180 精霊の絆
百八十
「時に、先ほどの話にあった魔物を統べる神というのが、ちと気になるのじゃが、詳しく訊いてもよいじゃろうか?」
ミラは、首飾りの効果によって確かにマナの回復速度が上がった事を感じながら、ふと気になっていた点を尋ねた。魔物を統べる神は、当時知られていた魔物とは比べ物にならないほど強力で、見た事もない魔物を率いていたという。リーズレインの話の中に、さりげなく出てきたそれは、三神国防衛戦にも勝るかもしれない異常事態であろうとミラは思ったのだ。
「思えば、あれは何だったのだろうな」
「そうよね。今思い返しても、おかしな点が一杯あるわ」
ミラの質問に答えるべく当時を思い出す精霊王とマーテルは、そんな事を初めに呟きながらも、知っている限りの事を教えてくれた。
まず、魔物を統べる神だが、これがどうにも正体不明の存在だったという。見た目は、闇が凝り固まったかのようであり、その形は人と同じ。まるで影だけが分離したような姿をしたそれが、強力な魔物を率い特殊な力によって天変地異を引き起こす、魔物達の長。
数多の魔物を退けて、その元に辿り着いた精霊王と人族の英雄達。そしていよいよ決戦となったのだが、英雄の一人が放った技の一撃で、魔物を統べる神はあっけなく打ち倒されたそうだ。その元に辿り着く方が大変だったと精霊王が語る。
その結果、統率を失った魔物達は、もはや烏合の衆も同然で、その後は迅速に事態も収拾していったそうだ。
「何というべきか、魔物を統べる神は既に瀕死の状態にあったのだと、我は思う。感じられたマナの波動が微弱であったからな。しかし、どうにも感じた事のない波動であったのが、思えば気になるな。人であれ魔物であれ、マナの性質自体は似通ったものなのだが、あいつ自身とあいつが率いていた魔物達は、全く別の性質であった」
「私も感じました。あれは、そう、まるで別世界から来たような、そんな気すらしたわ」
精霊王とマーテルは、最後にそう言って話を締め括った。その内容からわかった事は、とにかく魔物を統べる神というのが、明らかに異質な存在であったという事だろうか。なお、その目的などは一切不明だったと、精霊王が付け加えた。
「何とも、不可解な事ばかりじゃな……」
魔物を統べる神とは何者だったのだろうか。そしてその者が率いていた異形の魔物は何だったのだろうか。生き証人でもあるマーテルがいう、別の世界から来たような、という言葉もまた、別の世界から来たミラにとっては非常に気になる点である。
しかし、それを解明する手立ては、今のところ存在しない。
謎は深まるばかりだが、一人で考えたところで何にもならないと、即座に見切りをつけられるミラは、既に新しく手に入れた指環の使い心地の確認に夢中であった。
「流石は、始祖精霊が護っていたお宝じゃな!」
ミラは、絶対防御の展開速度や有効範囲。障害物やその他、展開範囲に何かがある時の場合などを確かめながら、その性能に感嘆する。
展開速度は、一瞬。展開範囲に何かがある時は、障壁自体が変形した。そして、リーズレインの想いが強く働くのだろう、武器などに対しては、押し退ける力が働くようだった。
と、ミラがそういった事を確認していた時の事だ。
「ところでマーテルよ。これだけではないのだろう?」
「あら、やっぱりシン様は誤魔化せないのね」
強力な術具の入手で上機嫌のミラをよそに、そう言葉を交わす二人。何がこれだけではないのだろうか、何を誤魔化していたのか。少し遅れて、どういう事かとミラが顔を向けると、マーテルはミラを見つめたまま少しだけ考えた後、「シン様の加護がある以上、無関係のままではいられませんよね」と呟き、意を決したように真実を話し始めた。
実は、ここにある財宝は囮であり、本当はもっと重大なものをここで護っていたのだと。
「そうであろうな。始祖精霊であるお前が番をするにしては、ここにあるものの価値では吊り合わぬ。して、本命はなんなのだ?」
どうやら精霊王は、最初からこの財宝が人の目を欺くためのものだと気付いていたようだ。始祖精霊の警備代というのは、この財宝ですらまだ安いらしい。流石は始祖精霊に護られていた財宝だと感動すらしていたミラだったが、その精霊王の言葉を聞くと同時、初めからそうだと思っていましたよと言わんばかりにふんぞり返ってみせる。しかし、そのような誤魔化しなど精霊王と始祖精霊には通じるはずもなく、温かい視線を向けられるだけだった。
