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208 評判

忘れたであろう頃にもう一度


書籍版7巻が、通常版、ドラマCD付き限定版揃って発売中です!

そしてコミックス版も1巻が発売中となっております。

よろしくお願いします!

二百八



 とても高級な宿で一夜を過ごしたミラは、朝になってから少しだけ起きる事に抵抗した後にトイレを済ませ、朝風呂で眠気を吹き飛ばした。そして現在は、朝食の最中である。


「やはり肉じゃな。肉は良い」


 この日の朝食は、コンソメスープとフルーツジュース、そしてメインがサンドイッチだ。ローストビーフとチーズにトマト、そしてレタスを挟んだサンドイッチ。朝ながらボリューム満点でバジルソースが抜群なそれは、ミラが昨日の内にリクエストしておいたものだ。

 流石は一泊十五万の部屋というべきか、ここに宿泊すれば宿一番の料理長に、朝食を好きなように作ってもらえるという特典があった。ミラはそれを利用して、夕食のローストビーフを朝も食べたいとリクエストした結果、このサンドイッチが出てきたという事だ。


「これほど贅沢なサンドイッチは、食べた事がないのぅ」


 一つ目をぺろりと平らげたミラは、二つ目に手を伸ばしながら、機嫌良く呟く。そのサンドイッチは、パンに挟まれているだけではなかった。パンに挟まれたローストビーフが、チーズやトマト、そしてレタスを挟んでいるのだ。あの絶品ローストビーフが惜しげもなく使われた極上の一品。それがあと二つ。しかも、ローストビーフとレタスは共通のまま、残りの二つは他の具材がまた違う。チーズがクリームチーズだったり、玉子やキノコのソテーなどなど、どちらも違った美味しさで、ミラは朝から大満足だった。



 朝食も終わり充実した気分でチェックアウトしたミラは、ペガサスの背に跨って、そのまま冒険者総合組合に向かった。

 組合は、やはり多くの冒険者が集う街だけあって、朝から大忙しだ。各種の手続きやら何やらで大混雑している。けれど今回、ミラがここに来た目的は別のところにある。

 ミラは騒ぎを横目で眺めながら、人の合間をすり抜けていき、組合の隅に佇むリサイクルボックスの前に立った。


「こういうのは大事じゃからな」


 さりげなく律儀なミラは、使い終わった古代地下都市の許可証をリサイクルボックスに入れる。すると小さな少女の幻影が現れて『ご協力、感謝だよ』と笑い消えていった。何度見ても、謎技術である。

 と、こんな朝早くにリサイクルボックスの声がしたからか、振り向いた者達の一部が声を上げた。あそこにいるのは、もしかして精霊女王じゃないのかと。すると一斉に、周囲の者達の視線がミラに集中した。

 グラマラス美女と噂されていた精霊女王が、実は可愛らしい少女だった。ミラが古代地下都市を攻略している間に、その真実が浸透していたのだろう、「本当だ」「あれが精霊女王ちゃんか」「可憐だ」などという肯定の声がそこかしこより聞こえてきた。


(ふむ、わしもセロのような有名冒険者の仲間入りじゃな!)


 自身に向けられた期待するかのような視線に応え、ミラは我こそが精霊女王だとばかりに堂々とふんぞり返る。しかしそうしていると寄ってくる者もまた多かった。

 当時の戦いについてや精霊王との関係、共に戦ったジャックグレイブについてどう思うか、エレオノーラの誘いを断ったのは本当か、レジェンドオブアステリアというカードゲームを御存じだろうか、イニシャルM、Tさんというファンの方より贈り物が届いているが受け取りはどこの組合窓口がいいか、パンツは何色かなどなど、ミラは激しい質問攻めにあった。


「……すまぬが、急ぎの用事があるのでな!」


 終わらない質問攻めにとうとう堪らず、ミラは《空闊歩》で群がる者達の頭上を飛び越え逃走した。その途中、一つだけ聞き逃さなかった声に、ミラは答える。「ルナティックレイクの組合で頼む」と。


「畏まりましたー」


 そう組合員の声が響く中、組合には残念そうな声もまた方々から上がる。中には素早く逃げ出したミラを見事だと感心する者もいた。更には思わぬタイミングで質問の答えが得られた一人が「水色か」と、天井を見上げたまま満足げに笑っていた。




