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151 影響と対策

百五十一



 偏った宗教思想に毒された狂信者。何故、この崇高な使命を理解出来ないのかと繰り返すキメラクローゼンの最高幹部達。

 そこで、カグラは質問を全面的に変えた。これ以上の問答は無意味だと判断したからである。

 そうして新たに聞き出した事は、キメラクローゼンの組織の繋がりについてだった。

 完全催眠は完璧に作用し、大陸中にある拠点や、利害関係にある商会、貴族、その他諸々の情報が順調に得られた。幹部三人が知っているだけでも、その数は三桁にのぼり、どれもが重要な拠点であるため、この情報の価値は計り知れない。

 更に、その拠点を制圧した暁には、そこの責任者が管理する情報も得られるため、最終的には四桁に届くほどの拠点を暴く事が出来そうだ。


「ある意味、ここからが本番よね。絶対に逃がさないんだから」


 最高幹部三人から徹底的に情報を引き出し終わったあと、カグラはマティが記録していた証言メモに目を通しながら不敵に笑う。その目は、完全に獲物を追うハンターの如くであった。


「それじゃあ、マティさん。後日、教会の法制官が来るはずだから、あいつらの引渡しお願いね」


「はい、お任せ下さい!」


 世界の敵、キメラクローゼン。特にその最高幹部三人は、人の法ではなく神の法によって裁かれるらしく、数日後に教会から移送隊が身柄を引き取りに来る事となっていた。


「神の法か。聞いた事はあるのじゃが、どういうものなんじゃろうな」


 手続きを支部長のマティに委任して、支部をあとにしたミラとカグラ。次の目的地は、慌てて捕まった残党が幽閉されている組合。そこへ向かう道すがら、ミラがふと、そう口にした。


「あー、主に聖術士関連でからんでくる設定だからね。戦闘にも関係ないし、おじいちゃんが知らないのも無理はないかー」


 カグラは、そう言って笑うと少しだけ得意気な様子で、語り始めた。

 神の法。それは、壮大な儀式によって行われる断罪であり、事実、神によって、正確には神の使徒によって下されるという絶対の審判だそうだ。ゆえにこの決定には、たとえ三神国の王であろうと異を唱える事は厳禁。

 そして、人の法との違いはというと、判断基準もそうだが、一番はやはり罰の重さだという事だ。

 人の法による最大の刑罰は死罪だが、神の法による最大の刑罰は、魂滅だそうだ。これは文字通り、魂の消滅を意味する。

 死生観の違いから、人によっては死罪とどう違うのかと疑問に思うだろう。しかし、この世界。確かな存在として神が在り、オカルトではなく実際に輪廻という概念が神によって確立している。

 つまり、死は全ての終わりではないというのが、この世界での常識である。しかし、魂滅は違う。神によって下されるその決定は、全ての終わりを意味する。輪廻があるからこそ、その終焉である魂滅は絶対の罰と成り得るという事だ。


「大罪を犯して、神様でも浄化しきれないほど魂が穢れた時、この魂滅の罰が下されるんだって。余程の事がない限り、そこまではいかないってアルテシアさんが言ってたけど、今回はどうなるんだろうね……」


 最後にそう口にしたカグラは、どこか複雑な表情を浮かべ、支部のある方向に視線を向けた。



「しかしあれじゃな。さきほど輪廻という概念があると言っておったが、それはわし等にも適用されるのかのぅ」


 組合のある繁華街にさしかかったあたりで、再びミラが、ふとそんな事を口にした。この世界で生まれ、そして死んだものは輪廻の輪に還る事だろう。しかし、別の世界で生まれた元プレイヤーの自分達は、どうなるのだろうか。


「さぁ、どうなるんだろう。今のところ、転生した元プレイヤーがいるって話は聞かないし、そもそも死んだらどうなるかも分かってないよ。元の世界に帰るだけ、なんて言ってる人もいるけど、まず戻る手段がないから、それを確認する事も出来ないし。研究は続けているみたいだけど、分からない事だらけって話」


「ふむ、なるほどのぅ。まあ予想通りじゃな」


 そう納得したように呟いたミラは、少し間を置いてから「にしてもやはり、戻る手段はないのか」と、淡々とした調子で続けた。


「あれ? やはりって……ソロモン先生からこの事聞いてないの?」


 カグラは驚きと同時に疑問を浮かべて、ミラに振り向いた。アルカイト王国のソロモン王。元プレイヤーである彼は、日之本委員会という、国王クラスの元プレイヤーが集まる特別な組織の一員でもある。

 そして、この日之本委員会によって、この世界そのものを研究する機関が発足された。機関は元の世界に帰る方法についても研究しており、ソロモンは当然、その成果を把握している。そして、元プレイヤーにならば、これらの情報を開示する権限もあった。

