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174 六層目

百七十四



 魔動石の回収を終え、片付けも済ませたミラは、ペガサスに乗って大神殿を目指す。そして乱立する塔を掻い潜り飛び続ける事三十分と少々で、目的地に到着した。

 大神殿の中には、まだ幾つかの冒険者グループが残っていた。五層目の難度は上級に分類されるCランクであり、見れば確かにそこにいる冒険者達は、実力を窺わせるだけの雰囲気があった。特に武具が明らかに違う。誰もが当然のように高級なミスリル製武具を身につけており、人によっては精霊武具まで所有している。

 そんな冒険者達の視線が、ふらりと一人でやってきたミラに集まる。それは、興味が大半を占める視線だった。Cランクのダンジョンに少女が一人。しかも、息を呑むほどの美少女であるのだ。思わず目を向けてしまうのも仕方がないだろう。


「のぅ、ちと訊ねたいのじゃが、よいか?」


 ミラは、そんな冒険者達の中でも一番人数が多いグループに歩み寄って、そう声をかけた。


「なにかな?」


 そこのリーダーであろう男が興味を顔に浮かべながら応える。同時に他のグループも、ミラの事が気になるのか不意に静まり返った。


「右の角が中ほどから折れたバイコーンの骨に乗る怪しい死霊術士を、どこかで見ておらぬじゃろうか?」


 一度はあった目撃証言。ならば、もしかしたら他にも見た者がいるのではと、ミラは考えたのだ。聞いた証言は、一週間くらい前の二層目。もし、新たな証言を得られたら、ソウルハウルの進行速度が予想出来るかもしれない。

 このダンジョンは、そのとてつもない広さによって、攻略には移動の手間が占める割合が著しく高い。実力に関係なく時間がかかるのだ。聞いたところソウルハウルは、バイコーンで陸路を進んでいるとの事。陸路には、複雑に入り組んだ道や様々な障害物が山ほどある。ソウルハウルが使役するだけあって、バイコーンも相当な機動力を発揮するであろうが、それでもそれらを無視して進むペガサスには敵わないだろう。つまり途中でソウルハウルに追いつく事が可能かもしれないという事だ。


「うーん、見覚えはないなぁ。すまないね」


 思い返すように腕を組んだ男は、少しして首を横に振りながら答えた。彼の仲間達も思い出そうとしてくれたが、やはり覚えはないようだった。


「ふむ、そうか……。打ち合わせの邪魔をしてすまなかったのぅ」


 人数が多ければ一人くらいは、などと考えたミラだったが、そもそもグループで行動するのだから見たものも大体同じになるだろう。しかしミラはくじけない。こうなれば数で勝負だと、他のグループに聞き込みにいった。

 二つ目のグループも、見覚えはなし。ならば次だと、歩き出した時だ。


「ねぇ、君。多分だけどさ、俺その人見たかも」


 と、一人の男がミラに声をかけた。どうやらミラの質問する声が聞こえていたようだ。振り返るとそこには、小さく手を振ってみせる軽装の男がいた。


「おお、本当か!? いつの何層目じゃろうか?」


 早速とばかりに駆け寄ったミラは、期待を込めた目で男を見上げる。すると男は、思わずといった様子で顔を赤らめながらも、コホンとどうにか取り繕って格好つけたように笑う。


「後ろ姿で頭部を確認出来なかったから、バイコーンかどうかは分からないんだけどさ。馬っぽい骨に乗った人なら見たよ。ここ、五層目で二日前にね」


 そう男が言うと、彼の仲間らしい者達は「遠くてよく分からなかった」「なんか不気味だったよな」などと口にしていく。

 話によると、どうやら見えたのは一瞬だけであり、詳細は何も分からないそうだ。とはいえ、何かの骨のようなものに乗っていたというのは確からしい。状況からみて、ソウルハウルである可能性は高いだろう。


「ふむ……二日前にか」


 思ったよりも随分と差が縮まっている事に、ミラはふと疑問を感じた。一週間ほど前が二層目。そして二日前に五層目。古代地下都市は本来なら攻略に一ヵ月はかかるダンジョンであり、一般的な冒険者達から見れば、その進行速度は充分に早いといえる。

 しかし、それ以上の速度で攻略しているミラと同格であるソウルハウル。陸路と空路でここまで違いが出るものなのかと、ミラは古代地下都市の広大さに改めて戦慄しながら、ペガサスのありがたさに今一度感謝した。そして、「召喚術の勝ちじゃな」とほくそ笑む事も忘れない。

 目撃証言から、間違いなく攻略前には追いつけると確信したミラは「情報提供感謝する」と言って、男に礼代わりの適当な回復薬を手渡した。危険を稼業とする冒険者ならば、幾らあっても困らない物だろうと。


(さて、待っておれよ、ソウルハウル!)


