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143 術士としての実力

五巻限定版の予約についてを活動報告に追加しました。

といいましても、今のところは3月ごろ開始とだけですが……。

分かり次第、またご報告させていただきます!

百四十三



 一方少し戻り、召喚直後のミラは、拗ねた様子のアイゼンファルドに難儀していた。

 アイゼンファルドという存在の出現に警戒したのか精霊キメラが距離をとったため、戦闘中にもかかわらず多少の猶予が生じる。

 そんな合間の時の事。


「すまんかった。あのあと、お主の巨体で空を飛ぶと騒ぎになると叱られてのぅ……」


 現実となったこの世界で、初めてアイゼンファルドを召喚した時。ミラは、これから何度も喚ぶだろうという事を口にしていた。しかし実際は、皇竜のように巨大な竜が人里近くを飛んでいたら大騒ぎになるとクレオスに注意され、以来一度も召喚していなかったのだ。


「それを、もっと早く仰ってくだされば良かったのです。母上に忘れられてしまったのかと思い、とても寂しかったです」


 時間にして、一ヶ月近くの放置である。拗ねるのも無理はない。ミラもまた、そんな事を言わせてしまい心苦しそうに気を落としていた。


「確かにお主の言う通りじゃ。本当にすまんかった。代わりと言ってはなんじゃが、今度お主の言う事を何でも聞くと約束しようではないか。それで、どうじゃろう。許してはくれぬか?」


 誠心誠意謝罪し頭を下げたミラは、ちらりと窺うようにアイゼンファルドを見上げてみた。すると途端に、アイゼンファルドの様子が一変する。


「何でも……何でもですか、母上!? その約束は絶対ですよ! また破ったら母上の事、き……き、嫌いになりますから!」


 それは明らかに、喜んでいる様子だった。しかしアイゼンファルドは、努めて冷静を装っているような仕草でミラの提案を受け入れる。


「うむ、絶対じゃ。絶対に守ると誓おう。大事な息子に嫌われたくはないからのぅ」


 そう言って歩み寄ったミラは、アイゼンファルドにそっと触れる。


「母上ー!」


 大きな身体を屈めて、ミラに頬を擦り寄せるアイゼンファルド。こうして親子の絆は、再び輝きを取り戻したのだった。



「来ます!」


 そうアルフィナが短く告げる。グレゴリウスの命令と同時、精霊キメラが動き出したのだ。自然災害にも匹敵するその威圧感はやはり相当なもので、一気に緊張が走る。

 だがミラは、その緊張感を慣れたものだと一笑して、アイゼンファルドに指示を出す。


「息子よ、あの敵を迎え撃て!」


「はい、母上!」


 ミラの指示を受け、アイゼンファルドが承知した次の瞬間。その場全てを、絶望的なまでの威圧感が支配した。それは、同軍であるアルフィナ達の背筋までも震えさせる圧倒的な戦意であり、死の恐怖すら上回る気配を内包したものだ。

 直後、それらを纏いアイゼンファルドが跳躍する。そして瞬く間に飛翔し、壊滅的な嵐と化した精霊キメラと衝突した。

 交錯する爪と爪。アイゼンファルドの黒い爪と、精霊キメラの雷光を纏う爪がぶつかり合う。その途端に大気が震え、ずしりと重い衝撃が辺り一帯に伝播していく。

 それは経験の差か。確たる知恵を持つがゆえか。交錯するたびにアイゼンファルドの爪が、そして牙が精霊キメラを穿ち始める。

 しかし、自然の力をその身に宿す精霊キメラも負けてはいない。膨大な力をもってその身を修復すると、諸共とばかりに属性を操ってアイゼンファルドに確かな傷を刻んでいた。

 厄災対天災。それはもはや、人知を超えた光景であった。空間そのものが揺れ、何もかもがひたすらに破壊を呼び起こす。激戦地となった床と天井は、みるみるうちに壊れ、崩れ、焦土と化した。

