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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪魔憑き

作者: 環もぐら

ホラーとかいってますが、基本的に恋愛モノです。多分。

あるいはサスペンスファンタジーってところですか。


そんな感じですが、ご一読いただけると幸いです。

では、どうぞ。

「・・・・・・蝉か」


五月蝿いほどに嘶く蝉の声で目が覚めた。


「知らない天井・・・って訳でもなくなったな」


ここ数日で見慣れてしまった真っ白な天井を見て、一人ごちる。浅い眠りから覚めて、まず目に入ったのがそれだった。

薬品の匂いが鼻をつく白を基調としたこの部屋は、所謂病室というやつだ。ベッドは一つ、あとは簡素な棚とテレビ等がある。

俺の名前は鶴海黒兎つるみくろう。一週間ほど前にこの病院に搬送され、数日前に目が覚めた。

以来、病室暮らしをしている。どうにも、病室は見慣れても病院生活には慣れないものだ。それはもう、色々と。

そんなことを考えていると、この部屋に来訪者があった。


「あ、今日は調子良さそうだね。お兄ちゃん」


「はい。いや、うん。ありがとう、流音るね


来訪者、長い艶のある黒髪を二つに纏めサイドアップにし、透き通るような琥珀の瞳を持ち、まだあどけなさを残す美少女は、どうやら俺の妹らしい。何故、らしいなのかというと、俺は詰まるところの記憶喪失というやつで、自分の名前以外は覚えていなかった。無論、この少女のことも。とはいえ、知識などは覚えていて、失ったのは思い出の部分だけ。とりあえず、人並みの生活をすることは可能だ。

何で俺が記憶喪失になったのかというと、なんでもつい最近原因不明の地震があり、その時丁度階段を下りていた俺はバランスを崩し階段を転げ落ち、頭を強く打ち付けた。身体の方は大した怪我はなかったが、頭のほうに受けた衝撃でこの通り記憶喪失になり、ついで下半身に若干麻痺が残った。お陰で暫くは車椅子と松葉杖のお世話になることになった。幸いなのは他に目立った後遺症がなかったことか。

なんというか、情けない話だ。


「でも、大丈夫なんで・・・なのか?身体のほうは」


「あはは。やっぱりまだ慣れないんだね・・・えっと、うん。私、今日は調子いいから大丈夫だよ」


流音は苦笑を浮かべる。申し訳ないとは思うが、いきなりこんな美少女が俺の妹と言われても、なかなか慣れない。どうしても気後れしてしまう。どうにかしなければとは思うのだが。

それと流音は身体が弱いらしい。すぐに体調を崩して、昔から家をあまり出なかったそうだ。だから、お見舞いには無理に来なくてもいいと言っているのだが、これが結構頑固なのだ。


なら良かった、と俺が笑うと流音も微笑み返す。

何だか、心が温まる。たとえ記憶になくとも身体が覚えているのだろうか。これが、兄妹というものなのだろうか。


そういえば、流音の他にもこの病室を訪れるモノがいる。あと二人ほど。医者や看護師以外では彼らしかいない。

多分、一人はそろそろ来る頃かな。決まって、この時間に彼女は現れる。


「一日ぶり、黒兎。元気?」


「・・・まあ、こうして話せるくらいには。というか、そうやって壁から現れないでくれって前に言わなかったか、望観のぞみ?」


「ごめんごめん」


この可愛らしく舌を出して全く反省の色が見えないのが、この病室を訪れるモノの一人、望観だ。

望観は壁から抜き出て、ふわりと床に降り立った。

白を基調とした着物を着こなし、腰まで届く綺麗な黒髪と透き通る瑠璃色の瞳を持つこの少女、本人曰く、神様らしい。まあ、神様といっても土地神のようなもので、そこらの精霊位の力しかないという。普段はこの街の小高い丘の頂にある祠で暮らしているらしい。


「まったく」


望観が初めてこの病室に現れたときは、本当に驚いた。今度は心臓が止まるかと思った。それ以来やめるように言っているのだが、おもしろがって一向にやめる気配がない。


本来、そんな神様との接点などなさそうなものだが、どういう訳か記憶を失う前の俺はこの神様と結構親しかったらしい。しかも、その辺は色々複雑な事情があるのだそうで、詳しくは教えてもらっていない。

