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Episode 926 「待ってて、今行く」

脚本: 隅沢克之


登場人物:

アイル(14)(快活な女の子)

ポチマル(ミルの基幹パーツ(ゼロワンAI))

イズミフ(10)(ソシウス量子工学博士)

MIRU (MNO-1000型ソシウス)

アイラ博士(40)(アイルの母親 植物学者・自然環境科学博士)

〇 荒涼たる平原


 遠くに傾いた塔のような巨大人工建築物が霞の中に見えている。吹き荒ぶ風の中にある枯れた植物。そんな草木のない荒野がどこまでも続く。


 とある場所に二階建て古民家があり、玄関前の庭にある花壇の前で白衣の女性──植物学者アイラ(40)が立っている。 背後の古民家に向け優しく声をかける。


アイラ「アイル、アイルちゃ─ん……」


幼い女の子の声「はーい、待ってて、今行く!」


 飛び出してくる娘のアイル(5)。


幼いアイル「うぅ寒い……寒いよ、お母さん」


アイラは、幼いアイルの耳にイヤーマフをかけてあげるが大きくてズレてしまう。


アイラ「アイル、手伝ってくれる?」


 うんと頷く幼いアイル。


アイラ「これを撒いてほしいの……」


 黄金色に光る砂を渡される。二人は花壇にキラキラと輝く砂を撒いていく。


幼いアイルの声「キレイ……なんなの、これ?」


アイラの声「これはね……枯れてしまった大地を甦らせる魔法の砂よ」

  

 アイラ、深い溜息と共に、


アイラ「やっと完成したわ……こんな冷え切ってしまった地球でも、この砂をあちこちに撒いていけばお花が育つはずなのよ」


幼いアイル「ふーん」


アイラ「この魔法の砂の中にはいろんな微生物の生命が宿っていて、土や植物のエネルギーの元になるのよ」


幼いアイル「お花って、土から出てくるの?」


アイラ「そうだったわね、アイルちゃんは本物のお花を見たことがなかったわね」


幼いアイル「うん……」


アイラ「絵本や図鑑と違って、本物のお花は本当にキレイなのよ」


幼いアイル「(瞳キラキラ)キレイなんだ」


アイラ「今すぐはムズかしいけどね、遠い未来のいつの日か、地球全部がお花畑になっていくのよ、素敵でしょう?」


幼いアイル「すてき、すてき! お花大好き!お母さんのお花畑! みてみた──い!!」


〇 メインタイトル


 サブタイトル──『待ってて、今行く』


〇 山間にある小さな湖──雪降る夜


 闇の中を落ちていく白い雪。凍っている湖面に犬型AIポチマルが、レーザー光線で小さな穴を開けていく。その傍らには、ぶかぶかのパイロットジャンパーを着て、ショートカットにイヤーマフした快活な少女──アイルがガタガタ震えている。


アイル「ポチマルくん、早く……早く戻ってきて♪」


 ポチマル、フワフワと浮遊し、アイルの胸の中に滑り込む。


アイル「(ホッとして)ふぅ、あったか~い♪」


   ×    ×    ×


 湖の穴に釣り糸を垂れてフィッシングをするアイル。


   ×    ×    ×(時間経過)


 湖畔で鼻歌を歌いつつ、ぐつぐつと煮立つ鍋に小さな魚と木の実と葉をいれるアイル。その傍らでポチマルはスコップのようなシッポを使って、かまくらを作っている。


アイル「あ、ポチマルくん、カバンから塩とって」


 ポチマル、振り向く途端に危険を察知、


ポチマル『(気を付けて!と点滅表示)』


アイル「どうしたの?」


 その時、パキパキと湖面に小さな亀裂。と、震度4ぐらいの揺れが起きる。


アイル「あ、地震を教えてくれたんだ。最近、多いよね。建物がなくてよかったぁ」


ポチマルは火山爆発予知の様々な波形や数値を表示するがまったくの意味不明。


アイル「ポチマルくん、キミの言ってることだいたい判るんだけど、それだけは判んないんだよねぇ、それって、なんなの?」


 しかし、ポチマルは無反応。


アイル「ん? なんで無視するのよ……って、ああ、バッテリー切れかぁ……」


『empty』表示のポチマル。コテンと横に倒れる。


   ×    ×    ×(時間経過)


 かまくらの中から優しいランプの灯りが漏れてくる。充電されて眠っているようなポチマル。


アイル「今ごろ、どんな夢を見てるのかな、ポチマルくんは」


〇 地下研究所


 廃墟のアナクロ設備。イズミフ少年が修理している。回路の通電チェックをモニターで見ているイズミフ。


 エラーが数か所も表示される。苛立ち、机を叩きながら、


イズミフ「ああ、くそっ! やはり無理か。しかし、もう、時間がない……時間が」

  

