表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/647

144 新たな……

百四十四



「さて、あとは向こうの決着じゃが……」


 そう言ってミラは、遠くのアイゼンファルドと精霊キメラを見つめる。数百メートル離れていても、そこでは充分過ぎるほどに迫力のある戦いが繰り広げられていた。多少和んでいたミラとヴァルキリー姉妹だが、まだまだ戦闘は継続中であるのだ。


「うわぁ……。行きたくないなぁ……」


 クリスティナが、素直にはっきりと真っ先に思った感想を口にする。そして、当然の如くアルフィナに叱られていた。

 とはいえ誰もが、クリスティナの言葉に内心で賛同する。目に映るそれは、凝縮されたような天変地異と、覇王の如き圧倒的な武力で支配された不可侵領域。ヴァルキリー姉妹といえども足踏みしてしまいそうな程に、この世の地獄と化していたのだから。

 戦況だけでいえば、アイゼンファルドが大きく優勢である。このまま戦い続けても、まず負ける事はないだろうと思えるくらいにだ。

 しかし問題はそこである。負ける事はないが、勝てるとも言い切れない状況。正確には、今直ぐに勝てそうではない、だ。

 それは精霊王の加護によるものか、ミラは気付いていた。精霊キメラが内包する、尋常ではない精霊力に。

 その力は、アイゼンファルドが攻撃するたびに減っている。抉られた傷、吹き飛ばされた部位を再生するために消費されているのだろう。だが、ミラには分かった。その消費が、氷山の一角に過ぎないと。


(いっその事、ドラゴンブレスを……。いや、危険じゃな)


 いってみれば精霊キメラは、HPを数桁間違えたような恐ろしい耐久値を持っているという事だ。このまま続けるとなると、最低でも丸一日はかかるだろう。そう簡単に計算したミラは、アイゼンファルドにドラゴンブレスを命じようか考えた。しかし、即座にその考えを却下する。

 理由は、一つ。強力過ぎるからの一言に尽きる。確かに、皇竜であるアイゼンファルドがドラゴンブレスを放てば、一撃、ないし二撃で精霊キメラを消し飛ばす事も可能だろう。

 だが、このドラゴンブレス。一つ欠点があった。それはゲーム時代では大した問題にならなかったもの。しかし現実となった今では、それが致命的なまでの欠点となる。


「流石に、生き埋めは勘弁じゃよなぁ」


 そう、威力があり過ぎるのである。精霊キメラを消し飛ばすだけのドラゴンブレスを放てば、この基地は確実に崩落するだろう。そうなれば残してきたセロどころか、基地を完全に制圧するために来ている五十鈴連盟の後続部隊を全滅させる結果になりかねない。


(うーむ……。小出しに使えればよいのじゃが)


 加減したドラゴンブレスで削れば、肉弾戦よりは遥かに効率的になるはず。術でも似たような事が出来るのだから、ドラゴンブレスでも出来るのではないか。そう考えたミラは、召喚の特別な繋がりを介して、アイゼンファルドに呼びかけた。加減してドラゴンブレスを放てないかと。


『加減ですか、母上。出来ない事もないですが』


 返ってきた答えは、実に頼もしいものだった。


『おお、そうか。ならば、そうじゃな……一番弱くまで絞ったドラゴンブレスで攻撃じゃ!』


『分かりました、母上!』


 一先ず、どれほどになるのか様子を見る。そんなつもりでドラゴンブレスを命じたミラは、次の瞬間、顔を青くし絶句する事となった。

 ミラの指示通り最大に手加減して、ドラゴンブレスを放ったアイゼンファルド。するとどうした事か、一筋の閃光が迸ると、あっという間に精霊キメラの半身が消し飛び、世界の終末でも来たのではと思える轟音が鳴り響いたのだ。

 アイゼンファルドが向けた口の直線上。壁も含め、そこにあった全てが文字通り消滅していた。そして僅かの後、全体が激しい揺れに見舞われ、恐るべき爆風が一帯に吹き荒れる。

