった声が響くと、ミラはもったいぶるようにそう言って、思い付いた作戦を堂々と語る。上手くいくかどうかも未知数であるにもかかわらず、自信満々に。



 ミラが考えた作戦。それは、怪盗ファジーダイスを捕まえるというものだった。

 聞いた噂によると、怪盗ファジーダイスは孤児院に寄付をしているらしい。とするならもしかしたら、その名もない村の孤児院の事も知っているのでは。そんな、実に単純な結びつけである。


『へぇ、なるほどねぇ。悪くないんじゃないかな』


 しかし思いの他、ソロモンの反応は上々だった。何でも、どれだけ調べようと情報が出てこなかったというのが、一つのポイントだとソロモンは言う。

 まず孤児院というのは、そのほとんどが三神教教会の管理によって運営されているとの事だ。そして次に多いのが、一部の貴族達による慈善事業の一環。更にここから数は減るが、自治体などによる共同出資での運営もあるという。

 そして、これらの孤児院はほとんど国が把握しているそうだ。教会にしろ慈善事業にしろ共同出資にしろ、グリムダートでは孤児院の運営について、色々と得な制度があるらしい。

 つまり、その辺りを調べれば、全ての孤児院もまた調べられるそうだ。だが、名もない村の孤児院は見つけられなかった。その原因は一つ、登録されていないという事だ。

 孤児院には金がかかり、それらには全て、出資者がいる。そして出資者は、その事を国に申告すれば優遇を受けられる。これを利用しない理由など、そう思い付くものではない。後ろ暗い考えを持った者が関係しているか、それとも出資に不透明な部分があるかだ。

 後ろ暗い考え。もしも本当にアルテシアが関わっていたとしたら、これはまず無いと思われる。子煩悩なアルテシアが、子供達に害を成す事はあり得ないからだ。あるとしたら、彼女自身が子離れ出来るかどうか、といった点くらいだろう。

 となれば、残るは運営資金の出所である。噂によると名もない村の孤児院は、百人を超える孤児を受け入れたらしい。その費用は相当だろう。たとえ本当にアルテシアがいたとしても、聖術士が魔物退治で稼げる金額はたかが知れている。また専門とする聖術で稼ごうものなら、その腕前がまず噂になるはずだ。しかし、そういった話も特になかったとソロモンは付け加える。


『教会管理にするにしても資金に限界はあるし、何より山奥の名もない村だと、その教会があるかどうかも怪しい。加えて一般の寄付金も当てにならない。それでいて百人を超える収容人数とか、正直僕も正攻法じゃあ活路を見出せないよ。けど、その運営資金を怪盗の寄付でまかなっている。これなら教会にも国にも登録がないという理由にも頷ける。君にしては良く考えたね。十分にあり得る話だよ』


 怪盗ファジーダイスなら、名もない村の孤児院を知っている。それは完全にミラの単純な思い付きだったが、色々とソロモンが補足した事によって、思いの他現実的な輪郭がそこに整ってきた。


「そうじゃろう、そうじゃろう!」


 結果ミラは、いつも以上に調子に乗った。君にしては、という部分を見事な難聴でスルーしたミラは、ソロモンに褒められてご機嫌な様子だ。『凄い凄い』とソロモンが続けたところ、「ちょっと考えたらピンときたわい!」などと口にして悦に入るのだった。




『で、怪盗を捕まえるとして、どこにいるかとかの当てはあるのかい?』


 一通りミラを調子付かせてから、ソロモンは改めるようにそう訊いた。怪盗ファジーダイスは神出鬼没。その正体だけでなく、当然隠れ家や拠点といった事も何一つわかってはいない。そんな人物を、どうやって捕まえるのか。

 けれどミラには、最近仕入れたばかりの新鮮な情報があった。


「うむ、あるぞ。ハクストハウゼンにある商会に、予告状が届いたという話じゃ。向こうから現れてくれるならば、アジトなどを探すよりも手っ取り早いじゃろう?」


 ミラは調子に乗った勢いのまま、そう語る。他にも、怪盗ファジーダイスの正体を暴く、隠れ家を見つけるなどといった方向でのアプローチもある。だが、わざわざ予告状で時間と場所を指定して来てくれるのだ。もうそこに立ち会った方が早い。ミラはそう考えていた。


『お、予告状が届いたんだ! それなら確かに出向いた方が早いね。そして怪盗と対決かぁ。今までで結構高名な冒険者が怪盗捕縛の任務を受けて、その誰もが触れる事すら出来なかったって話だけど、どうなるかなぁ。捕まえられるかなぁ』


 そう言ったソロモンの声は、少し弾んでいた。どうやら、ミラ対怪盗ファジーダイスという大一番を楽しみにしている様子である。そんなソロモンにミラは、「当然、捕まえられるに決まっておるじゃろう」と、さも当然とばかりに答える。余程自信があるようだ。


『もしかして、作戦とかあるのかい?』


「もちろんじゃ。必勝じゃよ、必勝」


 探るようなソロモンの問いに、ミラは更に調子よく答えた。


『おおー、凄いね。どんなのか教えてよ』


「それは内緒じゃ。その内、怪盗がわしの手で捕まったというホットなニュースが駆け巡るじゃろうからな。それで知るとよい!」


 怪盗相手に必勝の作戦。ミラが考えるそれは、今傍にいるが、もったいぶるミラは不敵な微笑みを浮かべて、そう宣言した。

 他にも、お話や買収、尾行など、孤児院の場所を知る方法は幾らか考えられるが、ミラにとっては怪盗すなわち捕まえるという図式しかないようだ。

先日、遂に買ってしまいました。

運動不足を解消するための秘密兵器、エアロバイクを! 折り畳み式です!


これはいいですね。大好きなゲーム実況を見ながらお手軽に運動が出来ますよ!

今は毎日、30分以内に7.5km×2本を目安に漕ぎ漕ぎしております。

何だか健康的な気分です。

けれど、問題もありました。お尻が痛くなるのです。

ジェル入りのサドルカバーをつけた事で結構軽減されましたが、やはりまだ気になるレベル。

なので昨日、密林さんでレーサーパンツをぽちってしまいました。お尻に緩衝材が入っているようで、更に軽減出来そうだからです!

健康ライフはこれからだ!


追伸

先月末発売したにもかかわらず、即売り切れで買えなかった2broTシャツが受注生産受付中だとか。

早速、三枚セットを注文してしまいましたよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪魔という言葉がでてきて調査隊が怪しいとなると、名前からしてソロモン先生も怪しくなってくるんだけど、ソロモン先生今のところ普通のいい人なんだよなぁ。この先どうなるんだろ
[一言] しりが痛くなるね…わかるよ…( -∀-) 今吾輩はその痛みに耐えしのいでる時じゃ…( -∀-) 友達に自転車を借りたは、良いけどサドルが細いタイプで 更には数年ぶりに乗るもんだから、使う筋…
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