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Episode 630「Re: MIRU」

脚本:平野靖士


登場人物:

サトー (スーツ姿の男・初老男)

MIRU (ロボット)

トシ (35・外事省国際協力局・課長)

ミホ (28・トシの恋人・医師)

アダム(10・黒人少年)

局長 (48・トシの上司)

部下 (27・トシの部下)

同僚 (36・トシの同僚)

現地職員

女性課員

通行人

アナウンサー

キャスター

別のキャスター

陸亜大国副首相

その他


□ 近未来的繁華街(夜)


 真夏の熱帯夜でうだる暑さの中を大勢の人々が行き来している。ビル側面のディスプレイにスーパーヒーロー映画の予告編が映されている。


 その映像下に流れていたニュース記事に『緊急速報』の文字が現れ、『核ミサイル発射される』が続く。


 そして、画面が急にニューススタジオのアナウンサーの映像に切り替わる。


アナウンサー「突然ですか、政府より緊急避難警報が出されました。先ほど陸亜大国より弾道核ミサイルが発射されたとの情報が入ってきました!」


 個人通信機器が警報を鳴らし始め、ギョッとなる通行人たち。


アナウンサー「ミサイル到達はいまから7分後とされており、すぐに頑丈な建物や地下へ避難するようにとの通達が出されています!」


 悲鳴、怒号、パニックになる人々。そんな人々の中にいたサトー、ハッと上空を見上げている。


 キッとなり、ロボット状態(MIRU)になったサトー、背中のアタッチメントを翼にして飛び上がり、急上昇していく。


□ 地球・衛星軌道上


 弾道ミサイルが軌道を描きながら飛来して、宇宙空間を日本へ向かっている。そこへ飛んでくるMIRU。


 MIRU、ミサイルに取り付き、アタッチメントを駆使して、ミサイルを阻止(分解?)しようとするが、ミサイルは下降しながら成層圏へ――MIRUは弾頭にへばりつき作業を続けるが、弾頭は切り離されて成層圏へ突入!


 火の玉になっていく弾頭で、MIRUは、摩擦熱に呑まれ、しだいに地獄の業火の中で燃え尽き、無残に蒸発していく――


□ 国際空港・全景


テロップ『一日前』


 灼熱の真夏の太陽の下、着陸してくる超音速旅客航空機――


□ 同・入国審査フロア


 到着した大勢の夏服の観光客たちで混み合っているが、近未来的入国審査システム(パスポートも近未来的)で、人々はスムースに入国している。


 遅れてきた若き外交官トシ(35)が、疲れた足取りで隅の空いている公人専用審査ゲートへ向かい、顔認証だけで通過していく。


 認証されたディスプレイにはトシの職業欄に『外事省南西大陸局第一課課長』とある。


□ 同・到着ロビー


 待合席のテレビのニュースに、陸亜大国の副首相とこの国の首相の会談が報じられ、その二人がにこやかに握手する姿が映し出されている。キャリーケースを引いたトシが出てくると、部下が駆け寄ってくる。


部下「課長! お疲れさまです」


トシ「ああ。お疲れ」

 

 部下、汗だくである。


トシ「外、そんなに暑いのか?」


部下「ええ。去年よりまた。車から降りてここ来るまででこれですから。もう亜熱帯どころか、完全に熱帯ですよ。ハハッ。それより、やりましたね、課長。地球上で一番ヤバい火薬庫の和平の仲介を裏でやりとげたなんて、すごいですよ。局内でも大騒ぎです」


トシ「おい。シーッ」

 

 トシ、口に指をたてる。


部下「あ、そうでした。荷物、持ちます」


トシ「いいよ。これだけだから」


部下「いいえ。お持ちします。課長は我らがヒーローですから」


トシ「言い過ぎだよ」


部下「いいえ。車はこっちです」

 

 部下、キャリーケースを引き、トシを案内していく。


部下「(声を潜め)いま省内じゃ陸亜大国副首相の来国で東大陸局の一人勝ちですけど、陸亜との交渉は二国間だけの話でしょ。それに較べて、こっちはスケールが違いますよ。いま世界のあちこちで紛争が勃発してるけど、南西大陸が一番ヤバいでしょ。世界大戦の火種になる可能性があるから、世界中の注目が集まってる地域じゃないですか。その紛争を我が国の仲裁で解決だなんて、長官も大喜びで、局長も鼻高々ですよ」


