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18 スキル伝授

十八




「ところで、お主は今も『雷鱗虎』をメインで使っておるのか?」


 あまりにも次々と飛び出してくる、過去の自分に対する愚痴に耐え切れなくなったミラ。どうにか話を変えるために、クレオスがもっともよく使っていた、習得させた中で最強の召喚獣の名前を口にする。


「もしや、雷鱗虎の事もダンブルフ様に聞いたのかな?」


「あー……うむ、そうじゃ!」


 この時ミラは、もう全て師匠に聞いたという事にしてしまおうと決心した。


「いやはや、少し恥ずかしいな。そんなに僕の事を話題にしていたって事だね」


「そうじゃそうじゃ。色々と聞いておるからな」


 言いながら、クレオスは嬉しそうに微笑む。愚痴を零し続けたとはいえ、それはいうなればダンブルフを尊敬し敬愛する気持ちから来るものだ。そんな賢者が、弟子に自分の事を色々と話していたという事にクレオスは心から喜んだ。


「言う通り、僕のメインは雷鱗虎だね。でもダンブルフ様が知っている時よりも、ずっと強くなっているよ」


「ほう、それは頼もしいのぅ」


 雷鱗虎は中の上といったところの召喚獣だ。ミラの記憶している時よりも強くなっているとなれば、それなりに頼りになる戦力だろう。


「雷鱗虎と契約するのは、ほんと大変だったよ。しかしダンブルフ様がね」


 クレオスがそういい始めると、今度はダンブルフという賢者が、どれ程素晴らしい人物だったかを熱く語り出した。単純に便利だからと連れ回したのが事実だが「あの時は僕のために」だの「そうする事で僕に教えてくれたんだ」といったクレオス主観の自身の評価に、こそばゆくなったり自責の念にかられたりと、表情を変えないまま相槌を打つので精一杯になるミラだった。



「そうして鍛えられ、今は僕がダンブルフ様の代行として塔を管理する事になったんだ」


 クレオスは長かった話をそう締めくくり、やりきった表情で満足そうに頷いている。ミラにしてみれば、そういう事もあったなと懐かしむ場面も出てきたが、概ねはクレオスから見たダンブルフ英雄譚だった。


 聞き終わった後、最後の言葉で、ミラは召喚術の塔に入った時に気になった事を思い出した。


「そういえば途中、塔に立ち寄ったが、召喚術の塔が魔術の塔と比べ、やけに閑散としておった。何かあったのかのぅ?」


「う……、痛いところを突いてくるね。確かにおっしゃる通り今は召喚術士が非常に少ないんだよ」


「むぅ、やはりそうなのか」


 時間も夜に訪れたので、もしかしたらとも思ったがクレオスの言う事からすると、やはり召喚術の塔は人材不足らしいという事が伺える。ミラは、落ち込むように視線を落とすと昔の状況を思い出し、どうにかしなければと思い始める。


「ミラちゃんもダンブルフ様の弟子なら多分初めての契約は同じ方法だよね」


 初めての契約方法。ダンブルフの頃には薬漬けに、ありったけの爆弾を持ち込んだ。だが、クレオスの言う方法はまた違った方法だという事をミラは知っている。それを推奨し、召喚術の塔のエルダーとして後進に協力するために自身で提案した方法だからだ。


「ふむ、精錬装備と、魔封爆石を用いたやり方じゃな」


「そうそれだね。ダンブルフ様が居なくなってからも暫くは問題無く契約出来てたんだけど、まず最初に魔封爆石の在庫が無くなり、次に精錬装備が壊れていって……。城に居る精錬技師でも、ダンブルフ様の作った物程の性能は出せないから、次第に契約出来ない者達が出て来ちゃってね」


「あー……うむ、なるほどのぅ」


 ミラの提案した方法とは、薬漬けと爆弾によるやり方と方向性は同じだが、より効率を高めた方法だった。

 薬漬けの代わりに精錬装備により持久力耐久力を底上げして、爆弾の代わりに相手の弱点に合った属性の魔封爆石を利用する事で、初契約の難易度は正に雲泥の差となった。そしてその効率はダンブルフによって裏打ちされていたため、居なくなって継続が出来なくなってしまった。