まんまと欺かれたミラは改めて、なるほどこれは確かに有効だと感心しつつ、最近同じような仕掛けを聞いた事があるなと思い出す。
それは古代神殿ネブラポリスの地下にあったという財宝だ。正規のルートから無数の隠し扉を見つけ進んだ場合、ようやく辿り着ける部屋にあった財宝。しかし、その更に奥には謎の空間が広がっていた。ソロモンいわく、その空間こそが本命で、財宝は真に隠したいものを誤魔化すための囮だったのではという事だ。
この場所もまた、どうやら似たような仕組みらしい。ダンジョンの奥深く。巧妙に隠された道の先で、始祖精霊という最上位の精霊が護っていた財宝。ミラでなくとも、冒険者ならば誰もがこの財宝こそが真の宝だと思ってしまう事だろう。
しかし今回は、ここで番をしていた始祖精霊マーテルの事を良く識る者がいたため、誤魔化されなかったという訳だ。
とはいえ、これだけの財宝でありながら、まだ始祖精霊という存在が護るに値しないとなれば、マーテルが本当に護っているものとは何なのだろうか。
(もしや……神器か!? アーティファクトか!? 剣槍斧弓盾短剣杖鎧兜の神器やアーティファクトが封じられておったりするのじゃろうか!)
伝説級を超える宝といえばもう、神の力そのものを宿した神器か、人の願いを成就させる力を宿すというアーティファクトくらいしかない。一体どれほどのお宝なのか、一度でいいから見てみたいと、ミラは期待に胸を膨らませていく。
「私が本当に護っていたのは、神の器なの。それも、一番有名な三体の器をね」
マーテルがそう口にした瞬間、ミラは更に興奮を昂らせた。しかしその直後、ふと違和感を覚える。ミラは神の器と聞き、それを神器だと解釈したが、続く言葉がどうにも不可解だったからだ。
一番有名な三体の器。果たして神器を指して、そのような言い方をするだろうか。と、ミラがそんな疑問を抱いている内に、真実が更に明らかとなっていった。
「神の器だと……。それはもしや……!」
何か心当たりがあるのか、驚いた様子をみせる精霊王。そしてその驚きようはミラに、神の器とは神器の事ではないと確信させる。
「はい、そのままの意です。神が再びこの世に顕現する際に必要となる依代。その中でも、この大陸に最も縁の深い三柱の器となる三体が、ここに眠っております」
「……なるほどな。それならば納得だ」
マーテルの説明を理解したようで、精霊王は得心したように頷いた。そしてミラはというと、余りにも飛躍し過ぎな話に呆然とはしていたが、一応の意味は把握出来ていた。
神の降臨。そのために必要な依代。ファンタジーな物語の中では、そこそこよくある話だ。しかし、よくある話だからこそ、その重大性もまたわかり易いというもの。
この大陸で最も縁の深い三柱の神といえば、それはもう三神しかいない。そして三神は、数多存在する神々の中でも、最上位の神格を持つ。そんな神が現世に降臨するための依代ともなれば、確かに神器やアーティファクトなど目ではない。それこそ始祖精霊が護っているのも頷けるというものだ。と、ミラは改めて思う。
マーテルが言うには、そんな神の器は、今居る家の外にある大木の幹に隠してあるそうだ。そして、もしも人類が滅亡の危機に瀕する事になった時、人々の支柱となり窮地から救い出すため、滅亡を避けるため、依代を使い三神が降臨するのだという。
尚、精霊王曰く、特に三神は我等と同じく人類に甘い性格だそうだ。
「あ、わかっているとは思うけど、この件は他言無用でお願いね」
内容は国家機密などよりも重大な、世界機密だった。しかしそんな事とは裏腹に、マーテルは口元に人差し指を当てながら、少しお茶目に微笑んでみせる。どうやら、精霊王に認められているミラへの信頼というものがあるのだろう、ミラが言いふらすような事はしないと分かっているようだった。
「うむ、百も承知じゃ」
ミラも、その重大性はこれでもかというほど理解している。なので当然だとばかりに即答した。
神の器が存在する。それはつまり、人々が崇める三神が現世に降臨する可能性があるという事。もしこの事を三神教の教会の者が知ったら、大陸全ての国を巻き込んでの大騒ぎとなるはずだ。そして場合によっては、是非三神国に器を迎えよう、などという話にもなりかねない。しかしそれは、最も悪手といえる。
