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Episode 101「The King of the Forest」

脚本:松井亜弥


登場人物:

MIRU (ロボット)

マリオ・バスコ・デブリット(25歳・日本人の祖父が現地に移住し、現地の女性と結婚。そうしてできたファミリーの三世)

幼い頃のマリオ(4歳・6歳)

キング(オウギワシ)

マリオの父(妻、マリアと死別している)

マリオの祖父(回想)

ツアー客

日本人四人家族(父・母・6歳兄・3歳妹)

小野(ツアーコンダクター・女性・39歳)

違法金採掘者たち(男ABたち)

クララ・シルヴァ(森林保護団体職員・28歳)

その他

□ 森(熱帯雨林)・上空からの視界(鳥瞰)


 広大な森林を見下ろしている何者かの視界───時速80㎞の速さで飛ぶオウギワシの視界だ。鋭い嘴と大きな翼に突き破られ、音を立てて流れていく風。


 途切れることのない森を偵察するような視界は神の眼のようでもあり、また未来で視ている『MIRU』側の視界でもある。


 と、聞こえてくる元気な男の子の声。


男の子の声「きょうもあえたね、キング!」


 人間を超える視力で瞬時に森の底、倒れた大木の上に立つ男の子(マリオ・4歳)の姿を捕える視界。マリオは満面笑顔で青空に手を差し伸べている。


    ×    ×    ×


───少年の視界(仰り)。


 空高く、旋回しながら降下してくるオウギワシ『キング』の雄姿。


マリオ「ボク、ずっとずっとまってたんだよ!!」


キング「キィァ───ッ!」


 マリオ、キングを見るのに夢中で、すぐそばの枝から大きな蛇(ボアコンストリクター・体長約5・5m程)が狙っていることに気付かない。


 ゆるゆる…木の肌を這い、マリオに近づく大蛇。その時、木々の間からマリオの祖父が姿を現す。


祖父「マリオ、ひとりで森に入ったらアカンていつも言うとるや(ろ)…」


 刹那、マリオを狙い身を躍らせる大蛇。


祖父「(気づき)危ないッッ!」


 祖父が叫び駆け出したのと、


キング「キィァ───ッ!」


 急降下で突っこんできたキングの鉤爪がガシッと大蛇に食い込み、空高く連れ去ったのとがほぼ同時だった。


マリオ「(驚き)!?」


    ×    ×    ×


───空。


 空中を運ばれながらも頭をもたげキングに噛みつこうとする大蛇。鋭い嘴で頭を突き、牙を躱すキング。


ボアコンストリクター「シャ~ッ!」


 怯まずキングを攻撃しようとしたその時、鉤爪がふっと離れる。


ボアコンストリクター「!(なに!?)」


 落下していく大蛇。


    ×    ×    ×


 祖父に抱きしめられながら、その光景を見ているマリオ。


祖父「キングはな、おまえの命を助けてくれはったんや。さすが『森の守護神』やな」


マリオ「(初めて聞いた)もりの…なに…?」


祖父「『守護神』…森を守ってくれる神様いうことや。この辺りじゃな、昔から彼らに敬意を払い、そう呼んできたんや」


マリオ「もりの…」


 いつの間にか戻ってきて上空で弧を描き飛んでいるキングにかぶって、


マリオの声「しゅごしん…」


キング「キィァ───ッ!」


□ マリオの部屋(20年後)


