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210 通信報告

二百十



 ミラは早速、受話器を手に見つけた番号のボタンを押した。するとどうだろうか、これまでうんともすんとも言わなかった通信装置から、ピッピッと音がし始めたではないか。

 確実に正解の番号だ。そして今、相手を呼び出しており、この音はその待機音なのだとミラは直感した。無線機のようでありながら電話っぽい通信装置である。


『こちら、ソロモン』


 音が鳴り始めてから数秒ほど経過した時、受話器から待望の声が聞こえてきた。音量はそこそこありワゴン内にまで響くので、どこからか聞こえてきた声にワーズランベールは驚き、そしてこれは凄いと、より通信装置に注目する。


「おお、繋がりおった! わしじゃわしじゃ!」


 どうなるかと思ったが、無事に回線が繋がった。ミラはその事に喜ぶと、受話器に向かってそう声を上げる。


『ああ、君か。君から連絡だなんて珍しいね。何かあったのかい?』


 相手がミラとわかったからか、ソロモンの口調がいつもの調子に戻った。どこか懐かしくすら感じる友人の声だ。そこに何となく安堵を覚えると、ミラは現状を口にする。


「あったと言えばあったが、まあ色々と報告しようと思うてな。まずはじゃのぅ──」


 ミラは、今回の遠征の目的であったソウルハウルの件について伝えた。見事、古代地下都市でソウルハウルと再会する事が出来たと。そしてその際に、ソウルハウルが上級の術が使えない状態だった事と、精霊王の力を借りてその封を解除した事を説明する。


『なるほどねぇ。上級の術を代償に……。それで尚、計算通りの場所にいたって事は、彼の実力は今、相当なものになっているってわけだね』


 どこか期待に満ちたソロモンの声が響く。

 聖杯作りのため大陸中を転々とするソウルハウルの目的地として、古代地下都市に狙いを定めたのは、まずソウルハウルの当時の実力も勘案して試算したからだ。まさか上級の術が使えない状態などとは思わず計算し、その結果、計算通りにソウルハウルと遭遇出来た。つまり今のソウルハウルは、中級だけでも、上級の術まで使えた当時と同等の実力というわけである。


「まあ、そうじゃな。だからこそ、二人だけでマキナガーディアンを討伐出来たというものよ」


 進化したソウルハウルの術を間近で見ていたミラは、そう肯定すると、続けてマキナガーディアン戦についても触れていく。

 大規模レイドボスであるマキナガーディアン。それをたった二人で倒すに至る使役系二人だったからこその戦術。正に鉄壁ともいえるほどになったソウルハウルの巨壁。そして聖剣を携えた軍勢による数の暴力。目まぐるしく変化する戦場、マキナガーディアンの行動の変化。

 少々話を盛りながらもそれらを自信満々に語ったミラは、


「で、討伐した時に、中から機械仕掛けの人形が出てきてのぅ」


 と続け、その人形が残した謎のメッセージと、受け取った金属片についても話した。謎のメッセージについては、しっかりとメモしていたので、一言一句間違えずに伝えられた。


『黒き月が昇る時、闇は訪れる。我が、至高のガーディアンを討滅し、試練を乗り越えた勇者達よ。我らが力、受け継ぐに値すると判断した。これを持ち、来るべき侵略者との戦いに備えよ、か。これは意味深だね。で、謎の文様が刻まれた金属片も一緒に受け取ったと』


 何かにメモしているようで、ソロモンは再確認するように、ゆっくりとメッセージを繰り返す。


「うむ。今までになかった事じゃろう? それともう一つ、業務日誌のようなものも見つけたのじゃが、文字抜けしていてのぅ。要領を得ぬのじゃが、こちらもまた、どうにも意味深でのぅ」


 ミラはそう前置きすると、「メモの準備は良いか?」と口にしてから、読める部分だけを音読した。

 マキナガーディアンの残骸から出てきた、業務日誌。焼け焦げて一ページ目しか残っていなかったが、読める範囲でも、日本支部といった気になる単語があり、実に謎めいている代物だ。


「と、こういった内容でのぅ。何やらこの世界の秘密に関係していそうじゃと、ソウルハウルの奴とも話したのじゃが、お主はどう思う?」


 一通り伝え終えたミラは、最後にそうソロモンに問うた。するとソロモンは、暫しの沈黙の後、『その可能性は高いね』とミラ達の推察に同意する。


『その一ページだけでも、古代地下都市の誕生に、日本の事を知る者が関わっていたという予想が立てられる。で、古代地下都市の歴史は、僕らがこの世界に来るよりずっと古い。そんな時代に日本の影がちらつくその日誌は、新事実として考察する価値が大いにあるよ』