ちなみに、望観は霊能力だとか、そういう類の力がある人間しか見ることが出来ない。つまり、俺や流音にも何かしらの力があるらしい。

病院の先生や看護師の方々には見えなかったことから、俺たちに力があるのは間違いない。


暫くそうして二人と話していると、不思議な感覚が胸の奥から込み上げてくる。懐かしいような、苦しいような、嬉しいような、切ないような。

まあ、嫌な気分ではない。


「やっぱり、心は覚えているのかな」


「何が?」


首を傾げて、望観が不思議そうな視線を向けてくる。


「なんか望観や流音と話してると、心が温かくなるっていうか、すごい楽しいんだよな。俺にとって、すごい大切な存在だったんだんだろうな、と思ってさ。いや、今も大切だとは思ってるけどな」


「ほほう、愛の告白ですかな?」


「何でそうなる!?」


にやりと笑う流音に思わず突っ込んでしまった。俺がこういう発言をする度に冷やかされるものだから、もう慣れているとはいえ、恥ずかしさは拭えない。言わなければいい話なのだろうが、つい口から出てしまう。

何でこんな台詞が言えるのだろう。本当の俺っていったい・・・


それはともかく、そんな感じで時間が過ぎ、小一時間ほど経過しただろうか。

不意に、望観がきょろきょろと周囲を気にし始めた。すると何かに気付いたような表情をして、罰が悪そうに言った。


「ごめん。そろそろ帰る。黒兎、流音、またね」


「ちょ、望観?」


望観は身体に霞がかかったように白んでいき、やがて完全に空気の中に溶けていった。


「なんだったんだ?今の」


「・・・さあ?」


流音も分からないと首を横に振る。


望観が気にしていた方を見てみると、ドアが少しだけ開いていた。


「誰かいるんですか?」


何の反応もない。気のせいか・・・

そう思ったが、暫しするとドアが勢いよく開かれた。


「あはは、どーもクロちゃん元気?」


「元気だよ、多分。あとクロちゃんゆーな」


俺をクロちゃんと呼ぶ長い茶髪を一つに纏めてポニーテールにし、血を思わせる紅い瞳をもつこの少女は空菜あきなさん。

この病室を訪れる残りの一人だ。

空菜さんは俺の幼馴染だそうで、よくお見舞いに来てくれる。いつも顔色が悪そうにしているので、体調でも悪いのかと聞けば、本人は元気だと主張する。確かに素振りからは不調な様子は感じ取れない。奇妙なこともあるものだ。