 風に攫われ、ミラは引き攣った顔で宙を舞う。アルフィナ達もまたドラゴンブレスの余波には抗いきれず、吹き飛んだ。だが、そこはやはり歴戦の戦乙女である。誰もが何事も無く降り立ち、アルフィナに至っては即座にミラを抱きとめていた。なおクリスティナが体操選手の如く、器用に中空で捻りや回転を交えながら着地を決め、見事なウルトラCを披露していたが見ていた者はいなかった。


(これは……やはり危険じゃ……)


 更に酷くなった戦場を眺め、苦笑するミラ。

 精霊キメラが内包する力は、見た目通り相当削れているのが分かる。だが次はないとミラは悟っていた。最低レベルのドラゴンブレスでも、基地に与えるダメージは致命傷一歩手前だったのだ。もう一度放てば、崩落は免れないだろう。予想以上の威力である。

 そしてそんな誤算の原因は、基となったドラゴンブレスの威力が、ミラの知る時より更に向上していたからだった。成長著しい息子である。


「いかがしますか、主様」


「先程の一撃で随分と力を削れたようじゃしのぅ。このままなら、半日とかからぬじゃろう。ここにおる皆で事に当たれば更に早く済むやもしれぬ。じゃが……」


 精霊キメラの力は、ドラゴンブレスの一撃によって相当な量が消し飛んだ。残量と現在の戦力を比較すると、あと数時間もすれば決着である。だが今この時、ミラの目は、ある不思議な光景を映していた。


(どういった現象じゃ……?)


 それは、形無き精霊が大気中を彷徨う姿だった。目を凝らしてみれば精霊キメラが傷つくたび、そこから剥離するように精霊が零れ落ちていた。ドラゴンブレスによって一度に多くの精霊が剥がれたためか、ミラの目にはその様が突然濃くなったように映ったのだ。

 そう、精霊キメラが内包する精霊の力は、全て剥離しただけであった。

 ミラは、行き場を失ったかのように彷徨うそれを憐れに感じる。そして、同時に助けたいとも思った。

 その時である。ふと、ミラの頭に声が響いた。


『我が眷属達を救ってやってはくれないか』


 雄大で厳か、それでいて優しさに満ちたその声に聞き覚えがあったミラは、一も二も無くそうしたいと答える。すると精霊王の加護の紋様がミラの全身に現れ、淡く輝き始めた。同時に、精霊達を救う方法が頭の中に不思議と浮かび上がる。それはまるで、忘れていた記憶を思い出したかのような、不思議な感覚だ。

 頭に直接。正にファンタジーな出来事にミラは感動しつつ「なるほどのぅ」と呟いて、一歩前に踏み出した。


「主様。そのお姿は……?」


「なかなか、格好良いじゃろう? どうやら精霊王が力を貸してくれるようでのぅ。ただ、その条件がちと厳しい。済まぬが、お主達には少し無茶をしてもらう事になりそうじゃ」


 頭のてっぺんからつま先まで浮かんだ加護の紋様。何かの儀式を思わせるその姿は、実に異様である。しかし、そこから溢れ出す力の波動は余りにも神々しく、姉妹達は驚くよりも、また一歩高みへと上がった主の姿に奮えるのだった。



 精霊王から託された知識には、大気中を彷徨う精霊だけでなく、精霊キメラにされた精霊達を救う方法までもが織り込まれていた。

 その知識によると、精霊キメラは自我を失った精霊の集合体であり、既にかつての存在を取り戻す事は不可能。しかし、その魂を救う方法はあるという事だ。

 その方法は、召喚契約だった。とはいえ、ただの召喚契約ではない。精霊王の加護を通しての契約である。

 精霊達全ての頂点であり、寄る辺ともなる精霊王。その力は自我を失くした精霊であろうと有効であり、混沌とした今の状態でも安定させ一つに繋げる事が出来る。

 精霊王の加護を通す事でこの力が発動し、精霊キメラと彷徨う精霊達を、新たな精霊として再誕させる事が出来るそうだ。

 ただ生まれたばかりの精霊は酷く弱いらしい。しかし、精霊王の加護を持つミラが契約をすれば、その繋がりを介し精霊王自身が赤ん坊の精霊を庇護出来るようになるという。

 これがミラに託された精霊王の考えだった。

 問題は、そこに至るまでの過程である。まずは、大気中に彷徨う精霊達を集める事。この点は難しくない。今この時点で、精霊王の輝きに導かれミラの下に次々と集まり始めているからだ。

