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133 白銀滅鬼

百三十三



 既にヨハンが救出されていた、次の日の朝。ミラ達は夜明けと共に行動を開始する。

 サソリとヘビは、ヨハンがどこかの施設で見たという大量の黒霧石製武具を確かめるため調査に出かけていった。

 ミラはといえば約束通りヨハン達親子を連れて、ひたすら荒野を進んでいる最中だ。人数は多いものの、光学迷彩だけならばミラがマナを多めに消費する事で完全隠蔽より範囲が広げられるとの事で、他の召喚術との組み合わせが光った。

 灰色の熊、《ガーディアンアッシュ》の背にミレーヌとヨハン親子が乗り、その隣をミラとワーズランベールを乗せたペガサスが併走する。

 時速は四十キロメートルに近いだろうか、かなりの速さで地を駆け抜ける大型の熊と翼を持つ馬は、それでいて光学迷彩により一切目立つ事無く荒野を駆け抜けていく。

 道中アンネは、熊とペガサスに大興奮の様子で、途中ペガサスに乗りたいと言い出す。

 その事にヨハンとアンジェリークが申し訳なさそうにするものの、ミラは快く了承した。アンネにとっては数年ぶりの外なのだから、構わないと。

 そうして数時間後。どこかピクニックのような雰囲気で、ミラ達はウズメと打ち合わせた地点に到着した。



 待つ事、十数分。それは、空からやって来た。


「おお、凄い……。初めて見る」


「外の世界は、ここまで変わっていたのですね。まるで天からのお迎えのよう……」


 ヨハンとアンジェリークは空を見上げ驚愕し、同時にただただ感嘆の言葉を口にする。空高くより、全長三十メートルはあろうかという木造船が下りてきたのだ。驚かない方が無理というものだろう。


「ここ数日、ずっと夢の中にいるみたい……」


「おっきい!」


 ミレーヌはといえば心労でも溜まっているのだろうか、空を飛ぶ船を前に不安そうな表情で苦笑する。対してアンネは、まだまだ興奮冷めやらぬ様子だ。


「ほぅ……! もしやこれが飛空船というものか?」


 かつてセロの噂話によって、存在だけは知っていたミラ。だが、やはり実物の迫力というものは段違いであり、ファンタジーの定番ともいえる乗り物の登場に心躍らせる。


「その通り! 我が五十鈴連盟自慢の精霊飛空船だよ!」


 ミラが瞳を輝かせ空を見上げていると、その頭に乗っていた小さなピー助から、得意げなウズメの声が発せられた。そして、まだ何も訊いていないのに、「なんで、精霊って付いているかというとね──」と、意気揚々に説明を始めた。

 ウズメ曰く、魔導工学の粋を持って作られた通常の飛空船は、魔動石と特別に精製された燃料を併用して空を飛ぶというものだそうだ。しかし、五十鈴連盟で独自に開発した精霊飛空船の動力機関は、精霊の力でのみ作動するという。


「より深く人と精霊が協力したからこそ実現した船。これこそ五十鈴連盟が目指す未来の象徴だよ」


 途中、ピー助と入れ替わったウズメは最後にそう言って、着陸する精霊飛空船を見上げた。実に誇らしげでありながら、どことなく憂いを帯びたウズメの瞳。それは、誰かを思い出しているのだろうか、船の先の更に遠くへと向けられていた。



「ミラさん。色々と感謝する」


「ありがとうございましたと、あのお二方にもお伝え下さい」


 ヨハンとアンジェリークは、そう礼を述べてから飛空船に乗り込んでいく。ミレーヌもまた深々と一礼して、それに続いた。


「お姉ちゃん、ばいばい」


 途中、そう手を振るアンネに手を振り返しながら、ミラは優しく微笑み四人を見送った。


「それじゃあヨハンさん達は本部でしっかり預かるから、おじいちゃんは本拠地の捜索よろしくね」


 ミラの正面、タラップに足をかけながら振り返ったウズメは、精霊飛空船を背にしてそう言った。


「うむ、分かっておる。お主等の方の準備も問題ないか?」


「うちはいつ決戦がきてもいいように備えていたからね。幾つかの部隊は出立済みだよ。問題は黒霧石対策の武具だけど、それはきっとヨハンさんが到着すれば解決すると思うし、あとは本番に全力を出すだけかな」


