表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/647

140 セロの刃

あけましておめでとうございます!

今年も、よろしくおねがいします!

よろしくおねがいします!


百四十



 ハルバードが振るわれるたびに荒れ狂う嵐が生まれる。それをセロは俊敏な身のこなしで潜り抜け、鋭く剣を奔らせる。

 二度、三度、四度と繰り返し鳴り渡る剣撃は、暴風の残響に紛れるも、その都度鋭さを増していった。

 そして遂には破裂音のように強烈な音を響かせる。セロは徐々に込める力を上げ、最後に渾身の一撃を放ったのだ。


「ぬぅ……!」


 セロの剣の衝撃だけで、鎧王の身体が大きく宙に舞う。だがそれも束の間、随分と後退させられたものの鎧王はずしりと両足で着地すると、鎧の肩口に刻まれた浅い傷痕を見て笑う。


「今のは中々でしたぞ。この鎧に傷をつけるとは。エカルラートカリヨンの団長、予想以上ですな……。しかし、それでも私の勝利は揺るぎないですぞ」


 鎧王が見せる自信の理由。それは彼が話している内に、鎧の傷が跡形もなく消えた事にあった。


「自動修復とは、いよいよもってバランスブレイカーですね」


 最強ともいえる防御力に加え、傷が自然と修復される効果。もしもゲーム時代にあったなら、戦闘関連の絶妙なバランスを確実に壊していただろう性能だ。


「お前さんも理解しましたかな。この圧倒的な力を。これより先の世界を牽引するのは、想像を遥かに超えた力を作り出せる我々の技術力だと」


 精霊の力を利用する、キメラクローゼンの技術。鎧王が言うだけあって、それは確かに世界をひっくり返すだけのポテンシャルを秘めていた。

 だが、それは決して許されるものではない。


「いえ、分かりませんね。誰かに犠牲を強いる技術など、未来永劫必要ありません」


 セロはきっぱりと鎧王の言葉を斬り捨て、手にした剣の切っ先を男の肩口に向ける。と、その瞬間、甲高い強烈な金属音が鳴り響き鎧王が再び宙を舞った。


「ぬぅぅ!」


 体勢を崩しながらもどうにか着地した鎧王は、感心したように鎧の肩口を見つめる。そこには、先程よりも深い傷跡が刻まれていた。だが既に修復は始まっており、僅かの後、新品同様の輝きを取り戻す。


「おやおや、なるほど。これがかの有名な『追刃』。『追刃のセロ』と呼ばれるお前さんの真骨頂というわけですな。なるほどなるほど。この目で見て初めて分かる。聞きしに勝るとは正にこの事。しかし、残念でしたなぁ」


 セロの必殺技として世間一般に知られる『追刃』。それですら多少の傷をつけただけで終わった事実に、鎧王は誰憚る事無く声をあげ笑った。

『発露』とは、闘気を練り上げる事で行使出来る力の総称。その一つに『追撃』というものがある。繰り出した攻撃に続くようにして、もう一撃、見えない攻撃が発生するという効果だ。

 それは初級中盤程度の『発露』であり、一度の攻撃で二発分のダメージを期待出来るため、駆け出しの戦士クラスなら誰もが使った事のあるだろう一般的なもの。

 しかしこの追撃は、時間差で同じ場所に発生するため動きの素早い敵には当て辛く、なおかつ上級に踏み込む頃には他にも有用な『発露』が揃っているなどの理由で使われなくなっていった。

 だがこの広い世界、『追撃』を使い続ける者もいる。それがセロだ。

 セロは『追撃』を徹底的に探究し鍛え上げ、必殺の域にまで高める事に成功したのだ。追撃が発生する時差を自在に調整し、威力も増幅、更に発生もまた剣が触れた箇所を基点とするにまで至る。

 彼の使う『追撃』は、もはや初級の枠から大きく外れ、既に達人の領域にまで足を踏み入れていた。それもこれも、数十年に及ぶ研鑽の成果だった。

 そんな達人級のセロが繰り出した必殺の一撃を防ぎきった鎧王。彼が纏う甲冑はミラとやりあったグレゴリウスが身に着けていた精霊武具を遥かに上回るものであり、防御特化の到達点の一つとしてもいいだろう代物だ。そして今その強度が、セロという大物を相手に実証された。幹部の男が勝ち誇るのも無理はないだろう。