 壁にある計器群の中心に、ポチマルと同様の火山爆発予知の表示がある。


イズミフ「このままでは地球が滅びてしまう」


〇 雪山の火山口から噴煙がたなびく


──を望む山間の道、麓近くにある苔むした村にやってくるアイルとポチマル。その村には、かつての超高度文明の建築物の先端が突起物となって点在している。


 アイルたちの行く手に花壇の残骸がある。


アイル「あったあった、この街の花壇からは何か出てくるかな」


 ポチマルはスコップを使って、花壇の中から、数個の球根を掘り起こす。ポケットからメモ帳を取りだして調べる。球根とメモ帳を何度も見比べて、


アイル「えーっと、これは多分、チューリップってやつだね……ポチマルくん、ほかにも何かある?」


ポチマル『(NOと点滅表示)』


アイル「そっか、じゃあここにも、お母さんの魔法の砂、かけてこっか」

  

 花壇に袋から出した砂をかけるアイル。


アイル「こうしていると、ポチマルくんと出会った頃を思い出すね」


ポチマル『(何かしらの反応)』


アイル「そうだよ……だって、わたし、ポチマルくんのおかげで頑張れてるんだもん」

  

 手帳にあるお花の絵を眺めながら、


アイル「いくらお母さんに聞いてても、絵とお話だけで、本物のお花なんて、見たことなかったんだから」


〇 回想──母の墓(数カ月前)


 真っ白な霧のような小雨が降っている。古民家は更に古びて今にも壊れそう。アイル、イヤーマフをとって墓石に祈る。


 顔は濡れていて、雨なのか涙なのかは分からない。


アイル「お母さん、私、行くね」

  

 背後の花壇の上には掘り起こした球根が十個ほど転がっている。


アイル「この球根、別のとこで育ててみる」

  

 ポケットからメモ帳を取りだし、


アイル「えーとこれはースイセン? ムスカリかな? それともチューリップ?」

  

 金色に光る土が入った袋に語り掛ける。


アイル「……ごめん、お母さん……」


アイラの声「遠い未来のいつの日か地球全部がお花畑になっていくのよ、素敵でしょう?」

  

 アイル、深い溜息をついて、


アイル「もう何年もお母さんの魔法の砂を撒いてきたけど、植物はひとつも育ってこなかった……」

  

 土を撫でながら、


アイル「お母さんが思ってた以上に、地球は弱り切っていたんだよ……ここにはお花畑はできないかも……」

  

 メモ帳を閉じると、アイルの足元にポチマルがじっと見上げていた。


アイル「うわっ、なに、キミっ!?」


ポチマル『(気をつけてという点滅表示)』

  

 と、そこに大きな地震。


アイル「キャッ、地震!?」

  

 かなり揺れが激しい(震度7ぐらい)。アイルに古民家の二階の柱が倒れてくる。


アイル「キャ────ッ!!」


   ×    ×    ×


 地震で花壇を転がる十個の球根。そのまま土の中に埋まってしまう。


   ×    ×    ×


 建物の柱同士が寄り掛かって出来た隙間に倒れて、気絶しているアイル。


ポチマル『(メモ帳を読んでいる)』

  

 意識を取り戻すアイル。


アイル「ん、うーん……あっ!」

  

 ポチマルからメモ帳を取り上げ、


アイル「キミ、何者?」

  

 グイーンと迫ってくるポチマル。


アイル「わーっ、こないで、こないで!!」

  

 魔法の砂を袋ごと投げつけてしまう。ポチマル、砂をもろに被って、その場でひっくり返る。


アイル「(心配して)あ、ゴメン、大丈夫?」


 ポチマル、表示部をバチバチと点滅させて、パ──ッと映写光線を放つ。


アイル「!?」

  

 桜の花びらが舞い上がるような映像。白い霧をスクリーンにして立体映像の花畑が再現される。抜けるような青空と極彩色のお花畑がどこまでも広がっている。


アイル「(歓喜の瞠目)───!!」

  

 小高い花畑の丘の上にある桜の樹木に満開の花が繁っている。


アイル「これが本物のお花? お母さんが作った砂の力で、大地が蘇ったの?」

  

 風に舞う桜の花びらを手に取ろうとしても掴めない。


アイル「え?」

  

 足元の一輪の花を詰もうとして、初めて立体映像だと理解する。アイル、映写しているポチマルに気付き、


アイル「そうか、キミが見せてくれてたんだ……ありがとう……」

  

