でしゃばるな!
「ローズに行った非道の数々、もう言い逃れさせない!!
エリザベス・ホーンエイム公爵令嬢!
貴様との婚約は今ここで破棄させてもらおう!!!」
「ちっがぁぁぁぁあああうっ!!!!」
アウグスト第一王子の決め場を打ち消す大声に断罪劇が繰り広げられていた学園中央広場は静まり返った。
ローズマリー・ダムライン侯爵令嬢が聖女として覚醒したのは、学園に入学してすぐだった。
王都中が、いや国中がローズマリー侯爵令嬢を讃え正にお祭り騒ぎになった。
200年振りの聖女降臨。
聖女のいる時代に生きている幸運を誰もが祝い合った。
しかし覚醒したといっても聖女として完璧に力を奮えるワケではなかった。
そこで過去の聖女が乗り越えたという試練に挑むよう教会は提案した。
聖女単体で挑む試練もあればパーティを組んで乗り越える試練もある。
司令塔兼遊撃の第一王子、タンク兼近接アタッカーの騎士団長の息子、魔法攻撃兼知識担当の宰相の息子、スカウト兼後衛のサポート役の一流冒険者夫婦の息子、サポーター兼荷物持ちの大商会の息子、回復兼バフの聖女。
錚々たるメンバーで過去の聖女の偉業を現代に甦らせていく学生達の奮闘は正に英雄譚とも呼べるもので、誰もが彼女達を讃えた。一部を除いて。
パーティメンバーの近くにいながら脇役にもさせてもらえない者達が、同じ学園の生徒達だ。
彼女達の紡ぐ物語に登場させてもらえず、ただ近くで見ているだけ。
どんな好成績を取ろうと何をしようと評価はされない。
英雄御一行を褒め称えるのに都中、親や教員も忙しいからだ。
そして1番惨めな思いをしたのは、パーティメンバーの婚約者達だった。
婚約者を支えようとして煙たがられて、婚約者達は覚悟を決めた。
物が失くなる、変な噂が流れる、頻繁にぶつかる、聞こえてくる陰口。
聖女は全てに耐えながら試練に挑む。
その健気な姿にパーティメンバー達は遂に立ち上がった。
調べるまでもなく自分達の婚約者達だろうと当たりを付けて。
自分達の紡ぐ物語から退場してもらおうと待ち構えて。
自らの婚約者達にせめて自分達から引導を渡してやろうと。
そして聖女と英雄のラブロマンスは、佳境を迎える。
アウグストは自分の魅せ場を大声により壊されて対応に困った。
だって叫んだ令嬢は婚約者達ではなかったから。
横から無関係と思われる令嬢に叫ばれて何が違うのかも分からず「なんだ君は!」と普通の反応をしてしまう。
「貴方達は何か勘違いしているのではないでしょうか?」
責める口調で近付いてくる令嬢にパーティメンバー達は動かない。
パーティを組んでからずっと叱咤激励はあっても責められるという事がなかったために対応が遅れ、周りも動かない様子を見てとりあえず令嬢の出方を伺う方針をとった。
「まずはここに至るまでの貴方達の立場を確認してみましょうか?
聖女様。民を癒し護る奇跡を起こす女神様の代弁者様。
前の聖女様はまだ戦乱の爪痕が残る時代に現れて傷付いた民の心と土地を癒してまわった伝説の女性ですわね。
何故平和な今の世に聖女様が現れたのかは分かりません。
分からないからこそ何が起きても良いように聖女様の力を充分に発揮できる実力と環境を整えようと伝説になぞられた試練を乗り越えていただく。
教会の求心力が高まりすぎるのを危惧した王国は聖女様が侯爵家の令嬢というのを盾に周りを高位貴族で固めました。
王子のいる世代に聖女様が現れてとても好都合でしたね。」
堂々と語るその令嬢の声をその場にいる全員が聞き入る。
その内容は頷けるもので、貴族達の共通認識の再確認でもあった。
王子のいる世代。
王様が「子作りしますよ」と通達して貴族達が皆同年代の子供を狙い子作りをした世代。
狙いは大当たりしまくり高位貴族の子供達は第一王子と共に学園に通い共に青春を謳歌すると思っていた。
聖女様が現れるまでは。
「そして、パーティメンバーの皆様。聖女様を護り支え共に歩む方々。
全員婚約者が既にいる為に決して明言されませんでしたが、王国としては聖女様とのラブロマンスを期待しての選出でした。
聖女様が活躍すればするほど教会は力を持つことでしょう。
だからこそ聖女様であると同時に貴族であると主張する為に高位貴族令息との婚姻は必須といえます。
これはパーティメンバーが選出されたと同時に裏で婚約者様達にもその実家にも説明はされて納得を得ています。
『苦難を共に乗り越えて育まれる愛』なんて皆様大好物でしょう?