も一つ奇妙なことに、空菜さんとは気兼ねなく普通の口調で話せるのに、何故か呼び名だけ他人行儀になる。なんでだろ。


「えーと、さっきまで望観来てた?」


「あぁ、入れ違いだったかな。何か用でも?」


「ううん。なんでもない」


空菜さんと二人で話していると、流音は途中で帰宅した。具合が悪くなってきたらしい。空菜さんは結局そのまま夕方まで病室にいた。

帰り際、何か呟いていたようだが、よく聞き取れなかった。


「・・・・・・・・・やっぱり、クロちゃんは望観あのこを選ぶんだね」




その夜、俺は妙な寝苦しさで目が覚めた。

寝苦しいというよりも、嫌な不快感というべきか。別段、何か夢を見ていたわけでもない。


ふと、窓際に誰かが立っているのに気がついた。

普通、この時間に誰かがいるなどありえない。いるとして夜勤の看護師くらいのものだろうが、それとも違う。

嫌な汗が頬を伝う。


「・・・・・・誰だ」


「・・・・・・・・・・・・クロちゃん」


「・・・空菜、さん?」


なんだ空菜さんか。などと安堵の息を吐けるほど俺が暢気であればどれだけ良かったか。

さっきから不快な悪寒が纏わりついて離れない。

ベッドから下り、松葉杖をついて空菜さんの正面に出る。背には出口。

なんとなく、ベッドに寝ているままだと拙い気がした。


「空菜さん?」


もう一度呼びかけるが反応がない。

そもそも、彼女は本当に空菜さんなのだろうか。さっきは気が動転していて声が良く分からなかった。呼び方だけで判断するのは軽率かもしれない。

そう思っていると、月明かりが部屋を照らした。

そこにいるのは、確かに空菜さんだった。

ただし・・・


「空、菜さ、ん?」


その手には鈍く光る得物が握られていた。


「空菜・・・さん、か。ふふ、ふふふふ」


空菜さんの表情は俯いているのでよく見えない。不気味な笑い声だけが、薄暗い部屋によく響く。


「ねえ、クロちゃん。どうして?」


「え?」


「どうして、あの子なの?どうして私じゃ駄目なの?・・・ねえ、どうして!?」


「空菜さん?」


明らかに様子がおかしい。よたよたとふら付きながら、徐々に迫ってくる。


「七年前も、帰ってきてからも!いつも、いつもいつもいつも!!あの子ばっかり!クロちゃんはあの子ばっかり見てた!!私だって、私だってクロちゃんのことずっと見てたのに!あの子よりずっと傍でずっと一緒だったのに!!何で、何で私じゃ駄目なの!?何で私のことを見てくれないの!?今度はって思ったのに!?記憶を失った今ならって思った!!でも、クロちゃんはまたあの子を選んだ!?」


何を、言っている。

混乱した頭ではうまく思考できない。


「・・・・・・・・・・私ね、クロちゃん。分かったんだ」


空菜さんの瞳には、光が宿っていなかった。


「クロちゃんが私を見てくれないなら、私だけを見てくれるようにすればいいんだって・・・名案でしょ?」


瞳に宿るのは、狂気。


「でもね、あの子をどうにかしようと思ったけど、駄目。あの子、壊してもまた生き返るんですもの。七年前に殺したあの時みたいに。どんな方法で殺しても、あの子は甦る・・・あの子は、化物かみさまだから」


恐怖で、脚が竦む。寒気と震えが止まらない。


「・・・・・・だからね、クロちゃんを、私のモノにすればいいんだって・・・思ったの。で、も、ね・・・余所見するクロちゃんなんかいらない。クロちゃんは、私だけを見ていればいいの。私は、クロちゃんが欲しい。私だけの、私だけを見てあいしてくれるクロちゃんが」


背筋が凍る、底冷えするような声で、彼女は告げた。


「だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死んで?」


「・・・か、っぁ?」


腹部に冷たい感触と、鈍い痛みが奔る。


瞬間、俺の中を膨大な情報を駆け巡った。

七年前、約束、誓い、丘、祠、病気、霊力、引越し、妹、両親、事故、地震、帰郷、思い出。

様々な記憶が、脳裏に甦ってくる。


「・・・・・・・・空、菜」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


「・・・・・・空菜、お前」


「え?空菜って、まさか、クロちゃん・・・記憶、が?」


俺は静かに頷いた。

失っていた全ての記憶を取り戻した。七年前のこと、俺のこと、望観のこと、流音のこと、空菜のこと。

先ほどまでは混乱していた頭も、今は気味が悪いくらいにすっきりしている。こんな状況にも関わらず、酷く冷静な自分に驚く。

だが、お陰で空菜がこんなことをした理由にも、ある程度予想がつく。


「空菜・・・お前は、あく」


「ち、がう。い、やぁ、いやイヤいやイヤイヤイヤイヤァぁぁァ!!!!!」


「空、菜?」


「違う。違うの。私じゃない。駄目、私、私が、クロちゃん!嫌イヤイヤ嫌嫌嫌、違う、嫌、違う、嫌嫌嫌イヤイヤぁ!!私、ワタシ、ぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?」


「・・・・・・・・・・あ、きな?」


空菜が、絶叫と共に融けた。

みるみるうちに形が崩れ、空菜だったものは今やその原型すら留めないほどに融解している。皮膚は既になく、中の紅いゲル状の物体が覗いている。例えるなら紅いアメーバだろうか。

その空菜だったモノはそんな姿になりながらも近づいてくる。


「・・・・・・・く、ろ・・・ちゃ」


どこから声を出したのか、その物体は最後の言葉を言い終える前に完全に液体になってしまった。

それは、赤い血溜まりのようだった。


「う、そ・・・だろ?何だってんだよ、いったい」


今度こそ、何がどうなってるのか、まったく分からない。何だってこんなことになった?

死んだ?空菜が?どうして?