 ポチマルの充電表示は赤ひとつ。それでもけなげに映像を投射し続ける。


アイル「すごいすごい……これがお花畑なんだ……ホント、キレイ……」

  

 と突然、映像が消えてしまう。


アイル「え、あ、え?」

  

 コテンと横倒しになったポチマル。充電表示が『empty』。


アイル「電池切れ? 大変!」

  

 手回し式充電器をポチマルに差し込んで、一生懸命グルグルする。充電表示が赤ひとつに戻って復活するポチマル。


アイル「あのキミ、名前は? 砂かけちゃってごめんね。壊れてないよね」


ポチマル『☆※§$%&(乱数表示点滅)』


アイル「壊れちゃったかな──?とりあえずじゃあポチマルくんでいいよね、なんかそんな感じだから」


ポチマル『(何らかの反応)』


アイル「キミって不思議な機械サンだよね……きっと誰かが造ったんだよね」


ポチマル『(何らかの反応)』


アイル「本当の持ち主が現れたらキチンと返さないといけないね……」


ポチマル『(何らかの反応)』


アイル「でも、それまではずっと一緒だよ」


〇 回想戻って


──苔むした村廃墟の突起物をヒョイヒョイと楽しそうに飛び跳ねて歩くアイル。


アイル「昨日のことのようだけど、あれからもう何ヶ月も経ったんだね……」

  

アイルとポチマルは少し広い広場に出てくる。目指す先には、廃墟となった木造建築があり入り口には斜めに傾いた鳥居がある。


アイル「ん……?」

  

 視線の先にいくつも並んだ鳥居と仏閣の山門があり、更にその奥には横倒しになった巨石の仏像がある。


アイル「……大昔のタテモノかな……」

  

 ポチマル、建物の構造を解析して、立体映像で再現して見せる。半壊した鳥居と寺神社が正しい形に戻り、祈りを捧げる場所が判明する。

  



アイル「これって、みんながお祈りしてたって場所?」


 その時、奇妙な音が聞こえてくる。


アイル「ちょっと待ってポチマルくん……」


ポチマル『(キョトンの点滅表示)』


アイル「あの音はなに?」

  

 遠くからガラガッシャン・ガラガッシャンと言う音が近づいてくる。


   ×    ×    ×


 朽ちた鳥居の前に、軽自動車のようなヘンテコマシンがガラガッシャンとパーク。中から出てくるイズミフ少年。


   ×    ×    ×


アイル「隠れて様子を見るわよ……宇宙人かもしれない」


ポチマル『(緊迫の点滅表示)』


   ×    ×    ×


 寺神社に歩いてくるイズミフ。


イズミフ「もはや今のボクには、神仏にすがるしか道はない……」

  

 巨石の前で祈りを捧げる。太い柱の陰から様子を伺うアイルとポチマル。


アイル「(小声で)宇宙人じゃない……ちゃんと地球の言葉しゃべってる」


ポチマル『(ギクギクと点滅表示)』


イズミフ「神よ、仏よ、哀れなボクを救いたまえ……愚かなボクに英知を授けたまえ」


アイルの声「ちょっと! 祈るんだったら、どっちかひとつにした方がいいわよ!」

  

 声に反応して、顔を上げるイズミフ。


イズミフ「(キョロキョロ)……誰だ?どっちだ!? 神か、仏か!?」

  

 巨石の上に立ってイズミフを見下ろしているアイルとポチマル。


アイル「どちらでもないわ! 私はアイル!普通の女の子よ」


イズミフ「なんだ、小娘なんかに用はない」


アイル「こっちが名乗ったんだら、キミも名乗ったらどう?」

  

 しかし、イズミフは、アイルの傍らに浮遊するポチマルに激しく動揺する。


イズミフ「ああああああ!! ゼゼゼゼ、ゼロワン!! 探したんだぞ、ゼロワン──!!」

  

 いきなり巨石の顔を駆け昇って、ポチマルに抱きつき、ギャン泣きする。


イズミフ「オーイオーイオーイ! 歳をとると涙腺がよわくていか──ん!」

  

 吃驚仰天で見ているアイル。


アイル「お母さん以外の人間、初めて見たけど、男の子って、こんなに騒がしいんだ」

  

 イズミフ、泣き止んで、


イズミフ「外見は男の子だけど、ボクは立派な紳士だぞ!」

  