 精錬技術を使える者も僅かに居るが、時間と労力による価格の高騰は避けられず性能も下がるため、新人召喚術士の中には倒す事も叶わず敗走する者も多数出ていた。

 そして、指導者であり絶対的なカリスマも不在。結果、召喚術の塔は閑散としてしまったのである。


「よし、とりあえずじゃ!」


 ミラは顔を上げ、アイテム欄を開き手持ちの魔封爆石をありったけ取り出した。バラバラと床に転がる石をかき集めクレオスに差し出す。


「これで二十人くらいならば、敵に打ち勝てるであろう」


「こ……これは魔封爆石!? しかもこれだけ強い力を放っている物なんて、三十年前のと同等……いやそれ以上。これを貰ってもいいのかい?」


「うむ、わしに出来るのは今はこの程度じゃがな」


「しかしこれは、ダンブルフ様がミラちゃんの護身用に持たせたんじゃないのかな?」


(なるほどのぅ、そういう考え方もあるか)


 魔封爆石は、いざという時の切り札にもなりえる強力な物だ。そういった理由で弟子に持たせたと考えたクレオスは、喉から手が出る程欲しい気持ちを飲み込み確認する。


「問題は無い。わしには、師匠譲りのダークナイトがおるからのぅ。それに今ここに師匠が居れば、塔の現状を放ってはおかんじゃろう」


「確かに。召喚術中毒のダンブルフ様の事、現状を良しとはしないか」


 クレオスはそう呟くと、両手を差し出しミラから魔封爆石を受け取った。


「ありがとう。ありがとうミラちゃん。後で早速、召喚術を諦めた新人達に伝えるよ」


 見た目は若く整った顔立ちのクレオスは、満面の笑みを浮かべる。

 クレオス自身もやはり、現状の塔には不満があり、様々な手段を講じていた。最終的には、数人の成功者は出せたものの問題も多く、いまいち決定力に欠ける手段だった。

 結果として、召喚術士として希望を持った若者達は、夢を砕かれて塔を去る。そんな後姿を見送り続けたクレオスにとって、この魔封爆石は、百カラットのダイヤモンドよりも価値のある物だった。


「うむ、そうしてくれ。ああ、あとこれもじゃ」


 クレオスの喜びように自分の居ない間にも、塔を管理しようと一生懸命だったんだなと感じたミラは、更に餞別を贈る事にする。

 指から指輪、首からネックレスを外すと、それもまとめてクレオスに手渡した。


「こ……これは」


「それぞれ、体力と力を増強してくれる特製の装飾品じゃ。初級相手ならば、力負けはせぬようになるはずじゃよ」


「こんな貴重そうな物、いいのかい?」


「もちろんじゃ。師匠の守りたいものならば、わしもまた同じ気持ち。その代わり、しっかりと任せたぞ、クレオス」


「代行の名に懸けても、塔の繁栄を成し遂げてみせるよ!」


 クレオスは高揚しながらも、力強い光を湛えた瞳でミラの目を見つめながら大きく頷いた。

 



「では、第二段階の実験は五日後の同時刻に行う事とする」


 ソロモンがそう会議を締め括ると、貴族とエルダー代行達は礼をして開発室を後にする。


「終わったようだ。それじゃあミラちゃん、本当にありがとう。早速、連絡しないと。忙しくなりそうだ」


「うむ、気をつけて帰るのじゃぞ」


 クレオスは深々と一礼すると、皆に続いて足早に開発室を出ていく。その足取りは軽く生き生きとした顔つきに、他の代行達は驚きながらも優しく後姿を見送った。

 他の代行達も、クレオスが塔の事で悩んでいたのを知ってはいたが、自身の塔の管理で手一杯なため何も手伝う事が出来無い。今まで、クレオスが落ち込んでいるところを見る事は多かったが、あの様に機嫌が良いのは久し振りだった。