 トシは着信を感じて、懐から通信機器を取り出している。画面に『ミホ』の名前と『お帰りなさい。お疲れさまでした。大事な話があるの。今日会えるでしょ』とのショートメール。


 トシ、ニコッとなって返事を打とうとした時、突然、画面に割り込むように急電が入る。


『(英語で)交渉決裂。爆弾テロがあった! ヤバい!』


トシ「!?」

 

 と、近くのテレビのニュースアナの声が聞こえてくる。


「たった今、南西大陸紛争国同士の和平交渉が決裂したとの情報が入ってまいりました」


部下「ええ!?」


トシ「!」


アナ「シリウス国の閣僚が入院している国立首都病院で爆弾テロがあり、それが交渉決裂の原因になった模様です」


トシ「国立首都病院で爆弾テロ……!?」


アナ「今回の和平交渉は、我が国が仲介して成立させた交渉でしたが、今回の爆弾テロによって和平への道筋が絶たれてしまいました……」


 愕然としているトシを先ほどからスーツの男 (サトー)がジッと見ていた。


サトー「……」


□ 外事省・外観

 

 トシを乗せた公用車が来て、地下駐車場へ入っていく。


□ 同・地下駐車場

 

 公用車から通信機器で電話するトシが下車してくる。


トシ「(電話に)それで首都病院は? えっ? まったく連絡が取れない? なんだって!? テロリストが病院内に潜伏してるだと!?」

 

 女性課員が駆けつけてくる。


女性課員「課長。局長が大至急長官室へ来るようにって仰ってます!」


トシ「(頷き、電話に)とにかく新しい情報を頼む」


 と電話を切って、女性課員や部下と急いでエントランスへ向かう。


□ 同・外事長官室前廊下


 ドアが開き、トシが上司の局長と退出してくる。


局長「(室内へ頭を下げ)申し訳ありませんでした。今後は間違った情報をお伝えするようなことはないようにいたします。失礼します」

 

 と、ドアを閉める局長。


局長「(厳しく)テロリストは押さえたんじゃなかったのか?」


トシ「ええ。大変でしたがコンタクトをとりつけ、テロを中断させる約束を交わしました。その交渉にどれだけ苦労したか……」


    *   *   *


〈回想のインサート〉


 シリウス国国立首都病院の病室――


 ベッド上で気管チューブを付けた黒人少年アダム(10・鼻の横に目立つホクロがある)が嬉しそうに、


アダム「トシ! 戦争が終わるの!? もう爆弾は飛んでこない?」

 

 目の前にいたトシが笑顔で頷く。


トシ「ああ。もう大丈夫だ、アダム。交渉はうまくいった。あとは君の病気が治ることを祈るだけだ」


アダム「(満面の笑みで)僕、病気のことより、戦争がなくなる方が嬉しいよ! さすがスーパーヒーロー、ガイコーカーン! ありがとう!!」


    *   *   *


トシ「……」


局長「苦労なんてどうでもいい。正確な情報を持って帰って来い。いい恥さらしだ」


トシ「すみません……」


局長「とにかく、最新の情報を集めて状況を分析しろ」


トシ「わかりました」


□ 同・廊下


 憔悴したトシが自局へ戻ろうとしてくる。そこへ東大陸局の扉から同期の同僚が出てくる。


同僚「おっ」


トシ「……」


同僚「聞いたぞ。大丈夫か? 顔色悪いぞ。お前がやらかしたわけじゃないんだろ。元気だせよ」


トシ「ああ……」


同僚「しかし、残念だったな。南西の和平が実現してれば、仲介した俺たちの国は世界中から称賛されて、影の立役者のお前の将来は光り輝いたのにな」


トシ「……」


同僚「ま、俺にとっちゃラッキーだったよ。陸亜の副首相を連れてきた俺の功績が霞んじまいそうだったからな。おい、ホントに顔色悪いぞ。そんなに気を落とすな。そのうちまたうまくいくさ。おっと、会議に遅れちまう。じゃあ」