 肩についたホコリをパッパッとはらって、空咳をしてみせる。


イズミフ「コホン! キミが言うなら名乗ってやろう! ボクは、時空跳躍エフェクト量子工学の権威で、若干10才で博士号を取得した天才ドクター、イズミフであーる!」


アイル「(瞳を潤ませ)うんうん、そっか」


 イズミフの頭をナデナデして、


アイル「寂しかったね……迷子なんだろ」


イズミフ「頭、なでんなよ! 子供じゃないんだから!」


アイル「どう見ても子供だよね、ポチマルくん」


ポチマル『(その通りという点滅表示)』


イズミフ「これはポチマルじゃない! これはMNO-1000の基幹AIで、ゼロワンというパーツだ!!」


アイル「ポチマルくんを『これ』とか『パーツ』とか呼ばないで! 失礼でしょ!?」


イズミフ「失礼じゃないよ! ゼロワンはボクのものだ! コイツを作ったのはボクなんだから!!」


アイル「じゃあ、キミがポチマルくんのお父さんなの!?」


イズミフ「お父さん? そうだよ、お父さんだよ! この時代に墜落してからずっと、このゼロワンを探し続けていたんだ……」


アイル「コラッ、イズミフ!!」


 いきなり怒られビックリするイズミフ。


イズミフ「は、はい」


アイル「今言った事は本当? ポチマルくんはキミが造ったロボットなの?」


イズミフ「はい、そうです、ボク嘘は言いません。ロボットというか、MNO-1000のゼロワンというAIなんですけど」


アイル「だったらポチマルくんを返してあげてもいいけど、二度と『これ』とか『もの』みたいに言ったりしないのよ!」


イズミフ「でも、ゼロワンはMNO-1000の単なるパーツだし…」


アイル「(睨んで)判った!? 絶対、モノ扱いしないのよ!!」

  

 イズミフ、アイルの迫力に圧されて、


イズミフ「(直立で)わっかりました……」


アイル「じゃあ大切にしてあげて」

  

 クルッと背を向けて走り去っていく。


アイル「(涙声)元気でね、ポチマルくん!」

  

 呆然と見送るイズミフ。


ポチマル『(あ、あ、あ!と点滅表示)』


   ×    ×    ×


──苔むした突起物の森の中。泣きながら走っていくアイル。


アイル「よかったね、ポチマルくん!やっと本当の持ち主に会えたじゃない! 私は大丈夫! 淋しくなんかないから! 一人でもお花畑、やっていけるから!! 幸せになるのよポチマルくん!!」


   ×    ×    ×


 ピカピカと過剰反応するポチマル。


ポチマル『(ビカビカと涙の点滅表示)』

  

 激しく抵抗してイズミフの腕から離脱し、一気に浮遊飛行速度を加速する。


イズミフ「あ、どうしたんだ、ゼロワン、くん? どこへ行く、いや、行こうと言うのですか?」

  

 言い淀んでいる間に、ポチマルは遥か遠くまで逃げていく。


イズミフ「おいこら、待て─ッ! いえ、あの、待ってくださ──い」


   ×    ×    ×


 寺神社境内を出たところで大号泣しているアイル。


アイル「ア───ンア─────ンッ!!」

  

 そこへ飛来するポチマル。


ポチマル「────(点滅表示)」


アイル「──ポチマルくん!」

  

 涙を拭いて、心から嬉しいのだが、


アイル「駄目じゃないの! どうせ逃げてきたんでしょ!?」


ポチマル『(アイルがいい、と点滅表示)』


アイル「キミと遊んでいるヒマはないの!!」


ポチマル『(アイルがいい、と点滅表示)』


アイル「イズミフがキミのお父さんなのよ」


ポチマル『(アイルがいい、と点滅表示)』


アイル「私だって一緒に居たいけど!!」


ポチマル『(アイルがいい、と点滅表示)』


アイル「もう! このわからず屋!」


ポチマル『(大好きだよ! と点滅表示)』


アイル「私も大好きだよ、ポチマルくん!」

  

 力一杯ポチマルを抱き締める。そこへガラガッシャン・ガラガッシャンという異常音が近づいてくる。ヘンテコマシンに乗ったイズミフがやってくる。


アイル「逃げるわよ、ポチマルくん!」


ポチマル『(OKの点滅表示)』

  

 追ってくるイズミフのヘンテコマシン。


イズミフ「もう敬語やめたぁ─!! 逃がさないぞゼロワーン!! ボクたちがやらなきゃ地球が滅んでしまうんだぞ──!!」


〇 苔むす山道


 コミカルな追いかけっこが開始される。必死に逃げるポチマルとアイル。


アイル「ポチマルくん、いつものやってみる?」


ポチマル『(OKの点滅表示)』

  

 追いかけるイズミフのヘンテコマシン。急カーブを曲がったところで、二人の姿が見えなくなる。


イズミフ「ん? どこへ行った?」


 ヘンテコマシンが真っ直ぐ進むと、それはポチマルが作り出した立体映像で、そのまま崖下へと真っ逆様。


イズミフの声「あ~~れ~~~!!」

  