「そうか。ならば大丈夫そうじゃな。では、また決戦の日に」


「うん。決戦の日に」


 別れ際に二人は、そう言って拳を突き合わせ『勝利を刻もう』と、同時に声を上げた。それは、かつて九賢者同士で戦争前日限定に行っていた別れの挨拶であった。

 言ってみれば独自の必勝祈願のようなものだ。ただ、発案者がソウルハウルのため、少しクサイ仕様になっている感は否めない。

 二人だけでの必勝祈願。それは初めての事で、他の皆がいないとどこか締りのない様子にミラとカグラはどちらからともなく笑い出すと、そのままそれぞれの目的地に向けて歩き出した。 



「サソリ、ヘビ。あとは頼んだぞ」


 ローズライン公国の首都、アイリーン上空。

 ペガサスに跨ったミラはどこかにいるであろう二人に向けてそう呟くと、セントポリーを目指して飛び立っていく。

 キメラクローゼンとメルヴィル商会を繋げる証拠を見つける事は、ヒドゥンの二人に下された任務である。

 ゆえにこれ以上、ミラの手を煩わせたくはなかったのだろう。引渡しが終わったらセントポリーにある本拠地探しに集中してとは、サソリとヘビの意思だ。

 ヨハンの件から窺えるように、二人の実力は信頼に値するほど確かなものである。なのでミラは、安心してその場を任せる事が出来た。

 こうしてセントポリーに戻ったミラは、仲間達と協力してキメラクローゼンの本拠地に繋がる入り口探しに奮闘するのだった。



 それから二日後の事。調査が一気に進展する。そのお手柄をあげたのはゼフだ。

 ゼフは、国営の施設に勤務する役員の一人と接触。毎日苦労が耐えないといった様子の役員に酒をおごるなどして仲良くなり、施設の内情などを聞き出していた。

 その内の一つ、役員の気苦労の原因。それは、神出鬼没な官僚付きの秘書だそうだ。秘書が抜き打ち調査の如くいつの間にか施設内にいる事があるため、一切気が抜けないというのである。

 表に出てきているセントポリーの官僚は、その全てが代役である。その代役はキメラクローゼンとの繋がりを一切知らず、ただ国のためにと働いているらしく、害する事は出来ない。当然、ミラ達が探す入り口についても把握はしていないはずだ。

 だが、この話を聞いたゼフは怪しいと睨んだ。

 いつの間にか施設内にいる。それは、施設内のどこかにある秘密の入り口から出てきたのが原因なのではないかと。

 そんな一つの疑問が浮かぶと同時に、ゼフは解を見出した。入り口が国営の施設内にあるとして、怪しまれる事なく施設を出入り出来る者とはどのような人物か。加えて、どの時間に居ても咎められる事がなく、一部立ち入り禁止になっているだろう入り口に難なく立ち入れる存在。

 つまり入り口を知る人物は、官僚ほどではないがそれなりの立場にあると考えられた。それこそ、官僚の秘書のように。

 そしてゼフは、その秘書の名も聞き出していた。

 その名は、トーマス。セントポリー貿易国の財務大臣オズワルドの秘書であった。

 トーマスは、キメラクローゼンの本拠地に続く入り口を知る可能性が高い。そのため次の日から、ゼフとミラがコンビとなってトーマスの足取りを追った。そしてこの日、遂にキメラクローゼンの本拠地へ続く入り口の場所を突き止める事に成功したのだ。

 完全隠蔽を使わずとも、やはり光学迷彩は優秀で、ある国営の施設内で目標の人物を発見。

 その者、いかにも真面目そうなサラリーマンといった風貌でありながら、複数の陰の精霊武具を身に着けていた。ミラの目が、それを見抜いたのだ。この事から、ほぼ間違いなくキメラクローゼンの関係者と判断出来た。

 そして深夜。ミラ達が見張る中。その男は立ち入り禁止の区画に入り、仕掛けによって巧妙に隠されていた秘密の扉を開いてその奥へ消えていった。

 ミラは「また隠し○○か」と苦笑しながらも、ようやく見つけた入り口を前にして不敵に微笑んだ。



 次の日。ミラ達は朝から決戦に備えての会議を行っていた。ピー助と入れ替わったウズメも一緒である。

 内容は、二つ。突入部隊と別働隊の人選だ。

 まず、本拠地への突入部隊だが、これは少数最精鋭である、ミラ、ウズメ、そしてセロの三人で決まった。これには機動力という面も多少影響している。それというのも、キメラクローゼンの本拠地があるという大きな岩山は、セントポリー東の先、遠く三十キロメートルはあるからだ。この距離を短時間で抜ける必要があった。