 では何が問題かといえば、当然精霊キメラの方である。召喚契約をするには、傍で手をかざす必要がある。だが天災の塊である精霊キメラは、アイゼンファルドだからこそ近くで相対していられるのだ。身体はただの少女そのものであるミラにとって、それは容易に真似出来るものではない。

 だが、やらねば精霊を救えないのなら、その方法を編み出すのがミラである。


「という事じゃ。支援は任せたぞ」


「畏まりました。我等姉妹、全力を以って主様を支援いたします」


 現状と作戦の説明を終えたミラは、いざ精霊キメラに向かい歩き出す。ヴァルキリー姉妹はそれに従いつつ、ゆっくりと左右へ広がっていく。


『息子や。準備はよいか?』


『はい、母上。いつでも大丈夫です!』


 アイゼンファルドにも、作戦は説明済みである。遠く、今でも激戦を繰り広げる頼もしい息子を見つめながら、ミラは徐々にその足を速めていき、「では、作戦開始じゃ!」という声と共に、風の如く駆け出した。

 同時に、アイゼンファルドとアルフィナ達も行動を開始する。

 手に剣を携えて、ミラより前に先行するヴァルキリー姉妹。その向かう先には、攻撃の手を止めて精霊キメラの巨躯を全身で受け止めるアイゼンファルドの姿があった。


「いよいよじゃな」


 近づくほどに猛烈な嵐が吹き付け、周囲の景色が一変していく。


【共鳴召喚:シルフィード】


 風の精霊の力を身に纏い、荒れ狂う風の牙を無効化したミラは、猛り狂う炎を仙術で切り裂き、轟く雷光を部分召喚で防ぎ、足を止める事無く更に進む。

 動き始めてから十数秒、戦況の変化は著しく、見れば重鈍な音を響かせながら、アイゼンファルドは精霊キメラを地に押し伏せていた。

 その直後、アルフィナ達が大きく動く。横一列に広がった彼女達は一気に精霊キメラへ殺到し、その四肢や尾、頭、そして翼に剣を突き立てた。

 姉妹達の役目は、アイゼンファルドの補助。万全を期しての布陣である。


「ひぃぃー! アルフィナ姉様、これきついー!」


「まだ……まだいけるわ……! アルフィナ姉様の訓練に比べれば、比べればぁぁー!」


 天災の権化となった精霊キメラの力を、剣で強引に封じ込める姉妹達。だが、その負荷は当然相応であり、クリスティナは泣き言を口にしながら必死に踏ん張っていた。エレツィナもまた、何と比較しているのか苦悶の表情を浮かべながらも力強く踏み止まる。

 だが、彼女達がどれだけ堪えようと、天災級の嵐の中では、防護が時間と共に削られていく。


「長くは持ちそうにありませんね……」


 吹き飛ばされそうになりながらも、どうにか堪えるアルフィナは、そんな現状を確認して数分もたないと判断する。しかし、アルフィナの顔には一点の曇りもなかった。ミラならばこの僅かな時間だけで充分だと信じているからだ。