トシ「(ぼそっと)なにがそのうちうまくいくだ。こっちはまた人が死ぬんだ……」


 と、着信を感じて通信機器を出すと、ミホからのメッセージ。すでにミホからの電話着信も何件か入っている。


『どうしたの? 電話も出られない? 帰って来たんでしょ?』

 

 トシ、返信を書こうとする。


『すまない。いま』と、書いていると、部下から電話の着信。


トシ「(電話に出て)どうした?」


部下の声「トシさん。大至急デスクに戻ってください」


トシ「ああ」


 と、通信機器を仕舞って局部屋へ急ぐ。


□ 同・南西大陸局第一課


 ディスプレイに現地職員が映っている。 デスクにトシ、デスク周りには気にしている部下や課員たちがいる。


トシ「首都病院で銃撃戦!?」


現地職員「ええ。それで、病院どころかその近くにも近づけません」


トシ「入院患者や医者は?」


現地職員「わかりません」


トシ「人質になってるのか?」


現地職員「それもわかりません。避難できた人もいるようですが、詳しい情報がないんです。とにかく情報が錯綜してて」


トシ「そうか……わかった。とにかく最新の情報を常に送ってくれ」


 リモートを切るトシ。


部下「課長」


トシ「シリウスの首都病院には知り合いがいるんだ……」


部下たち「……」


トシ「……」

 

 トシの脳裏に――


□ 回想


 南西大陸(無国籍な発展途上国)の様々な人種が行き交う雑然とした市場――


テロップ『三年前』

 

 人込みの中を、トシが大きな買物袋を抱えて歩いてくると、同じく大きな買物袋を抱えた女性(ミホ・25)と衝突。


トシ「あっ!」


ミホ「キャ!」


 お互いの荷物がひっくり返って、中身の果物や野菜が路面にぶちまかれる。


ミホ「ごめんなさい!」


トシ「いえ。こっちこそ……」


    *   *   *


 近くのカフェ――お茶をしているトシとミホ。


トシ「え? ここの病院のお医者さん?」


ミホ「ええ。これでも世界援助機構の小児科の医師なの。いまは首都病院にいるわ」


トシ「へえ。凄いね」


ミホ「別に凄くなんてないわよ。トシさんこそ、世界平和のために働いてるんで

しょ。そっちの方が凄いわ」


トシ「世界平和だなんて、そんな大袈裟な。たしかに紛争解決を目指してるけど、

そんな簡単じゃないよ」


ミホ「駄目よ。それじゃ。実現させてくれなきゃ。あ、そうだ。うちの病院に来てちょうだい。合わせたい子供たちがいるの」


トシ「?」


ミホ「紛争地帯から逃げてきた子供たち」


トシ「――」


    *   *   *


 国立首都病院・外観から小児病棟へ――病室の入院患者の子供たちがいる。その中にアダム(7)の姿。


ミホの声「この子は私の患者、アダム。小児性心疾患。つまり難病でここにいるけど、彼は戦争孤児なの。戦争で家族も故郷も失った子よ」


 トシを連れてくる白衣のミホ。


アダム「ミホ先生! え? 恋人?」


ミホ「違うわよ。お友だちのトシさん」


アダム「僕、アダム」


トシ「ああ。よろしくな」


ミホ「トシさんはね、戦争を止めさせる仕事をしてるのよ」


アダム「え!?  トシってスーパーヒーローなのか?」


トシ「え?」


アダム「戦争を終わらせられるのはスーパーヒーローだけなんだぜ」


トシ「いや、俺は」


ミホ「(笑って)そうよ。トシさんの正体はガイコーカーンってスーパーヒーローなんだから」


トシ「ちょ、ちょっと。そんなこと」


ミホ「うふふふ」


アダム「カッケーじゃん、トシって。ミホ先生、やっぱ付き合っちゃえばいいじゃん」


ミホ「え?」


トシ「?」


 トシとミホ、顔を見合わせ、意識してしまう。


    *   *   *


 首都病院小児病棟――(数カ月前)


