表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/647

200 マキナガーディアン戦 決着 英雄クリスティナ

二百



 遠く、戦場の最前線。クリスティナのステルス降下隊によって多大な被害を受けたマキナガーディアンは、まるでリミッターでも外れたのかというほどの様子で暴れ回っていた。しかも、灰騎士の一体が斬り落とした脚からは、わらわらと『機械仕掛けの守護者』が湧き出している。

 本体をアイゼンファルドが抑え込む中、ミラは素早く指示を下し、姉妹達がそれらの対処に向かっていく。


(主様の助けがあったから良かったものの……)


 アイゼンファルドの補助として動き回りながらも、アルフィナの目は、鋭く遥か後方より駆けてくるクリスティナを捉えていた。

 緊急回避として使われる召喚術士の技能『退避の導き』。その効果によってクリスティナが難を逃れた事を、アルフィナは理解していた。そして、理解していたからこそ、その目はますます険しくなる。


(あのような油断で主様の御手を煩わせるとは、何て不甲斐ない。二度とこのような事にならぬよう、また特別訓練をする必要がありますね)


 剣が折れるというのは、予想だにしないアクシデントだった。けれど、だからこそ、剣を失った時にはより冷静に、そして迅速に動かなければいけない。

 だというのにクリスティナは、敵の眼前で驚いたように折れた剣を見つめた後、無防備なまま敵をただ見上げるなどという愚行を冒した。と、アルフィナの目には映っていた。

 今回は、ミラの召喚によって参上したため、もしもあのままエンシェントレイの直撃を受けたとて、防護障壁が全壊した直後に強制送還が発動するので何がどうなるものでもない。ただ、召喚前の場所に還されるだけだ。

 けれど、だからといって、即死直前という状況に至った事をアルフィナが許すはずもない。


(盾を武器として使う戦い方を教えるとしましょうか)


 アイゼンファルドの補助を完璧にこなしながらも、クリスティナのためを想うアルフィナは、この戦いが終わりヴァルハラへと帰った際に、攻撃手段を失った時の立ち回りを中心にした訓練をするべきだろうと結論した。




「戻りましたー」


 他の姉妹達が守護者の始末を終えるのと同じくらいのタイミングで、クリスティナもまた意気揚々と最前線に到着する。そして彼女は自信に満ちた表情でクリスティナ隊の灰騎士と合流し、そのままマキナガーディアンを正面に見上げた。これまでにないほど、クリスティナとは思えないほど、やる気に満ちた姿だ。


「クリスティナ。あのような隙を晒し、主様の御手を煩わせるとは何事ですか。恥を知りなさい」


 戻ってきた直後、クリスティナは早速とばかりにアルフィナから叱咤を受ける。それに対してクリスティナは「すみませんでした。以後気を付けます!」と、反省する姿勢を示した。その所作は、全身から反省していますという色を漂わせるほどのものだ。

 だが、誠心誠意反省していますとばかりに見えるそれは、単純に慣れからくる賜物である。アルフィナの小言を如何に続けさせず、その場で終わらせるかを考えた末、クリスティナが編み出した、『全力反省のポーズ』であり、本質は口だけでもあった。


「まったく、貴女ときたら……。まあいいでしょう。一先ず剣が折れていてはどうにもならないので、これを使いなさい」


 表面上の反省。薄々は気付いていたアルフィナだが、今はまだ戦闘中だ。小言は後にすると、クリスティナに自身が持つもう一本の剣を差し出した。


「貴女、その剣は……!?」


 差し出したが、アルフィナはその時、ようやく気付く。クリスティナが既に一本の剣を手にしている事に。

 途端にアルフィナの目が、驚愕に染まる。その剣が、聖剣サンクティアがどういったものかを知っているからだ。


「クリスティナ。何故貴女が主様の聖剣を持っているのです!?」


 ミラが召喚する特別な聖剣。それが聖剣サンクティアに対するアルフィナの認識だった。

 今はまだ、ダークナイトや灰騎士が手にするばかりであるが、その剣は、使われるたびにその鋭さ、そして力を増してきているのがアルフィナにはわかっていた。

 聖剣サンクティアは、成長している。そしていつか聖剣の成長が極まった時、剣の使い手としてそれを振るう許可を頂けたらというのが、今アルフィナが夢見る事だ。

 けれど今この時、成長途中とはいえ、その聖剣をクリスティナが手にしているではないか。アルフィナは、この日この時この瞬間、三十年ほど前に(ダンブルフ)が世界よりいなくなったと感じた頃以降、誰にも見せた事がない驚愕の表情をありありと浮かべた。


