Episode8 〜ティルギス宣戦布告〜
一国の国王ともなると、常に誰か臣下の者がそばにいるものである。一人だけになるときなどほとんど無い。というか、無い。だがまあ、完全にないというわけでもない。が、しかしもちろんそんなときでも声を出せば聞こえる程度の距離にもちろん誰か人はいる。だから、こっそりと近づこうというのは基本不可能なのだ。基本的には。
「おはようございます!!陛下。」
「ああ、おはよう。」
何気ない城の少年兵士と廊下でのすれ違い。だったはずなのだが、ギリアがいつの間にかポケットに入っていた手紙に気づいたのは、私室に入ってからだった。「基本」が通じない人間もいるのである。
「ギルスが手紙をよこしてきた。」
「・・・・・、どうやって!?」
リアを呼び出して、召使い達を追い出して(召使い達が部屋から出る際、かなり小声で話をしていた。)ギリアが話し始めた内容に、リアが驚くのもお分かりだろう。
「・・・・・、なんか、気づいたらポケットに入ってた。」
「はあ!?それ本物?」
「・・・・・多分。筆跡はギルスの物だし、内容もあながち嘘とも思えん。」
「まあ、いいわ。それで、なんて言ってきたの?」
「暗殺の噂は本当だったらしい。」
「・・・・・そう。」
「『水平線』という秘密組織がそういう計画をしている、という情報が入ったらしい。」
「彼が調べたの?」
「いや、何でもかなり心強い味方ができた、とか。今度会うことがあったら詳しく紹介したいらしい。」
「それは頼もしいわね。彼一人ではいくらか不安だったし。」
酷い言われようである。
「でも、そうなるといよいよ不思議ね。」
「ああ。そういった気配がなさ過ぎる。」
暗殺を企てるとなると、事前にいろいろと下調べが必要な物である。目標が一国の王ともなるとそれはかなり綿密な物になる。勿論ばれないように上手くした調べは行う物なのだが、やはり多少はそういった動きを感じ取られてしまう。少なくとも二人はそれを感じ取る自信がある。が、それを全く感じない。
「調べをする物がかなり上手なのか。」
「その情報がガセなのか。」
「「もしくは・・・。」」
そこで二人が同じ考えに至ったのと、臣下の一人がノックもせずに部屋に駆け込んできたのとは同時だった。
「イース!大変よ!!」
「エリシア!?」
イースの元へ駆け込んできたエリシアの様子は、かなり深刻な物だった。
「水平線の作戦が分かったの!彼奴らは、暗殺をするために戦争を起こすつもりなのよ!!」
「はあ!?」
「詳しい話は後よ!今、ティルギスの軍勢がこっちに向かってる。明後日にもウィングストニアの国境に到着するわ。」
「何だって!?」
「ティルギスのレリシス王はやる気満々で攻めてきている。ウィングストニアの戦力を考えても五分五分かなとオーシュが言ってた。」
「城に行かなければ!何か方法はないのか?」
「そういうだろうと思って、今オーシュが貴方を城に忍び込ませる方法を探ってる。分かり次第、ここに来るはず・・・。」
「そうか、ありがとう。」
一国の王の暗殺はもちろんそうそう簡単ではない。周辺には厳重な警備がしかれているし、しかもギリア王自身もなかなか強い。だが、周辺の警備だけでも弱まれば、いくら生う自身が強くても事情は違ってくる。背後を狙うもいいし、大勢で掛かってもいい。そして、戦争が起これば、その条件を上手い具合に満たしてくれるというのだからありがたい。
「や、久しぶり。」
落ち着いたオーシュの挨拶を聞けたのは、それから数分後だった。
「ティルギスの軍勢は3万!我が軍はすぐに国境に集められるのはせいぜい1万!周辺の領主の軍勢にも連絡をとばしましたが、軍勢の到着は早くてもあと3日は掛かるでしょう。」
「・・・・・、国境付近の領主の軍勢総出で国境を守らせろ。絶対にティルギス軍をウィングストニア国内に入れるな!!」
「はっ!!」
大体の指揮が終わり、一段落ついたところで彼はリアに話しかけた。
「どう思う?」
「いくら何でも急すぎるわ。ティルギスのレリシスはあまり賢くはないという噂を聞くけど、馬鹿じゃない。」
「ああ、宣戦布告の理由も国境付近のウィングストニアの領主の狼藉が過ぎるとか言うほとんどこじつけみたいな物だしな。」
「と、なると予想が当たってしまったみたいね。」
「ああ、的中だ。どうも俺は悪い予感ばかり当たるという変な特性があるらしい。」
「奇遇ね。私もよ。ところで、勿論貴方も行くんでしょ。」
「ああ、本軍をつれて今すぐにでも行きたいところなのだが・・・。」
「ギルスね。」
「ああ、行く前にあいつと連絡を取りたい。何とかならない物か・・・。」
もう夜も近い時分だった。
すいません。間を開けてしまいました。