 そう初めに口にしたソロモンは続けて、それが、謎のメッセージを遺した者と同一人物なのか、または別の者なのだろうか。そして力を受け継ぐという言葉と金属片が、どのように関係しているのか。それとも、これらは別々の案件なのかと思案し始める。


「時にソロモンや。これらは、早く持ち帰った方が良いか?」


 あれやこれやと呟き続けるソロモンに、ミラはそう切り出す。今回の報告にわざわざ通信装置を利用した理由であり、ここからがある意味本題だ。


『それはまあ、現物を見てみたくはあるけど……。そう言うって事は、やっぱり通信装置を使った事に何か意味があったわけだ』


 報告などについては、帰還してから、いつも通りに執務室で直接話した方が伝わり易い。しかし今回ミラは、それを通信装置で行った。ソロモンは、『よし、ちょっと考えるから待ってね』と口にして、再び思案を始めた。どこか、クイズに挑むようなノリである。


「今までの間に材料は揃っておる。お主に答えが導けるかのぅ」


 ミラもまた直ぐに理由を口にせず、むしろ出題者の如く堂々とふんぞり返っていた。久しぶりに始まった二人遊びの一つだ。




『そうか、わかったよ!』


 一、二分ほど経ったところで、ソロモンが喜色交じりの声を上げた。どうやら、ミラがわざわざ通信装置で報告した理由に気付いたようだ。


「して、答えは?」


 試すようにミラが問うと、ソロモンははっきりと答えた。『ずばり、孤児院を探しに行こうと思っていたんでしょ』と。


「ぬぅ……正解じゃ」


『やっぱりねー。でも確かに、報告に戻るより、そこから探しに行った方が早いし効率的だよね。むしろ僕としては、よく君がそれを思い出したなって感じなんだけどさ』


 ミラが悔し気に肯定すると、ソロモンは半ば笑いながらそう続けた。あれやこれやと忙しく駆けずり回っていながら、このタイミングで気付けた事は素晴らしいと。


「当然じゃろう。わしを誰だと思っておる」


 実際は、宿のロビーで怪盗ファジーダイスが現れたという噂を耳にしてから、その関連で思い出せた事だが、当然ミラはその事に触れずただただ胸を張った。


『そうだね、流石だね。それで、最初の質問についてだけど、僕の答えは、そこまで急がなくていい、だよ』


 ソロモンは自信に満ちたミラの言葉を受け流しながら、早く持ち帰るべきかどうかという問いに、その必要はないと返した。


『今、うちの頭脳労働組は、大忙しでね』


 ソロモンは苦笑気味にそう言うと、古代神殿ネブラポリスの地下にあった大空洞の調査が進展した事を告げた。

 なんと、大空洞内で枯れ果てていた植物。これらの正体がわかったという。それは、ある一部の場所でのみ採取出来る草花ばかりだったそうだ。そしてその一部の場所というのは、大陸中に点在する白い柱を囲む花畑であった。


「ほぅ、あれか……」


 呟きながら、ミラは大陸中に点在する白い柱の花畑を思い浮かべる。その柱が何であるのかは不明。ただ、その周辺ではエンジェルドロップという特殊な薬草が採取出来る事で有名だ。なお、その薬草によって治療出来る病は、『亡者病』という。その名の通り、生きながらも死者のようになってしまい、やがて正気も失うという恐ろしい病である。


『それがわかった時、あの大穴もまた何だったか見えてきてね』


 大空洞にあった深さ百メートルを超える大穴。それは状況から考えると、巨大な白い柱が立っていた跡だろうと予想出来たそうだ。それを踏まえて、大穴を詳しく調査した結果、その真下には巨大な霊脈が通っている事が判明したらしい。

 霊脈といえば、古来より様々な事柄に関係してきた重要な力場だ。そこにあった白い柱が、何かしらの要因でなくなった。そしてそれは状況的に考えて、悪魔がした何かによるものだと推察出来る。


『とまあ、調査はここまで進んだんだけど、ここから先で難航しているところなんだ』


 そもそも、霊脈の上にあった白い柱には、どのような役割があったのか。消えてしまったため、それを追求する事は困難であり、今は大陸各地に残る白い柱を代わりに調査してみようという案が浮かんでいるとの事だ。ただ一つ、柱が消えた要因が悪魔であるという事からして、まず嫌な予感しかしないとソロモンは苦笑する。


「そうじゃな。悪魔が関わっている以上、何もないなどありえぬからのぅ……」


『というわけで、うちの頭脳労働組は、勤勉というか、むしろこういった謎の究明が大好物な者ばかりで忙しくてさ。今、君がその金属片を持ち帰ったら、興味が二つになっちゃうでしょ? そうなると、きっと文字通り寝る間も惜しんで没頭しちゃうと思うんだ』