「えっと、これは主様から折れた剣の代わりにと……」


 アルフィナの珍しい表情に寒気を感じながら、クリスティナは簡潔に説明する。主様より剣を授かった。光栄だ。というような事をアルフィナに感じさせないよう隠しながら、偶然たまたまちょっとした拍子に、とりあえずといった感覚で渡されたのだと言い含める。

 ヴァルキリーにとって、仕える主より剣を賜るという事は大変な栄誉だが、実際には、クリスティナが剣を受け取った状況はそこまで仰々しいものではなく、ただ代用品を渡されたようなものだ。

 けれど姉達のお古の剣ばかりを使ってきたクリスティナにとって、それは特別だった。しかもまだ長女のアルフィナすら手にする事の叶っていない剣だ。

 しかし、だからこそクリスティナは、ことさら特別な意味はなく、何て事ないものだったと説明する。アルフィナの悲願を、片鱗だけとはいえ一足先に叶えてしまった事が原因で、特別訓練を課せられたらたまったものではないと直感したからだ。


(アルフィナ姉様ならありえる。主様の聖剣の使い手に相応しく、もっともっと強くなれって、絶対そう言うに決まってる!)


 ミラより剣を与えられ最高にご機嫌なクリスティナは、頭をフル回転させてその答えを導き出すと、特別な事ではなかったと下手に出続けた。


「そうですか。ならば次は気をつけなさい。主様の聖剣を持ちながら醜態を晒す事は、許しませんよ」


「はい、重々承知してます!」


 こうして手早く話を済ませた二人は、アイゼンファルドと姉妹達に任せきりだった戦火渦巻く只中に、再び飛び込んでいった。


(どうにか、誤魔化しきれたかな……)


 戦場を任せきり。普段のクリスティナなら、そう目立つような事もないが、あの主様至上主義であるアルフィナとなれば別だ。少しならば、まだわかる。けれど今回のようにミラより下された任務を誰かに任せたまま離れ、ミラの聖剣への執着という私情を露わにするなど、いつもではあり得ない事だった。

 それほどまでに、特別な剣なのだろう。

 クリスティナは暴れまわるマキナガーディアンを前に、手にした聖剣を見つめる。そして、にやりとほくそ笑む。


「私が決めちゃうんだから!」


 クリスティナは早速とばかりに激戦地から離れ、一歩下がった場所で聖剣を構えた。乱戦の中、こっそり休憩するのがクリスティナの特技だが、今回披露する特技は違うもののようだ。

 姉達も使った事のない真っ新な聖剣を握りしめるクリスティナ。サボり続け、それを装い続けた結果誰よりも得意になっていたマナの集束を聖剣に行う。

 するとクリスティナが集束させたマナは数瞬後、太陽の如き眩い閃光を放ち、聖剣サンクティアを全長三メートルは超えるほどの光の大剣へと変貌させた。


「……え?」


 圧倒的ともいえる神々しさを放つ聖剣に、その場にいた誰もが息を呑む。けれどその渦中、クリスティナだけは聖剣の変化に尋常ではない動揺を浮かべていた。


(え、どうしよう、なんか変わっちゃったんだけどー!)


 ミラから授かった聖剣が変貌してしまった。もしかして、まずい事でもしてしまったのではないだろうか。クリスティナはそんな事を考えながら、光の剣を見上げる。


(……凄くカッコいいです)


 まるで英雄が活躍する物語の主人公のようだ。クリスティナがそんな事を妄想した時だった。


『クリスティナ、避けなさい!』


 クリスティナが最も恐れる、アルフィナの鋭い注意喚起の声が伝わってきたのだ。

 忠告に従ってか、それとも本能からか、その声が聞こえた直後クリスティナは反射的にその場より飛び退く。するとそこへ間髪入れず、光の奔流が突き刺さった。

 黒く焼け焦げた床。それはエンシェントレイによる一撃だった。クリスティナがふと顔をあげたところ、目の前には完全にクリスティナを狙うマキナガーディアンの姿があり、同時にその太い脚がすぐそこまで迫っていた。


(盾を足場にして……ダメ、間に合わない!)


