Episode6 〜味方〜
何処の世界にも、人の物を盗る職業は存在する。まあ、すなわち盗賊である。此処、地下下水道にもそのような人が現在約2名。
「ねえ、本当に此処で合ってるの?」
「・・・・・多分。」
「多分!?ちょっと、あんたの情報を信じてこんな臭いところまで遙々《はるばる》と来たのよ!」
かなり揉めているようである。
「ちょっと聞いてるの?オーシャ!」
オーシャと呼ばれた青年がそれはそれはかなりめんどくさそうに答える。
「いや、でもこの情報はあまり確実性がある物ではないって言ったけどエリシアが『行ってみなきゃ本当かどうかなんて分からないじゃない!!』的なことを言って俺を無理矢理連れ出したような・・・。」
エリシアと呼ばれた女性はめんどくさそうなオーシャとは対照的にあっさりと答えた。
「あんたの思い違いでしょ!」
事のあらましを簡潔にまとめてみよう。オーシャがあまり確実ではないが
「地下下水道から城下町のお屋敷であるリーラ屋敷に忍び込める」という情報を掴む。→それをエリシアに伝える。→行きましょう!!
真実とはまとめてみると実に簡単な物である。真実は簡単すぎてかえってなかなか分からないという過去の偉人の言葉があったような、無かったような。
そして現在の状況を言うと、その屋敷に繋がっているはず、のマンホールを開けようとしてオーシャが悪戦苦闘しているわけだ。
「ロックは掛かっていないみたいなんだけどなあ。上に何か載せているのかも。」
「つかマジで早く開けてくれない。この臭いがもう何というか、腐った卵と温泉の臭いが混じったみたいな臭いじゃない。」
温泉のあの独特の臭いは大体硫黄の臭いでそれを孵卵臭と表現する。だから二つの臭いを混ぜても結局孵卵臭だと言うことを彼女は知っているのだろうか?
「ん。お!持ち上がっ・・・」
「あ、開いたの?」
開いたには開いたのだが、彼は恐らくマンホールの蓋にしてはえらく軽いことに気づいたはずだ。それもそのはず、彼一人で持ち上げたのではなく、上にいる人たちも同時に蓋を持ち上げたのだ。上にいる人とはすなわち、
「動くな!もう逃げ場はないぞ!」
屋敷の警備員である。
「オーシャの馬鹿あああああああああああああ!!バレてるじゃない!」
「あれ、何でばれたんだろ?まあ、兎に角、『逃げた方がいいですよ』的な空気がめっちゃ漂ってるようだね。」
やはり二人の態度は対照的である。
「待てー!!」
「待てって言われて待つ馬鹿がいるもんですか。」
「ああ、あれって犯人に対する心理的な効果と人混みに逃げ込まれたときに大声で『待て!』って言うと周りの人がみんな立ち止まって犯人だけ逃げるから見失うことがないのと上手くいけば周りの人に身柄の拘束の協力を得られるかもしれないから言うらしいよ。」
「ふうん。って!あんたの雑学はどうでもいい!少なくとも今は!」
バシャバシャと、下水が撥ねる音と警備員の声が静かな下水道を満たしていく。二人とも此処で捕まっては大変と必死で逃げるが、警備員も必死だった。何を隠そうこの警備員達ここ最近はスランプ続きで次に仕事を失敗すればクビ!といわれているのだった。しかもよりによってその次の仕事が盗賊の逮捕なのだから失敗すればもう100%クビである。
「はあ、はあ、はあ。しつこいな彼奴ら。」
「オーシャ!前!」
「っ!うそおおおおおおおおおお!」
彼が叫ぶのも無理はない。なんと前は行き止まり、ではなく、・・・・・・、剣を構えた男つまりはギルス、がいた。
「挟み撃ちよ!どうしよう、このままじゃ。」
「こうなったら、戦うしか!」
ところが、二人がそれぞれ武器を手に持とうとしたとき、その男が二人の前に出た。要するに二人と警備員達の間に入った。
「御前ら!二人に対して五人がかりとは臆病極まりないな!その腐った性根を叩き直してやる!!」
「「え?」」
この台詞は二人と五人が発した物である。二人にしてみれば、前からも攻めてきていたと思っていた敵が急に自分たちを守ってくれたのだ。で、警備員達にしてみれば、一般人が盗賊の逮捕に協力してくれる、と思いきや、いきなり自分たちに剣を向けたのだ。
「いや、そいつらは盗、」
必死で誤解を解こうとする警備員達だが、
「問答無用!」
瞬時に五人とも戦闘不能に至らしめた。
「ふう。大丈夫だったか?御前ら。」
こういうのを
「偽善」ということができるのだろうか?まあ、無知は罪なのである。
「えっと、あの・・・。」
二人がどう言おうか迷っているうちに新手が来た。
「待てー!」
「彼奴も盗賊の仲間みたいだぞ。警備員達を倒しやがった!」
「「「・・・・・・・。」」」
三人とも一瞬の沈黙。最初に口を開いたのは、ギルスだった。
「え、御前ら、盗賊?」
「「はい。」」
あっさりと肯定する。
「待て待てーー!!」
今度の追っ手は明らかに三十人はいる。
別にまだ何も被害は出ていないのだから、そこまで頑張って追いかけなくても、と思うだろうが、実はウィングストニアでは、犯罪者を捕まえた者には国から賞金が出るのである。まあこの場合は警備員達の雇い主であるリーラ屋敷の主人がもらえるのだが。警備員達は単にクビにされたくないだけである。盗賊をとらえて主人が賞金をもらえれば、しばらく自分たちのクビは安泰だろう。そういう魂胆である。
「まあ、とりあえず、逃げませんか。」
オーシャが、至極尤もな提案をする。
「そうだな。」
ギルスも大賛成だ。勿論、エリシアも。三人とも意見が一致したところでおいかけっこ再開である。
「待てー!!」
「待つもんですか!」
〜数十分後〜
「ふう、何とかまいたみたいだな。」
「ええ。」
「ところでおっさん。」
ギルスは、おっさんというのが自分のことだと理解するのに数秒を要した。それから、言った。
「俺はまだおっさんといわれるような年ではない。」
「じゃあ、じいさん。」
「斬るぞ。」
どうやら加齢に対してコンプレックスを抱いているようだ。
「悪い悪い、冗談だって。ところであんた、名前は?」
彼は、本名を教えようかどうか悩んだ末。止めた。今の自分の名前はウィングストニアの人には伝えない方がいいだろう。
「イース。」
彼が昔、こっそり町に出て一般人のふりをして遊ぶときに使っていた名前だった。
「俺は、オーシャ。そしてこっちがエリシアだ。まあ、大体俺達のことは分かったと思うが、まあ、盗賊、的なことをしている。」
「で、良く言うと俺は御前らを助けた。悪く言うと犯罪者に加担しちまったというわけか。」
つくづく可哀想な男である。
「まあそう嘆くなって。俺らにとっては命の恩人だからな何でも聞いてやるぜ。なんか盗んできてほしい物があったりしたら、」
「生憎無い。」
「そうか。物だけでなく、情報とかも手に入れられるけど。」
「情報!?」
そこで男は反応した。
「ああ、盗賊業には情報の入手が必須だ。専門の情報屋に頼む奴もいるが、俺は自分で情報の入手もしているからな。大体の入手ルートは網羅してるぜ。」
「・・・・・、国王の暗殺、に関しての情報が欲しい。」
かなり久々の投稿となってしまいました。これからも宜しくお願いします。