 アダム(10)が持つトシの通信機器にミホが映っている。


ミホ「はーい。アダム!」


アダム「ミホ先生。元気?」


ミホ「ええ。この通り。アダムは変わりない?」


アダム「うん。相変わらずベッドの上だけどね」


 通信機器越しの二人の会話をトシが微笑んで見ている。


アダム「けど、いい報せがあるんだ。トシがガイコーカーンの正体をようやく現わしたんだ。もうすぐ戦争を終わらせられるって!」


トシ「(確信を持って頷いている)」


□ 元の外事省・南西大陸局第一課


トシ「――」


 窓の向こう――


□ ――に見えるビルの屋上


 男 (サトー)が望遠の視角でトシを見ている。


□ 外事省・外観(夕)


 日暮れで、少し風が強く吹いている。


□ 同・玄関表(夕)


 憔悴したトシが通信機器の電話の発信コールを聞きながら出てくる。電話相手の表示は『ミホ』。が、留守電に繋がってしまう。


トシ「(留守電の応答があって)俺だよ。連絡できなくてすまない。アダムが大変なんだ。とにかく、いまからなら会える。(腕時計を見て)いつもの店に来てくれないか」


 トシ、通信機器を切り、風に少し煽られつつ地下鉄駅へ歩きだす。ゆっくりとサトーが尾行していく。


□ あるバーの店内(夜)


 カウンター席で、グラスを前にしたトシが、時計を見て焦れている。時計の時間は7時。通信機器の電話を掛けるが、相変わらず相手は出ない。そして、通信機器のミホのメッセージを戻す。

 

『お帰りなさい。お疲れさまでした。大事な話があるの。今日会えるでしょ。』


トシ「……大事な話って……くそう」


 グラスのビールを煽るトシ。


□ 繁華街(夜)


 ビルの側面の大ディスプレイにヒーロー映画の予告編の映像(画面の下にはニュース記事が流れている)。賑わっているが、風が強く、時折の突風に戸惑っている。


 中型ディスプレイには、ファッショナブルなCM。(そのディスプレイを固定している金具が緩んで風に震えている)


 その下へトシがやってくると、通信機器に着信――現地職員からのメッセージ。


『(英語)軍が病院に突入した!』


トシ「!」


 大ディスプレイの映像下に流れていたニュース記事に『シリウス国国立首都病院に軍が突入。激しい銃撃聞こえる!』の文字が流れてくる。


 トシの脳裏に――


    *   *   *


 アダムの病室にタッタッタッと機銃の音が響き、アダムや子供たちの悲鳴と阿鼻叫喚! 通信機器の画面『大事な話……』に重なるミホの声――


 「もう別れたいの」などのイメージが錯綜する――


    *   *   *


トシ「なんでだ……なんでこんなことに……俺なんて、いてもいなくても……」


 と、突風!


 中型ディスプレイの金具が外れ、ディスプレイがずり落ちはじめる。


「キャーッ!」


 真下にいた人々が悲鳴を上げて逃げ出す。 が、ただ一人、トシが落ちてくるディスプレイを呆然と見上げている。


トシ(モノローグ)「(なんか、もうどうでも……」


 人生を諦めたかのように、角を尖端にして落ちてくるディスプレイを受け入れようとするトシ。刹那、人込みの中にいたサトーが、瞬時に動き、風を感じた周囲の人々を?とさせつつも、見えない動きでロボット状態に変形し、トシへ落ちていくディスプレイを横へずらして落とす。

 

ガシャン!