 クリスティナの身体はまだ飛び退いたまま中空にあり、最早その大質量の一撃を回避出来る手段は残されていなかった。

 だが、マキナガーディアンの振り下ろしが直撃する瞬間、複数の爆音が響くと、その一撃が僅かに逸れて、クリスティナの脇を間一髪で通り過ぎていく。


「うわぁ、危なかったぁ……」


 床に激しく打ち付けられたマキナガーディアンの脚を横目で確認しながら、クリスティナは着地と同時、更に大きく後ろへと飛ぶ。

 脚の側面には、新しい着弾痕が無数に残っていた。どうやら城壁と砲塔からの砲撃によって、脚の軌道を無理矢理逸らしたようだ。恐ろしいまでの精密さである。

 と、安堵したのも束の間。マキナガーディアンは尚もクリスティナを狙う。薙ぎ払いに振り下ろし。そしてレーザーマシンガン。そのどれもが、姉妹達や『軍勢』、そしてアイゼンファルドすら無視して、ひたすらクリスティナに向けられた。


「なんで私ばっかりー!」


 上下左右と、必死になって動き回り、それらから身を躱すクリスティナ。回避に専念しているからか、集中の途切れた聖剣からは先ほどの光が失われており、いつの間にか通常の状態に戻っていた。




「のぅ、ソウルハウルよ。あれをどう思う?」


 執拗にクリスティナを狙い始めたマキナガーディアン。アイゼンファルドという大火力と耐久力を兼ね備えた最大の脅威を無視しての集中攻撃。余程ステルス降下隊での一撃が堪えたのだろうか。けれど総合的にみれば、今でもマキナガーディアンにとって一番注意するべき相手はアイゼンファルドのはずである。そうなるように、ミラは攻撃指示を行い敵対値(ヘイト)を調整してきたのだから。

 けれど最終局面にきて、それが狂い始めた。これまでにないマキナガーディアンの挙動。その様子を眺めながら、ミラはふとソウルハウルに問う。


「さっき見えた、光の剣が原因だろうな。あれだけ濃密にマナを凝縮させたら、警戒するさ」


 さも当然とばかりにソウルハウルは答える。遠くからでもわかるほど、先ほど見えた光の剣は圧倒的な力を放っていたからだ。


「やはり、そういう事じゃろうな」


 膨大なマナの集束を感知したのだろう。ミラも大体予想はついていた事で、その見解は一致した。なのでミラは、即座に新しく思い付いた作戦をソウルハウルと姉妹達に伝えた。




『畏まりました』


 アルフィナ他、姉妹達はミラの指示に従い、早速行動を起こす。そしてアイゼンファルドもまた、ゆっくりと移動を始めた。


「無理だからー、もう無理だからー!」


 必死にマキナガーディアンの攻撃を躱し続けるクリスティナ。しかしいよいよ限界が近いのか、それともマキナガーディアンが回避の癖を学習したからか、余裕はもうなくなっていた。

 紙一重から、僅かに掠る程度にまで攻撃が迫った末、いよいよどう転んでも避けられない一撃が放たれる。

 突き刺すようなマキナガーディアンの一撃。クリスティナはそれを盾で受けながら、思い切り後ろへと飛んだ。


「よし、上手くいった」


 衝撃を緩和しつつ、大きく距離をとる事に成功したクリスティナ。それと同時、マキナガーディアンとクリスティナの間を遮るようにして、アイゼンファルドが宙より降り立ち、姉妹達と『軍勢』がそこに立ち塞がった。

 するとどうだろう、マキナガーディアンの狙いが再びアイゼンファルドに移り、またも怪獣大決戦のような光景が繰り広げられ始める。続き、姉妹達も果敢に攻めていく。


「さあ、クリスティナさん。存分に集中していいですよ」


 激戦地の後方、そこまで後退したクリスティナの隣には、静寂の精霊ワーズランベールの姿があった。彼がクリスティナを隠蔽した事で敵対値(ヘイト)が下がり、マキナガーディアンの優先攻撃対象から外れたのだ。完全隠蔽ほど強力ではないが、これだけ戦場に数がいる中ならば、気配を紛らわせるだけでも十分な効果があったという訳だ。ワーズランベールによる敵対値(ヘイト)の調整。これもまた、ミラが旅の途中で思い付いた作戦の一つだ。


「わかりました!」


 クリスティナは聖剣を構え、そこにマナを収束させ始めた。同時にワーズランベールは、そのマナの流れもまた完全に覆い隠す。

 こうして戦場の片隅で、打倒マキナガーディアンの準備が着々と進んでいった。




 場所は最前線。損傷度が九割を超えたマキナガーディアンの攻撃は熾烈を極めるものだった。容赦なくレーザーマシンガンがばら撒かれ、それどころか、エンシェントレイの使用率もぐんと上がっていた。大きな脚による薙ぎ払いなどで体勢を崩された後に放たれるエンシェントレイは凶悪の一言に尽きる。マキナガーディアン戦にかかる労力の半分はここにあるといっても過言ではないほどの猛攻だ。