 その点ミラにはペガサスがあり、ウズメも高速移動に使える式神を従えている。そしてセロはといえば、速さを重視して鍛えていたという事で、三十キロメートルなら三十分で走破出来るという事だ。

 とはいえやはり一番は、戦闘力である。

 かつてセロは、自身よりもミラの方が格上だと言った。そして、そのミラは、ウズメが自身と同格であると明言した。

 現状においてセロにも遠く及ばないエメラ達では、この三人が全力を出した時、付いていくのは不可能。足を引っ張るのが関の山となるだろう。

 そうした判断によって、別働隊はアーロンとエメラ達で編成される。これに対して誰も文句を口にする事はなかったが、ミラと一緒でないという事に関してだけ、フリッカが心底悔しがった。

 ついてはこの別働隊の任務だが、それは制御基地の制圧である。更に別働隊には、五十鈴連盟のベレロフォン隊隊長ミザール、同じく参謀のアリオト、マルチカラーズ隊総隊長コンゴウが部隊を率い第一陣として加わる予定だ。

 制御基地は、キメラクローゼンにとって重要な施設のため、ジャマル曰く相当な常駐戦力があるという事。更にもう一つ。制御基地を担当する最高幹部の一人ゼル・シェダルは、この数ヶ月地下で何かを開発していたという話だ。開発主任であるゼルは、これまで数多くの精霊兵器を生み出しているため、もしかしたらまた強力な兵器を開発したのかもしれないと。

 そのため、別働隊はいざという時の第二陣として配置された形だ。

 更にウズメは、五十鈴連盟の戦闘員半数を、この攻略戦につぎ込むという。その半数はミラ達突入隊のあと入り口から侵入し、本拠地の細部に至るまで確実に制圧していくための人員だそうだ。

 こういった概ねの情報を踏まえて、会議ではそれぞれの部隊の作戦が詳細に話し合われた。とはいえミラとウズメ、セロからなる突入部隊は、臨機応変という大雑把な作戦である。ただ、メンバーの顔ぶれを見る限り、それは最も適切な作戦かもしれない。

 その分、別働隊は時間をかけて作戦が練られていた。というより、強大な組織の重要な基地を襲撃するのだ。綿密に話し合うのが普通である。

 空の民の男という、どう動くか分からない存在に加え、捕虜のジャマルは基地内の事までは知らず制御装置までの経路が不明。そのため様々な状況に対応出来るように、より緻密な作戦が必要だった。

 五十鈴連盟の最精鋭からなる第一陣とエメラを隊長とした別働隊の任務は、制御基地を制圧して本拠地の防衛機構を無力化する事である。これが失敗すると本拠地の守りが最大となり、攻略に余計な時間がかかる事となるだろう。

 その時、暴れているのはミラ達である。慎重に慎重を重ねるキメラクローゼンの最高幹部の事だ。圧倒的戦力を前にして分が悪いとみれば、雲隠れしてしまう恐れがある。場合によっては、自爆、などという物騒な手段に出る事も考えられるだろう。

 一気に追い詰めるためにも、制御基地攻略は本拠地攻略に負けず劣らず重要な任務であった。



 こうして、数時間に渡る会議も一通り纏まった頃。


「さて、本番の段取りも決まった事だし、その助けとなる武器を渡しておきましょう!」


 ここぞとばかりにウズメは立ち上がり、アイテムボックスから大きなケースを取り出しテーブルの上にどんと置いた。


「それって、もしかして!」


 そのケースを見て真っ先に声をあげたのは、やはりエメラだ。数日前、黒霧石の武具の対抗手段として特製の武器を用意すると話していた。刀剣類に目がない彼女は、その日からずっと心待ちにしていたようだ。


「とりあえず、ここにいる人数分が完成したので持ってきました。キメラの武器の対策用だけど、見た限りそんじょそこらの武具には負けない出来栄えです!」


 身内自慢だろうか、ウズメは自信満々にケースを開いて胸を張る。そこには確かに人数分の純白の武器が収められていた。


「うわっ、すごい……」


 我先にと身を乗り出していたエメラは、その美しさにまず心を奪われた。


「なんだか特別って感じだな」


 ゼフは恍惚としたエメラより先に手を伸ばし、天使の武器と名づけてもなんら違和感のない短剣を見つめ、そう呟く。

 それぞれが武器を手にしていき、最後、我に返ったエメラが剣を取った。


「これだけのものを、こんな数日で用意出来ちゃうなんて。ウズメさんのところには凄腕の鍛冶師さんが大勢いるんですね」


 エメラは、うっとりと目を細め病的な微笑を浮かべて刀身を見つめる。

 ウズメが用意した武器は、どれも一目で違いが分かる程に素晴らしい出来栄えだった。それぞれが一流の職人の最高傑作といっても過言ではなく、武器としての本質はそのままに洗練された造形は、見事な純白と相まって芸術の域にまで達している。