 目処が立った事に気を良くしたミラは、そのまま大神殿を抜けて六階層目に向かい駆けていく。その内心には、友人との再会を楽しみにする感情が少しだけ広がっていた。



 そうしてミラが颯爽と走り去っていった大神殿。そこで、ちょっとした騒動が起こる。

 発端は、ミラが手渡した薬だ。かつて知り合いの錬金術師に発注した大量の薬。最大規模のレイド戦を控えての発注だったが、その前にこの世界へやってきたミラは、戦闘で消費されるはずの薬品類を丸々抱えたままだった。今回渡したのは、その一つであるが、流石は最大規模のレイド戦の備えというべきか、それ一つだけでも今は数十万はする薬であったのだ。

 ちょっとした目撃証言で得られる報酬にしては破格過ぎる一品で、男は仲間達から羨ましがられ、他のグループからも妬まれる事になった。とはいえ一番驚いていたのは、やはり当人で、本当に貰ってもいいのだろうかと、暫くの間悩むのだった。




 古代地下都市六層目。五層目から更に半分の面積となったそこは、端から端、床から天井までが、一切見通せないほどに聳える建造物の群で埋め尽くされていた。

 五層目の塔も相当であったが、六層目はその密度がまるで違う。箱のような無数の建造物が、広く高く、そして複雑に入り組み、一つの城のように存在しているのだ。

 個室、細い通路、広間、渡り廊下、吹き抜け、階段、坂道、これらありとあらゆるものが不規則に連なり、この寄せ集めの街を形成していた。


(しかしまぁ、九龍城とは、よくいったものじゃな……)


 当時プレイヤー達はこの六層目を見た時、かつて現実にあったスラム街である九龍城のようだと表現した。ミラもまた過去の資料として残された画像を見て似ていると感じ、今もまたそれを実感する。太古の街でありながら、未だに不思議と生活感が垣間見える街並み。一目見た限りでは不規則に積み上げた積み木のようであり、不安定。それでいて謎の金属がふんだんに使われた建造物は頑丈で、崩れる気配もない。そんなものが幾重にも折り重なり、ところによっては不安定な足場で繋がっている。一歩細道に入り込むと、無数の小道に枝分かれする。

 こういった光景が、六層目の空間全てを埋め尽くしていた。層を降る毎に空間の面積が半分となってきた古代地下都市。この六層目もまた広さだけでみれば、これまでに比べて大人しいものだ。しかし、このような構造であるがゆえ、その床面積は三層目に匹敵。それでいて、出現する魔物はBランク相当。ゆえに、古代地下都市で一番厄介な層となっていた。


「とにかく、進むとしようかのぅ」


 ここもまた、七層目の扉を開くために三つ文字を集める必要がある。それは、上層、中層、下層にある小さな神殿の水晶の間で得られる。だが、プレイヤー間で地区長の部屋と呼ばれていたそこに入るには、更にそれに対応した文字が必要というのだから厄介だ。

 抜けるのに何日かかるだろうかと、ぼんやり考えながら、ミラは前後にダークナイトを召喚して歩き出す。今回ペガサスはお休みだ。何もかもが複雑に入り組んだ六層。人が一人通り抜けられる程度の通路が無数にあり、天井も低い。そのためここでは空を飛ぶという事が出来ず、ペガサスの利点が通用しないのだ。




「はて……どこじゃったかのぅ」


 いったいこの街が出来た頃はどのような技術が使われていたのだろうか。ところどころに灯る光は、街の密度をものともせず、全体を明るく照らし出している。そのため、見た目の雰囲気よりも圧迫感はなく、人によっては冒険心が擽られ少しワクワクしそうな場所であった。

 そしてここに一人、久しぶりの六層目に、その冒険心を擽られてしまった者がいた。正規ルートをしっかり覚えているから大丈夫と、高を括っていたミラである。

 実はこの、六層目。未だに稼動している施設が幾つかあり、そこには珍しい草花や樹木などが栽培されていたりした。しかも、まだ見つかっていない隠された施設が数多く残っているという噂もあるようで、難度が高いにもかかわらず冒険者の姿がそこそこあった。