 それに対し、アイゼンファルドとアルフィナ達は、徹底防戦の構えで挑む。ここが踏ん張りどころであり、実は損傷度が九割五分を超えると、挙動が更に酷くなるため、ここから先は一気に決めてしまう必要があるからだ。

 その準備を今、クリスティナがしている。更に畳みかけられるよう、アイゼンファルドもドラゴンブレスを温存中だ。

 アルフィナ達の隊は、四方に分散し、回避を重視して立ち回る。アイゼンファルドはマキナガーディアンの攻撃を正面から受け止め、また受け流し続ける。灰騎士達はというと、戦場に大きく広がって、マキナガーディアンの狙いを分散させていた。

 被害を最小限に戦況を進めていくが、かといってマキナガーディアンの攻撃を全てやり過ごすのは難しい。どの攻撃も、ホーリーナイトと同等の防御力を誇る灰騎士を一撃で破壊出来る威力があるのだ。着実にだが、ダメージは蓄積していた。


『いつでもいけます!』


 いよいよ灰騎士の数も三桁を割り、アイゼンファルドの防護障壁も強度が二割を下回った時、クリスティナの合図が届いた。

 ミラはそれを受けて、全体に最終作戦を伝達する。

 そして全軍が一気に攻勢へ転じた。アルフィナ達は、待ってましたとばかりに強力な剣技を繰り出し、灰騎士も一斉に駆け出し聖剣を振るう。そしてアイゼンファルドは、既に半壊していたマキナガーディアンの脚の一本を、豪快な一撃で引き千切った。それによってマキナガーディアンが体勢を崩したところに、ソウルハウルの一斉砲火が着弾する。

 流れるように続く連撃。その直後だ。緊急を知らせるブザーのような音が空間全体に響き渡り、マキナガーディアンの全身からこれまでにないほどの駆動音が轟き始めたのである。

 先ほどの総攻撃で、損傷度が九割五分を超えたようだ。これよりマキナガーディアンは、変形して暴走モードに突入する。それを前に、アイゼンファルドも含む全軍が一斉にその場を退いた。

 だが、そんな中で前進する一つの影。そう、クリスティナである。これまでワーズランベールの力で身を潜めていた彼女は、全長十メートルにも及ぶほどの光を纏う聖剣を手に、マキナガーディアンに向け駆け抜けていった。

 マキナガーディアンが脅威と判断した初めの時より、更に強力なマナを凝縮したその聖剣は、静寂という鞘から抜き放たれると同時、アイゼンファルドのドラゴンブレスにも勝るとも劣らぬ力を解放して大気を震わせる。


「いっけーーー!」


 マキナガーディアンは、まだ変形の真っ最中。そこに向けて裂帛の気合と共に、クリスティナは聖剣を振り抜いた。

 一閃。その一撃は音すらも斬り裂き、全てを光で塗り潰していった。滅びとは、きっと一瞬の出来事なのだろう。閃光は一際輝いた後、瞬く間に終息する。

 そして残ったのは、真っ二つに両断されたマキナガーディアンの残骸と、聖剣を手に佇むクリスティナの姿だけだった。

 長い時間、しかも最大級ともいえる戦力が投入された戦闘。クリスティナは、その戦いに自分の剣で終止符を打った事に戸惑いながらも、目の前の光景に勝利を確信するのだった。

もう少しで3月ですねぇ。

そういえば、今年の目標とかまだ決めていなかったような……。


去年の目標であるホットプレートもまだ達成出来てはいませんが……。

それでも新たな目標を打ち立てました!


今年は、電子レンジを買いたいと思います!

何かと便利そうですよね、電子レンジ。

ゲティも簡単に茹でられるそうで、ナポリタン祭りが捗る予感がしています。

ゲティのコスパを活かすのに、抜群の相性な気がします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「クリスティナ、後で今日の反省会と特訓をしましょうね。あれだけの醜態を晒したのだから、当然ですよね。」 「ひっ!?」(青ざめ) 「正しく聖剣を使えるようにみっちりと特訓してあげますからね。」 「手加減…
[一言] そ、それは!イデ○ンソード?!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