 岩陰にいたポチマルとアイル。やったね!とハイタッチする。が、さすがにポチマルが『empty』となってしまう。


アイル「頑張ったね、ポチマルくん! 今、充電してあげるから」

  

 手回し式充電器を繋げようとした瞬間、飛行型に変形したヘンテコマシンが戻ってきて、ポチマルを大きな捕虫網の中に入れて飛び去っていく。


イズミフの声「つっかまっえた──!!ヘヘーンだ────!!」


アイル「あ──ポチマルく────ん」


〇 空飛ぶヘンテコマシン


 イズミフ、遠くの雪積った火山と時計型計測器を交互に見て、


イズミフ「あ、いかん……噴火が近い!急いでMNO-1000を起動させないと!」

  

 充電切れで反応が鈍いポチマル。


イズミフ「判っているな、もう無駄な抵抗をするなよ、ゼロワン!」


〇 寺神社の境内


 傾いた鳥居前に着陸するヘンテコマシン。石畳が、スライドして開き、地下通路の入り口となっている。


 ガラガッシャンと地下研究所へと降りていくイズミフのヘンテコマシン。ガコンとスライドして石畳の入り口は閉じてしまう。

  

 しかし、ポチマルが最後の力で発射したスコップが石畳に挟まって、入り口は完全には閉まらない。気付かずそのまま奥へと進むイズミフのヘンテコマシン。


   ×    ×    ×(時間経過)


 アイル、荒い息を吐きながら、ヘトヘトでやってくる。スコップと入り口の隙間に気付いて、


アイル「この中にいるんだ! 待ってて、ポチマルくん!」


〇 薄暗い地下研究室


 ポチマルをミルの顔の内側に装填する。充電器を刺すところで接続されている。様々なデータを読み込むイズミフ。


イズミフ「そうか……あのアイルという女の子は、地球環境科学のアイラ博士のお嬢さんだったのか……それで地球お花畑計画を引き継いでいたのか……」


 モニターの通電チェッカーがオールクリアーとなっている。


イズミフ「よしよし……これで起動するはず」

  

 スイッチを次々とONしていく。


イズミフ「さあ目覚めろ! MNO-1000!!」


 大型スイッチをオンにする。バラバラだったパーツが自動修復装置で集まっていく。恰好いいシルエットが完成する。洗練されたデザインのMNO-1000。


   ×    ×    ×(時間経過)


 沈黙したままのMNO-1000。


イズミフ「動かない……何故、動かない!?」


 怒り心頭でポチマルが組み込まれた顔の部分に怒鳴る。


イズミフ「ゼロワン!! どうして、ボクの言う事を聞かない!?」

 

 沈黙したままのMNO-1000。


イズミフ「なんで、ボクに反抗するんだ!?」


アイルの声「それはあなたが偉そうにしているからよ!!」

  

 ハッとして振り向くイズミフ。颯爽とやってくるアイル。


アイル「ドクター・イズミフ、あなたが博士だということも、ポチマルくんのお父さんだという事も納得してあげるわ! だから今度はあなたが納得する番よ!」


イズミフ「なんの事だ!?」


アイル「ポチマルくんは、決してあなたのものではないということ!!」


イズミフ「ポチマルではない、ゼロワンだ! このゼロワンはMNO-1000の人工知能!造り出したボクの命令は絶対だ!そうなるように設計して、そうなるように製造したんだ!!」


アイル「でも、そうはならなかった! それでいいのよ、ポチマルくん! 誰だって、自分の事は自分で決めていいんだから!!」


イズミフ「では聞こう……キミがやっている地球お花畑計画は母であるアイラ博士の遺志を継いでやっているんだよな?」


アイル「お母さんを知ってるの?」


イズミフ「ボクも遠い未来からの命令を受けて『地球の救済』を目指している。重要な使命を持って目的に邁進するという立場はキミとまったく同じじゃないか!?」


アイル「言っていることのほとんどが判らないけど、たぶん、違うと思うわ……お花畑は私が勝手にしていることだから」


イズミフ「まさか」


アイル「本当です──」


   ×    ×    ×


──フラッシュ・インサート(数カ月前)

  

 臨終の瞬間を待つ母親。


アイルの声「──お母さんは、死んでいく時、私にお花畑を望まなかった」

  

 アイル、母の手を握り、


アイル「お母さん、私、地球をぜんぶお花畑に変えてみせるからね……」


母親「いいのよ、アイル……」


アイル「……?」


母親「あなたは花のことなんて忘れて……好きに生きて……」

  

 アイル、母の手を離して、


アイル「いやよ! 私のことは私が決める! お花畑は、お母さんだけの夢じゃない!」

  

