表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/647

132 サソリとヘビは精鋭です

百三十二




 思わぬ情報源の確保とウズメの登場があった日の翌日。ミラは、朝食の後ペガサスに跨り、昼過ぎには再びローズライン公国の首都アイリーンに舞い戻っていた。


「ふーむ、見たところ変わりはないのぅ」


 アイリーンの上空。ミラは、周辺に目を凝らし、これといって変化のない街並みを一望する。その頭の上には、ピー助がちょこんと乗っかっており、ミラの呟きに応えるかのように「ぴょっ」と鳴き声をあげた。

 ヨハンが攫われてから、まだそう日は経ってはいない。黒霧石の加工に必要な機材を一から揃える必要があると思われるため、作業を再開するにはまだ数日はかかるはずだ。だからだろう、ミラにしか視認出来なかった黒い波紋は影も形も見当たらない。


(うーむ。残り六日じゃからな。いつ見えるか分からぬものを待ち続けるというのは、もどかしいのぅ)


 かといってヨハンを探そうにも、どこをどう探せばいいかなど思いつかず。そもそも現在は、その手のプロであるサソリとヘビが調査中だ。下手に手を出せば邪魔になりかねない。

 なので、今出来る事は見張るだけ。そうミラが思い至った時だ。郊外の更に端でぽつりと佇むヨハンの屋敷が、ふらふら彷徨わせていたミラの視線に入った。


「……ふむ、ここにいるよりは良さそうじゃな」


 ミラはふと思いつく。機材を一から揃えるのは大変だが、これまで使っていた機材をそのまま運んでしまえば簡単ではないかと。

 ヨハンの誘拐はかなり緊急な事だったのだろう、思い返せば機材は屋敷に丸々残されていた。それを使えばまた直ぐにでも加工を再開出来るはずだ。

 そう思いついたミラは、急いでヨハンの屋敷に向かう。流石にそのまま乗り付けるわけにもいかないので少し手前に降り立つと、ペガサスを送還して代わりにワーズランベールを召喚した。最近何かと出番の多い、静寂の精霊だ。

 光学迷彩だけでも、充分な隠蔽率効果がある。ミラは一気に住宅地を駆け抜け、ヨハンの屋敷に忍び込んだ。



 予想通りに事が運べば、回収された機材は確実にヨハンの元に運ばれるため、その後を追う事でヨハンの居場所に行き着ける。あわよくば救出も可能だろう。

 とはいえ当然、回収に来ない事も考えられた。ただミラにしてみれば、一日二日の内、どうせ待つならこちらの方がまだ有意義に思えるといった程度だ。


「なんと……」


 初めてヨハンと出会った部屋。扉を開けて中に入ったミラは、机の上を見て絶句した。

 そこには、黒霧石の加工に必要な機材が置かれていたはずだった。しかし今は、何もかもが綺麗さっぱりなくなっていたのだ。

 一足遅かった。そう思ったミラだったが、すぐに気持ちを切り替える。機材を回収していったのなら、直ぐにでも加工を再開するはずだ。そうなれば、予定よりも早く黒い波紋を確認出来るようになるだろう。


(まあよい。ならば当初の予定通りにするだけの事じゃ)


 どちらにせよ特定は可能である。ミラは少しだけ不貞腐れながら屋敷をあとにすると、またペガサスに乗って飛び立ち、アイリーンの街の中心地まで戻る。その後、一番背の高い建造物、三神教の教会の屋根にこっそり降り立ち、周囲を見張り始めた。当然、光学迷彩で目立たないようにする事も忘れてはいない。

 流石は大陸一の三神教か、ペガサスの背からの光景には及ばぬまでも、突出した教会の屋根から望む景色は全方位見晴らしも良く、人々の生命力で溢れていた。



 見張り始めてから時間は流れ日も沈み、街が人工の光に満ちた頃。


「ふーむ。今日は不発のようじゃな。一旦戻るとするかのぅ」


 流石に夜の闇の中で黒い波紋を観測するのは困難だろう。そう判断したミラは欠伸交じりに立ち上がり、ワーズランベールを労い送還する。

そして腹が減ったと呟いて、煌びやかな繁華街に繰り出した。


(屋台料理の食べ歩きというもの、存外贅沢な楽しみ方じゃのぅ)


