第二部 第五話『選ばれし観測対象』
静かな夜だった。
風もなく、虫の声すら聞こえない。
それは自然な静けさではない。
世界が息を止めている静けさだった。
消えた人々
翌朝。
外層の街を歩く三人は異変に気付く。
「……人が少ない。」
茜音が辺りを見回す。
昨日まで歩いていた人たちが、何人も姿を消していた。
店は開いている。
信号も動いている。
でも、人だけがいない。
「まるで最初から存在してなかったみたい……」
氷雨は胸がざわつく。
月斗の推測
月斗は地面にしゃがみ込み、小さく呟く。
「回収が始まった。」
「回収?」
茜音が聞き返す。
「上位層は、必要な存在だけを残して、それ以外を"別の階層"へ移してる。」
「……人を物みたいに。」
茜音は拳を握り締めた。
突然の襲撃
その瞬間。
空中に黒い亀裂が走る。
そこから現れたのは、黒いローブを纏った四人の存在。
「観測対象・確認。」
「対象コード氷雨茜音月斗」
「回収を開始します。」
三人の迎撃
「来る!」
月斗が叫ぶ。
重力場を展開。
敵の動きを鈍らせる。
しかし敵は空間を滑るように移動し、拘束をすり抜ける。
「また効かない!」
茜音が叫ぶ。
「みんな、離れないで!」
声が衝撃波となり敵を押し返す。
一瞬だけ隙が生まれる。
氷雨が前へ出る。
「……凍れ。」
冷気が一直線に走る。
敵の一人の足元を凍らせることに成功する。
「やっと効いた!」
しかし、それも数秒。
氷は自ら崩れ落ちた。
謎の少女
「そこまで。」
澄んだ声が響く。
青白い光が空から降り注ぐ。
一人の少女が現れた。
銀色の長い髪。
深い蒼色の瞳。
三人より少し年上に見える。
彼女が手を振ると、黒いローブたちは一斉に後退した。
少女の名
「私は――星詠 澪。」
「あなたたちを迎えに来た。」
茜音が警戒する。
「敵じゃないの?」
澪は静かに首を振った。
「違う。」
「私は『境界管理局』の人間。」
境界管理局
「虚無機構と戦い続けている組織よ。」
月斗が目を細める。
「そんな組織が……。」
「あなたたちが知らなかっただけ。」
澪は静かに答える。
「世界には何重もの階層がある。」
「私たちは、その境界を守っている。」
氷雨への視線
澪は氷雨を見る。
「あなた……。」
少し驚いたように目を見開く。
「やっぱり。」
「零界凍結の適合者。」
氷雨は息を呑む。
「……知ってるの?」
「もちろん。」
「その力は、この世界でも数えるほどしか存在しない。」
茜音と月斗
澪は二人にも視線を向ける。
「共鳴の声。」
「重力の楔。」
「三人が揃っている理由も、偶然じゃない。」
新たな敵
遠くの空に巨大な黒い裂け目が現れる。
そこから、今までとは比べ物にならない圧力が流れ出す。
澪の表情が初めて曇る。
「まずい……。」
「もう来た。」
次なる脅威
裂け目の奥から響く声。
「観測対象回収計画──第二段階を開始する。」
その声だけで空気が震える。
三人は本能で理解した。
今までの敵は、ほんの前座だった。