 そんな信頼に応えるように、ミラはそこまで走り抜けた。精霊キメラを押さえつけるアイゼンファルドの翼の下に。


「母上、結構押し返してくる力が凄いです!」


 精霊キメラの力の大半を一身に受けながら、そう報告するアイゼンファルド。戦闘力では上回るものの、拘束するというのは勝手が違うようだ。


「もう暫くの辛抱じゃ!」


 皇竜とヴァルキリー姉妹に押さえつけられながらも、激しく蠢き暴れる精霊キメラ。言いながらミラは、その頭部に手をかざし《契約の刻印》を発動した。

 方法は全て、精霊王の加護が教えてくれる。ミラは、初めてでありながら慣れたようにその手順をなぞり、精霊キメラの全身へと精霊王の力を流し込んでいった。

 アイゼンファルドの翼の下は、周囲と比べ天と地ほどにも違い穏やかで、ミラはその工程の全てを問題なく達する事が出来た。

 その効果は、直ぐに現れる。轟く雷鳴が消え、嵐が凪ぎ、渦巻く炎は中空に解けていったのだ。そして精霊キメラと、ミラに集った彷徨う精霊が一斉に輝く。それは精霊宮で見上げた星の如く煌いて、少しずつ少しずつ一つに集束し始める。

 やがて、精霊の全てを内包した光は拳ほどの大きさの珠となり安定した。すると、ミラのかざした手が光に包まれ、両者を、いや、周辺一帯の全てを覆うほどに巨大な魔法陣が展開された。皇竜アイゼンファルドの召喚陣すら超える大きさに、流石のミラも驚愕を通り越し呆気にとられた表情をみせる。

 次の瞬間、巨大な魔法陣は、炎に、水に、風に、土に、精霊の基礎といわれる八属性に転じ、光の珠と共にミラの掌に吸い込まれていった。


「ふむ、成功じゃな……」


 契約は成された。確かな手応えを感じたミラは、同時に莫大な力が身体を抜けた感覚を覚えた。そしてふと幻視する。小さな赤子を抱く精霊王の姿を。


『我等が眷属を救ってくれた事、深く感謝する。このたびの礼は、いずれ必ず』


『気にせんでもよい。わしがしたいと思ったからしたまでじゃ』


 ミラがそう答えると、脳裏に浮かぶ精霊王は、悲しそうな、しかし慈愛に満ちた目で微笑んだ。



「お見事です、主様」


「流石です、母上」


 見回せば、何もかもが静まり返った空間。アルフィナ達は、いつの間にかミラの前に整列し跪いている。アイゼンファルドはといえば、どこか言い付けを守った忠犬のような、そわそわとした様子でミラの傍に寄り添う。


「お主達の協力あってこそじゃ。良くやってくれた。実に頼もしかったぞ」


「ああ、主様っ」


 ミラの言葉に、感涙するアルフィナ。姉妹達も、アルフィナほどではないが、その表情は誇らしげで喜びに満ちていた。


「母上ー!」


 そしてアイゼンファルドは、その褒め言葉をゴーサインととったのか、人化の術で青年の姿になると途端、ミラに抱き付き全力で甘え始める。


「ほぅ、今回は服を着ておるようじゃのぅ。感心感心」


 今回一番の功労者は、間違いなくアイゼンファルドだろう。それ以前に随分と待たせてしまった件もあり、ミラは一切抵抗する事無く息子を受け止め、その頭をそっと撫でる。何となく、こうなる事は予想済みだったミラは、人化したアイゼンファルドがしっかりとローブを着ていた事の方に安心していた。

 その正面。アルフィナは、ミラに甘えるアイゼンファルドに、僅かな羨望の篭った眼差しを向けるのであった。

もう二月。早いものです。

先週、ARIAが好きだと書きましたが、その流れで今日はあるマンガを探しに出かけました。

ヨコハマ買出し紀行とかいうマンガなんですが、

なにやらこれも、いい雰囲気だそうで。

調べたところ新装版があるようで、そちらを探しに。


結果、さっぱりでした。

やはり人気なんですかねぇ。

行きつけのアニメ専門店で取り寄せ出来ないか頼んでみようかな……。


あ、最近は毎日鍋なんですが、一つ凄い事に気付きました。

ルーを入れるとシチューにも出来るんです!

野菜たっぷりシチュー。ほっこりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 同意。 アルフィナですら根は甘えたさんみたいだし。 初期には爆弾とか魔封爆石とか強引な手段で服従?させてたみたいだけど、上級召喚対象ともなると絆の方が重要なのかな?
[一言] 分かった…召喚されてくる子達はみんな可愛いんだ…(´ー`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