 幸薄く微笑む母親。


母親「いいの……あなたは、あなたの夢を」


アイル「そんなこと言わないで、お願いだから!」

  

母は笑みを浮かべたまま臨終していた。


アイル「うそ、お母さん! お母さん!!」

  

──戻って、アイル、涙を拭って、


アイル「──私は私のしたいことをしているだけ」

  

 MNO-1000──その顔部分にポチマル収納──に語り掛けるアイル。


アイル「だからポチマルくんも自分のしたいことを自分で決めていいのよ!!」


イズミフ「だからそれは無理なんだ! ゼロワンは命令されるから動くんだ! 自分で決めることなどできない!!」


アイル「でも、ポチマルくんは──」


イズミフ「聞いてくれ──ボクはこの時代の人間ではない。未来から来たんだ。この身体も何度か入れ替えていて、現在は10歳の見掛けだが、頭の中身は200歳を越えている」


アイル「うそ……」


イズミフ「この『MNO-1000』も未来で造られた時空跳躍装置で、ボクとこのマシーンには過去の地球を救うという大事な使命があるんだ」

  

──イメージ映像。


 核ミサイルが発射され、地球のほとんどが焼き尽くされる──寒冷化する地球。


イズミフの声「君も知っているように過去にあった核戦争のせいで地球と人類は大きなダメージを負ってしまった」


──戻って、


イズミフ「私たちはその最悪の事態を回避するために未来から送られてきたのだ」


アイル「えっと……その話が本当だとして、なんで戦争の前じゃなくて起こってしまった後にきたんです?」


イズミフ「事故に遭った……時空跳躍の途中、次元流に巻き込まれてこの時代に墜落してしまった」


──イメージ映像


 時空回廊で墜落するMNO-1000。バラバラになったパーツを探し続ける未来人イズミフ。秘密研究所に運び込みMIRUを組み上げていく。


イズミフの声「不時着した衝撃で『MNO-1000』はバラバラになり、この旧時代の研究所で必死に修理をしていた。しかし基幹パーツのゼロワンだけがずっと見つからなかった」

  

──戻って、


イズミフ「まさかキミのような現地人がゼロワンを連れ歩いていたなんて」


アイル「あの~、ポチマルくんのことをゼロワンとか呼ばないでくれます?」


イズミフ「何故、あの時ゼロワンがボクに反抗したのか未だに判らない……」


アイル「だからポチマルくんよ、ゼロワンなんて可愛くないじゃない!」


   ×    ×    ×


 傾いた鳥居が更に傾いていく。石像が小刻みに振動している。


   ×    ×    ×


 アイル、小さな地震をものともせず、


アイル「それに地球さんだって、頑張ってるんだから! 気温だって少しずつ上がってきてるし、生態系も時間かかるけど、そのうち元に戻るってお母さんが言ってたわ!」


イズミ、揺れが大きくなっていく中、


イズミフ「問題は生態系や気温じゃない。火山なんだ! ああ、もう時間がない…!!」


〇 噴煙を上げている火口のある雪山(夕景)


 地響きと共に振動している。


イズミフの声「このままだと、ここら一帯は火山噴火で全滅してしまう」


アイルの声「ここら一帯……?」


イズミフの声「正確な時間は判らないが、歴史の上ではここ数日のうちに噴火は起きる」


〇 薄暗い地下研究所


 アイル、火山爆発予想の計器を見る。


アイル「あれ、ポチマルくんのヤツと一緒だ……火山爆発の予想数値だったんだ」

  

 モニター表示に活発化する火山活動。各所で火山誘発を起こす地球断面図。


イズミフの声「核戦争の影響で地殻変動が発生して、地中のマグマ対流や中心核コアにまで悪影響を与えてしまった」


 環境が悪化した地球──黒と茶色しかない大地に北半球は雪で覆われている。


イズミフの声「今度、大規模な火山が誘発したら噴煙で地球寒冷化は更に進み、すべての生態系が滅んでしまう……」


アイル(モノローグ)「(MIRUを見て)違うよね」


イズミフ「MIRUさえ動けば! 核戦争を回避させることもできるし、生態系も維持され、様々なバタフライエフェクトで、火山噴火のエネルギー抑制も可能になる筈なんだ!」