 上機嫌の理由は、もちろん召喚術の塔の再興に光が見えたからだが、他の代行達は子煩悩なクレオスがミラと話す事でパワー充電したのだろうと勘違いしていた。



「さて、それでは夕飯にするとしよう」


「今夜は何かしらね」


 ソロモンとルミナリアの言葉に、一国の王はどれだけ贅沢な物を食べているのだろうと気になったミラ。


「のう。わしも一緒してよいか?」


 顔だけで振り返り言う。


「当然、そのつもりだ。まだまだ話したい事もあるのでな」


「ミラちゃんも期待しておくといいわよ。きっと見た事も無いくらいのご馳走だから」


「ほほぅ。それは楽しみじゃのぅ」


 ミラは随分と変形させたロボットを手に、ルミナリアの言葉でより一層表情を明るくする。

 するとその時ルミナリアは、しゃがみ込んだミラが何かごそごそとしているのに気付く。そしてゆっくり近づくと、にやけながらその手元を覗き見た。


「って、何それ」


 奇怪な形状の塊を目にしたルミナリアは、一瞬素に戻るとミラの背後から隣に顔を寄せ、その手にある物体を見つめる。


「見ての通り合体ロボじゃ! もう少しで完成するから、ちょっと待っておれよ」


 ミラは子供のような笑顔で、というよりすでに見た目は子供なのだが、夢中になった男の子のように楽しげにロボットを変形させていく。


「おや、どうしましたか」


 座り込んだミラとルミナリアの様子が気になった開発主任のトーマは、二人の許へ近づくとその理由である物体を目にする。


「ああ、『超合体ロードバルカン』じゃないですか。どこにありました?」


「そこの棚の奥に転がっておったぞ」


 そう言いミラは、正面の棚の上辺りを指し示す。


「こんな所にあったんですか。これ失くしたと思ってたんですよ」


 トーマは懐かしそうに、ミラの手にあるゴチャゴチャとした物体を眺める。


「ほう。となるとこれはお主の物か」


「ええ、僕の物というより、僕が作った物ですね」


「おお、そうじゃったか。お主、中々良い趣味しておるのぅ」


「いやはや、趣味が高じてといいましょうか。でも、はりきって作ったんですが結局は失敗作でして、設計ミスで合体出来ないんですよね」


「なん……じゃと……?」


 ミラは最後の言葉に信じられないという表情で、ぎこちなく振り返ると、照れを誤魔化すように笑顔を浮かべるトーマの顔を凝視する。


「え、えーっと……、合体機構を組み込む際に幅を少し間違えてしまいまして。直そうにも一度分解しないといけませんでしたので、いつかやろうと置いておいたら失くなっていたという事でして」


 トーマは、今までの可憐な少女とは思えないくらいの形相をしたミラに口ごもるように答えると、ゆっくりと身を下げる。


「なんじゃとーー!!」


 その絶叫は開発室の外まで響いたという。




 作り直したらあげると言う約束で、どうにかミラを宥める事に成功したトーマは、ほっと胸を撫で下ろし超合体ロードバルカンを受け取る。


 まったくもって時間を無駄にしたと立ち上がったミラは、不意に訪れるあの感覚に一瞬眉を寄せる。そう、いつもの生理現象だ。


 ミラは振り返り、場所を尋ねようと一言を口に出そうとしたが、瞬間に思い止まる。


 勝手の知らない城の地下、場所が分からないのだから訊くのが早い。しかし視界に入ったソロモンとルミナリアは、ミラの言おうとした一言を聞くと、確実にその表情を怪しく輝かせるだろう。そういう二人だ。


 とはいえ、どこにあるか分からない場所を探していては最悪の事態も想定できる。故に、ミラは側に居たトーマの耳元にそっと顔を近づけると、


「のぅ、トイレはどこじゃ?」


 そう囁くように問いかけた。だが、ミラは人選を見誤った。トーマはその言葉を聞くと扉を指差す。


「ええっとですね。まずここを出てから、右に真っ直ぐ突き当たりまで行って、そこから左に進むとすぐ見つかりますよ」


 大きくジェスチャーを交えながらトイレの場所を教える、デリカシーの無いトーマ。もちろんソロモンとルミナリアは、ここのトイレのある場所は把握している。つまり、トーマの言葉でミラが何を聞いたのか、すぐに分かるのだ。


 ミラは当たり前のように向けられる二人の視線に晒されながら、振り切るように開発室を飛び出した。




 全速力で教えてもらったトイレの前に着いたミラは、そこで動きを止める。その瞳に映るのは、二つの入り口。すなわち、『女性』『男性』の二文字が障壁のように行く手を阻んでいる。