「ふぅ、あれから一週間と少しで、随分と状況が変わっておったな」


 遠くセントポリーでの情報が、ようやく伝わって来たのか、それとも来た当日にミラが直接言った事が効いたのか、その両方か。今はグラマラスな絶世の美女という間違った精霊女王のイメージが、しっかりと本来のミラの容姿で伝わっているようだ。


「しかしまあ、これはこれで大変じゃのぅ」


 有名人になるのは大変だ。そう感じながらも、称賛の雨は気持ちよかったと、少しだけ優越感に浸るミラ。そして今一度、一瞬聞こえた声を思い返す。


(わしのファンとは、何ともわかっておるではないか!)


 そう自画自賛しながら、ミラは悠々と歩き出した。



 自身の知名度を再確認したミラは、これなら召喚術復興の日も近いとほくそ笑みつつ、組合の敷地内にある駐車場へ向かった。

 駐車場には利用者だけでなく、馬車のワゴンも沢山並んでいる。厩舎も別にあるが、馬の頭数はワゴンに比べ随分と少ない。つまりそれだけ、死霊術の牽引ゴーレムといった存在が活躍しているという事だろう。

 冒険者にとって馬車は、大事な財産だ。それと同時、一種のステータスでもあった。価格そのものに加え、維持費などもかかるため、とても駆け出しの冒険者が持てるようなものではない。特に固定でグループを組む冒険者達にとっては、最初の目標にもなるものだ。

 ゆえに馬車は、その利便性だけでなく、安定していたり稼ぎが良かったりする事を表す看板になる。

 そんな馬車が、ここには沢山並んでいる。つまりは馬車を持てるだけの者達が、この街にはこれだけ集まっているという事でもあった。


(先ほどまでは似たようなものばかりであったが、ここの馬車のデザインは、千差万別じゃのぅ)


 駐車場の係員に番号の書かれた預かり証を渡し、その場所まで案内してもらっている中、ミラは周囲を見回しながら特徴的な馬車の数々を観察していた。

 ミラのワゴンがある場所は上級冒険者専用となる屋根付きの駐車場だが、そこに至る前に屋根なしの駐車場を横切った。その際、無数に並ぶ馬車を目にしたものの、そのほとんどが似たり寄ったりのデザインである幌馬車であり、如何にも典型的な冒険者風だとミラは思ったものである。

 だが、屋根付きの駐車場は違った。そこに並ぶ馬車には、一つとして同じデザインのものがなかったのだ。

 居住性や走行性、そして耐久性。上級冒険者の馬車は全てに特別な改装が施されており、上級らしさを見せつけている。しかし見たところ牽引用ばかりであり、やはり上部に飛行用の支柱が付いたミラのワゴンは、その中でも一際異彩を放っていた。そのためか、駐車場を利用する冒険者達が、何かと注目している様子でもあった。


(さて、まずは通信装置が使えるかどうかじゃな……)


 案内の係員に礼を言ってから、冒険者達の目を逃れるようにそそくさとワゴンに乗り込んだミラは、早速とばかりに押し入れの戸を開き、そこの奥に設置されている通信装置の確認を始めた。

 通信装置の入った黒い箱は押し入れの中に固定されているようで、動かす事が出来ない。なのでミラは上半身ごと押し入れに潜り込み、無形術の明かりを頼りにして確認作業を進めていく。ちょっとワゴンの窓から中を覗けばパンツが丸見えの体勢なのだが、ミラにそれを気にした様子は当然なかった。

 黒い箱の蓋は、外した後適当に転がしておく。中には、これまた黒い機械が入っていた。

 機械には受話器があり、ミラはカグラと通信装置で話した時のように、取るだけで繋がってくれないかと思いつつ、それを手にする。


「おーい、ソ──」


 ソロモンと言いかけたところで、ミラはふと気付き受話器を置いた。もしもこのまま繋がった場合、報告するのは国家機密だ。

 現在、周辺には駐車場を利用する多くの冒険者がいる。どこでどのような聞き耳が立っているかもわからない状況だ。このまま報告して、それが誰かに聞かれていた場合、九賢者探しについて様々な憶測が飛び交う事になるだろう。

