199 マキナガーディアン戦 参 勇者クリスティナ
活動報告にて、7巻限定版のあれこれをのせております!
是非!、
百九十九
「という事で、ステルス降下隊はお主に決定じゃ。良いな?」
「あう……任務、拝命致しますー」
一番先に騎士の数が十を切った者には、特別任務を与える。ミラは最初の作戦説明の際、取り決めていたそれをクリスティナに託した。
つまりは、隊員を早く失った一番不甲斐ない者に与えられる任務。と、そのように感じていたクリスティナは、まるで罰ゲームに赴くかのような表情で、準備を始める。
「えっと、確か皆で注意をひいてから……」
クリスティナは準備をしながら、今回与えられた任務を確認するように思い返す。そしてふと気付いた。よくよく考えてみると、この任務は結構目立つ役割だと。
「もしかして、これって私が主役?」
任務拝命の条件から生まれた先入観でわかりにくくなっていたが、よく考えればその作戦内容は、物語の主人公が担当する事が多いと気付くクリスティナ。
「あ、なんだか楽しくなってきた」
思い至ったらもう止まらない。クリスティナは、最高に活躍する自分の姿を夢想しながら、準備を急いだ。
「さて、あの対空レーザーは厄介じゃのぅ」
再び戦場に目を向けたミラは、マキナガーディアンの注意を引きつけながら、見事に宙を舞うアイゼンファルドの勇姿を見つめる。
巨体でありながら急制動をかけて巧みに飛び回るアイゼンファルドは、正に空の覇者と呼ぶに相応しく、マキナガーディアンのあちらこちらからマシンガンのように放たれる細く短い対空レーザーを華麗に躱していた。そして、その合間合間に、小さな稲妻を迸らせている。
あれが竜魔法だろう。まだ勉強し始めたばかりだという事で、竜魔法というご大層な名の付いたものだが、その威力はそれほどでもなく、アイゼンファルドがその爪を振るった方が十倍は強力であると思われる。
だがそれでも、中級魔術士以上の威力は出ているため、末恐ろしい可能性を秘めた魔法であるといえた。
そんな竜魔法だが、流石にマキナガーディアンほどにもなると、さして牽制にもならず時折アイゼンファルドへの敵視が薄れ、それが地上部隊に向けられた。
地上は地上で、姉妹達の指揮の下、灰騎士達がマキナガーディアンの各脚に攻撃を加え、時折飛び跳ねては、その胴にも刃を届かせている。
分厚い装甲を前に容易くはいかないが、それでもこれまで通り、各隊は確かな損傷を与え続ける。
そこへ、マシンガンのようなレーザーが降り注いだ。これを姉妹達は見切り、紙一重で身を捻る。
『薙ぎ払い、構え!』
全隊にアルフィナの指示が飛ぶ。長時間に及ぶ戦闘の中、彼女はマキナガーディアンの僅かな動きを見抜き始めていた。それによって、次に来る行動を先読みして指示を出す。
それを受けた姉妹達は、迅速に隊の灰騎士を動かしてその場より距離を置き、防御の姿勢をとらせた。
そこへ大きな脚による薙ぎ払いが炸裂する。姉妹達は天を舞うようにして、それをやり過ごしたが、そのような芸当が出来るのは、彼女達の能力があってこそだ。
そこまでの俊敏性がない灰騎士達は、それを受けて豪快な音を響かせ、弾き飛ばされる。だが、そのほとんどは再び地に両足で降り立ち、素早く陣形を整え直していく。
高さと長さを備えた、マキナガーディアンの薙ぎ払い。それは容易に回避出来るようなものではなく、プレイヤー達の間でも盾役は下手に躱そうとせず防御する事が一般的だった。
しかし、その衝撃は凄まじく、硬直を余儀なくされる。するとそこをマシンガンのようなレーザーで狙い撃たれる。と、これがマキナガーディアンの行動パターンの一つなのだが、直後、ここぞとばかりに灰騎士達を狙うマキナガーディアンに、アイゼンファルドの強靭な尾による振り下ろしと、ソウルハウルによる砲撃が炸裂した。
認識外からの痛烈な一撃に、マキナガーディアンの体勢が崩れる。それを待っていましたとばかりに、姉妹達と灰騎士が襲い掛かった。
それは多少『軍勢』に被害は出るものの、大きくダメージを稼げる絶好のパターンである。