 昼と夜で、がらりとその表情を変えるアイリーンの大通り。そこに立ち並ぶ無数の屋台をはしごして腹を満たしていくミラは、実に朗らかな表情でフルーツミックスオレを屋台の主人から受け取る。

 各地で使われている果実や分量が違う、フルーツミックスオレ。この飲み比べが、最近のミラの楽しみになりつつあった。


(うむ、甘さと酸味が強めじゃな。それがミルクで上手い具合に馴染んでおる。合格じゃ)


 そう勝手に評価しながら、ミラは続いてイーバテス商会の本店を訪れる。とはいえ店舗の方ではなく、通称『王の隠れ家』がある裏手側だ。

 そこにいるであろうサソリとヘビに、セントポリーでの出来事を報告するためである。

 メモを片手に仕掛けを動かし隠し扉を抜け、長い通路を進んでいく。

 そして突き当たりにある隠れ家の扉を、またもメモを参考にして開いた。するとそこには、


「おお、ミラ殿。妻と娘を助けてくれて、本当にありがとう! 今回の事は、感謝してもしきれない」


 と、振り返りそう言って心の底から笑顔を浮かべる、ヨハンの姿があった。


「あ、えー?」


「ミラ殿? どうかしたか?」


「いや……無事で何よりじゃ」


 先程までヨハンを救出する手掛かりをつかむため、一日中周辺を見張っていたミラは、その対象がなぜ今この場に居るのかと困惑する。

 そんなミラに対して、自慢げな表情を浮かべる者が一人いた。


「びっくりしたでしょ? 見ての通り、なんとヨハンさんの救出成功でーす!」


 サソリである。彼女は、ヨハンと対面して呆然となったミラの様子を満足げに眺めたあと、ここぞとばかりに胸を張った。ミラには驚かされる事が多い中、ようやく驚かせる側に回れたからだろうか、サソリは実にはつらつとした様子だ。


「昨日の今日で達成するとは、流石にあっぱれとしか言いようがないのぅ」


 ともあれ結果として、一番の心配事であったヨハンの身柄を無事に確保出来た。これは非常に喜ばしい事だ。余りにも唐突であったため呆気に取られていたミラだったが、その事を改めて実感すると、ウズメの部下の優秀さに舌を巻くのだった。



 そうして想像だにしなかった再会ののち、ミラ達は報告会議を始めた。ちなみに、アンジェリークとアンネは別室で待機中だ。

 まずは話したくて堪らない、といった表情をしていたサソリが口を開く。その内容は、ヨハン救出作戦を開始したあとの事だ。

 流石はサソリというべきか、幾つもの防犯装置をかいくぐり、オールフラット工房には難なく侵入出来たという。

 そして目的の資料を入手。魔力感知器の設置箇所と次回の点検日時などが記入されていたそこには、合計二十五の場所が記載されていた。問題は、どれがメルヴィル商会に関連があるのか分からない点である。なんでも、責任者の名前だけしか記されていなかったというのだ。

 と、そこまで話すと次はヘビの成果だと言って、またサソリが報告を続けた。

 ヘビが担当していた任務内容は、周辺に精霊関連が存在しないメルヴィル商会の施設調査である。

 それから様々な手段を用い調べ上げた結果は、計五個所。郊外に三と、隣接するリュシオン大河のこちらとあちらに一つずつだったそうだ。

 こうして二人で調べた結果を統合してみたところ、郊外にあった施設の一つが見事に一致したという。

 警戒がより厳重なメルヴィル商会名義の施設であり、周囲に精霊関連の術具がないため黒霧石の加工が可能。つまり、ヨハンの監禁と作業に適した場所だと。

 そして、今日のこの日。二人は偵察のため施設に潜入。するとその途中、部屋の一室であっけなくヨハンを発見。しかし監視があり、連れ出すのは難しい。

 そこで一計を案じたそうだ。

 まずヨハンに自分達が来ている事を知らせ、どうにか見張りを遠ざけられないかと伝えた。

 それに応えたヨハンは、そこにいる者に屋敷の器具を持ってくればすぐにでも作業が再開出来るだろうと言ったそうだ。

 向こう側も、作業は直ぐにでも始めてほしかったようで、その言葉はあっさり聞き入れられた。

 余り表沙汰には出来ない施設だったというのが幸いしてか人手は少ないようで、都合よく数名の見張りが屋敷に向かったという。

 こうして付け入る隙が生まれ、そのままヨハンを確保して脱出。誰にも気づかれぬまま、無事に帰還。ヨハンと妻アンジェリーク、娘アンナは五年ぶりの再会を果たす。と、その少しあとにミラが来たという事だった。


