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146 鬼の角

短めになります。

百四十六



 精霊キメラを倒したミラは、求められるままアイゼンファルドに甘えられたあと、順調に本拠地を制圧していく第二陣に簀巻きにしておいたグレゴリウスを預け、合流したセロと共に奥へ向かった。

そして最深部。ミラとセロがそこで見たものは、裸の少女と、それを抱きかかえるカグラの姿だった。


「勝負はついたようじゃな」


 見回せば、部屋中に見られる激戦の痕。その全てが新しく、つい先程まで繰り広げられていた戦闘が鮮明に見て取れた。ミラは、そんな名残を感じながらカグラの隣に立ち並び、その腕に抱かれた少女に目を落とす。

 白い肌、細い手足。強さの欠片も見受けられない容姿だが、そこには確かに戦闘の傷が残っていた。


「まあ、一応。半分はね」


「む、半分、じゃと?」


 この少女こそがキメラクローゼンのボスだったのだろうと判断したミラは、どこかひっかかりのあるカグラの返事に眉を顰める。そして、どういう意味かと問いかけた。


「追い出す事には成功したんだけど、その後がねぇ……」


 カグラはため息交じりにそう答え、少し奥に目を向ける。見てみるとそこには、菱形の黒い欠片が転がっていた。


「黒霧石、とは違うようじゃな。随分と濃いのぅ……」


「そのようですね。とても嫌な気配がします」


 目にしただけでもはっきりと感じられる悪寒。ミラとセロは、遠巻きにそれを見つめたまま、思った事を口にする。

 人差し指より少し長い程度だろうか、真っ黒なその欠片は黒霧石のように霧を帯びながらも、これまで見たそれとは比べ物にならないほどの禍々しさを秘めていた。


「あれはね、この子の頭についていた角なのよ」


 カグラは警戒する二人にそう言って、また盛大にため息を漏らす。

 カグラ曰く、少女は、ただ操られていただけだという事だ。キメラクローゼンのボスの正体は、呪いが無数に折り重なり生じた怨霊で、少女はそれにとり憑かれていたのだと。

 そしてその肝心要の怨霊はといえば、カグラが得意技で少女の身体から追い払ったらしい。

 その得意技というのが、陰陽術の奥義、《七星老花・破軍》だ。それは、武具の性能を極限まで引き出し、数十倍にまで増幅するという効果を持つ。弱い炎属性の剣であろうと、この術を利用すれば魔剣の域に達するような威力の一撃を繰り出せる。カグラはこの術を用いて、白銀滅鬼の力を最大限に増幅し、呪いから生まれた怨霊を祓ったのだ。

 その結果、怨霊は綺麗さっぱり消滅したが、少女の頭に生えていた二つの黒い角がぽろりと落ちて、かと思えば床を転がり一つにくっついた、という話だ。


「なんていえばいいのかな……。多分だけど、あれは結晶化した鬼の呪いだと思う。制御していた怨霊が消えた事で休眠状態になり、この子から剥がれた、ってところかなぁ?」


 小さいながらも、怖気立つような存在感を放つ、菱形の黒い欠片。それについては流石にカグラもよく分からないらしく、徐々に言葉から自信が消えていく。だが一つだけ確かな事は、当然、このままにする訳にはいかないという事だ。


「鬼の呪いか。ならば捨て置けぬのぅ」


 欠片を見据えたまま、どうしたものかと唸るミラ。するとその隣のセロが、一歩二歩と前に出る。


「精霊を蝕む、という事ですからね。悪用されないとも限りませんし、処分したいところですが……」


 言うや否や、セロは腰に帯びた白い剣『白銀滅鬼』を抜き放ち、欠片に向けて一閃した。


「やはり、これまでとは格が違いますね」


 鋭く奔ったセロの剣は、しかし欠片が漂わせる黒い霧に触れた途端にその勢いを止めてしまった。ただ、セロは漂う気配から破壊出来ない事を既に察していたようだ。剣を防いだあとの欠片の反応を観察するように睨みながら、セロはゆっくりと剣を収める。


「そうなのよ。私もさっき、もう一発《破軍》をぶち込んでみたんだけど、全く手応えがなかったのよねぇ」


 言いながらカグラが目を向けた先には、大きくひしゃげた錫杖が置いてあった。武器の性能を最大限にまで引き出す陰陽術の奥義《破軍》は、当然と言うべきか、武器への負荷も相当なものなのだ。