「さて、どこまで持ち堪えられますかな」


 勝利を確信した男は天井の一部を突き崩すと、最後の詰めだとばかりにハルバードを振るった。すると風が唸りを上げ吹き荒び、セロに向けて崩れ落ちた小さな瓦礫が弾丸のように飛来する。


「これは厄介ですね」


 風によって動きを制限されながらも、セロは飛び交うそれを斬り落とし、または身を躱しつつ悠然と駆け出す。


「おお、これを凌ぎますか!」


 鎧王は迎え撃つように、二撃、三撃と天井を崩し瓦礫を放った。対して流石のセロも精霊の力によって生じた暴風に真っ向から逆らう事は出来ず、風の流れを横切るように駆けて行く。そして、風の切れ目に乗じて前へ踏み込んだ。


「次は私の番ですね」


 暴風圏を潜り抜け、ハルバードの間合いの内に身を滑り込ませるや否や、セロは手にした剣を鋭く奔らせた。


「ぬぅぅっ! やはり早いですな。見切れませんぞ」


 袈裟、薙ぎ、切り上げと、怒涛の勢いで繰り出されるセロの斬撃。それは鎧王の装甲に衝突するたび熾烈な高音と火花を飛び散らせ、十から数十と鎧に傷を穿っていく。

 鎧王はセロの動きを目で追いきれず、翻弄されるようにハルバードを振るっているが、その様子に焦りはなかった。傷つく端から自己修復が始まる鎧の圧倒的防御力が、一切の痛みと刃を向けられるという恐怖を拭い去っているからだ。

 それは即ち、護りに気を使う必要がないという事。鎧王は全ての力を攻撃に使う事が出来るわけだ。


「しかし、これは逃れられますかな!」


 縦横無尽の斬撃を受けながらも一切として意に介す事無く、鎧王は大きくハルバードを振り回した。するとこれまで一方向に吹き抜けるだけだった暴風が弧を描き、やがて円を形作るようにして周囲を巡り始める。

 狭い室内でありながら、それは確かに竜巻であった。男とセロを中心にして、飛び散った瓦礫全てを内包した暴虐の風が渦を成し、全ての退路を遮断したのだ。


「さながら、風の檻といったところですか」


 頭、腕、胴、腰、脚と、男の全身をなおも満遍なく斬りつけながら、セロは周囲を一瞥する。見れば、風の渦は徐々にその半径を狭めていた。猛烈に飛び交う瓦礫の量は膨大で、もしも巻き込まれたなら死傷は免れないだろう。


「その通り。お前さんのように、すばしっこい者を屠るために編み出した常勝不敗の技ですぞ」


 自身諸共巻き込んで全てを破壊する風の檻。鎧王は、当たらなくともハルバードを振り回し続けながら自慢げに笑う。

 精霊の力によって生じた風に耐えられる者はそういない。だが鉄壁の鎧に身を包む男にとって、それはそよ風にも等しい。だからこその技であるのだ。


「確かに。その護りに加え、この威力。易々と崩せるものではありませんね」


 逆巻く嵐の中、セロは剣を更に鋭く奔らせる。風が巻き起こす轟きの合間に響く剣撃の音色は、いよいよその激しさを増していった。

 鎧に刻まれる傷が、深くなっていく。全身に打ち付けられる剣の衝撃に、いよいよ鎧王は鬱陶しそうに眉を顰めた。


「しつこいですぞ!」


 鎧王が気合と共にそう叫ぶと、ハルバードの軌跡が突如加速する。その穂先の速度はこれまでの数倍に至るほどで、的確にセロを襲った。狭まっていく竜巻の力がハルバードの動きを補助しているのだ。

 セロは即座に剣を引き、迫る刃を受け流す。強烈な衝突によって赤々とした火花が散ると、同時に風に巻かれて消えた。

 鎧王はハルバートを構え直し、にやりと笑う。


「恐ろしい剣ですな。ここまでやれるとは、また驚かされましたぞ」


 怒涛の剣撃。鎧王が焦るだけの剣速でセロは鎧を削っていた。しかし、その剣を防御に回した僅かな時間で、鎧はまた新品同様に修復されていく。


「しかし、無駄に終わりましたなぁ」


 多少でもセロの手を止めれば、万が一にも鎧が破壊される事はない。あとは、風の渦が終わらせてくれる。待つだけだ。常勝の準備が全て整った事を把握したからか、鎧王の声に喜色が交じる。


