Episode1 〜出会い〜
彼女は、夢を見ていた。いつの頃だったのかは覚えていないが、確かに自分のことの夢だ。彼女は、剣の扱いに優れていた。しかし、周りはそれを認めてくれなかった。
「貴女は女性なんだから剣なんて使えなくてもいいんだ。」
悔しかった。どうして女性は剣を使っては行けないのだろうか。実力を見せつければ、周りも理解してくれると思い、街を襲った盗賊達を自警団に混じって10人ほど討ち取ってみた。すると、周りは彼女を、気味悪がり始めた。同じようなことをしたのに、自警団の方は、尊敬されていた。
やがて、彼女は独りになっていった。そして、彼女は街を出た。旅をしながら、強さを求めた。しかし、何処に行っても最初は女性だから、という理由で甘く見られた。そして、手合わせをしてみて勝つと、気味悪がられた。
「御前は、化け物か!?」
「近寄らない方がいいぞ。」
どうして!?何故私はそんな目に遭わなくちゃ行けないの!?もう、いや!
「・・・・・・、夢か。」
彼女は、野宿をしていた。本来なら、女性が一人で野宿をするなど、本来はするべきではない。しかし、彼女は盗賊などが来ても、無傷で撃退することができるし、街の宿屋なんかに行くとまた気味悪がられる可能性があるからだ。
「嫌な夢を見たわね。」
そう言いながら彼女は周りの景色を見渡した。彼女の耳が剣と剣とがぶつかり合う音を聞きとめたのは、その直後だった。
男は、追われていた。それも、十数名の騎士達にだ。普通なら、襲われた地点で十数名対一人ではあっという間に骸と化してしまう所だが、しかしこの男はかなりの実力を持っていた。何とかはじめの乱戦状態を数名倒してくぐり抜け、こうして逃げているというわけだ。ただ、もちろんこの男も、このまま走り続けて撒いてしまえるとは思っていない。ここは、見晴らしのいい街道だし、逃げ込めるような森などの視界を遮る物もない。下手に走り続ければ体力がきれてしまう。そこを無数の刃に襲われることになる。だから、体力がいくらか残っているうちに、戦いに適した場所を見つけてそこで敵を迎え撃つつもりでいるのだ。しかし、走れども走れどもそんな場所は見つからない。
「仕方がないか。」
男は舌打ちをすると、仕方なく街道から少しそれて草原まで走るとそこで敵と向かい合った。一斉に敵が男を取り囲み剣を向ける。しばしの間、剣と剣がぶつかり合ったが、所詮結果は知れている。人数が断然違う上、男は長旅をして疲れてきている。それでも男が何とか踏ん張れているのは、男の実力と、男が使っている剣の御陰だろう。男は、そこらでは手に入らないかなりよい剣を使っていた。
男は、何とか5人ほど切り伏せることができたがそこで体力の限界が来てしまった。これまでか、と男が思ったその時、騎士達が此方側をじっと見て、呆気にとられているのに気がついた。つられて男も振り返った所、思いがけない光景が目に飛び込んだ。なんと、女性が此方に走ってくるではないか。それが、普通のか弱そうな女性なら、男はなんとしてでも彼女を守ってやるべきなのだ。しかし、その女性はそのような人ではなかった。彼女は手に剣を持って、此方に走ってくるのだ。
「一人に多数とは卑怯な!助太刀いたします。」
そこで騎士の一人が我に返り、彼女に斬りつけた。いや、斬りつけようとした。剣が、彼女の身体に迫る。誰もが、次の瞬間には彼女は骸と化すと思った瞬間、騎士の剣が宙を切った。
「なっ!」
騎士が驚いたときには、
「遅い!」
という声と共に、後ろから深く剣が突き刺さっていた。何が起こったのか分からずに絶命した騎士を尻目に彼女は次々と騎士達を相手にしていく。
「何をしているの?私一人に戦わせるつもり?」
彼女が男に抗議の声を上げたとき、男もようやく我に返り戦闘を再開させる。騎士達も再び剣を振るい始めたが、元々互角よりも少しばかり男が不利な状況であったのだ、体制は逆転した。
「一人を相手にこれだけの人数でかかるとは、卑怯な奴らね。」
闘いが終わり、彼女がそう言ったとき、地面には10人ほどの騎士達の死体が転がっていた。残りの騎士達はこれはかなわないと思い、皆逃げていった。男も、あえて追おうとはしなかった。
「助太刀、感謝する。」
男は剣を振って血を落としてからさやに収めながら言った。女性も剣をさやに収めながらきいた。