 と、そこまでしても小さな黒い欠片を破壊する事は出来ないという。


「ふむ……。ならば次は、わしが試してみようか」


 どうしたものかと、カグラが三度目のため息をついた時、ふとミラはそう口にする。


「おじ……ミラちゃん。それ、どうしたの?」


 欠片に歩み寄っていくミラの姿を見て、カグラは驚いたような声をあげる。振り向いたセロもまた「これは……」と、目を丸くした。それもそのはず。今、ミラの全身には、精霊王の加護の紋様が脈動するかのように浮かび輝いているのだから。


「精霊王の話は前にしたじゃろう? これはその時に授かった加護紋でのぅ。先程、セロが剣を振るった時から、この調子じゃ」


 そう言いながら歩を進め、黒い欠片の傍で立ち止まったミラは、いつも通りといった様子で《聖剣サンクティア》を召喚する。


「精霊王が言っておってな。精霊王の力と、この聖剣の真の力を合わせれば、鬼の呪いを消滅させる事が出来ると」


 ミラは、その身の隅々にまで刻まれた紋様を見つめながら、そこから確かに伝わってくる精霊王の力を感じていた。そして、それが何を意味しているのかも理解して、聖剣の切っ先を黒い欠片に向ける。


「鬼の呪いの結晶というておったが、半分正解といったところのようじゃ。なんとも不思議じゃが、この加護を通じて精霊王の知識が流れ込んできおってな。どうもこれは、鬼の力そのものだという事らしいぞ」


「力そのもの? 呪いとどう違うのよ?」


 ミラの言葉に首を傾げるカグラ。だが、口にしたミラ自身も突然流れ込んできた知識を整理出来ていないようで「わしに言われてものぅ」と、どこか他人事だ。


「まあ、それはともかく、ここはわしの出番という事じゃな」


 聖剣を振り上げたミラは、加護から流れ込んでくる力の感覚に集中する。なんとなくだが、その力の使い方もまた不思議と分かった。

 精霊王の加護紋に呼応するかのように、聖剣もまた光を放ち始める。それはまるで灯台のような、闇の中を切り裂いていく力強さを秘め、見る者に安心感をもたらす導の如き光であった。

 ミラが聖剣を振り下ろす。そこに技術などなく、ただ無造作に上から下に向けて振り下ろしただけだ。しかしその軌跡は、達人の剣のように閃いて、黒の欠片に吸い込まれていった。

 瞬間、眩い光が炸裂する。音はなく、衝撃もなく、ただ周囲の全てが白に染まった。

 余りの光に、カグラ達は瞼を閉じる。だが、それも束の間。気付くと光は収束しており、同時にミラの身体に浮かんでいた紋様も、聖剣も、まるで役目を終えたとばかりに消え去っていく。

 そしてもう一つ。黒の欠片もまた、塵一つ残さず消滅していた。


「上手くいったの?」


 用心のためか、カグラは少女をそっと床に寝かせてから、黒い欠片が転がっていた場所に駆け寄る。近くでじっと見つめてみれば、そこにあったはずの嫌な気配もまた感じられなくなっていた。


「確かな手応えがあった事に加え、見ての通り、加護紋も消えておる。どうやら上手くいったようじゃ」


 慣れたとはまだ言い切れないが、精霊王の加護によって感じられる影響を、ミラは把握し始めていた。そして、その感覚が教えてくれる。元凶……鬼の力が完全に消滅した事を。なのでミラは、確信をもってそう答え、微笑んでみせる。


「じゃあ、これで本当に終わったって事か……」


「そうじゃな。よう頑張ったのぅ」


「……うん」


 ミラの言葉、そして態度に、カグラは安堵すると、まるで張り詰めていた糸が切れたかのように表情を緩ませ、ふと遥か遠くを見る目をして佇んだ。それはまるで、戦場に咲く花のように儚げであり、また未来に続く芽吹きの如く、生き生きとした姿であった。

そういえば年初めの頃、一人鍋セットを手に入れるという目標を掲げましたが

もう一人鍋セット買っちゃてました。

なので、目標を更新しようと思います!


今年の目標は、

自重しない鍋を食べる事 です!


野菜にキノコに鰤、牡蠣、ホタテ。牛肉や豚肉もでっかいブロックで入れちゃったりして!


クリスマスには半額ケーキを狙うという野望もありますし、

フフフ。手強い一年になりそうですぜ……。

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