 

 ディスプレイはトシから離れた路面に衝突して倒れる。 同時に見えないMIRUはその場から消える。


トシ「?」


 大勢の人々がホッとなっている。


通行人「おい、大丈夫だったか?」


 トシ、ハッと我に返り、その場から逃げるように走り去る。


    *   *   *


 誰もいない路地に逃げ込むトシ。


トシ「(動悸が激しく)……」


 と、男 (サトー)が現れ、トシの肩を叩く。


トシ「?」


サトー「アンタ、さっき死のうとしたろ」


トシ「な、なに言ってる?」


 トシ、足早に去ろうとする。


サトー「(トシを捕まえて)待て。アンタに死なれては困るんだ」


トシ「なんだよ!? 関係ないだろ! ほっといてくれ!」


 トシはサトーを振りほどき、逃げるように駆けだしていく。


サトー「――」


□ 高層ビル・全景(夜)


 周辺に様々な高層ビルが立ち並んでいる。まだ風は吹いているが収まりかかっている。一棟の屋上に人影が見える。トシだ。


□ 同・屋上(夜)


 通信機器を手にしたトシが、風に吹かれつつ大都会の夜景を見るともなしに、ビルの淵際に佇んでいる。


トシ「――」


 背後に足音が近づく。


トシ「?」


 トシが振り向くとサトーが微笑んでいた。


トシ「お前!」


サトー「こんな所にいたんだね。トシさん」


トシ「なんで俺の名前を? お前、一体?」


 サトー、淵から遥か下の路面を見る。


サトー「僕はMIRU」


トシ「MIRU?」


サトー「さっきより風は大分収まったね」


トシ「……なんなんだよ、お前?」


サトー「アンタには戦争を止める使命があることを伝えにきたんだ」


トシ「なに言ってんだ、お前?」


サトー「アンタが世界の平和のために尽力したのは知ってる。一度の失敗でくじけちゃダメだ」


トシ「馬鹿野郎! なにがくじけるなだ! 俺が何をしたって戦争は止まらないんだ。テロを理由にしてまた戦争は始まる。もう俺の手には負えない。俺がどんなに止めようとしても、頭にゾンビを飼ってる戦争をやりたい奴らがいるんだ。巻きこまれて死ぬ人間がどれだけいようと、そいつらには関係ないんだ。くそう! 俺なんて結局なんの役にも立たなかった……」


サトー「そんなことはないだろ」


トシ「いや。俺は無力だ。戦争を止めるなんてできるわけがない」


サトー「だから死にたくなってこんな場所にきたのか?」


トシ「誰が死ぬって言った!」


サトー「……」


トシ「……確かにさっき一瞬そんなことを考えたよ……けど、俺は自殺をしにここへ来たわけじゃない」


サトー「じゃあ、何しにきたんだ?」


トシ「俺は……祈りにきたんだ」


サトー「祈り?」


トシ「ああ。俺はこの子に約束したんだ。戦争はさせないって……なのに」


 トシは持っていた通信機器の写真を見せる。トシ、ミホと一緒に写る笑顔のアダム。


サトー「その子は?」


トシ「シリウスの首都病院にいるアダムだ」


サトー「ニュースで言っていたテロリストに襲われた病院か」


トシ「そうだ……」


サトー「彼が心配なんだな」


トシ「当たり前だろ。だから祈ってたんだ」


サトー「彼が無事なら、君はまた戦争を止めようと尽力するか?」


トシ「それは……」


 サトーは夜空を見上げて、指向性アンテナがシグナルを探すようにある方向(中東の方?)を向いていく。


トシ「?」


サトー「アダムは無事だ」


トシ「は? なんでわかる?」


サトー「電波状態が悪いだけだ。いまに……」


 と、トシの通信機器が着信音を発する。


トシ「!」


 画面を開くと、テレビ電話になり、アダムが映し出された。


トシ「アダム!」


アダム「トシ! 僕たち助けられたよ!」


トシ「よかった無事で……」


 アダムの横に現地職員が映る。


現地職員「トシさん。テロリストは排除されました。奴らが襲ったのは別の病棟で、小児病棟はまるっきり無事でした」


トシ「そうか……アダム。すまない。俺の力が足りなかったんだ。争いはもう起きないはずだったんだ」


アダム「約束を破った奴らがいるんだろ。トシのせいじゃないよ。トシ、また頑張って戦争をもうやらないって確実に約束させて。今度は絶対に約束を破らないようにって。トシなら出来るよ。トシは僕のスーパーヒーローなんだから!」