 しかしミラは、この件については全く聞いていなかった。

 いや、ミラは訊くまでもないと判断していたのだ。


「聞く必要もないと思ってのぅ。もしもその方法があったなら、あ奴の事、直ぐに教えてくれるじゃろうし。そうせず、尚且つソロモンの奴は三十年、ルミナリアも二十年はこの世界に留まっておるというではないか。否が応でも、帰る手段など無いと分かる。ならば、早めに区切りをつけて楽しんだ方が得じゃろう?」


 その言葉こそ、ミラの本心であった。帰る方法がなんだかんだと騒がずに、今を楽しむ。ただミラにとっては何よりも、ソロモンとルミナリアという親友が直ぐ近くにいたというのが、混乱せずに済んだ一番の要因だろう。


「ふーん。その、郷に入ってはなんとやらって感じ。こんなんなってもやっぱり、おじいちゃんはおじいちゃんだね」


 ふてぶてしそうに笑うミラを改めるように見つめながら、カグラは、どこか懐かしむような表情を浮かべ微笑むのだった。



 冒険者総合組合セントポリービル。ミラとカグラは組合員に案内されて、その地下三階を訪れていた。

 そこにあるのは、頑強な牢である。指名手配犯や賞金首などの犯罪者を一時的に収監するための場所であるそこは今、キメラクローゼンに関与していた者達で溢れていた。


「これはなんとも。効果抜群じゃのぅ」


「精霊王が最後にした忠告が、相当効いているみたいよ。精霊達の復讐を恐れて保護を求めてきた、なんてのが多くいるみたい。……ほんと自分勝手」


 カグラは、嫌悪感を前面に滲み出しながら周囲を見回す。

 牢で大人しくしている者、騒ぐ者、呆然とする者に笑う者。本来、陰鬱な場所であるそこは無駄に賑わっており、事情聴取のためか組合員も数多く見られた。


「まさか、お前が内通者だったとはな。残念だよ」


「……ふんっ」


 どうやら組合に潜んでいたキメラクローゼンの者も無事に捕らえられたようだ。組合員の説明によると、どうやら紛れ込んでいた場所ごとで同じ牢に収監しているそうだ。

 そんな地下牢を眺めながら通り過ぎていったミラとカグラは、その中央にある管理室に通される。

 そこには数名の組合員と初老の男女に、五十鈴連盟の女性が待機していた。


「お疲れ様です。ウズメ様」


「うん、ご苦労様。で、そちらのお二方が?」


 五十鈴連盟の女性が緊張気味に一礼すると、先程までの剣呑な表情はどこへやら、カグラは朗らかな笑みを湛え、女性の後ろにいる二人に視線を向けた。


「挨拶が遅れたな。俺はここの戦士組合長、ゲイツだ」


「私は、術士組合長のデボラ。キメラクローゼンの一件について、お礼を言いたくてお待ちしていたの」


 自己紹介と共に立ち上がった二人は、組合の長だったようだ。見れば確かに、その身に纏った服は一級品。眼光も鋭く、只者ではない気配を内に秘めていた。どうやら五十鈴連盟の女性の緊張は、カグラ以外にも、この二人にありそうだ。


「お礼を言われるような事じゃありません。私がそうしたかったからしただけですので。それよりも、場所の提供と聞き取りの助力に、こちらがお礼を言いたいくらいです」


 組合長の二人に真っ直ぐ向かいあったカグラは、そう言ったあと「ありがとうございます」と続けた。ミラはといえば既に近くの椅子に腰を下ろし、完全に傍観の姿勢だ。

 こうして顔合わせを済ませた面々は、そのあと情報交換を始めた。

 ただし、組合員には退室してもらい、組合長の二人に「申し訳ありませんが、少しだけ確認させてください」と催眠の術について説明したあと、術でキメラクローゼンの者でないか確かめてからだ。ちなみに組合長の二人は、気を悪くする事もなく『この術は凄い』と絶賛していた。しかし教えて欲しいと頼むもカグラにやんわりと断られ、実に残念そうでもあった。

 そうこうして情報交換は、万全の体制で行われる。組合側にはキメラクローゼンの本拠地の場所やセントポリーという国の裏について、確認出来た限りの情報を提示した。


「なんてこった……まさか国そのものが」


「これは、大仕事になりそうね」


 組合長の二人は特に、セントポリーという国がキメラクローゼンによって生み出されたという情報に大層驚いた様子だった。

 キメラクローゼンの情報隠蔽は徹底していた。ゆえにセントポリーの上層部は全て、キメラクローゼンの事について微塵も知らない者ばかりで揃えられていたのだ。多少疑いが生じたところで、トップの認識だけは清清しいほどに潔白なのである。そこからキメラクローゼンに辿り着くのは困難を極める事だろう。