 多少の困惑はあったが、意を決してミラは女性用へ入ろうと歩を進める。若干、表情がにやにやしているのには気付いていない。

 しかし、向かっていた入り口から、突如として白衣を着た女性が出てくる。その瞬間、内心にある罪悪感からミラは無理な方向転換を行い壁に激突した。


「わわ! ちょっと大丈夫? って、ミラちゃんだ! ダンブルフ様の弟子のミラちゃんよね!?」


 白衣の女性は、ふらつくミラを抱きかかえながら、すぐにその少女が誰か気付く。印象的なリボンまみれの衣装と透き通るように長い銀髪。小生意気そうでいて人形のように可愛らしい少女の顔を忘れるわけが無い。


「トイレかな。一人で出来る? 手伝ってあげよっか?」


 可愛くて堪らないといった表情で、ミラに話しかける白衣の女性。だがその態度は、どう見ても大好きな妹の面倒を見る姉といった様子だ。


「問題ない。一人で出来るわい」


 ミラは女性の腕から逃れると、その勢いのまま女性用のトイレに飛び込んだ。


「入ってしまった……」


 個室のみが並ぶ今迄とは違う空間に、よく解らない感情が入り混じった言葉を呟く。そして、後戻りは出来ぬと次第に大きくなっていく下腹部の感覚に後押されて、個室の扉を開く。



 用を済まし、流しの前で微笑を浮かべるミラ。これでまた一つ成長したと心の中で何度も頷き手を洗う。それから拭く物がないかと辺りを見回すと、丁度正面の鏡に映った少女の姿が目に入る。

 ミラは、その姿を食い入るように見つめると、


「わし、かわいい」


 と呟いた。ミラになって初めて自身の姿を見たのは、魔法騎士団の鏡の様な鎧でだ。そして次は、夜の闇に染まった窓。それだけに、姿を映す事を目的とした大きな鏡は、よりはっきりとミラの魅力を再現し、自分自身にその可憐さを魅せ付ける。


 結局、タオル等の類は見つからなかったためローブの裾で手を拭うと、鏡を覗き込みながら、どことなく手で顔に触れる。

 頬を伝うように指先を這わせ唇から首筋に、離れると艶やかに靡く銀髪をそっと撫でる。


「ようこそ、こちら側の世界へ。歓迎するぞ」


 惚けたように自分の世界に入り込んでいたミラは、びくりと背筋を伸ばして、含みのある女性の声へと顔を向ける。


 そこには、鬼の首を取ったとでも言いたげに笑顔を歪めるルミナリアの姿があった。


「どこから、見ておった」


「わし、かわいい」


 その瞬間、ミラは【仙道歩法 : 縮地】で突進すると、ルミナリアは幻影のように揺らめいて距離を広げる。


「む、なんじゃそれは。そのような動き見た事がないのぅ」


 突如消えたように見えたルミナリアに、ミラはその見覚えの無い動きに興味を惹かれる。知っている技能に、そのような効果のものは存在しなかったからだ。


「お前が居ない間に進化したのは、魔導工学だけじゃないって事さ。三十年もあるんだ、戦闘系だって日進月歩って事だ」


 ルミナリアは幻影と共に、出たり消えたりを繰り返す。それを目にしたミラは、さっきまでの羞恥はすっかりと忘れて、その新しい技能への興味で頭が一杯になっていた。



「これは、八年とちょっと前くらいだったか。その頃に生み出された回避スキル【ミラージュステップ】だ。効果は、まあ見ての通りだな」


 そう言いながら幻影を残し転移を繰り返すルミナリア。


「習得条件は、まずMP持ちである事と、光と水の加護を得ている事だったか」


「おお! ならば、わしでもすぐに習得出来そうじゃな。教えてくれ!」


 話から自分は条件を満たしていると知ったミラは、ルミナリアに食いつくように迫る。


「えー、どうしよっかなー。長い歴史の成果をタダで教えるのはなー」


 渋るルミナリア。彼、いや彼女は知っているのだ。当時から顕著だった、ミラの技能に対する執念を。


「むぅ、ならいいわい。ソロモンも知っておるじゃろう」


 そう言いルミナリアの脇を通り過ぎるミラの背後から、声が掛かる。


「これ、何だと思う?」


 その声に振り返ると、ルミナリアはアイテム欄から本を一冊取り出す。その表紙には『技能大全2146年度版』と書かれていた。


「も……もしやそれは」


 技能大全とは、無数に膨れ上がった多種多様な技能を、出版技能を用いて一冊の本にまとめた大ベストセラーだ。もちろん技能マニアのミラも持っているが、それは『技能大全2116年度版』で、この世界では三十年前の時代遅れとなる本だ。