 既に人知の及ばぬ領域にまで、その戦火は拡大し始める。その時だ。

 アイゼンファルドの巨木の如き尾が、精霊キメラの胴を薙いだ。途端に森が砕けるような音が響き、精霊キメラが弾けるように飛ばされる。

 戦場となる空間は広大で、幅は五百メートルを超える。だが精霊キメラは、ほぼ中心にいながらその距離を、その巨体で、地に触れる事なく通り過ぎて壁に激突した。


「出力が安定しない……。やはり精霊王の力がなければ、あの莫大な力をまとめる事は不可能か」


 精霊キメラの戦いを見つめながら、グレゴリウスはぼやくようにそう言って表情を顰める。精霊王の力。それはどうやら、この精霊キメラを完全なものにするために必要だったようだ。


「余所見はいかんのぅ」


 ミラの指示通り、不可侵領域と化した主戦場が遠くに移る。その戦いが気になるのか、遠くに視線を向けていたグレゴリウス。するとミラはその背後へ瞬く間に迫り、白の長杖を振り落とした。

 瞬間、雷光が奔る。グレゴリウスが纏う精霊武具の効果だ。グレゴリウスの身体は、その全身が強力な精霊力によって護られているようだ。


「くっ……。どこまでも召喚術士らしくないな!」


 忌々しそうにミラを睨むグレゴリウスは、腰に佩びた剣を抜き放ち鋭く一閃する。それはやはり精霊剣であり、途端に炎の嵐が生まれミラを飲み込んでいく。


(あの時のものより、随分と威力が落ちておるのぅ)


 初遭遇したあの日、グレゴリウスは、父グレゴール作の剣を土台とした炎の精霊剣を携えていた。巻き起こる炎の中、即座に召喚したホーリーナイトでそれを防ぎつつ、ミラは今の剣が数段劣っていると判断する。


「こちらはもう、決着じゃな」


 直後、アルフィナがグレゴリウスの手から剣を弾き落とし、そのまま彼の喉元に切っ先を突きつけた。

 精霊剣によって生じた炎が収まる。ホーリナイトの背後から歩み出たミラは、真っ直ぐグレゴリウスを見つめ、


「もうお主に勝利は無い。大人しく投降するのが賢明じゃと思うがのぅ」と言葉を続けた。



「…………」


 グレゴリウスは答えず、ただミラとヴァルキリー姉妹、そして遠くの戦場にちらりと視線を向ける。

 まだ、精霊キメラ側の決着がついていない。だが相対するミラとは武装の性能だけでは到底追いつけないほどに、術士としての実力差があり過ぎた。加えて、白兵戦に長けたヴァルキリーが七人だ。この勝負、ミラの言葉通り勝つ事は不可能だろう。そうグレゴリウスは痛感していた。そして同時に、不完全な精霊キメラでは、あの竜に勝てないとも。


(これほど広いとはな……)


 グレゴリウスは、今までを思い返していた。キメラクローゼンとして活動してきた日々を。その末に手にした圧倒的な強さを。

 思い返し、苦笑する。世界を変えられると確信していた力、その集大成が、たった一人の少女を相手に滅ぼされようとしている事実に。


「分かった……」


 ゆえに彼は、突き付けられた刃を静かに見下ろしつつ両手を上げる。そして降伏を意味する姿勢のまま大きくため息をつくと同時、途端にグレゴリウスのローブが燃え上がり、爆発した。

 小規模ながらも、その爆風はアルフィナを怯ませるには充分の威力があり、そこに僅かな間を生じさせるに至る。

 自爆。轟々と黒煙が立ち上るその様を前にして一番に思い浮かぶのは、その言葉であろう。

 しかし、その黒煙を切り裂き一つの影が飛び出した。それはグレゴリウスを背に乗せた馬型のゴーレムであり、猛烈な速度で一気に遠くへと駆け抜けていく。

 向かう先は、精霊キメラと対角線にある出入り口。グレゴリウスは敗北を認め、逃走を図ったのだ。しかし、諦めた訳ではない。その目には、まだ何か策を秘めた光が宿っており、離れていけばいくほど強くなっていた。



「ここは、私が」


 相当な錬度なのだろう、馬のゴーレムはそこらの駿馬では敵わぬであろう見事な走りをみせていた。その背に向けて光の矢を番えるのは、ヴァルキリー姉妹の中でもっとも弓の扱いに長けた、次女エレツィナだ。