「私の経験則ですが、そのように頭で勝利を確信した瞬間が一番の油断を生みますよ」


 そんな鎧王に向かって、セロは笑ってみせた。しかもその口調は、窮地に立たされた者の態度ではないと分かるほどに穏やかだ。


「今更、どんな冗談ですかな?」


 その忠告を素直に聞き入れるのは遺憾だが、相手はあのエカルラートカリヨン団長のセロだ。鎧王は隙無く構え直し、セロを真っ直ぐに見据える。

 そう言うからには何か策が残っているのか。そう予感した鎧王だが、見たところセロの様子は先程までとなんら変わらない。気配、気迫、態度、息遣い、その全てに変化がないのだ。


「何を隠しているかは分かりませんが、この風が閉じた(・・・)時が、お前さんの最期。それだけは変わりませんぞ」


 風壁の半径は既に五メートル以下。なおも狭まり続けており、あと一分もしない内に安全圏は消え失せるだろう。周囲で逆巻く風は、まるで煽るかのような轟音を響かせている。それでもセロは、表情を変える事無く、ただ一つ冷笑を浮かべ手にした剣の切っ先を鎧王に向けた。


「風が閉じた時、ですか。その頃には、確かに決着がついているでしょうね。貴方の敗北をもって」


「随分と自信があるようですな。しかしこの期に及んでは、もう手も足も出せんでしょう。お前さんの追刃は、この鎧で充分対処可能。得意の身のこなしも、嵐の中にあっては十全には発揮出来ますまい」


 表情を崩さぬまま淡々と口にしたセロに鎧王は、どこか確認するように言い返す。多少傷をつけられるとはいえ防御特化の鎧が剣一本に負けるわけがないと。


「手も足も出せない、というよりは、もう必要ない、が正解ですね。準備は既に終えましたので」


「なん、ですと……!?」


 事実かどうかまだ判断がつかない。しかしこの時点で鎧王は、セロの言葉に呑まれてしまっていた。

 数多の強敵を屠ってきた歴戦の精霊武具。それを身に着けているがゆえの余裕。鎧の性能によって、今も圧倒的有利な立場である事に変わりはない。

 だが、勝利が磐石に整った今の状況で、相手は焦り一つ浮かべず、あまつさえ勝利を確信しているかのような態度。鎧王は、そのような者を相手にするのは初めてであり、心が揺らいだ。

 すると幸か不幸か慢心が消え、同時、セロが口にした準備の意味に気付く。


「もしや……一撃では……」


 鎧王が呟いたその言葉は酷く曖昧で、まったく要領を得ないものだった。しかし鎧王は、明確にセロの意図を理解していた。

 直後、セロの眼光が鋭さを増す。鎧王が僅かに動揺したその一瞬の隙間に踏み込み、セロは剣を突き立てる。


「その通り。まだ『追刃』は一太刀も発動していません」


 鎧王の肩口に剣の切っ先が食い込むも、絶対防御の鎧は、それ以上刃を進ませず防ぎ切った。

 だが、次の瞬間、セロの剣の描いた軌跡、その全てが再び閃く。


終刃(ついじん)銀霊白夜ぎんれいびゃくや


 それは正に刹那の閃光。数百にも及ぶ見えない斬撃が、一斉に発現し鎧王を襲ったのである。

 鉄壁の鎧相手に、傷痕を残したセロの一撃。それが全て『追刃』となり同時に鎧を穿つ。

 一瞬に集約された斬撃。余りにも膨大な力が幾重にも連なり干渉し合い、白光を生じさせた。

 直後、何かが弾けて砕けたような甲高い音が響く。絶対防御を誇るはずの超重装の鎧が、軋んだ途端、弾けるように砕け散っていったのだ。


「ぐぅっ……!」


 鎧王は苦悶の声をあげ、ハルバードを取り落とす。その肩口には、セロの剣が深く刺し込まれており、最早その腕は完全に殺されていた。


「これで、決着ですね」


 鎧が『追刃』のほぼ全てを受けきったお陰か、鎧王にはまだ息があったが、正面から地に伏せるその身体は、もうまともに戦える状態ではなかった。セロは鎧王を見下ろしそう口にすると、ハルバードを拾い上げ薙ぎ払う。すると瞬く間に風は止み、がらがらと音を立てて瓦礫が床に散らばった。