今までの聖女様達の行動は記録されて物語を作成中ですし劇になるのも決定しています。」
確かに明言されていなかったが聖女もパーティメンバーも察していた。
だからこそ学園内でも固まって行動して好き勝手な青春を謳歌していたのだ。
「私は聖女様と英雄達が紡ぐ物語の学園編をサポート・記録する者の1人です。
明日にはいなくなるので自己紹介は省きますね。
…そして、ここまで私が暴走しても止めが入らないということは、そういうことなのでしょう。続けますね。」
サポート・記録をする者がガッツリ物語の中心人物と絡んでいるのはアウトだろうに、他にもいるであろうサポート役が彼女を止めない。
それは現場判断なのだろうかどうかは分からないけれど彼女の行動は容認されたと言って良い状況だった。
いつの間にか婚約者達はどこからか出てきた椅子に座り囲むテーブルにはお菓子とお茶がセットされており余興を楽しむお茶会のような雰囲気だ。
聖女は日傘が羨ましい。
パーティメンバーは混乱した!
「さてさて、『民を癒す』聖女様。
貴女に何が期待されていると思いますか?」
「日傘だけでも…え?何?何が?」
「そう!『特に何も』です!
古傷を癒せるワケでもない!病は癒せない!土地を癒すって具体的にどういう事?そんな戦場の最前線でしか活躍出来ないような、戦局を動かすほど強力とは言い難い能力、正直言って持て余します。
ですが傷を癒し力を漲らせる聖女様の魔法は唯一無二。独占しようとすればこの国が他国より顰蹙を買うのは火を見るより明らかです。
試練だ何だと理由を付けて他国の戦士達の傷を癒す事で何とかバランスを保っている状況です。
まぁこの国が魔物の巣窟たる『魔の森』に接していて防波堤の役割をこなしているからこそその程度で大国の干渉を抑えていられるのもありますが。」
多数対多数の戦争において勝敗を左右しないだろう魔法。
欠損も古傷も癒せない、少数精鋭の後ろが最適解であろうと結論付けられた。
試練と称して癒された戦士の中には人体実験として使われた人もいた。
古傷を新しい傷で上書きすればどうなるのか。
古傷はどれだけ遡れば古傷と判断されるのか。
その他色々『聖女の魔法』を実験・記録されている。
それも今は平和な世の中だからだ。
どの国も政治的にある程度安定していて武力を同じ人に向けずに済んでいる。
『魔物』という人類共通の敵がいるのも戦争が起きない理由だ。
血を流しすぎれば魔物を呼ぶ。
魔の森も大昔の人と魔物の大戦後の結果だという学者もいるほどだ。
植物系の魔物も多数存在する魔の領域。きっぱりと否定する学者はいない。
聖女が国同士で取り合いにならないのは、この国が魔の森に接しているから。
聖女が生まれた国が1番聖女を有効活用出来る国だったから。
その国から取り上げて他国から顰蹙を買うリスクを犯すほど高い価値を聖女に見出せなかったから。
「個人に支えられる平和にどれほどの価値があるのでしょう?