トシ「ああ。頑張ってみるよ」


サトー「(ニコリ)」


アダム「あっ、お医者さんが呼んでる」


駐在員「トシさん、また連絡します」


アダム「トシ、じゃあまたね」


 アダムの通信が切れ、入れ代わるように、着信がある。 ミホからだ。


トシ「(電話に出る)ミホ」


ミホの声「ごめんなさい。通信機器を無くして探してたの」


 任務を完了したサトーはその場から姿を消していく。


トシ「そうだったのか」


ミホの声「お帰りなさい。ごめんなさい。迎えに行けないで」


トシ「いいんだ。そんなこと。それより、首都病院が襲われた話しは知ってるか」


ミホの声「ええ。病院は大丈夫なの?」


トシ「ああ。さっきアダムから連絡があった」


ミホの声「アダムから?」


トシ「ああ。小児病棟は巻きこまれなかったようだ」


ミホの声「そうなの。よかったぁ」


トシ「ああ。俺もホッとしてるところさ。それで、君の大事な話しって?」


ミホの声「その話しだけど。今から会える?」


 トシ、サトーが消えたのに気づきキョロキョロするが、


トシ「あ、ああ。勿論」


□ ホテルのラウンジ(夜)


 コーヒーを前にしたトシとミホがいる。


トシ「海外赴任?」


ミホ「そうなの。アダムみたいな難病の子供の治療法の研究のため」


トシ「そうか……で、俺たち……」


ミホ「遠距離になるけど。大丈夫よね」


トシ「え?」


ミホ「どうしたの?」


トシ「あ、いや。別れ話かと思った」


ミホ「やだ。そんなこと思ってたの?」


トシ「だって、大事な話しなんていうから。その病院、世界会議ビルの近くだろ。世界会議ならしょっちゅう出張してる」


ミホ「そうよね」


トシ「ああ。実家よりしょっちゅう行っている。いまより会えるよ」


 笑い会う二人。


□ 繁華街(夜)


 着地してきたMIRUが男の姿になり、人込みに紛れ込んでいく。真夏の大都会の夜景、そして夜空を見やるサトー。


サトー「……」


 サトーの内部通信機能に反応がある。


サトー「……?」


 内部通信機能の解析描写があって、


サトー(モノローグ)「トシをまだ守れ? 彼はもう大丈夫なはずだ……それよりも人はなぜ争う?」


 行き交う人々の顔顔顔――


サトー(モノローグ)「人は地球上のどこかで人は飽きずに紛争や戦争を起こしている」


    *   *   *


〈インサート〉

 近代戦争の記録映像が次々とフラッシュバックしていく――


サトーの声「戦争だけじゃない。人種問題や環境問題」


 デモや暴動、人種間で争う人々。飢える子供たち、人や車であふれる都会、オイルに塗れる海鳥、海岸に打ち上げられている大量のイワシ、旱魃、洪水、竜巻、崩れる氷山などのニュース写真や映像が続く――


サトーの声「地球上の問題のほとんどは人類が原因だ。人類はその解決方法を知りながら放置しているのは何故だ……?」


    *   *   *


サトー「わかっている。僕じゃ戦争は止められない……でも、僕がやっていることは本当に未来のためなのか……?」


 行き交う大勢の人々を見ていたサトー、深淵を見やる。


□ 大通り・歩道(夜)


 ――このシーンよりサトーのイメージ。


 トシとミホがやってくる。


ミホ「何ですって? 死にたくなった!?」


トシ「ああ。そのぐらい気が滅入ったんだ。今日は」


ミホ「駄目よ。ちょっとでも死にたいなんて思っちゃ!」


トシ「わかってる。もう大丈夫だ。仕切り直しだ。もう一度、世界平和に挑戦してみるつもりだ」


 トシ、道路の向こうを走る高速道路下の公園で花火をしている少年たちを見る。ロケット花火を打ち上げてはしゃぐ少年たち。


 打ち上がったロケット花火は高速道路を越えた上空で破裂して華開く。


トシ「(キッとなり)あいつら!」


 トシ、高速道路下へ走ろうとする。


ミホ「え?」


 トシが通りに足を踏み出した時、車のヘッドライト!パーンと撥ねられるトシ。 宙を舞ったトシが路面に叩きつけられる。


ミホ「キャーッ!」


ミホの悲鳴と花火の音が重なる。少年たちは、次のロケット花火に火を点けている。打ち上がったロケット花火は風に煽られカーブして高速道路の中へ飛び込んでいく。


□ 高速道路上(夜)