 無言のままMNO-1000──MIRU。


アイル(モノローグ)「違うよね、ポチマルくん……」


イズミフ「こんな危機的状態なのにゼロワンはボクの命令を拒否している……アイツは地球が滅ぶことを望んでいるのか!?」


アイル「いいえ、イズミフ博士……ポチマルくんは、地球を救うことを望んでいます!そうじゃなかったら、私と一緒に地球をお花畑にしようなんてしないから」


イズミフ「だったら何故?」


アイル「あなたがMNO-1000とかゼロワンとか呼んで、ポチマルくんのことを信じてないからですよ」


イズミフ「(ハッとして言葉を飲む)」


アイル「お互いを信じること、お互いを尊重すること……そんな簡単な事が出来ないのに、地球を救う事なんてできるワケないじゃないですか!?」


イズミフ「(己に言聞かす様に)ゼロワンを信じる……ボクがこのマシーンを尊重する?」


   ×    ×    ×


──フラッシュ・インサート

  

 暗黒の異空間回廊。時空跳躍しているMIRU。MIRUに抱えられているイズミフ。


イズミフ「MNO-1000過去への跳躍を開始しろ! もっとだ、もっと過去だ!! 核戦争が始まる前まで遡るんだ!!」


 バチバチとスパークするMIRU。


イズミフ「この時代に助けたい人間がいるだと? 無視する! 今は全人類を救う事が優先される!」

  

 更にバチバチとスパークするMIRU。


イズミフ「黙れゼロワン! ボクの言う事を聞け!! このままだと地球が滅んでしまうんだぞ!!」


 突然、空中分解するMIRU。パーツと共に墜落していくイズミフ。


イズミフ「(声にならない悲鳴)────!!」


   ×    ×    ×


──戻って、


 イズミフ、フラフラとMIRUに歩み寄り、


イズミフ「たしかにボクはゼロワンを信じていなかった……使命を果たすことばかりに必死で、そんなこと思いもしなかった……」


アイル「気づいてくれましたか?」


 イズミフ、深く頭を垂れて、


イズミフ「すまなかった、ポ、ポチマルくん……どうかボクを許してくれ……」

  

 その時だった。ドーーーン!!という噴火音が響き渡る。


〇 大噴火する雪山


 夜の闇を斬り割く真っ赤な溶岩。


〇 薄暗い地下研究所


 激しい揺れの中、噴火の光景をモニターに映し出すイズミフ。火山から煙と火石流が流れ出している。


イズミフ「噴火が始まったのか?」

  

 激しく揺れ続ける研究所。


イズミフ「まずい、この場所も崩れるぞ!!」

  

 反応するMIRU──レッドアイが点滅表示。機材が倒れ、天井が落ちてくる。


イズミフ「アイル、そっちは危ない!!」


アイル「キャーッ!!」

  

 起動したMIRUの背中からマニュピレータが伸びて、イズミフとアイルをコックピット型カプセルに収納する。


アイル「え? どういうこと?」


イズミフ「MNO-1000が起動している」

  

 反応するMIRU。レッドアイが光る。


イズミフ「助けてくれポチマルくん!この危機を回避できるのはお前しかいない!!」

  

 フォイルボードに乗って、屋根を突き破って、山中から上昇するMIRU。


アイル「なにこれ! すっごいわ──!!」


〇 爆発した火山


──を超近距離で確認するアイルたち。雄々しく飛行するMIRU。


アイル「これからどうなるの、イズミフ!」


イズミフ「これほど大規模な噴火とは予想以上だ……もう絶望しか残らない」

  

 上空からみると、火山のところどころが赤く光り、火石流がゆっくり流れ出していく。

  

 アイル、火石流が流れていく先に、見覚えのある花壇とお墓を視野に捉える。


アイル「(ハッとして)お母さんのお墓と花壇が……」

  

 MIRU、鋭角に旋回して急降下していく。


イズミフ「どうした、MNO-1000? おまえはこのまま過去へ時空跳躍すればいいんだ! 余計なことしなくていい!」


アイル「イズミフ! また元に戻ってる!!この子はポチマルくんだよ!!」


イズミフ「あ、すみません」


MIRU「(反応する)……」


アイル「頼める、ポチマルくん? お母さんの花壇を守ってあげて!!」


イズミフ「駄目だ、危険すぎる!!」


アイル「キミなら出来るわ、ポチマルくん!!」


MIRU「(反応する)」

  

 MIRU、アタッチメントのショベルで大地をガリガリ掘って、一気に導流堤を掘り進んでいく。

  

 流れてくる溶岩流や火山泥流。すぐ背後まで迫ってくる溶岩流。MIRU、猛スピードで掘りながら更なる加速で溶岩流を引き離していく。

  

 膨大に増加した溶岩流や火山泥流。それら全てが導流堤に沿って花壇と母の墓を回避させたコースへと導かれていく。


アイル「やった、ありがとうポチマルくん!!」


イズミフ「ゼロワンが勝手に行動した……何故、命令もされていないのに!?」


アイル「トモダチだから助けてくれたのよ! だからもうゼロワンなんて呼ばないであげて! ポチマルくんよ! トモダチだったらポチマルくんよ! わかった!?」


イズミフ「(気圧され)は、はい、ポチマルくんはトモダチです!」


MIRU (ポチマル)『(反応する)』

  