 道中ですれ違った冒険者が口にしていたそんな噂を耳にしたミラは、その噂と、噂の真実を追う冒険者の姿に感化されてしまったというわけだ。


「確か、こっちにいけば……。いや、こっち、じゃったか?」


 渡り廊下をうろうろして当時の記憶を辿りながら、ミラは脇に見える吹き抜けから顔を覗かせた。


(あれが、最初に通ったところじゃな。で、そのまま向こうに外れていったわけじゃから……)


 吹き抜けは、それほど広くはない。五メートルほど先にある渡り廊下を見つめる事暫く、ミラは正規ルートを思い返す。


「こうなって、あちらからか……。つまり……おお、上か!」


 ようやく現在地点がどのあたりかを把握したミラ。そして、今いる場所が丁度真下だと分かると、そのまま渡り廊下から身を乗り出す。そしてひらりと《空闊歩》で宙を蹴り、上の渡り廊下に飛び込んだ、その瞬間だ。


「おおっと!?」


 着地予定の場所にスケルトンが佇んでおり、ミラは翻るスカートには構いもせずに反射的に飛び蹴りを決めたのである。

 勢いと不意打ちもあってか、ど派手に吹き飛んだスケルトン。だが、流石にBランクエリアの魔物。非力な術士の体術で粉砕出来る筈もなく、間髪入れず立ち上がった。しかし、所詮はBランクエリアの魔物。召喚術士最強の称号を持つミラの敵ではなく、どこからともなく現れた黒剣によってあっという間に塵と化す。


「おぉー……。びっくりしたのぅ。つい足が出てしもうたわ」


 スケルトンの不気味さは、きっと全国共通だろう。それが突如目の前に来るというのは、誰であろうと相当に驚くはずだ。

 まあ、ソウルハウルは例外だろうが、などと思いつつ魔動石を拾い上げ、ミラは先程の一瞬を思い返す。そしてふと自分の両脚を見つめながら「思えば蹴りもありじゃな」と呟いた。

 これまでミラは、近接戦で両手しか使っていなかった。そしてこれはダンブルフ時代からの癖のようなものである。

 ミラは形から入る事が多く、当時も衣装は全てローブばかりを着ていた。そして最終装備である賢者のローブも含め、そのどれもが裾の長いもの。ゆえに足に引っかかる事もあるため足技が使い辛く、結果、拳打がメインになり今に至る。

 しかし今更ながらに、ミラは気付いた。裾が短く、足が自由に動かせるミニスカートの今なら、足技も存分に繰り出せるのではないかと。

 ミラは下の渡り廊下に置いてきたダークナイトを送還した後、傍に再召喚すると、試しとばかりに蹴り技の実験台にした。

 今まで使った事はなかったが、ミラは仙術の賢者メイリンに基礎鍛錬として最低限の型は教わっている。なので動きだけならそこそこ見れる蹴りを放てるミラは、これまで封じてきた蹴り技を思う存分に振るった。

 ちなみにミラの蹴りだが、動きは鋭いものの体格と筋力が足りず威力は拳打に毛が生えた程度のものであり、受け役のダークナイトには微塵のダメージもなかった。

 とはいえ、威力は仙術で補える。簡単にだが蹴り技を試し終えたミラは、近接戦でとれる選択肢が増えた事に喜び、あとでしっかり復習しようと決め歩き出す。この時、もしもミラに客観的な視点があったなら、少しでも女としての感性が養われていたなら、せめて誰かが近くにいたなら気付けただろう。ミニスカートで蹴りを繰り出すと、パンツがどうなるかという事に。

 結果としてミラは気付く事なく、または気にする事なく、ただただ蹴り技が封印解除されたという認識のまま、どことなく自信に満ちた表情で、ずんずんと進んでいく。


「靴に鉄板を仕込むというのも、定番じゃろうな」


 飛び蹴りで先制して怯んだところに、ダークナイトが止めを刺す。道中これを何度か繰り返したミラは、飛び蹴りのダメージが低い事を装備のせいにして、改善方法を模索する。なお、靴に鉄板を仕込んだ場合、蹴りの威力は上がるものの、機動力が著しく落ちる事になる。そもそも非力が原因なのだから、重い靴は足枷にしかならない。なので一番の解決策は、先日にミラが考えた、筋力強化の精錬装備作りを進める事。後々ミラもその事を思い出すはずだが、今は戦いの幅が広がった事に夢中で、もう暫くはかかりそうだった。