 当然の如くミラの視線は、その本に釘付けとなる。サービス開始から四年で様々な技能が発見開発された。四年でもそれ程なのだ、それが三十年ともなれば、ルミナリアの持つ本に記された英知は計り知れないものがある。


「出版技能持ちが少なくなった今となっては、いくら金を積んでも手に入れられない貴重本だ。これをやると言ったら?」


「……何が望みじゃ」


 ミラは単刀直入にそう訊いた。ルミナリアにしてみれば、もう読み終わった説明書程度の物だが、その本がミラにとってどれ程魅力的か知っている。それを持ち出して呼び止めるのだから、タダでくれる訳が無い。それは先程の、勿体ぶった言葉でも明らかだ。


「話が早くて助かるな。なーに、お前にしてみればそう難しい話じゃない。ソロモンに聞いたぞ。これからあいつ等探しに行くんだろ。そのついでにアイテムを二つ手に入れて欲しいだけだ」


「ほう。して、何を所望する?」


「一つは、紅蓮王の剣。んで、もう一つは世界樹の炭」


「ふーむ。かなりレアじゃな。しかしまあ、手に入れられん事も無い。だが、それはお主とて同じ事じゃろう。態々わしに頼む理由はなんじゃ?」


「知っての通り、今オレはこの国から動けない。アコードキャノンの開発もあるが、下手に国境越えて他国を刺激するような事は避けなきゃならねぇんだ。オレって有名人だからな」


 言いながら、ルミナリアはその豊かな胸を反らして口端を吊り上げ不敵に笑む。


「なるほどのぅ。当時から、そこそこリアルじゃったが。本格的にリアルな情勢じゃな。確かに、そういう事ならわしの方が動きやすいわい」


「だろ。だから頼んだぜ。そしたらこれはお前のもんだ」


「まあ、いいじゃろう。しかし、剣はお主が持ったところで、魔術を使った方が早いし強いじゃろう。炭も何に使う? あれは錬金素材だったはずじゃ。ちまちまするのは性に合わんと言ってなかったか?」


「まあ、どっちも普通に使うわけじゃねぇさ。ただの触媒だ」


 ルミナリアは魔術士。しかも最上位だ。いくらレアとはいえ紅蓮王の剣は上級剣士が持つ事で、その真価を発揮する。魔術士では使いこなせないし、単純に炎属性で攻撃するなら【魔術:双焔】あたりを使った方が圧倒的に効率的だ。そして細かい作業を苦手としたルミナリアは錬金術には見向きもしていなかったため、浄化の秘石の素材となる世界樹の炭を必要とする理由が分からない。


「触媒とな……。それはもしや魔術習得の触媒か!?」


「正解だ。ずっと前に見た事も無いペンタグラムを見つけてな。解析の結果、その二つが触媒に必要だと分かったのさ」


「新たな術まであるとは、三十年というのはすごいのぅ。しかし今、解析と言ったな。それは何じゃ。魔術の触媒といえば、手当たり次第に焼いておったはずじゃが、それをすると触媒が分かるのか?」


「そう。鑑定から発展した【術式解析】って新しい技能だ。これももちろん、この本にあるぞ」


 そう言い、ルミナリアは手にした本をミラの目の前に寄せる。その瞬間、目にも留まらぬ速さで伸ばしたミラの手が幻影を掴む。


「ぬぅ」


「三十年前のままのお前じゃあ、オレを出し抜こうなんざ三十年早い。さあ、どうする。見つけてきてくれればこれはお前にやるぞ?」


「引き受けよう」


 ミラージュステップで背後に回り込んだルミナリアに振り返ると、ミラは瞳を大きく輝かせながら答える。


「だが一つだけ条件があるのじゃが」


「ん、なんだ。旅費とか必要な道具か? そこら辺はソロモンが用意するだろう」


「いや、まず一つ。その幻影を教えてくれんか」


 ミラは期待に満ちた表情で、ルミナリアを見上げる。これには経験深いルミナリアも少々ドキリとする。


「中々使いこなしてるじゃないか。まあいいだろう。前金代わりに教えてやるよ」


 そうして、女子トイレの中で仮初乙女達の勉強会が始まった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 賢者の中で戦闘になったら誰が1番強いんだろ
2022/04/10 10:48 退会済み
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