(攻撃と防御、どちらも兼ね備えた灰騎士だからこその策じゃな。わし、やっぱり孔明)
見事に嵌る策を前にして、大いに自画自賛するミラ。
一撃で粉砕されなければ『アルカナの制約陣』の効果で、灰騎士の耐久値は回復していく。連発された場合は作戦変更の必要はあるが、今のところは、そこそこ回復が間に合っており、良いダメージソースとなっていた。
「そろそろ、仕掛けるか? 俺の勘だと、もうじき残り二割だぞ」
状況を見ながら砲撃で支援しつつ、ソウルハウルはミラにそう確認する。
「そうじゃな。そろそろ出すとしようか」
そう答えたミラは、まず城門内で準備を終えたクリスティナに出撃の指示を出した。
『了解しましたー』
返事と共に再出撃していくクリスティナ隊。それを見送ったミラは、その先、主戦場に視線を戻し、アイゼンファルドにも指示を下す。その内容は、暫く防御重視で地上戦を行えというものだ。
『わかりました、母上!』
即座に元気な声が返ってくると、アイゼンファルドはマキナガーディアンの対空レーザーをかいくぐりながら着陸した。そして、その着地の一瞬を狙ってきたマキナガーディアンの一撃は、城壁からの砲撃が見事に潰し、アイゼンファルドは余裕をもって防戦の構えをとる。
それから暫く、戦況は膠着した。姉妹達は断続的に攻撃を仕掛けては、反撃が来る前にひいていく。アイゼンファルドもまた大きな攻撃には出ず、一定の距離を保ったまま、小さなドラゴンブレスでマキナガーディアンの敵視が離れないように動く。
これまでとは打って変わって、どこか消極的な状況だ。けれどそれらは全て、マキナガーディアンの動きを抑制するためのものでもあり、ミラの新たな作戦の一部だった。
「よし、配置に着いたようじゃ。始めるぞ」
待機位置に着いたクリスティナ隊を確認したミラは、ソウルハウルに合図を出すと同時、アイゼンファルドと姉妹達に総攻撃の指示を送った。
直後、城壁の砲門の全てが一斉に火を噴く。それは、受け流そうとするマキナガーディアンの脚をすり抜けて、次々と本体に着弾した。
もうもうと立ち込める爆炎。そんな中、『軍勢』率いる姉妹達の隊が一斉に動く。防御を廃し徹底した攻めの姿勢で、一本の脚に集中して斬りかかったのだ。
それを薙ぎ払おうとマキナガーディアンが脚を振りかざすと、アイゼンファルドの尾が鋭く弾いて一時的に無力化させた。
しかしそれも束の間、今度はマシンガンレーザーが地上に向けられ掃射される。まだ漂う煙に紛れ狙いは曖昧であったが、今回は向けられた数が多い。これにより、幾らかの灰騎士が撃ち貫かれていった。だが『軍勢』の三分の一を削られながらも、姉妹達はマキナガーディアンの脚を一本破壊する事に成功する。
ぐらりと傾いたマキナガーディアンは、これを脅威と認識したのだろう、姉妹達を集中的に狙い始めた。
『よし、今じゃ!』
マキナガーディアンの意識が完全に地上に向いた、その時を見計らい、ミラはクリスティナに指示を下す。
直後、クリスティナ隊の灰騎士が、マキナガーディアンの頭上から突如現れた。それは完全な死角、そして認識外からの攻撃。ガルーダによる運搬と、ワーズランベールによる隠蔽によって成された、ステルス爆撃さながらの奇襲であった。
灰騎士達は疾走するかのように降下しながら、マキナガーディアンの背に鋭く聖剣を突き立てる。更に灰騎士の一体は、その一撃によってマキナガーディアンの脚をもう一本切断する事に成功していた。
次々に突き刺さった聖剣は、計七本。引き抜くと同時、そこから火花が散り煙があがる。落下の勢いにのったそれは、これまでで一番の深い傷をマキナガーディアンに穿っていた。
深部まで届いた傷は、マキナガーディアンの動きに不調をもたらす。たまらずといった様子で、マキナガーディアンの体勢が更に傾いた。
その瞬間、いよいよ本命の登場だ。十分以上にマナを収束させてから最後に飛び降りたクリスティナは、盾を光の足場にして一気に加速する。末っ子とはいえ、流石はヴァルキリー。その速度は灰騎士達の数倍であり、より鋭く手にした剣を振るった。