飛び込んできたロケット花火が、走行中のタンクローリー車の目前で破裂!驚いた運転手が急ブレーキを踏み、ハンドルを切ってしまう。

 

 キキーッ。

  

 後方から白バイに先導された貴賓車を中心にした公用車の車列がやってくる。タンクローリーは側面壁に衝突し、火花を上げながら横倒しになっていく。そこへ白バイと公用車の車列!


    *   *   *


 貴賓車内――

  

 後部席に陸亜大国の副首相の姿。副首相「!?」


    *   *   *


 タンクから漏れた危険物が引火して大爆発!業火に貴賓車ごと呑み込まれる副首相。


□ ニュース画面から紛争へのモンタージュ


 テレビ画面のニュース画面――


キャスター「大変な事故が起きました。先ほど高速道でタンクローリーの爆発事故があり、来訪していた陸亜大国の副首相が乗った車が巻きこまれた模様です!」


    *   *   *


 新聞 (ネットニュース)記事――


 『陸亜大国副首相 死亡』『高速道でのタンクローリーの爆発事故に巻きこまれた』等など事故の見出しに続いて、『副首相の死は謀略との憶測』『陸亜大国、南海諸島の領有権の主張強める』『妥協はしないと陸亜大国首相が強調』『陸亜副首相の死は暗殺との主張』などの記事。


    *   *   *


 ナガナイ諸島近くの海上――


 沿岸警備船と自衛軍艦が守る小島に陸亜大国の空母と大型軍艦が数隻の小型軍艦を連れて接近してくる。それがニュース画面の映像になり――


    *   *   *


キャスター「我が国の領海であるナガナイ諸島周辺に陸亜大国の軍艦が侵入し、緊張状態が……」


    *   *   *


別のキャースター「ナガナイ諸島海域で軍艦による銃撃戦事件があった模様です! たったいま入った情報によると、どちらが先に発砲したかは不明ですが……」


    *   *   *


 夜の南海諸島近くの海上――

 

 軍艦同士が撃ち合う機銃の閃光が闇を切り裂いて飛び交っている。と、シルエットでどちらの艦かは不明だが、大砲が発射される!それをきっかけに双方の艦砲戦になり、ミサイルが発射される!


    *   *   *


 ニュース記事――


 『世界会議で停戦決議』『決議を無視した攻撃続く』の記事。


    *   *   *


 海上――


 自衛軍艦が被弾して大破して海中に没していく。反撃のミサイルが発射され、陸亜大国軍の空母に直撃!


    *   *   *


 ニュース画面――


キャスター「今朝、ナガナイでの海戦が拡大しました」


    *   *   *


ニュース記事――


 『拡大する紛争』『『空中戦で爆撃機を撃墜』『もはや戦争状態』などの見出し。

 

 そして『宣戦布告!』の大見出し


    *   *   *


 夜の海――


 海中を潜航する原潜が弾道核ミサイルを発射!ミサイルは海中から飛び出し、二段目のロケットを噴射させて夜空へ飛び去る! そして、#1シーンに戻って――


□ 繁華街(夜)


 ビル側面のディスプレイに――


アナウンサー「先ほど陸亜大国より弾道核ミサイルが発射されたとの情報が入ってきました!」


 悲鳴、怒号、パニックになる人々。人込みの中にいたサトー(男性スーツ姿)がキッとなり、ロボミルになって、背中のアタッチメントを翼にして急上昇していく。


□ 地球・衛星軌道上


 飛来する弾道ミサイルへ向かっていくMIRU。ミサイルに取り付き、アタッチメントを駆使して、ミサイルを阻止(分解?)しようとするが、ミサイルは下降しながら成層圏へ――MIRUは弾頭にへばりつき作業を続けるが、弾頭は切り離されて成層圏へ突入!