っていうか・・・痛え。


「そっか、俺、刺されて」


意識すると、急に痛み出した。燃えるような痛みが思考を邪魔する。


その時だった。


「黒兎!?」


突然、虚空から望観が出現した。何でもありか、今夜は。


「望観、何で?」


「嫌な予感がした。えっと、虫の知らせ」


そりゃなんとも、都合のいい。

そういえば、望観ってこういう直感って強かったっけ。じゃんけんとかで勝ったためしなかったっけな。

と、思考がズレた。


「!黒兎、ソレ!?」


「あ?あぁ、刺された」


「待って、出血を止めるから、コレで少しは持つはず」


望観が患部に手をかざすと淡い光が発せられた。ゆっくりとナイフを引き抜いても血は噴出さず、痛みもなかった。


「黒兎、いったい誰に」


「・・・・・・・・・空菜だ」


さっきの光景が脳裏から離れない。アレはいったいなんだったのか。本当に、空菜だったのだろうか。


「!!黒兎、記憶戻ったんだ。でも、そう・・・やっぱり」


「やっぱりってどういう意味だ!?ーぃ痛」


「暴れちゃ駄目だよ黒兎。私の術じゃいつまでも血を止めてられないし、動けば痛いんだよ?」


「・・・わかった。けど、説明してくれ、どういうことだ?」


「ごめん、私も詳しくは知らない。多分、流音のほうが詳しい」


ますます意味が分からない。なんでそこで流音の名前が出てくる。ああ、クソ頭まで痛くなってきやがった。


「・・・とりあえず、先生呼んでくる」


「待て、姿見えないだろうが」


「あー、う~?」


「・・・そっか、そこのナースコール押してくれ」


「おお、分かった」


もしかして、ベッドから降りない方が良かったのか?けどまあ、これでなんとかなるか。




あれから数日後、流音から聞いた真実は驚くべきものだった。


「まさか、空菜が六年前に死んでいたなんてな」


そう、空菜は俺が引っ越した翌年、とある丘で転落事故に遭い亡くなっていた。それが何故動いていたか訪ねると、流音は「錬金術って知ってる?あれの応用。材料はあるんだからそれを再構成すればいいだけ。もちろん生き返るわけじゃない。生きた死人って所かな」と言った。要約すれば、死んだ空菜の体を使って錬金術であの体を作ったということ。その体に魂を繋ぎ止めることで、あれは人間として生活していた。

つまり、あれは死人。半不老不死の存在とのこと。分かりやすく言えばゾンビ。尸解仙と似て非なるモノ。

何故ああなったのかというと、流音曰く、奇跡が起きたという。奇跡という言葉は必ずしもよい意味で使われる訳ではないとこの時初めて思った。まあ、それが良いか悪いかの判断など俺には出来ないが。

空菜は悪魔憑きと呼ばれる存在だった。悪魔憑きとは生まれつきその体内に悪魔、悪霊などを宿し、その存在を浄化するものだ。この悪魔が空菜に力を貸したらしい。悪魔といえど、悪魔憑きに宿るものは消滅願望があるものがほとんどで、悪さはしない。それに悪魔なら錬金術を扱えるものもいる。条件は揃っていた。死の間際、死にたくない、生きたい、もう一度会いたいという強い想いが悪魔に届き、あるいは悪魔を利用して奇跡を起こした。