 特にスレイマンあたりは、ミラが持ち帰る話や情報が最近の楽しみのようで、そこに今回の件を投げ込んだら過労死するのではないかと、ソロモンは冗談半分に、だが半分は本気でそう続けた。


「ふむ……なるほどのぅ。余り無理はさせられぬな。それと柱についても気になるところじゃ」


 ソロモンが急がなくていいと言った理由に納得したミラは、その要因となっている白い柱について興味を惹かれた。

 白い柱。大陸のあちらこちらに点在する謎の構造物だ。その存在理由は不明であり、プレイヤー間では特殊なクエストに使用するアイテムの採取地点としてしか認識はされていなかった。

 だが、この世界が現実となり、あらゆるものが歴史と意味を持った今、果たして白い柱は何なのかという謎が深まった。


(歴史と謎か……)


 プレイヤーならば誰もがゲーム当時から感じていた事。それは、この世界の広さだ。しかもただ広いだけでなく、そこら中に色々な要素が散らばっていた。

 白い柱に限らず、大陸には観測しきれないほどの謎が多く存在しているのだ。そして、その存在の意味を追及する酔狂なプレイヤーもまた、ちらほらといたものである。

 ミラは久しぶりに端末からフレンドリストを開き、そこにある名前に目を通した。そして、一人の名前を見つける。

 その名は、アウトディ・ドルフィン。考古学者を自称していた、酔狂なプレイヤーの一人であった。


「今調べてみたのじゃが、ドルフィン博士もこの世界に来ておるようじゃな。奴ならば、何か知っていそうではないか?」


 ひたすら謎とロマンを追い求め、大陸中を駆け巡っていたアウトディ・ドルフィン。当時と変わらず好奇心旺盛なままならば、当然、確認出来る全ての白い柱についても調査しているはずだ。

 調査員を送るよりも、彼を探して尋ねた方がいいのではないだろうか。ミラがそう提案したところソロモンは、『それもいい考えだけど……』と少し言い淀む。


『問題は、調査をどこまでやり遂げているかという事だね』


「あー……確かにその通りじゃな」


 自称考古学者のアウトディ・ドルフィン。彼の考古調査は気の向くままにが基本であった。心血注いで調べているものが目の前にあっても、それ以上に興味を惹かれるものが出てきた時、即座にそちらへ走っていくという性質なのだ。済んだら戻ってくるものの、次から次に浮気するため、中途半端なままにされた謎もまた沢山ある。


『更に探して訊こうにも、個別チャットで直接連絡がとれない今、彼に繋がる手段も思い付かないしねぇ。捕まえられるかどうか』


 果たして、白い柱についてはどうなのか。それだけでも聞ければいいのだが、彼ほど落ち着きのない考古学者(自称)もいない。追って捕まえるには、九賢者探しと同じくらいの労力を要する事だろう。


「繋がる手段のぅ……」


 そう呟いたミラは、ふと、繋がる、という単語で思い付く。精霊王の加護の力は『繋ぐ』であったと。もしかしたら、ドルフィンと繋がった縁を辿り見つけるなんて事も出来たりするのではないだろうか。そうミラが淡い希望を抱いた時だ。


『ミラ殿。少し訊いてもいいだろうか?』


 丁度その本人からの声が脳裏に響いた。何やら質問があるようだ。


『何でもよいぞ』


 ミラは珍しい事もあるものだと思いつつ、そう答えた。すると、精霊王の質問は、ミラの予想を超えて、ドルフィン探しの理由を覆すようなものだった。


『先ほどから話に出てくる白い柱というのは、もしや『天地転換の四十八柱』の事か?』


 全くの正体不明でどうしたものかと話し合っていた白い柱について、精霊王は、さらりと正式名称らしきものを口にしたのである。


「なん……じゃと……?」


 思えば、悠久の時を生きる精霊王ならば、あの白い柱の正体を知っていても不思議ではない。むしろ真っ先に訊くべき相手だ。

 調査員の頑張りに少々感情移入していたミラは、それらを一蹴してしまうだろう精霊王の言葉に思わず声を上げたのだった。

前々から気になっていたお腹回り。

いよいよ魔法に頼る事にしました。


トクホという魔法に!


夕食時に毎日飲んでます。トクホコーラ。

効果あるかな。あったらいいな。


加えて最近、おかきにはまっております。

テレビで見た老舗のおかきがとても美味しそうだったのです。


そのおかきではありませんが、スーパーで色々買ってみました。

お気に入りが見つかりました。

昔はポテチにチョコやクッキーといったものばかりを好んでいましたが、

おかきもいいものですねぇ。

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― 新着の感想 ―
もう精霊王に聞けば大抵のことが解決する笑
[気になる点] 精霊王の前の女が元世界の話をしなかったのも理由がありそう
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