「いっけーー!」
圧倒的な強度を誇る装甲にも負けずにそれを穿つクリスティナ。アイゼンファルドと姉妹達、そして先陣をきった灰騎士達の力によって生み出された、完璧な勝機。彼女はその大役を任されながらも気負う事無く堂々と、まるで物語の英雄の如く、強大で巨大な敵マキナガーディアンを切り裂いていく。
と、その時であった。キンと甲高い音が響くと共に、絶好調なクリスティナの手にしていた剣が、中ほどよりぽきりと折れてしまったのだ。
「ああー! 姉様のお下がりのお下がりのお下がりのお下がりのお下がりのお下がりの剣がー!」
マキナガーディアンの胴体を両断するような勢いで奔らせていた剣が折れた事で抵抗をなくしたクリスティナは、勢いそのまま地面にべちゃりと墜落した。
「こんな時にー!」
墜落した事よりも、ここぞという場面で決めきれなかった事が悔しいようで、クリスティナは剣を見つめ憤慨する。
アルフィナから代々姉妹達に受け継がれてきた骨董……名剣は、綺麗に中ほどから折れていた。けれど途中までは、かなりの手応えがあったと、クリスティナは成果を確かめるためにふと見上げる。
「……え?」
クリスティナが見たものは、開いたマキナガーディアンの胴体の中、爛々と輝く赤い結晶であった。
感じた手応えは本物だった。途中で剣が折れてしまったとはいえ、マキナガーディアンに深く大きな損傷を確かに刻んでいたのだ。
けれど、だからこそ今の瞬間がある。『大暴れ』を上回るマキナガーディアンのとっておき、一撃必殺のエンシェントレイ。それは、損傷度が九割を超えた時に確定で放たれ、その際、もっとも敵視を集めている者へと向けられる。
そして今回の場合、半ばで折れてしまったが、盛大にマキナガーディアンの胴体を切り裂いたクリスティナに向けられたのは、必然といえるだろう。
直後、クリスティナは迸る破壊の光に呑まれていった。
「一気に一割以下まで削れたようじゃな。これは上出来じゃろう!」
エンシェントレイを放つマキナガーディアンを見つめながら、ミラは自慢げに言う。
「そうだな、上出来だ。目の色が、黄色から赤を飛び越して点滅までいってる。これほど上手くいくとは思わなかったな」
ソウルハウルは状況を見つめながら、感心したような面持ちでそう口にした。
目の色が黄色から赤。それは、マキナガーディアンの損傷度が八割を超えたという合図であり、点滅したという事は、更に進み損傷度が九割を超えた証拠。特にクリスティナの一撃は、そのまま最後まで決まっていたなら、倒しきれたかもしれないというほどのものだった。そしてそれだけの威力だからこそ、肝心の剣が耐えられなかったという訳だ。
「……」
尚、ぎりぎりのところでMVPに輝き損ねたクリスティナ。彼女は今、ミラの隣でどうにも間の抜けた防御ポーズのまま固まっていた。
「予期せぬ事態に見舞われたが、良くやったぞ、クリスティナや」
途中で剣が折れるというアクシデントはあったが、それでもステルス降下隊がマキナガーディアンに与えたダメージは、予想以上のものだった。ミラは、その功労者であるクリスティナの肩にぽんと手をのせて労いの言葉をかける。
するとクリスティナは、はっとしたように顔を上げて周囲を見回し、ミラの姿を目に留めると、「あれ……主様? あれ、何がどうなって……」と驚きながら困惑した。
「『退避の導き』じゃよ。危機一髪じゃったな」
召喚術士の技能の一つ『退避の導き』。それは召喚済みの対象を、瞬時に傍へ戻すという効果があった。ミラはこれを利用して、エンシェントレイが直撃する寸前にクリスティナを移動させたのである。
ミラがそう説明すると、ようやく状況を理解出来たのか、防御ポーズを解除したクリスティナは、ハッと思い出したように跪く。
「すみません、決めきれませんでした……」