いざ、人類の存亡をかけた戦いが始まってしまった時、器のある場所が特定されている場合、それは敵対勢力からして絶好の標的になり得るからだ。
三神の降臨という、人類側の最終手段。それを封じようと動くのは当然の帰結である。そして、人類がそれを防ぎきれるとは限らない。もしも神の器を失えば、人々の心の拠り所もまた失われるに等しい事となるだろう。そうなればもう、人類に未来はない。
なので神の器があるかないかも曖昧な今のまま、厳重に隠蔽されたこの場で、始祖精霊のマーテルが護るというのが一番安心安全なのだ。
「大変じゃのぅ。しかしこのような場所に一人で、寂しくはないのじゃろうか?」
随分と長い年月を、神の器の守護に費やしてきたというマーテル。そんなマーテルの事を想い、ミラは心配そうにそう呟いた。
「うーん、そういう気持ちはなかったのよね。もう覚えてないくらいの年月を過ごしてるから、私達みたいに古い精霊って、そのあたり曖昧なのよ」
ミラの呟きに応えるようにして、マーテルはそう笑ってみせる。ミラの事を必要以上に心配させないため、などという事でもなく、本当に全く気になっていない様子だった。
すると、そんなマーテルの言葉に精霊王も続く。「少し考え事をしていたら、数百年というのも良くある事だからな」と。
やはり精霊の、特に悠久の時を過ごしてきた古い時代の精霊は、時間という感覚も随分とアバウトなようで、そんな精霊王の言葉に、あるあるとマーテルも賛同していた。どうやら、ちょっと考え事をしていて数百年というのは、古参精霊のあるある話のようだ。
相当に気の長い精霊王とマーテルにミラが呆れていたところ、ふと精霊王がそんなミラの事を見つめて楽しげに微笑んでみせた。
「けれどな。ミラ殿と出会い、ミラ殿を通して世界を感じられる今は、毎日の一分一秒が楽しくて仕方がない。我の知る時代より相当様変わりしていながらも、まったく変わっていないところもある。本当にこの世界は、まだまだ知らない、楽しい事で溢れているぞ」
精霊王は、どことなく子供っぽく自慢げな様子で、けれど父のように優しい表情でマーテルに語ってみせた。ミラに与えた加護を通じて感じた世界、そして契約の絆を通じて繋がった、ミラと共にある眷属達の話を。特に眷属達の話は、今の精霊事情を良く知る事に大いに役立ち、かつてとの変化にとても驚いたものだと、精霊王は笑う。
「そうでしたの。それはとても素敵ですわね」
精霊王の話を聞き、マーテルはそう微笑んだ。そして少し羨むような、少しだけ白状するような面持ちで、マーテルは一つだけ口にする。確かにもう寂しいという感情はないが、ミラと出会い精霊王と再会し、こうして話している今は楽しい時間であると。
「よし、マーテルよ。ミラ殿と契約すると良い。我が許す」
何を思ったのか、突然精霊王がそんな事を言い出した。「なぬ!?」と驚くミラだったが、そんな当人を無視して精霊王とマーテルの話は続いていく。
「契約、ですか? そんな大切な絆の繋がりに、私なんかが加わってもいいのかしら」
流石のマーテルも精霊王の言葉は突然過ぎたのか、少し困惑気味の様子だ。
「ああ、当然だ。ミラ殿は、我ら精霊達を大切に想ってくれている。まだ短い付き合いだが、その事だけははっきりと分かるぞ。ゆえにマーテル。お前もミラ殿にとっては、放っておけない存在のようだ」
マーテルに怒涛の勧誘をかける精霊王。短いながらも、年の功からくる洞察力の成せる業か。ミラの僅かな態度や言葉から、マーテルに対する想いを感じ取っていた精霊王。そしてそれは確かに事実であり、寂しいという感情は曖昧であるとマーテルが言っていたものの、ミラはそれを曖昧であって零ではないのだと受け取っていた。だから、またここに一人残してしまえば、きっと寂しくなる。気付けない寂しさというのもあるだろうと。
そう感じたミラは、どうにかマーテルを一人ぼっちにさせない手段はないかと、お節介とは思いつつそう考えた。そんな時であるのだ、精霊王が契約すればいいと言ったのは。それはマーテルだけでなく、ミラにも向けられた言葉だったのかもしれない。