 六層目の上層部。大きな建造物内で大型スケルトンを蹴散らしたミラは、まず水晶の間の扉を開く鍵となる文字の入手に成功した。


「随分と、慣れてきた気がするのぅ」


 六層目の攻略を進めつつも、蹴り技の練習を続けているミラ。何度か目測を誤って、思い切り脛でスケルトンを蹴り飛ばし、涙目で悲鳴を上げていたが、今は失敗もほぼなくなった。途中からダメージではなく、足払いなどでの牽制を重視した立ち回りに変えた事が功を奏したようだ。威力がなくても蹴る箇所などを工夫すれば、充分に通用する。しかも敵は、関節丸出しの人型スケルトン。ミラにとっては、訓練に丁度良い相手だった。


「ただまあ、今日はこのくらいにしておこうかのぅ……」


 調子に乗ってやり過ぎた結果、ミラは微妙に股関節を痛めていた。そのため少々ぎこちない歩き方で、水晶の間へ向かう。

 道中は、ミラが手出しする必要もないほどダークナイトが奮闘した。魔動石を拾いつつその後に続くミラは、懲りずに蹴りと仙術の組み合わせについて考えていた。


(確かメイリンの奴は、飛び蹴りで色々と爆砕しておったな。あれは、どうやっておったのじゃろう)


 ミラの格闘技の師匠に当たるメイリン。彼女の技は多種多様であり、当然足を使ったものも多い。更には仙術を絡めた技も無数にあった。けれど、足が使い辛い、更に時間も足りないという理由で、ミラが教わった技は手を使うものだけ。今のミラにある知識は、鍛錬用の基礎と、何度も見せ付けられたメイリンの技だけだ。


(仙術自体は、ほぼ習得しておるから、これの応用であるはずなのじゃがのぅ)


 冒険から戦闘関係に興味が移り変わったミラは、寄り道せずに考え事をしたままでも正規ルートを辿り、攻略を進めていた。

 小道を抜け階段を上り、部屋を横切り小さな橋を渡る。そして階下が一望出来る回廊を進み、大きな通りを直進すると、その突き当たりに小さな神殿のある空間が広がった。


「おお、到着じゃな」


 不意打ち気味に上階から飛び降りてきたスケルトンが、ダークナイトの迅速な反応によって地に降り立つ前に塵となる中、ミラは奇抜な形をした神殿を見据える。

 神殿は、綺麗な球体だった。しかも金属で造られているらしく、表面はとても滑らかで鏡のように輝いている。そんな球体が、地面にめり込むようにして、そこにあるのだ。


「何度見ても、違和感がぱないのぅ」


 寄せ集めのような積み木の街に、宝玉のような神殿。かつてここで暮らしていた者達は、それだけ信仰深かったのだろうか。明らかに特別な気配をかもし出す神殿を前に、そんな事を考えながらも、ミラはその球体に一つだけ開いた穴より中に入った。


「祭壇脇の階段を上、じゃったな」


 水晶の間の場所を思い返しながら、ミラは礼拝堂を直進する。

 外観に比べ、神殿内部は実にらしい造りであった。入り口正面の礼拝堂。朽ちて尚、見事な細工の柱が並び、奥には壁いっぱいに神像が並んでいた。それら全ては表情が違いながらも、悪魔のような、それでいて天使にも見える優しい姿が共通している。

 今の時代、大陸では三神教が主流であるが、かつては種族や地方などによって多くの神が祀られていたというのは、歴史解明が好きなミラの友人の話だ。そんな友人によれば、古代地下迷宮で崇められている神々は、それら全ての神の祖であるという。

 神にも歴史あり。近くで見ると、より圧巻な壁一面の神像を眺め、そんな事を思いつつ、ミラは傍にある細い階段を上っていった。

やってしまいました……。

先日の週一お買い物日に、味噌煮込みうどんに使う肝心の味噌を買い忘れてしまいました……。

次のお買い物日まで、味噌抜き味噌煮込みうどんです。

そういえば最近、ニラの値上がりが凄いですね。

先日まで一束70円くらいだったのが、今は120円!

ありえんです。

いつも味噌煮込みうどんに使っていましたが、ここまで値上がりするとちょっと使えませんよねぇ。

なので代わりに、ピーマンを買ってきてみました。5個入って120円くらいです。1食1個使えるので、なかなかのコスパ!

ニラがまた値下がりするまで、これで乗り切ります。

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