あの時、空菜が消えたのは、恐らく想いが揺らいだから。あの身体を形成し続けられたのは強い想いがあればこそ。それが崩れた瞬間、身体も崩れ去ったのだろうとのこと。

望観が気付けなかったのは、悪魔が望観に暗示をかけていたかららしい。

何で流音がそんなことを知っているのかと訪ねたら「私にだって、秘密くらいあるよ。お兄ちゃん」と返された。その後に黙っていたことについて謝られた。

まあ、黙っていたことは別に怒ってなどいなかったし、仕方なかったと思う。けど、最後に強い疑問が残った。

流音が語ったことが真実かは分からないけれど、今はそういうことにしておこうと思う。




真実を知ったその日の夜のことだ。

気がつくと、俺は自宅の中にいた。俺の家だ間違いようもない。

違うところがあるとすれば、一面が血の海であるということだけ。


「っ・・・・!」


声が出ない。

その部屋の中に、ナニか動いているものがあった。


「は、はははなんで喋っちゃうのかな?悪い子だ、あぁワルイコだ!!」


人影が何かを切りつけている。多分、人くらいの大きさの何かを。


暫くそうしていると、何かがゴトリと落ちた。


「あぁ、可愛いなあ。こんなになっても、なんて可愛いの」


人影は何かを抱いているようだ。


「フフ、ハハハッハアアハハハ!!!」


ヤバイ、これは、駄目だ。

あまりの光景に脳がフリーズしていた。

ありえない。こんな光景はありえない。

そう、コレは夢だ夢に違いない。

起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ・・・


「っはあ、はぁ、はあ・・・夢か」


飛び起きて、周囲を伺うと、そこは病室だった。

いつもと変わらない、日常の風景。


「ったく、なんて悪夢だ」


目を閉じ深呼吸をして、気分を落ち着ける。が、何か違和感がある。

ふと前を見ると、そこに悪魔がいた。

やけに豊満な肉体に紫のドレスを着た紫銀の綺麗な髪を持つ美女。おまけに背から蝙蝠の羽のようなものが生えている。

その悪魔は俺の手を引き、どこかへ連れて行こうとしているようだが、身体が動かない。それにしきりに口を動かして何かを伝えようとしてるようだが、声が聞こえない。

不思議と、その悪魔からは恐怖を感じなかった。むしろ、何故か知っているような気がした。彼女とずっと過ごしていたような、そんな錯覚さえ覚える。

暫くすると、すうっと壁から無数の白い手が現れて、悪魔を壁の中に引き込んでいった。その際も、彼女は何かを伝えようと必死に口を動かしていた。


「っはあ、はぁ、はあ・・・痛っ・・・」


今度は頬を抓って確かめる。どうやら今度こそ現実らしい。

あれは、なんだったのか。あの夢の中の夢は。そして、彼女は何を伝えたかったのか。

その後、何度か同じ夢を見たが、一度も声を聞くことは出来なかった。





それから約一ヵ月後、何事もなくリハビリを終え、退院の日を迎えた。

あれ以来、望観とも、流音とも一度も顔を合わせていない。


「ってか、暑ィ」


これを残暑というのだろうか。夏も終わりだというのに、容赦なく太陽が照りつける。

断末魔の叫びのような蝉の声が痛いほどに鼓膜を叩く。これが最後とばかりに鳴いているのだろうか。ああ、忌々しい。


「・・・着いた」


ようやく家にたどり着いた。何ヶ月かぶりの家に懐かしさがこみ上げる。


ドアを開けようとすると、勝手にドアが開いた。


「お帰りなさい・・・お兄ちゃん」


ドアの向こうにいたのは、流音、だった。その、筈だった。

だが、何かが違う。俺の感が告げる。コレはチガウと。


「どうしたの、お兄ちゃん?」


すっと細められたその双眸の色は、紅。


その意味を悟った瞬間、身体が動かなくなった。

そして同時に、あの夢の彼女の姿が脳裏をよぎった。彼女が伝えたかった言葉が、ようやく分かった。

それは・・・




『逃げて』




「さ、お兄ちゃん」


俺は誘われるままに家に入り・・・


「ふふ、今度こそ・・・」


扉が閉められる刹那、あれほど五月蝿く鳴いていた蝉の音が、止んだ。

恐らく、その蝉が再び音色を響かすことはない。

もう、二度と。

設定詰め込みすぎてわけわからん。ごめんなさい。

これ、本当はこれから書く予定の恋愛モノのラストあたりをホラー風味に変えたものなんです。まあ、バッドエンドって感じですね。

で、文字制限とかあって描写とかもっと詳しく書きたかったのですが断念。いまいちな出来となってしまいました。まあ、描写書いても作者の実力じゃ大差ないですけどね。

この作品については読んでもらったとおり、どこにでもよくある話です。記憶喪失とか。

それでもってヤンデレな子が色々殺っちゃった、てなことです。

一応本編ではヒロインも違いますし、IFとしてこのヤンデレバッドエンドなラストも書く予定です。多少ネタバレってか一部分かっちゃってるんですが、そっちも読んでいただけると幸いです。いつになるかは分かりませんけど。忘れた頃に書くと思います。

では、これにて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小説を拝見させて頂きました。 これまたヤンデレてますね。 だが、いまいちホラーが伝わって来ない。
[一言] 初めまして。 拝見させていただきました。 確かに、ホラーというよりは恋愛要素が強かったように思います。 けれど、個人的に見えない何かとかよりも、人の情念のようなものの方が怖いと感じるので、恋…
[一言] 主人公の名前に凝るよりも、お話の作り方に凝ってください。
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