 高度に上昇していくMIRU。火山が徐々に鎮静化していくが地球全体はまだ黒と茶色が強く北半球は白い雪に覆われている。


アイル「ポチマルくん、いつものやってみる」


MIRU (ポチマル)『(OKの点滅表示)』

  

MIRU、地上の広範囲に花畑を投影する。見事に美しい花畑が焼け爛れた大地を覆っていく。


イズミフ「なんと美しい……しかし、MNO-1000にもポチマルにもこんな機能はなかった筈なのに」

  

 腕時計の立体映像デバイスでAIの回路図を映し出す。集積回路板の上に黄金の砂がキラキラと光って胞子が輝いている。


イズミフ「なんだろう、この粒子は……」

  

 拡大していくと、輝く胞子は咲いた花のような形になっており、まさしくお花畑のごとく並んでいる。


アイル「お母さんが作った魔法の砂だ……あれには微生物たちの生命が宿っていて、土や植物のエネルギーの元になるって……」

  

──フラッシュ・インサート。


 出会った時、砂をかけられたポチマル。アイル、瞳にいっぱいの涙を溜めて、


アイル「そっか……ポチマルくんが、お母さんのお花畑、第一号だったんだ……」


MIRU (ポチマル)『(反応する)』

  

 アイルの眼下のお花畑に腕を広げ、


アイル「ねえ、ポチマルくん、私、これを本当の未来にしたいの、手伝ってくれる?」


MIRU (ポチマル)『(OKの点滅表示)』


アイル「じゃあ私と一緒に過去へ跳躍しよう」


MIRU (ポチマル)『(OKの点滅表示)』


アイル「ポチマルくんは、私をこの時代から助け出す為に、わざと墜落してくれたんだよね?」


MIRUポチマル『(反応する)』


アイル「ウフフフ……ありがとう」

  

 投影された花畑の中にある母の墓。上空から俯瞰するアイル。


アイル(モノローグ)「お母さん、いってきます……この地球をお花の惑星に変えてきます」

  

 ビュン!異空間回廊に飛翔するMIRU。


〇 暗黒の異空間回廊


 フォイルボードで時空跳躍しているMIRU。抱えられているアイルとイズミフ。激しい次元気流の大振動の中、


イズミフ「耐えてくれ、MIRU!!」


アイル「頑張ろうね、ポチマルくん!」


MIRU (ポチマル)『(OKの点滅表示)』


 一気に加速するMIRU──。


〇 過去の宇宙空間・大気圏外

  

 異空間から飛び出てくるMIRU。雄大な地球が見えており、


イズミフ「おおっ! 地球がまだ青い頃だ!」


 アイラは、そんな眼下の地球へ語り掛けるように、


アイル「地球さん、地球さん」

  

 とびっきり笑顔でキュートに言う。


アイル「待ってて、今行く」

  

 可愛くウインクして──


〇 火山が噴火している未来の地球・全景


 黒と茶色しかなかった大地にゆっくりと青みが戻っていき、緑の草原が広がっていく。


   ×    ×    ×


──アイラ博士の墓。


 その周囲は本物の花に囲まれ、美しい花畑となっている。小高い丘の上には桜の樹が満開の花を散らせている。

  

 小鳥が歌う楽園となった未来で────。


               (THE END)

【TVアニメ『未ル わたしのみらい』について】

5つのスタジオがオムニバス形式でお送りする新作オリジナルアニメ『未ル わたしのみらい』。

ロボットと人間の出会いを描く物語。


Episode 926「待ってて、今行く」

https://miru-anime.com/episode926/


公式サイト:https://www.miru-anime.com/

公式X:https://x.com/miruanime_info(@miruanime_info)

公式note:https://note.com/miruanime_info


【放送情報】

2025年4月2日(水)よりTV放送開始!!!

MBS:毎週水曜26:30〜

TOKYO MX:毎週木曜22:00〜


【キャンペーン情報】

脚本の公開を記念し、『未ル』公式Xでは脚本感想投稿キャンペーンを実施します!

公開された脚本をお読みいただき、対象の投稿に引用リポストで感想文を投稿すると、抽選で1名様にEpisode 926「待ってて、今行く」のキャラクターデザインを担当する西位輝実さん直筆のアイルの色紙をプレゼント!


キャンペーン概要については下記のURLをご覧ください。

https://yanmar.com/jp/about/campaign/2025/03/miru/01/

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