 今は、限定不戦条約の期限内。その内容は戦争と、それに準じる全てを禁止するというもの。行方不明の自国民を捜索しているといえば問題はなさそうだが、九賢者という存在を戦力としてみると、当然事情は違ってくる。

 事実、来るべき条約期間満了に備え防衛力を確保するためにも、最強の矛でもあり盾でもある九賢者を集めているという行為は、かなり際どいところであるといってもいい。

 場合によっては今ミラが行っている任務、九賢者探しは戦争のための行為とされ、各国より糾弾される恐れもあるのだ。

 とはいえ、自国民の捜索という建前がある以上、糾弾されたとて最終的には違反ととられる心配はないだろう。だが確実に、九賢者が揃っては不都合な者達からの妨害が、今後ミラに多く降りかかるはずだ。

 それは凄く面倒くさい。そう思ったミラは、盗聴されないように対策を講じる事にした。

 ワゴン内にロザリオの召喚陣が浮かび上がる。そしてそれはミラが詠唱するほどに淡くなり、召喚術が発動した瞬間、霞のように薄く消えていった。


「昨日とは違って、今日は随分と狭い場所ですね」


 気配もなく音もなく現れたその者は、静寂の精霊ワーズランベール。マキナガーディアン戦に続いて二日連続の召喚になった彼は、ワゴン内を見回しながらそう口にした後、「ああ、よく見るとミラさんに初めて出会った所ですね」と、どこか嬉しそうに微笑んだ。


「その時、わしは寝ておったがな」


 対してミラは、苦笑気味に応える。初めての出会いは、ワゴンで眠っていたミラをワーズランベールがこっそり攫っていった時。その際ミラが目を覚ましたのは湖の中だ。


「そういえば、そうでしたね」


 相手を認識した時を出会いとするなら、ミラにとってワーズランベールとの出会いは、真っ暗な湖の中という、少し不気味にも思える状況だった。だがワーズランベールにとっては、それもまた楽しい思い出のようだ。


「それで今日は、どうしましたか?」


 状況からみて、今は明らかに戦闘中などではない。ワーズランベールは窓から外を確認しながら、そうミラに問いかける。


「うむ、実はじゃな。これから他には漏らせない秘密の話をする予定でのぅ。お主には盗聴防止を頼みたいのじゃ」


「なるほど、わかりました。お安い御用です」


 快諾したワーズランベールは、早速とばかりにその静寂の力を行使する。見た目には変化もなく地味な印象は拭えないが、その効果は覿面である。


「うむ、流石じゃな!」


 周辺への音の伝達の一切を断つ静寂の力。その効果は、僅かに聞こえていた外の騒音も完全に断ち切っており、ワゴン内は微かな呼吸の音すら聞こえるほどの静寂に包まれていた。


「後は、上手く繋がるかじゃのぅ……」


 場は完璧に整った。残すは、通信装置でソロモンと連絡をとれるかどうかだ。

 ミラは、再び押し入れに上半身を突っ込んで受話器を手にした。そして、繋がっているように願いながら、「ソロモンやーい、聞こえるかー」と呼びかける。

 五秒経ち、もう一度呼びかける。また五秒後に呼びかける。けれど、やはり受話器を取っただけでは繋がらないようで、一切の反応もなかった。


「ふーむ……。やはり何かしらの操作が必要なようじゃな……」


 受話器を戻したミラは、通信装置にある色々なボタンやレバーを調べながら、唸り声を上げる。


「ミラさん、それは何でしょう?」


 誰もいないのに黒い物体に話しかけ続けるミラ。その行動が気になったのか、ミラの背後から覗き込むようにして通信装置を見つめていたワーズランベールが、そう疑問を口にした。


「これはじゃな、魔導工学という技術で作り出された通信装置じゃ。遠くにいる者と会話が出来るという優れものじゃよ」


 ミラは、あーでもないこーでもないと装置を弄りながらも、少し得意げに答える。通信装置はまだまだ高額で、更に規制も厳しく一般に普及しているようなものではない。それが備え付けられているワゴンといえば、軍用か、一部の貴族用くらいのものだ。ゆえにミラのワゴンは特別だ。