 火の玉になっていく弾頭で、MIRUは、摩擦熱に呑まれ、しだいに地獄の業火の中で燃え尽き、無残に蒸発していく――


□ 高速道路下の公園(夜)


 ハッと目覚めるようにサトー(人間形態)が目を開けると、そこは高速道路下の公

園で、夜空を見上げる花火少年たちと一緒に立っていた。サトー、少年たちが呆然と見上げている夜空を見上げる。夜空から降ってくる火球が見える。


 刹那、火球が炸裂!核の業火が少年たちを呑みこみ、サトーも呆然となったまま呑みこまれ、大都会が吹き飛んでいく!


――サトーのイメージはここまで。


□ 繁華街(夜)


 ガンと衝撃がして目覚めるスーツ姿のサトー。

サトー「……!? いまのは……(ハッとして)いけない!」


瞬時にロボ形態になって夜空へ飛び込んでいくMIRU。


□ 大通り・歩道(夜)

 

 隣接する高速道路下の公園ではしゃぎながら打ち上げ花火をしている少年たち。通りを挟んだ歩道を、ミホと一緒に来たトシ、少年たちを見てキッとなっている。


トシ「あいつら!」


 トシ、高速道路下へ走ろうとする。


ミホ「え?」


 トシが通りに足を踏み出した時、車のヘッドライト!刹那、トシは腕を掴まれて引き止められる。その目前を車が通過していく。


 トシの腕を掴んだのは初老男 (サトー)。


サトー「危ないですよ」


トシ「あっ。すみません。でも、危ないのはあいつらなんだ」


 と、トシは通りを走って、少年たちの元へ走っていく。


ミホ「ちょっと! なにしてるのよ!」


 ミホ、サトーにお礼のお辞儀をちょこっとするとトシを追っていく。サトーは初老男からいつもの男の顔に戻っていく。


トシ「(少年たちに)こんなとこで打ち上げなんてやったらダメだろ!」


 花火に火を点けようとしていた少年が手を止める。


□ 高速道路上(夜)


 タンクローリー車が通過していき、白バイに先導された公用車の車列がやってくる。


 貴賓車内には陸亜大国の副首相の姿。何事もなく通過していく車列――


□ 大通り・歩道(夜)


 公園で少年たちを説教するトシ。


トシ「もうここで打ち上げはするなよ」


ミホ「貴方も気をつけなさいよ。危なく車に轢かれるとこだったじゃない」


 道路のこちらからトシたちの様子を見ていたMIRU、苦笑いしている。


MIRU (モノローグ)「彼が防いだ戦争はこれなのか……いや、彼の使命はこれじゃない……」


□ ニュース映像


テロップ『二〇年後』


キャスター「本日、地球の火薬庫と呼ばれていた南西大陸の紛争が終結し、和平協定が結ばれました」


 映像が切り替わり、成長して政府高官になったアダムが、紛争相手の将軍と握手している映像が映される。


 その背後で拍手する人たちの中に、初老のトシとミホの姿がある。


 そして、その片隅に変わらないサトーの姿もある。


――エンド


【TVアニメ『未ル わたしのみらい』について】

5つのスタジオがオムニバス形式でお送りする新作オリジナルアニメ『未ル わたしのみらい』。

ロボットと人間の出会いを描く物語。


Episode 630「Re: MIRU」

https://miru-anime.com/episode630/


公式サイト:https://www.miru-anime.com/

公式X:https://x.com/miruanime_info(@miruanime_info)

公式note:https://note.com/miruanime_info


【放送情報】

2025年4月2日(水)よりTV放送開始!!!

MBS:毎週水曜26:30〜

TOKYO MX:毎週木曜22:00〜


【キャンペーン情報】

脚本の公開を記念し、『未ル』公式Xでは脚本感想投稿キャンペーンを実施します!

公開された脚本をお読みいただき、対象の投稿に引用リポストで感想文を投稿すると、抽選で1名様にEpisode 926「待ってて、今行く」のキャラクターデザインを担当する西位輝実さん直筆のアイルの色紙をプレゼント!


キャンペーン概要については下記のURLをご覧ください。

https://yanmar.com/jp/about/campaign/2025/03/miru/01/

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