「先程も言ったように、ミラ殿には私の加護がある。その効果はよく知っているだろう? お前がミラ殿と契約すれば、その新たな繋がりを通じて、今の世界を知る事が出来るぞ。それと先程言ったな。今こうして話しているのが楽しいと。同じ思いを我も抱いたぞ。折角、ここで逢えたのだ。これからも、他愛のない言葉を交わそうではないか」
精霊王の加護の力は、繋げる力。その繋げるという意味は多岐に渡る。ここでミラがマーテルと契約した場合、その新たに結ばれた繋がりを通じ加護を介して、マーテルもまた精霊王と話せるようになり、更にはミラが今契約している精霊達とも意志の疎通が可能となる。
神の器を護るという役目のため、マーテルはここから動く事は出来ない。だがミラと契約をすれば、動かずとも世界の様子を繋がりから感じる事が出来る。
(まるで、精霊インターネットじゃな)
ふとそんな事を考えながらも、ミラは精霊王の勧誘を息を呑み見守っていた。ミラにしてみれば、それに異を唱える理由など一つもない。勧誘が成功し契約となれば、マーテルの孤独を紛れさせる役に立てるという大役を果たせ、尚且つ、新召喚術習得となるのだ。若干、後者に対する欲望が勝り始めたものの、ミラにとっては願ったり叶ったりである。
「これほど積極的なシン様は、初めて見ますわね」
マーテルが僅かにからかうような口調で言う。対して精霊王は「そうだったか?」と自身の発言を思い返し、少ししてから「ああ、そうか」と呟いた。
「きっとミラ殿に世界を広げてもらったお陰だな。我は今、常に眷属達の存在を傍に感じられたあの頃の時代を、懐かしく、愛おしく思っているのかもしれん」
精霊宮殿から出られなくなる前。世界に在った精霊王は、空間の繋がりだけで全ての眷属達を傍に感じる事が出来ていた。どれだけ離れようとも、大切な家族の安否が分かる。お互いに、これほど心強いものはない。
しかし精霊宮殿では、その全てが絶望的に遠かった。しかし今、一部であるがミラを通じて大切な気配を傍に感じられる。それが何より嬉しいのだと、精霊王は言葉にせず語った。そしてマーテルにも傍で安心させてほしいと、どこか不器用に笑ってみせる。
「分かりましたわ。ミラさんがよろしければ、契約させてくださいな」
召喚の契約とは強い信頼で結ばれた絆の証でもあるが、もう一方で、強い絆を強引に結ぶ事も出来るものだ。そんな絆を、今日出会ったばかりで結んでしまってもいいのだろうか。その事を心配していたマーテルは、それが問題ないなら是非契約したいと申し出た。瞬間、窺うように精霊王がミラに振り向く。
「むしろ、こちらから願いたいくらいじゃ!」
そもそも問題などあるはずがない。出会ったばかりでありながら、ミラはもうマーテルに大きな親近感を覚えていたからだ。そして何より、召喚術士であるミラの精霊に対する信頼は篤い。
なのでマーテルの慎ましい申し出を、ミラはこれでもかというほどの笑顔で快諾した。始祖精霊というとんでもない精霊と契約出来るのが嬉しいから、というのも多少はあるが、やはりマーテルが一人ぼっちを選ばなかった事が、何となく嬉しかったのだ。
「では、早速始めるとしようかのぅ!」
マーテルの気が変わらないうちに。そんな思いもあり、ミラはいそいそとマーテルの前に駆け寄る。そして差し出されたマーテルの手をそっと握り、召喚術士の技能《契約の刻印》を発動する。
するとどうだろうか、淡い契約の光は途端に輝きを増してミラとマーテルを包み、次の瞬間、幾筋もの奔流となって部屋中を駆け抜けた。
「ぬぅ……! 始祖精霊ともなると、尋常ではないのぅ」
精霊王の娘であるというサンクティアと契約した時よりも激しい契約反応に、ミラは一層期待を膨らませる。
続いて膨大な精霊力が繋いだ二人の手から弾けるように溢れ出す。はっきりと鮮明に見えるほど濃いその精霊力は、契約の輝きに徐々に溶け込んでいき幾筋の奔流と重なっていく。そして契約の光と精霊力が一体となった時、瞬く間に色とりどりの花が咲き乱れ、部屋中を埋め尽くしたのだ。まるで花の洪水である。
膨大な花に溺れかけるミラ。その直後だ。溢れる花々は光の粒子に変わり渦巻いて、繋いだミラの手に勢い良く吸い込まれていくではないか。
(おお! 上手くいったようじゃな。召喚に必要な情報が流れ込んできおった!)