聖女とは『特別』ではあれど『唯一』には絶対にしてはいけない存在なのです。
そもそも聖女様がいない時代の方が圧倒的に長いのです。
国としてのシステムに加える方が混乱を招きます。」
パーティメンバーは乱入者の言葉を噛み締めるように自身に染み込ませるように聴き入っていた。
婚約者達と日傘に入りたい聖女様との壮絶な舌戦が繰り広げられていた。
婚約者達は聖女を仲間に入れたくない。
聖女様は話が長くなると思いなんとか影に入るだけでもしたい。
静かな、しかし壮絶な攻防戦だ。
「さて、長々と確認させていただいたのは国から見た聖女様の立ち位置です。
政治に絡まない程度に好き勝手が許されている理由でもありますね。
物語として後世に残す為に、青春・苦難・日常・ラブロマンスを謳歌して頂こうと。
そして貴方達は自分達以外に主な登場人物を登場させませんでした。
いつだってパーティメンバーで固まりワイワイキャイキャイと楽しそうにしていましたね。
記録係として、とても駄作になる予感しかないモノを記録し続けるのは苦痛でした。」
婚約者達の防衛ラインを突破出来なかった聖女様はトボトボとパーティメンバーの元に帰り大商会の息子に日傘を強請った。
大商会の息子は記録係令嬢の話を聞くのに忙しくて「あとでね」としか返事をしない。
聖女様は1番体格の良い騎士団長の息子の制服の上着を剥ぎ取り被った。
婚約者達はその姿を見て満足そうに笑っている。
「そこで覚悟を決められたのが婚約者様達です。
自らが悪役となってでも登場人物になろうとなさりました。
記録に家名を記さない事を条件に当主様や陛下に許可を取って、です。
苦難があれば、乗り越える過程で他の人を頼るかもしれない。
頼らない可能性もありますが、少なくとも『悪役』という登場人物は増えると。
それでも貴方達は変わらずパーティメンバーだけでワイワイコソコソとしていましたね。」
パーティメンバーは気まずそうに目を逸らす。
聖女は制服の上着が汗臭すぎて制服を地面に叩きつけていた。
婚約者達は少しやりすぎたかもと目を合わせる。
「そして今回の安い芝居でももう見ないかのような断罪劇ですよ。
証拠集めも事前に誰かに相談することもせずバカみたいに…。
『自分達は特別だから許される』とでも思いました?
限度ってのがあるんですよ。
自由にしていいのには理由があって範囲も決まっています。
いい加減に『物語の中の自分』に酔いすぎて痛々しいんですよ貴方達。」
「痛々しい」と言われて周りを見渡すとなるほど、皆が皆自分達を痛々しい奴を見る目でコチラを見つめていた。
パーティメンバーは穴があったら入りたい気分だ。
聖女様は婚約者達に手招きされて小走りで近付いて嬉々としてお茶会に参加している。
「そもそも聖女様に対する嫌がらせが本当だったとして、女性同士の戦いに男性が介入して良い結果になるワケがないと何故考えないのですか?
『聖女様の悩みをスマートに解決する俺カッケ〜』ですか?
いやいや、ちゃんと客観的に見て本当にカッコ良いと思います?
周りからの視線にあそこまで気付けないのはある意味凄いですよ。
本当に痛々しいですね。気持ち悪い。」
パーティメンバーは膝から崩れ落ちてうずくまった。
言葉の刃に貫かれて恥ずかしいやら自身が情けないやら色々な感情と葛藤してもう現実から逃げ出したい。
聖女様はうずくまるパーティメンバーを見て「あら、回復魔法が必要かしら」と一瞬思ったが目の前のお茶会の方を優先して見ていないフリをした。
婚約者達は失くした物は大切な物の可能性を考えて保存してあると聖女様に伝えて一応の和解が成立した。
正直この先どうなろうと婚約者達はパーティメンバーと一緒になる気はない。
「こんな情けなくもくだらないシーンは物語に載らないと思いますが聖女様の記録の1部なので、貴方達の黒歴史も国の正式な記録として後世に残り続けることでしょうね。
そもそも聖女様は控えめながら周りとの交流を提言したりこの断罪劇も否定的だったらしいじゃないですか。
え〜っと?『俺達が側にいれば充分だろ』?『罪には罰だ!大切な人の笑顔が曇るのを見過ごさない』?
ハッ、カッコイイデスネー、パチパチパチ。」
パーティメンバーは穴を掘り始めた。
聖女様はこれからパーティメンバーの暴走がなくなるかもとホッとした笑顔を浮かべた。
婚約者達は聖女様も実は苦労していたと知り「何があっても味方ですわ!」と気合いを入れた。
後世、聖女様がいた時代の事は特に語り継がれるような苦難も偉業もなく平和な世であったとされ民の間で語られたのは短期間であった。
しかしながら貴族間ではとてもとても大事な話としてずっと語られることとなる。
『どれだけ立派な血筋であろうが、どれだけ素晴らしい資質を持とうが、環境により愚か者は生まれる』と。
正に黒歴史