 という話をソロモンに聞いていたミラが得意げになるのも仕方がない。けれど、そういった事には余り関心のないワーズランベール相手には無意味だった。


「なるほど。遠くと会話をするために、人はこのような道具を使うのですね」


 ワーズランベールは感心した様子で、通信装置を見つめ直した。尚、精霊達にも、遠くと連絡をとる手段がある。精霊達にとって一般的なそれは『風便り』と呼ばれる手段だ。風精霊同士で、言葉を風に乗せて遠くに送るのである。


「まあ、使い方がわかればの話じゃがな……」


 遠くと会話が出来る便利な道具。しかし道具というのは、使い方がわからなければガラクタ同然である。ミラは今一度、受話器を耳に当てながら苦笑気味に呟き、そして変わらぬ結果に突っ伏した。




「あ、遠くと会話という事で、ミラさん。こんな時に何ですが伝言がありまして、忘れぬうちに少々よろしいでしょうか?」


 どうしたものかと考え込むミラに、何かを思い出した様子のワーズランベールが、そう遠慮気味に声をかけた。


「伝言じゃと?」


 自分への伝言。はて、誰からだろうか。その相手にまったく心当たりのなかったミラは、少し驚いた表情で振り向き「誰からじゃ?」と問い返す。


「はい、実は……その、アンルティーネからの伝言です。今度ミラさんに召喚された時、『召喚契約させてください、お願いします』と伝えるように頼まれておりまして。昨日は言い出せる雰囲気ではなく、そのまま戻ったら、それはもう落ち込んで」


 ワーズランベールは苦笑しながらも、そうなった経緯を説明した。

 まず一番の原因は、やはり精霊王の加護による繋がりであった。この加護による繋ぐ力の作用で、ミラが契約している精霊達は、遠く離れていても会話が出来るという状態になっているらしい。

 そしてそれは、精霊達が敬愛する精霊王ともだ。それだけでも絶大な恩恵でありながら、先日ミラは、植物の始祖精霊マーテルとも契約を交わした。これもまた精霊達にとっては、精霊王に並ぶ存在だ。しかも非常に長い時間、所在すら不明だったマーテルである。その再会は、精霊界に激震が走るほどだったという。

 ワーズランベール曰く、現在ミラと、ミラが契約している精霊達は、他の精霊達にとって憧れの的だそうだ。


「なんと、そのような事に……」


 流石というべきか、ミラにとっては最近、結構気さくに話し合える存在になっていたりするが、やはり精霊王という存在は特別なようだ。そしてマーテルもまた、精霊達にとっては同じくらい特別だという話であった。


「当然といえば当然かもしれませんね。我々精霊にとって、精霊王様と始祖精霊様は親のような存在ですから。傍にいられずとも、お声が聴けるだけで安息を得られるのです」


 召喚術士のミラと召喚契約を結ぶと、いつでも精霊王とマーテルの声を聴く事が出来る。遠くても傍に感じる事が出来る。それはとても幸せな事だと、ワーズランベールは改まるように言った。

 しかしサンクティアと一緒に暮らしているあの場所で、アンルティーネだけが直接、精霊王とマーテルの声を聴く事が出来ない。そのため随分と落ち込んでおり、遂には伝言を預かったのだと、ワーズランベールは話を締め括った。

ところで、カレーとかを作ると鍋にこびりつくじゃないですか。

なかなかに洗うのが面倒ですよね。スポンジでごしごししないと落ちませんし。


そこで試したんです。簡単に洗える方法はないかと。

結果、意外と簡単にみつける事が出来ました。

それはつけ置き洗いです!

しかもただのつけ置きではありません。洗剤を一垂らししておくのです!

水だけでやった場合は、直ぐに洗うよりも落ちにくくなりました。

きっと汚れに含まれる脂肪分とかが固まってしまうからでしょう。

しかし、洗剤を入れておけば大丈夫!

次の日には、あら不思議

力をほとんど入れる必要もなく汚れが落ちました!

これで気兼ねなく作れるってもんですよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 答えを得られた幸運なこの者が、造形師だったりすると興味深い。 顔立ちとか髪型とかを微妙に変えて、「フィクションです。実在の人物とは関係ありません」の常套句と共に高額で取引されている未来が見え…
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