召喚契約が完了した際、どういう原理か必要な情報が脳裏に浮かび上がっていった。それはまるで、忘れていた事を突然思い出したような不思議な感覚。しかし、ずっと前から知っていたと錯覚してしまいそうになる鮮明な記憶となり、しっかりと焼きつく。
そんな記憶をミラは、期待しながら思い浮かべた。
まず、第一の驚愕がミラを襲う。新たに習得した【召喚術:植物の母】はアイゼンファルドの更にずっと上、召喚陣を四つ必要とする最上級召喚をも超えた、超越召喚という未知の領域に分類されていたのだ。
(超越召喚……何じゃそれは)
召喚術士の頂点に君臨するミラですら知らぬその領域。ただ新たに浮かんできた記憶から読み取れる事は、まず一つ、それは規格外の力である事。そしてもう一つは、十の《ロザリオの召喚陣》を更に昇華させた、《アストラの十界陣》が必要になるという事だ。
(アストラの十界陣か……。どうやって習得すればよいのじゃろうか)
最上級の召喚までしか知らなかったミラは、当然、その上を召喚する際に必要な陣の技能については知らなかった。精霊王やマーテルにそれとなく訊いてみたが、どうやら二人とも詳しくは知らないそうだ。
(どうにかして、調べねばな)
そう強く決意をしたミラは、続いて詠唱文を確かめる。するとそれはこれまで習得したどの召喚よりも長く、流石は始祖精霊だとミラも納得する。しかし次に調べた消費マナの項目で、ミラは愕然とした。
(薄々は分かっておったが、やはり人の身には余る存在という事じゃな……)
マーテルを召喚するために必要なマナは、まさかの百万超。これは魔力特化で潤沢なマナを有するミラの最大マナ値の約二百倍という、とてつもない数値だった。
神に匹敵するという精霊王の次に力を持つ始祖精霊。それは人には過ぎた力。九賢者などと呼ばれる術士の最高峰でも遠く及ばず、まともに行使する事など出来ない、途方もない術であったのだ。
(しかし、この規格外の数値。実に頼もしいではないか!)
だがミラは驚きながらも、その破格過ぎるマナの消費量に歓喜した。大半の術に共通する事だが、マナの消費が多いというのはそれだけ強力であるという事。なお、あのアイゼンファルドですら、消費するマナは千五百くらいだ。対してマーテルは百万超と、三桁も違ってくる。誰だって、その力に期待せずにはいられないだろう。
そして一番重要なのは、ミラにはそれだけのマナを捻出する方法がある点だ。かの『軍勢』を召喚するために必要な技能《仙呪眼》を利用すれば、性能的には百万超だろうと無理矢理捻出してしまえるのだから。
ただ性能的には、という点が少し気になるところだろう。仙呪眼の性能は、術使用時にマナを消費しなくなるというもの。だがその正確な効果は、周囲のマナを自身のマナとして利用するという内容だ。果たして周囲に百万超のマナがあるのか、というのが唯一の懸念だ。
(まだ召喚は出来ぬが、一応切り札が一つ増えたといったところかのぅ。ありがたい事じゃ)
自然界の広さに期待しながら、ミラは確かに感じる繋がりに思いを馳せる。
ゲームではなく、本当に命のかかったこの世界。いざという時にとれる手段は多い方がいいに決まっている。ミラが今まで有していたその手段は、圧倒的物量。そして今回、新たに加わったのは、その対称ともいえる、始祖精霊という一人の圧倒的存在。今はまだ使えないが、いつか《アストラの十界陣》を習得出来れば、随分と対応出来る幅が増える事になるだろう。その事にミラは喜び、同時に感謝するのだった。
10月に入りながらも微妙に暑かったですが、ようやく秋らしい気候になりました。
やっぱり秋が一番過ごしやすいですよねぇ。最高の季節到来です!
そして今年も、もう3ヶ月をきったという。
早いものです。
残り2ヶ月。この間に今年の目標であるホットプレートを入手しなければ……!
そして年内に必ずお好み焼き祭りをするのです!