「今頃きっと、大慌てしてるはずだよね」


 最後にサソリは、そう言って愉快そうに笑った。ヘビも表情には出ていないが、心なしか機嫌が良さそうだ。


「二人とも、良くやったわ!」


 サソリが話し終えた直後の事、ここにはいないはずの声が響いた。そう、ミラの頭の上に乗っていたピー助を介したウズメの声である。どうやらサソリ達の話を一部始終聞いていたようだ。

 すると次の瞬間、ピー助と入れ替わりにウズメ本人が現れた。


「なんと、鳥が人に!?」


 その光景に目を見張るヨハン。対してサソリとヘビに驚いた様子はない。既に分かっていたようだ。ミラの頭にいるのはピー助であり、ウズメと入れ替わる事が出来るのだと。そう考えると、どこか誇らしげに話していたサソリの態度にも合点がいく。つまり、ミラにだけでなく、ウズメにも報告しているつもりだったのだろう。


「貴方がヨハンさんですね。初めまして、ウズメと申します。彼女達のまとめ役、のような立場の者です。つきましては是非、キメラクローゼン打倒のため、私達にその知識と技術をお貸しいただけないでしょうか」


 挨拶をしたウズメは、早速とばかりに右手を差し出した。五十鈴連盟の本部では、ヨハンから預かった資料の解析が進められている。だが、そもそもそれを記した人物がいれば、圧倒的に効率よく進められるのだ。居るならば協力を求めない手はないだろう。

 それに対しまだ少し驚いた様子だったヨハンだが、差し出された手を見つめると、続けてミラとサソリ、ヘビの姿をゆっくり見回した。


「もちろんです。ミラさん、サソリさん、ヘビさんには、私だけでなく妻と娘を救っていただいた恩義があります。喜んで協力させていただきましょう」


 ヨハンは力強く頷き、ウズメの手を握り返す。真っ直ぐウズメに向けられたヨハンの目は、術を使うまでもなく偽りなどないと分かる程に確かな覚悟と意思に満ちたものだった。

 疑う余地など微塵もない。そんなヨハンの表情に少しだけ驚きをみせたウズメだったが、直ぐに屈託のない笑顔を浮かべ「ありがとうございます」と頭を下げた。



 その後、ミラがセントポリーでの出来事を語ると、サソリは「ミラちゃんも、やっぱり流石だよね」と言って苦笑いを浮かべる。資料を特急便で届けるだけだったはずが、一日でセントポリーという国の裏を暴いてきたのだ。もはやそれ以外に言葉はないだろう。

 こうして報告会議が終了したあと、今度はヨハン達の移送についての話し合いが始まる。キメラクローゼンの被害者や、狙われている者達の多くが五十鈴連盟の本部に匿われているそうで、事が済むまでの間、ヨハンとアンジェリーク、アンネ、ミレーヌの四人を移す事になったのだ。

 アンネにとっては、窮屈な地下室より伸びやかに過ごせるだろうというウズメの配慮だ。

 そしてそれは、そう難しくない形でまとまった。

 方法は単純。五十鈴連盟側から迎えを出すので、ヨハン達を所定の地点まで光学迷彩を使いミラが連れて行くというものだ。

 と、そこまで話し終えたウズメは、ヨハンの受け入れ準備をすると言って、またピー助と入れ替わり帰って行った。思いついたら即行動のウズメ。実に慌しいが、こういうところはまったく変わっていないなとミラは微笑んだ。