 エメラがいうように、これだけのものを短期間で作り上げるには、馬車馬のように働く一流の職人が大勢必要になるだろう。

 しかしウズメは更に自慢げな笑みを浮かべ「これらの製作に携わったのは、なんとたったの二人です!」と声高らかに言い放った。


「そりゃあ凄い」


 そう感心したようにアスバルが口にした直後の事。


「二人で、これを!? どうやって!? その二人って何者なの!?」


 どうやらエメラの熱に火がついてしまったようだ。それも仕方がないのかもしれない。大勢の一流が揃わなければ、これ程の武器を揃える事は不可能。だがそれを二人で行ったとなれば、つまりその者は超一流であるという事の証明なのだから。


「その二人の名前は!? 得意な分野は!? ミスリル派!? アダマン派!?」


 純白の剣を通して、それを垣間見たエメラは、猛烈な勢いでウズメに迫る。


「話すから離してぇーー」


 エメラの気性を知らず地雷を踏んだウズメは、その魔物や魔獣とは違う得体の知れない気迫に圧倒され縮こまった。

 その後、フリッカによって宥められたエメラを警戒しながら、ウズメは二人の名を口にする。といっても一人は、既に皆が知っている名だ。


「ミラちゃんとフリッカさんの杖を製作したのは、ご存知アルバティヌスさんです」


 生ける伝説と化した錬金術師アルバティヌス。彼は素材の精製だけでなく、術杖や術具の類の製作にも突出した技術を持っているそうだ。


「で、刃物の方を作成したのは──」


 ウズメがそう言った瞬間、超越級の存在にも匹敵する気配がエメラの方から立ち昇る。僅かに頬を引き攣らせたウズメは、それでも胸を張り彼の者の名を口にした。


「ドワーフの鍛冶師、ドヴァーリンさんです!」


 直後であった。奇声を発したエメラが、そのまま卒倒してしまったのだ。呆気にとられるウズメ。ミラもまた呆然とした様子で、フリッカに抱き起こされるエメラを見つめる。

 そんなエメラの表情だが、この世全ての幸福を一身に受けたような笑顔で溢れ、まるで天寿を全うした菩薩の如き安らぎに満ちていた。

 ミラは言葉なく合掌した。

 エメラの反応からして分かるとおり、ドワーフの鍛冶師ドヴァーリンとは超一流の職人である。否、長年に渡り鍛冶師達の頂点に君臨し続ける、彼もまた生ける伝説だった。

 これにはセロとアスバルも、エメラ程ではないにしろ驚きを隠せない様子だ。しかしそれは、ドヴァーリンという大物が関わっていたという点だけではない。何より生ける伝説を二人も傘下におさめている五十鈴連盟という組織に対してであった。


「えっと……。鞘までは流石に手が回らなかったけど、皆アイテムボックス使えるからいいよね。じゃあ、早速説明を始めます。といっても、アルバティヌスさんとドヴァーリンさんの受け売りだけど」


 卒倒したエメラはそっとしておく事に決めたウズメは、あとで彼女にも伝えておいてと言い含めてから、黒霧石対策武器『白銀滅鬼』シリーズの扱いについて説明するのだった。

先日の事です。今度は、お好み焼きをご馳走になりました!

美味しかったです。神に感謝!


そういえば今更ですが、グーグルマップとかで未発見の○○を見つけたとか、行方不明の○○が、というのを見まして。

これは自分も見つけるしかないと気合を入れて探してみました、あちらこちら。


結果……。

36°14'60.0"N 110°18'43.5"W

これが限界でした……。

なんというか……あの……。

奈落の狭間で呻く亡者のようだな、という、錯覚。

先は長そうです。はい。


※最近見つけた、いい感じの場所紹介!

パルマ ボルン通り

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― 新着の感想 ―
[一言] 100mを6秒、そしてそれを30分継続。 紛れもなく、奴か? ヒューッ!だが奴は5秒フラットだ! 鋼の淑女を相棒に、亀さんに乗って宇宙を駆ける。 左腕に銃を持つ男、その名は! (すんません…
[良い点] ボルトの1.5倍早い男、セロたん好き好き
[良い点] 白銀メッキ、シリーズですね、わかります。漢字を変えるだけで途端に脆そうになったw←また感想と関係ありませんがw
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