Episode2 〜王の失踪〜
ウィングストニアの首都であるウィザニアの、中心的な建物であるウィザニア城では一人の男が苦悩していた。
「あー、もう嫌になってきた!」
彼の名前はエシル=バーティス、ウィザニア軍の最高権威である4人の将軍のうちの一人である。しかし、最近は特に戦争もなく平和そのものであり、彼の仕事は主に所謂デスクワークばかりである。今日も、書類の整理を彼はしているという訳だ。
「大体、将軍になったって一つもいいことなんかないし、名前だけってやつだな。」
そんなことを言いながらふと彼は窓へと目を向ける。
「・・・・・・ギルス。」
彼はかつては親友であった男の名を呼ぶ。幼い頃から二人は親友であった。しかし、彼は突如悪となった。この場合の悪とは、エシルからギルスを見ての悪である。
「・・・・・気晴らしに出かけるか。」
そう言うと彼は部屋の照明を少し回した。すると、その隣の壁の一部が横に動いて、隠し通路への入り口が現れたのだ。
「さて、夜の街へ出かけようじゃないか。」
ウィザニア城が建設されたときはウィングストニアはティルギスとの戦争の真っ最中であった。だから、もしも仮に城が襲われたときに重役達が逃げられるよう城のあちこちに隠し通路を使ったのだ。そして、戦争が終わり、城を当てた人物達や隠し通路のことを知っている人物達もいなくなり、今では隠し通路の存在を知っている者は一部の人間でしかない。エシルもその一人である。彼は去年まで執事であった者が城を出て行くときに隠し通路の存在を教えてもらったのだ。
ウィザニアの町で有名なウィリュース剣技場。ここでは、剣の腕に自信のある者達が集まり、手合わせをしたり、剣の技術を教えあったり、情報交換をする所だ。そこへ、新しい来訪者が訪れた。
「よう、ヒューリス。今日は来ると思ってたぜ。」
ヒューリスと呼ばれた来訪者は笑みを浮かべながら男の隣に座った。
「ああ、たまには息抜きをしないとな。」
ヒューリスとは、エシルが街に来るときに使っている偽名である。エシルはここでよく剣の腕を磨くのだ。
「ところで、ヒューリス。新しい情報を入手したぜ。」
「何だ?聞こうじゃないか。」
「実はな、今は城に王が居ないんじゃないかという話が持ち上がってるんだ。」
彼は、驚きのあまり持っていたグラスを落としそうになった。
「そんな、馬鹿な!」
本当にそんなはずはないのである。もし本当に王が居ないのなら将軍である自分が知らないはずがない。しかし、この男の情報はいつも確かで外れたことなどないのだ。彼が将軍であるなどとは夢にも思わない男はさらに続ける。
「そう思うだろ、でもな、城に使えている者の話では最近王は部屋に閉じこもってばかりで全く部屋からでない。そして、一度用があってドアを通して話をしたらしいんだが、その時の王はいつもと少し違い、何か違和感があったそうだ。これらのことからだな、今城にいる王は実は替え玉何じゃないかと思う。」
「なっ!」
「何か事情があって入れ替わったのか。よからぬ事をたくらんだ奴が王を殺すか何処かに閉じこめるかして、自分が王に成り上がったのかも知れない。」
エシルは、二の句が継げなかった。もし、王が何者かの陰謀で入れ替わったのではなく、自らの意志で入れ替わったのだとしたら、王が何処へ行ったのかはエシルには想像がつく。
「ティルギスへ行ったのか!?」
「え?」
ヒューリスに不審な目で見られたので、エシルは慌てて
「いや、何でもない。ちょっと急用を思い出したから今日はもう帰る。」
と言って外へ出た。
冷たい風が彼の身体をさましていく。もう秋の終わり頃である。
「陛下の御出身はティルギスだからな。恐らく、ティルギスに助けを求めに言ったのだろう。」
城の中で、最近不穏な動きがあることは彼もうすうす気づいていた。貴族や騎士団達が大臣を味方につけて王宮乗っ取りをたくらんでいるのだ。そこで、王は城を逃げ出すも同然の形で姿をくらましたのだ。ただし、自分が蒸発してしまえば、城を反逆者達に開け放してしまうも同然になってしまう。そこで、替え玉を用意していったのだ。
「確か、ギルスもティルギスへ行ったんだったな。」
陛下は、もしかしたらギルスに会いにいたのかも知れない。ふと、そんな考えが彼の頭に浮かんだ。陛下はギルスのことをかなり頼りにしていたのだ。
「やっぱり、陛下は俺では頼りにならないとお思いなのか?」
彼も、謀反が起こったときには陛下を守るために全力で戦う覚悟でいた。しかし、陛下は自分ではなくギルスを頼りにした。悔しかった。そして、悲しかった。何故自分はいつもギルスに負けてばかりいるんだろう?
「いや、違う!俺は勝ったんだ!奴を城から追い出したじゃないか!」
じゃあ、どうしてだ?何故こんなに涙が止まらないんだ?本来なら、笑うべきだろう?長年のライバルを、宿敵を追い払ったのだから。彼は、どうしても、涙が止まらない理由が分からなかった。
三話まで読んでいただき、ありがとうございました。もし宜しければ、今後の執筆の参考にしたいので読んでくれた感想をコメントとして送っていただければ幸いです。