Episode4 〜ウィングストニア国王暗殺計画〜
「それで、どうして一国の将軍と王ともあろう人がこんな所にいるの?」
リアがいい加減きかずに入られないといった感じで尋ねた。
「まあ、おまえもさっきの酒場の人の話で俺がここにいる理由はだいたいわかったと思うが」
「ええ、それは大体わかったわ。」
そこで、リアは困惑に満ちた表情になって、
「でも、こちらの国王陛下までがいらっしゃるのはどういうことなのかしら。」
と早く事態を理解させてほしいといったふうに言った。
「それは俺にもわからない。俺も陛下は城中にいらっしゃるものだとばかり思っていた。」
「それでは、私がここにいる理由を説明してもよろしいかな?」
それまで黙っていた国王が、口を開いたのでぎるすとリアはあわてて口を噤んだ。
「最近、城の情勢が不穏なのはギルティス、御前も知っているだろう。」
「はい。将軍の急な解任とエシルとルシアス中尉が昇格したと聞いたときから何かを感じてはいましたが、まさか王が城を出てくるほど凄いことになってるとは思いもよらず・・・。」
「実は、私の命は狙われているようなのだ。」
二人とも、事の深刻さに思わず息をのんだ。
国王の暗殺を企むということは、そこらの貴族を暗殺するのとは訳が違う。失敗すれば死刑は当然、しかも成功する確率はよほど腕に自信がない限り、0に限りなく近い。にもかかわらず暗殺を企むということは、そのリスクよりも暗殺によって得られるものが多いということなのだ。そのくらいのことは城のことについてはあまり関わりがないリアでも知っている。
「確かというわけではないが、そうである可能性は高い。まあもちろん、最近の物騒な事のせいで私が敏感になりすぎて被害妄想を抱いているだけなのかもしれないが。」
「陛下は何処からその情報を?」
「そのことの密告の手紙が私の部屋に置かれていた。私が部屋にいない間におかれたのだ。」
「その手紙を信じたのですか!?」
たったそれだけで危険を冒してまで城を出てこなくてもと言いたげな様子でリアが言った。
「いやリア、当然のことながら陛下の部屋は厳重な警備がしかれている。そこに手紙を置くというのは容易なことではない。かなりのリスクを覚悟で忍び込んで置いたのだろう。そんなことをいたずらなんかでするはずがない。」
とギルスが言うと、国王が
「しかし、私を脅かして何かにはめると言うことは考えられるがな。まあ、私もギルティスと同じような考えで城を抜け出してきた。」
「しかしどうやって?そして、陛下がいなければ今城はどうしているのです?」
「もちろん、私がいなければ城は機能しなくなってしまうし、謀反を企む奴らの思うつぼになってしまう。そこでだ、私は今ちゃんと城にいる、ということにしてある。」
「いや、居ないじゃないですか。」
「もちろん口上だけそうしてあるだけだ。つまりは俺の部屋には信頼できる部下、名前は伏せるが、とにかくそいつが居て、俺の代わりになってもらっている。」
「でも、いろいろな人たちが用事があってくるのではないですか?」
「私は今は少し気分が優れない。重要な用事だけドア越しに話すようにしている。」
「いや声が全然違うでしょう。」
「少し鼻声だということにしてある。」
「・・・・・・・・・。」
「ウィングストニアが少し心配になってきたな。」
「兎に角、私がなぜ御前のところにきたのかというと、御前が一番信頼できるやつだからだと思ったからだ。」
「え、俺がですか?」
「そうだ。」
「いや、しかし俺はあまり賢いというわけでもないし、実際俺の知らないうちに将軍から俺を下ろす計画が着々と進んでしまっていたみたいだし、それに全く気づかなかったし、自慢できることといえば剣の腕くらいだが。」
ギルティスはウィングストニアでは唯一エシルと互角に戦える騎士として知られているが、勝負は時の運とも言い、必ずしも二人がウィングストニア一強いというわけではない事を記しておく。
「だからこそ私は御前を信頼するのだ。頭があまりよくないやつは謀反を企むなんて事も考えつかないからな。忠実さにおいては一番だ。」
「褒め言葉として受け取っておきます。兎に角、これからどうするのですか?」
「私もいつまでも城を替え玉で通すのは無理がある。そろそろ城に戻らなければならない。しかし、まさか御前はウィザニアには入れまい。顔を知られすぎているしな。」
「それなら、リアを城内に置かれてはいかがでしょう?」
「気になっていたんだが、そちらの女性は?」
「彼女はリシア=ルーティン=ティルス、旅の途中で助けてもらった、命の恩人であり、戦友です。」
しかし国王はまさかこんな女性が武術でギルスを助けたとは思わない。きっと誇張で言っているのか、敵から逃げているときに匿ってもらったのだろう程度に彼は考えた。そして、城に置くという意味も、自身に何かあったら、急いでギルスに伝えに行くという役目だろうと思った。まあしかし、ギルスがそこまで言うほどの女性だ、信頼はできるだろうとも思った。
「分かった。彼女に『護って』もらうとしよう。」
国王は半分軽い気持ちでそういった。彼女が最高の護身兵になることを彼はそれほど遠くないうちに知ることになるのだが。
久しぶりの投稿となってしまいました。長い間放置してしまい、本当に申し訳ありませんでした。