 だからこそ、この真実はセントポリーに住む二人には鮮烈だった。まさか、よりにもよってこの国が、である。


「なんというか、まだ整理はつかないが、分かった。この街の治安については任せてくれ。組合の総力をあげて対処すると約束しよう」


「他国の組合については、私が責任を持って伝えさせていただきますわ。この件は私達にとっても大きな意味があるものですから、きっと動いてくれるでしょうね」


「ありがとうございます。助かります」


「なーに、お互い様だ」


 国の裏全体に巣食っていたキメラクローゼン。それを取り除いた事によって生じるであろう影響は、国境すら越えて予想出来ないほどの規模になる恐れがあった。それはカグラが懸念した一つであり、流石の五十鈴連盟でも対応しきれるものではない。だからこそ、短いやり取りによって交わされたこの約束は、それでいて大きな一手となるのだ。

 ただ、その裏には、もう一つのやり取りも含まれている。それは、組合がキメラクローゼンにかけていた懸賞金についてだ。

 五十鈴連盟が捕らえたキメラクローゼンは膨大な数であり、組合に突き出せば懸賞金も相当な金額となるだろう。しかしカグラは、それら全ての懸賞金を受け取る代わりに、今回の協力を持ち出したのである。

 カグラは懸念を払拭出来て、組合にしても懸賞金は浮き、そもそも放っておく事など出来はしない今後の対処にその分の資金を回せるのだ。

 それは互いに都合の良い約束だったといえるだろう。



 続いて、今度は組合側からの情報の提示である。その内容は、今組合地下に捕らえられている残党の証言をまとめた全ての調書と、それに付随する施設や組織の繋がり、関連貴族などなどを加えた書類一式だった。


「確かな情報源から得た最新のものだ。数時間の内にこれを用意するには骨が折れたぞ」


 ゲイツは書類を差し出しながら、本当に疲れたとばかりに苦笑を浮かべる。キメラクローゼン討伐騒動のあとに、組合員総出で急ぎまとめた資料だという。どうやらカグラの部下が迅速な残党狩りのために必要だと、あらかじめ情報提供を要請していたようだ。ちなみに取引条件は、キメラクローゼン討伐と残党狩りの功績を一部という事で決まったらしい。そして残党狩り自体は、五十鈴連盟が主に実行するとも。


「ありがとうございます。キメラとの勝負は早さが重要ですから。少し拝見させていただきますね」


 朗らかな笑みを浮かべながら書類を受け取ったカグラは、それをぱらぱらと確認していく。

 大陸中に根を下ろし、ところによっては王族とすら関係のある組合の情報網。それを最大限に活用して裏の裏まで記した書類は、国家機密にも近い、大物同士の繋がりなども記載されていた。

 流石の組合でも扱いに困る情報だという事だったが、今回はキメラクローゼンと、その罪に関わる事だ。三神国の定める法に著しく抵触する罪。それに関わる情報を開示する事で他者との関係に不利益が生じるとしても、三神国の恨みを買うより遥かに軽い。この件に関わった者達の罪は、それだけ重いのだ。隠し立てなど愚の骨頂といえるほどに。

 そして現在、アリスファリウス聖国の越境法制官によって、五十鈴連盟はキメラクローゼンの一件で動く事を正式に認められている状態である。中途半端な情報を渡すわけにはいかなかった。


「素晴らしいです。これなら多くの残党を捕まえられるでしょう」


 書類に一通り目を通したカグラは、確信に満ちた笑みを浮かべる。その言葉に、ゲイツとデボラは安堵したとばかりに肩を下ろした。



「それじゃあ、この資料預けてくるから、おじいちゃんは先に戻ってて」


 組合を出たところでカグラはそう言うとミラの返事も聞かず、術で五十鈴連盟本拠地に配置していた式神と入れ替わった。そして同時に現れた式神、子烏形態になった八咫烏のヤタコマチが、当然といった態度でミラの頭にとまる。


「まったく、慌しい奴じゃのぅ」


 ため息交じりに呟いたミラは、街灯が点き始める大通りを進みつつ、日が沈んでいく空を見上げながら、はて、官邸はどこだったかと立ち止まった。

 この日、キメラクローゼン討伐の功労者達は、昼だけでなく、国が大々的に取り仕切る夜のパーティにも参加する事が決まっていた。当然、討伐宣言の際にトリを務めたミラもその一人に数えられており、会場となる官邸に戻る必要があるのだ。

 手っ取り早くマップで確認したミラは、颯爽とペガサスに跨り、夕暮れの空に舞い上がっていくのだった。

いよいよ今週ですね。ダークソウル3

ここ一週間、関連動画をずっと見ていました。

あ、もちろん執筆作業もしていましたよ。

これだけゲームの発売日が楽しみなのは、ダークソウル2以来です。

次に発売日が楽しみになるゲームが出るのは、いつになるのだろうか。

ダークソウルの後継作とかになるのかなぁ……。


あ、確か同日にロマサガ2のリメイク版が出るはず。これは楽しみだ!

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