「さて、これでこちらは一件落着、と言いたいところじゃが。これでメルヴィル商会とやらを、どうにか出来るじゃろうか?」


 ローズライン公国での目的は、キメラクローゼンとの繋がりを公にして、メルヴィル商会を共に断罪する事だ。そのために両者の関わりを証明する証拠を用意する必要がある。

 現在ミラ達の持つ手札は、生き証人のヨハンだけだ。長年に渡り両者に関わっていた分、その証言は相当な効力を持つだろう。


「難しいと思う。妻と娘を救ってくれた礼にと、君達に渡す予定だった商会との取引資料があれば、まだなんとかなったかもしれないが……」


 しかし、そのヨハン本人が決定力不足だと口にした。商会との取引資料が紛失した今ヨハンの証言だけでは、三大商会に迫る程の力を付けているメルヴィル商会に対抗出来るかは、正直難しい問題であるというのだ。


「やはり動かぬ証拠というのが必要じゃな」


 どうしたものかと考え始めるミラ。だがその時ヨハンが「私に心当たりがある」と声をあげた。聞けば、拉致されたあと、ある施設に一時留め置かれていたのだという。そしてそこには、黒霧石で作られた数多くの武具があったと。

 留め置かれていたという事は、つまりそのあと更に別の場所、サソリとヘビが見つけた施設に移されたという事。

 その状況からヨハンは、拉致自体が急な事だったので連行先が指示されていなかったのではないか。そのため一時的に仮の施設に連れて行かれたのではないか、と今改めて思ったようだ。


「黒霧石を利用した武具を使っているのは、今のところキメラの者だけだ。となれば私が連れて行かれたその施設が、もしもメルヴィル商会の関連施設であったなら、商会とキメラの関係を決定付ける物的証拠になるかもしれない」


 少し考え込んだのち、ヨハンはその可能性を口にした。キメラクローゼンが使う専用の武具が、メルヴィル商会の施設内で大量に見つかる。たとえ決定打にならなくとも、ヨハンの証言と合わせれば、言い逃れる事はほぼ不可能となるだろう。


「ふむ、調べてみる価値はありそうじゃな」


「うん、もしそうなら、有力な証拠になるかも」


 確かな可能性が垣間見え盛り上がるミラ達。しかし、問題はその施設の場所だった。ヨハンは、真夜中に突然気絶させられて連れ出されたそうで、どの道を通ったのか全く分からないらしい。目が覚めた時には、黒の武具が置かれた施設にいたと。

 ただ、その施設から助け出された施設の場所まで、そう距離はないとの事だ。


「体感だが、小走り程度の速度で三十分ほどだったと思う」


 ヨハンは思い出すようにそう言って、「こんな事なら、もっと良く見ておくんだったな」とため息混じりに呟いた。


「大丈夫大丈夫。そこまで分かれば充分。ヨハンさんが気負う必要なんかないよ」


 完全とはいえないが、それでも相当に範囲は限定出来る。サソリは周辺地図を広げながら、ここが活躍時だと張り切ってみせた。

 地図には二人が調査したのだろう、メルヴィル商会関連の施設を示す印が書き込まれていた。その内の一つ、ヨハンを救出した場所を赤で囲めば、おのずと怪しい場所が見えてくる。

 近い施設は三つ。だがミラ達は迷わず一つに絞り込んだ。そこはヨハンを救出した地点と屋敷の間に位置する倉庫だった。

いやぁ~、先日。いっぱいお金を使っちゃいましたよ。

しかもコンビニで。


いくら使ったかいうと、まさかの9万6千円です!

こんな大金をポンと出せちゃう自分凄い!


ただ、それで短時間ですが、少々金銭感覚が麻痺してしまいましてね。

その流れで、またミスド行っちゃいました!

六個買ってうまうましました。

それで、オールドファッション? を初めて食べたんですが、あれ他のドーナツに比べてお腹の溜まり具合が優秀ですね。

またいつか行く機会があったら、オールドファッションを主軸にしてその他を構築する事にしようと思いました。



…………次回の都民税を払う時、またミスドセールしてたらいいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 300話くらいを読む頃には 印税で食生活がもう少し 豊になってる事を願って 漫画とか買いました。 頑張ってください。
[良い点] オールドファッションはシンプルにして定番ですね、実は一番好きなドーナツですw←小説内容と関係ありませんがw  そして救出作戦呆気ないww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