主役級の任務を任されながら、まさかの剣折れでそれを完遂出来なかった事に項垂れ落ち込むクリスティナ。けれどミラはそんなクリスティナに、「上出来じゃ上出来じゃ」と称賛を送った。そもそもこの作戦、予定では一割弱程度削れればいいなという位のものだったからだ。いわば、効果の程は如何ほどかという、思い付きの試験的作戦である。
対して、そんな作戦であるにもかかわらず、クリスティナはそれ以上の戦果をあげた。ゆえに褒めこそすれ、謝罪など一切必要ないのである。
「随分と溜めの時間が長かったが、あれも新技じゃな? 素晴らしい威力じゃったぞ」
クリスティナが放った最後の一撃。長い光の尾をひいて、マキナガーディアンの胴を切り裂いた技。見覚えがないため、それはきっと、この三十年でクリスティナが会得した技だったのだろう。
そんな仲間の成長ぶりに、ミラはことさら上機嫌だ。そして、そんな様子のミラにクリスティナは最初戸惑っていた。剣が折れた事で失敗したと思っていたからだ。けれどどうやら聞いていると、叱られる事もなく、むしろ任務は成功し、手放しで褒められている。
そう気付いたクリスティナは、徐々にその勢いを復活させていく。
「主様のお役に立つべく、編み出した技でした! お褒めいただき光栄です!」
クリスティナは、ここぞとばかりにアピールした。クリスティナが繰り出した光の剣。それは訓練をさぼるため、必死で訓練をしていると見えるように、それらしくマナを収束し続けていた際に偶然出来上がった技であった。だが彼女は、そんな事をおくびにも出さず、辛く厳しい訓練の日々を憂うように、そっと目を細める。
「そうかそうか。お主達姉妹には、幾ら感謝しても足りぬな」
「いえいえ、当然の事です!」
ミラが改めて感謝を口にすると、クリスティナはこれでもかというくらいのドヤ顔で答えた。
何だかんだいって、そんなクリスティナも、ミラの役に立つために必要な努力をしている事は確かである。ただ過剰分の過酷な訓練を、どうにか知恵を絞ってやり過ごしているだけなのだ。
「さあ、クリスティナよ。あと少しじゃ。頼んだぞ」
ミラはクリスティナに折れた剣の代わりとして、召喚した聖剣サンクティアを差し出す。クリスティナが補助武器として持っているのは盾。それでは戦えないだろうと、考えた結果だ。更にもう一つの思惑としては、かのヴァルキリーが聖剣を振るったらどうなるか興味があるといったところだろう。
(クリスティナとサンクティア。相性も良さそうじゃしな!)
ヴァルキリー姉妹が元々より持つ剣は、多少の名剣や聖剣魔剣などでは歯が立たないほどの業物揃いだ。
折れたとはいえ、アルフィナより代々受け継がれてきた古い剣だったとはいえ、クリスティナが持っていた剣もまた、そんじょそこらの業物より遥かに上の一品であった。だからこそ今までミラは言い出さなかったが、剣が折れたこの状況、自然と聖剣サンクティアを振るわせる好機であると判断した。
ヴァルキリー七姉妹の末っ子クリスティナ。何だかんだと言いながらも、その剣の腕前はダークナイトも及ばぬ超一流だ。果たしてそんな彼女がサンクティアを振るったらどうなるのか。
ミラは実に爛々とした目でクリスティナを見つめる。
クリスティナは、そんなミラの視線を期待の眼差しであると判断した。そして姉達を差し置き、その期待を一身に浴びているという思い込みが、彼女を優越感に浸らせる。
「ありがとうございます!」
主より剣を授かる。まさかの出来事に驚愕しながらも、たちまち高揚したクリスティナは、折れた剣を鞘に納め、恭しくそれを受け取った。
そういえば今月の初め、遂に出てましたね。マックの公約実現バーガー!
てりやきが負けて愕然としましたが、まさか2位まで実現するとは! ならいいやと喜び勇んで買いに行ったものです。
最初はてりやき3つだなんて意気込んでいましたが、……トリプルチーズもなかなかに魅力的。
なので、てりやき2つとトリプルチーズ1つにしました!
960円です! かなりの贅沢でしたが、それだけに大満足のお昼ごはんになりました。
ボリュームいっぱいで、夕飯いらないや、ってなるくらいに……。
また、やらないかなぁ。