「ところで、彼らは何者なの?見たところ、何処かに使えている騎士達みたいだけど、主人がいる騎士ならこんな卑怯なまねが赦されるはずは・・・」
「・・・・・・。」
男が黙り込んでしまったのを見て、女性は詮索を止めることにした。
「まあ、言いたくないことを無理に言わせるのは私の好む所ではないわ。ところで、貴方はこれから何処へ向かうつもりなの?」
女性が尋ねると
「とりあえず次は進はシンクスへ向かう。そこから船でウィングストニアへ向かう。」
ウィングストニアとは、現在二人がいる国、ティルギスの東側に位置する国である。ティルギスからウィングストニアへ向かうにはたいていの場合、シンクスから海路で行くのが一般的である。
「ウィングストニア、今は少しばかり政府で揉め事が起きたとかきいたことがあるわ。何でも、ザーク騎士団の騎士団長が謀反の疑いで国を追放されたとか。」
その言葉に、男は少しばかり困ったような顔をして
「ああ、そうらしいな。」
と言った。
「ところで、御前はこれからどうするのだ?行く当てはあるのか。」
すると彼女は、すましてこう答えたのである。
「できれば、私も一緒に行かせてくれるとありがたいんだけど。」
男は、すぐにその言葉の意味が飲み込めず、
「はあ?」
と間の抜けた声を出してしまった。
「だから、一緒に連れてって欲しいんだってば。」
「馬鹿を言うな、詳しいことは話せないが、さっきのことでも分かったと思うがこれから行く先は俺を狙う人物達がうようよいるところなんだぞ。とても女性を連れて行くわけにわいかない。」
その時、男は女性の気配が変わったのを感じた。
「女性だから連れて行けないってわけ?その人がたとえ十分な実力があっても?そして、男だったら弱くてもつれていくというのか?女よりも男が強いなんて誰が決めたんだ!おい!」
さすがの気迫に男も少し押された。
「わ、分かった『女性だから』連れて行けないのではない。これから先が危険なんだからそんな簡単にさっき知り合った人を連れて行くわけにはいかないのだ。」
「じゃあ、一人でそんな危険地帯に乗り込んでいくわけ、当然、何か目的があるんでしょう。その目的を果たせないまま殺されてもいいの?」
「・・・・・・・。」
「今知り合った人を連れて行くわけには行かないという理由で無駄死にするなんて、私はまっぴらごめんだね。」
男は、少し考えたあと、突如笑い出した。
「な、何がおかしいの!」
「いや、一見は可憐な女性が、そんなことをぺらぺらと喋るのがおかしかったのさ。それよりも、そうだな。強い味方が欲しかったのは本当だし、できればついてきて欲しい。でも、本当にいいのか?途中で殺されるかも知れないんだぞ。」
女性もまた笑いながら答えた。
「望むところね。私よりも強い人間を見つけられて、そいつに殺されるのなら本望だわ。」
どう間違えれば美しい女性の口からこんな台詞をが出てくるのだろうか。そう思いながら男は言った。
「それなら有り難い。これからも協力してもらうとしよう。」
「じゃあ、一応自己紹介をしておくわね、私はリシア=ルーティン=ティルス、リアと呼んでくれればいいわ。」
「俺は、ギルティス=リースン、ギルスと呼んでくれ。」
そこでリアはこの名前は何処かで聞いたことがあるような、と思ったが口にはしなかった。
「さて、出発するとしよう。早く行かないと彼らが戻ってくるかも知れない。」
しかしリアは急ぎ出発しようとするギルスを制止した。
「少し待って、私、野宿をしていて起きてすぐにここに来たの、だから、いろいろと身支度が。」
「どのくらい時間がかかるんだ?」
「30分くらい。」
「30分!?」
男はかなり驚いた。何をすればこんなに身支度に時間がかかるのだろうか。自分はせいぜい5分程度で身支度など調えられるのに。
「何をすればそんなに時間をかけることができるんだ?」
「髪をとかしたり、服装を整えたり、身だしなみをいろいろと。」
そう言うとリアは早くも野宿していた場所へと走っていっていた。
「やれやれ、こういう所は女性らしいんだな。」
心強い味方だが、少し面倒そうな人だ。彼はそう思いながらウィングストニアの方を見つめた。
彼の旅は、まだまだ始まったばかりである。
エピソード1を書きました。やっと、ストーリーが進行し始めた感じがします。これからも宜しくお願いします。