 その一矢は、正に閃光。寸分違わずゴーレムを穿ち、見事一撃で破壊してみせた。


「くそっ、出鱈目過ぎる!」


 グレゴリウスは勢いそのまま宙を舞い、砕け散ったゴーレムを見つめ憤る。ゴーレムは多少の破損や欠損なら、芯がある限りマナを注ぐだけで幾らでも修復出来る。だがエレツィナは、既に二百メートル以上は離れた位置から、数センチにも満たないゴーレムの芯を正確に射抜いていた。しかも、芯の場所は作製時に術士が好きに決められるが、それすら容易く見抜いていたという事だ。最早、達人の領域である。

 そんな離れ業を見せ付けられたグレゴリウスは、僅かな笑みを浮かべた。その視線の先には、遠く遠く離れた精霊キメラの姿が映る。


『その翼を贄と──!』


 大きく息を吸い込み、グレゴリウスが叫ぼうとした瞬間、突如その口は塞がれ次の言葉が封じられる。


「すまぬな。もう仕舞いじゃ」


 見れば、そこにはミラの手が当てられていた。音声認証による、何かの起動。一度見たそれをミラは見逃さなかった。そして一言口にした束の間、たちまち雷鳴が轟いた。


【仙術・地:紫電一握】


 容赦のない一撃をその身に受けたグレゴリウスは、あっという間に意識を刈り取られ、言葉なく地に伏せたのだった。



「この人、何がしたかったんだろ」


 ミラから渡された捕縛布でグレゴリウスを拘束しながら、末っ子のクリスティナがふと呟く。悉く失敗に終わったグレゴリウス最後の叫び。それにはどのような意図があったのかと、クリスティナは気になったようだ。


「口ではなく、手を動かしなさい」


「はーい……」


 だが、そんな呟きは、アルフィナの厳しい一言に斬り捨てられる。どこか不貞腐れたように唇を尖らせるクリスティナ。

 そんな二人を見つめ、ミラはふっと微笑んだ。


「確か翼を贄、などと言っておったな。多分じゃが、精霊キメラの翼を精霊爆弾として使おうとしたのではないかのぅ。それと精霊キメラから遠ざかるように逃げたのは、巻き込まれないためといったところじゃろう」


 戦いとはまったく関係のない、クリスティナの呟き。何気ないただの会話。ゲーム時代では決して実現する事のなかった光景、そこにしっかりとした意思があるという現実。その事にミラは、改めて強い感動を覚えていた。


「なるほどー。さっすが、主様!」


「こら、クリスティナ! 主様になんて口を利くのですか!」


 得心がいったとばかりに笑うクリスティナに、叱りつけるアルフィナ。どうやら末っ子は随分とやんちゃなようだと、二人のやり取りで感じ取ったミラは、更に一層その笑みを深める。


「主様。どうか妹の非礼をお許し下さい」


 和みすら感じていたミラだったが、それはそれ。アルフィナにとってミラは、王の如き存在。現実となった今でもその忠義に揺るぎはないらしい。


「構わぬ構わぬ。お主達姉妹の働きには幾度も助けられておるからのぅ。その程度、瑣末な事じゃ」


「ああ、主様。寛容なお言葉、痛み入ります」


 ミラの言葉を受け、どこかうっとりしたような表情で、更に深く頭を下げるアルフィナ。そしてふと見れば、他の姉妹も実に嬉しそうな笑みを浮かべミラに跪いていた。ただクリスティナは、一瞬、長女アルフィナに向かってにやりと笑った。それは、ミラがこの程度で怒るわけがない事を分かっていた、とでもいうような、無駄に自信に満ちた表情だった。

ARIAという漫画を知っていますか?

自分にとっては三本の指に入るほど好きな漫画なのですが、

これが先日、完全版として発売されていました。

当然、全巻揃っているのですが。雑誌掲載時のカラーがあったりとかいうので、迷う事無く購入してしまいました。

かつての自分ならば、そこでかなりの葛藤があったでしょう。

もう、持っているからなぁ。でも、欲しいなぁ、と。

こんな即断が出来るようになったのも、皆様のお陰でございます!


はぁ……ベネチア行きたい……。

今日もストリートビューで我慢しよう……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日常シーンと戦闘シーンのクオリティが高い。 [気になる点] 味方側が強すぎるので物語に起伏がない。
[一言] ん~、戦闘はほぼ無双で終わるだろうから安心して読んでたけど、カグラちゃんは何してんの? 最後の幹部の追跡?
感想一覧
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