「このような、技が……あるとは……聞いていませんぞ……」


 恨み言のように呟いた鎧王は、震える腕で身体を起こそうとするも、力なく崩れ落ちる。

 エカルラートカリヨンの団長セロ。その名と共に、戦闘スタイルなどの情報も大きく広がっている。『発露』の一つ、『追撃』を究めし者だと。

 追刃のセロ。その剣を見た者は、風よりも速い追い風が、稲妻よりも激しい一撃(・・)で敵を切り裂いたと口にする。別の証言者もまた、余りにも鋭い一撃(・・)だったと話す。

 そう、一撃であるのだ。セロが全力で刃を奔らせると、その『追刃』は一撃必殺の威力を発揮するのである。ゆえに誰もが語るセロの武勇は、一撃に集約されていた。

 しかし実際は、話の全てがセロの剣のほんの一部でしかなかったのである。


「普段、これを人前で披露する事はありませんからね。余程の死地や、必殺が必要な時にしか使いません」


「道理で……知らないはずですぞ。これが……武具では超えられぬ力、というものですかな」


 男は息も絶え絶えに笑い、仰向けに転がった。


「では、証言やら何やらとあるようなので、捕縛させていただきますよ」


 言いながらセロはハルバードを壁に立てかけ、空いた手で腕輪型端末を操作しアイテムボックスを開く。そこに収納した捕縛布を取り出すためである。

 その直後だった。


「ぬぅん!」


 男がまだ動く腕を大きく振るい、棒状の黒い物体をセロに投げつけたのだ。するとそれは手から離れた瞬間、その形状を変化させ網のように広がった。

 天井から床まで、全てを覆いつくしてしまう程に大きな黒い網。それこそ鎧王が最後まで隠し持っていた切り札であった。どのような名剣の刃すら弾き、どのような術でも破れず、そこに捉えた者の自由を奪う、鉄壁の檻。


「これは……」


「頭で勝利を確信した瞬間、でしたかな。その言葉返しますぞ!」


 咄嗟に飛び退いたセロ。だがその黒い檻は、一度狙ったが最後、どこまでも追いかけていくという実に凶悪な切り札だった。


「黒……。ここで使いましたか」


 しかしその檻は次の瞬間、淡々とした口調で剣を振るったセロによって、あっけなく千切れ飛び、床に散らばった。


「なんと……」


 鉄壁の鎧。そして絶対の切り札。そのどちらも完膚なきまでに破られた鎧王は、ただ呆然とした表情でセロを見つめる。


「効果覿面ですね」


 明らかに異質な気配を放っていた黒い網。それは、黒霧石の加工品から作られた特殊武装だった。その対策としてカグラが配った『白銀滅鬼』シリーズの武器。その効果は見たとおりで、既に異質な気配は微塵も残ってはいない。

 セロは、塵となって消えていく網の残骸を一瞥したあと、手にした純白の剣を見つめ、ほとほと感心したように呟く。

 それからセロは手筈通りに鎧王を昏倒させ拘束すると、念のためにハルバードはそのまま回収して、扉に向け歩き出した。


「あれだけ叩き付けたにもかかわらず、刃毀れ一つ無しですか」


 鉄壁の鎧に数百と打ち付けた純白の剣。しかしその刃は未使用の如く滑らか。セロは一度鞘に収めた剣を今一度抜いて「このまま、貰えませんかねぇ」と、かなり本気で呟いたのだった。

新年が始まり、数日たった今日。今年の目標を決めました。

それは、一人鍋セットを手に入れるです!

最近は、お陰様でそこそこ野菜を摂れるようになったのですが、今の所調理法が炒める一択。

そこで考えたわけです。野菜をいっぱい食べられる方法はないかと。

そしてたどり着いたのが一人鍋!

目標は、テーブルに置けそうな小さなIHクッキングヒーターとIH対応鍋。

これで動かずして、ご飯が出来るってもんです!


さて……幾らくらいするんだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