 ベッドでハッと目覚めるマリオ(25歳)。


マリオ「……」


 窓から昼の陽射しが射しこんでいる。古いノートパソコン一台に本棚とクローゼット…床には一台のドローンが置かれている。


マリオ「(何者かの視線を感じ)! 誰…?」


 視線の主を探そうと首を巡らし、ふと壁に貼られた一枚の写真に目を止める。美しい横顔が印象的なキングの写真───


マリオの呟き「(半身起こし)キング…あいつ今、どこにいるんだろう…」


 その写真のそばには、幼いマリオ(4歳)と若い父、母&祖父との写真もある。


マリオ(モノローグ)「(真剣な顔)オウギワシが絶滅したなんて、俺は信じない……」


父の声「(呆れて)まだ寝てるのか」


 ドアを開けた父が呆れ顔でマリオを見ている。


マリオ「起きてるだろ? ほら」


父「ベッドの上にいるのは起きてるとは言わん。今日の午後一、ツアー客4人のガイド、まさか忘れちゃいないよな?」


マリオ「(忘れてた)もちろんだよ」


父「(ヤレヤレ)頼んだぞ」


 急ぎ部屋を出ていく父。


マリオ「(欠伸交じりで)ふぁ~~ぃ」


□ マリオの家・全景


 小さな小さなツアーガイド会社兼自宅だ。『TROPICAL RAIN FOREST TOUR GUIDE』と擦れた文字と絵で描かれた看板がある。


 中から出てくるマリオの父。ふとため息をもらしたりする。歩き出す背中がどこか寂し気だ。


    ×    ×    ×


 そんな父を部屋の窓から見ているマリオ。


マリオ「……」


□ 熱帯雨林・中


 ボートに乗る客たちをサポートしているマリオ。ガイドらしい服装、背負ったリュックの中にはドローンがある。


 乗客は四人のツアー客 (ファミリー)&彼らのツアーコンダクター(小野)だ。皆、ライフジャケットを身につけている。


マリオ「滑りやすいので、皆さま足元に充分お気をつけください」


 言いながら自分がツルッと片足滑らせ、


マリオ「おわっとと…」


 すぐに態勢立て直したものの、


マリオ「(まだドキドキ)マンマ・ミーア…」


男の子「マンマ…なに?」


マリオ「ミーア。俺のじっちゃんが知ってる数少ないイタリア語のひとつでさ、『なんてこった』っていう意味。じっちゃん、俺がイタズラする度言ってたんだよね~」


 祖父の真似して大げさに、


マリオ「『マンマ・ミーア!!』って…」


 笑うファミリー客。


マリオ「それじゃ、しばらく俺と一緒にジャングル探検を楽しみましょう! しゅっぱ~つ、おーっ!(拳突き上げる)」


ファミリー「おーっ!」


マリオ「ノリのいいお客さんサイコー!」


 親指立てる。


□ 川


 ───を船で観光中のマリオら一同。皆、ライフジャケットを身につけている。マリオ、船を操縦しながら、


マリオ「皆さんは運がいい、あちらをご覧ください、モルフォ蝶です!」


 一斉にマリオの示す方を見る一同。


    ×    ×    ×


 木々の間を飛び交う、美しいモルフォ蝶たち───


    ×    ×    ×


マリオ「この辺りでは『青い蝶は幸せを運んでくる』と言われています。つまり!ここにいる全員の未来は明るい! ピッカピカだ!」


男の子「(不満げ)ボク、チョウよりカブトムシがいい~」


マリオ「この辺りの森にはあの超有名な『ヘラクレスオオカブトやアクティオンゾウカブトも棲んでるんだよ」


男の子「(瞳輝かせ)ヘラクレスやアクティオンがいるの!?」


マリオ「あぁ。でも、ここだけの秘密、な」


男の子「どーして?」


マリオ「悪いハンターたちに聞かれないようにさ…」


 周囲の川や森林の風景にかぶって、


マリオの声「この森には今、哺乳類が約420種、爬虫類が約370種、両生類が約420種、鳥類が約1290種、それに100万種を超える昆虫たちが暮らしていると言われている。でも、毎年毎年その数は減ってしまっているんだ…」


男の子&女の子「(驚き)!」


    ×    ×    ×


───マリオのイメージ。


 風景に森自身を含む様々な生きものの姿が重なり、また消えたりしながら、


マリオの声「悪いハンターたちの密猟や地球温暖化等の気候変動、違法伐採や水銀

を使った金の違法採掘等による環境破壊によってね」


 そこに浮かぶキングのイメージ。


マリオの声「そして…」


    ×    ×    ×


───戻って、


マリオ「この辺りでは『森の守護神』と呼ばれ親しまれていたオウギワシもまた、絶滅したのではないかと言われているんだよ」


男の子「ぜつめつ…」


父親「保護することはできないんですか?」


マリオ「もちろん保護活動は行われているんですが、なかなか難しいみたいで…」


 一瞬重い空気が流れる。


 刹那、船の横でカワイルカが一匹跳ねる。


一同「!」


男の子「なになに今の!? お魚?」


女の子「お魚?」


マリオ「今日のお客さんは本当に運がいい!今のはカワイルカ。絶滅危惧種でめったに会うことができない貴重なイルカなんですよ!」


□ 川の真ん中にある小さな島(中洲)


 ツアー客がティ―タイム(休憩時間)をゆったり過ごしている。そんな彼らを……


    ×    ×    ×


 少し離れて見守っているマリオ&小野。


小野「(呟く)ひと組、か…」


マリオ「?」


小野「最近ほんと少なくなっちゃって…お客さん」


マリオ「(あぁ、と頷き)自然も生き物もがっつり減っちゃってるから、そりゃみんな来なくなりますよね~」


小野「ほんっと助かってます。少人数のガイド受けてくれるところ、他にないから」


マリオ「うちは弱小だから。仕事選べないだけっス」


小野、頭を丁寧に下げ、


小野「これからもよろしくお願いしますね」


マリオ「…それはどうかな」


小野「え…?」


マリオ「親父、今日銀行ってて…。多分、会社整理する相談」


小野「(ショック)そんなぁ」


マリオ「弱小の弱小なんで」


小野「で、でも、そうしたらマリオ君どうするの? 仕事なくなっちゃうじゃない」


マリオ「仕事ってほどじゃ」


 自嘲気味に、


マリオ「俺…仕事したくなくてこのバイトやってるんで。正社員とかフルタイムとか、そーゆーの全く考えられなくて。できれば一生遊んでいたくて。そんな俺に困って親父が『ガイドの仕事手伝え』って。それだけなんで…」


小野「え~? ほんと向いてるのに、ガイドの仕事」


マリオ「小さい頃からじっちゃんや親父を見てたから何となくできてる感だしてる

だけっス」


 そう言うと、おもむろにドローンの準備を始める。


小野「どうするの? これから…」


マリオ「…就活っスかね~。気、進まないけど」


小野「就活ねぇ」


マリオ「って言ってもこの辺求人ないし…思いきって都会に出るしかないか~~」


 刹那、またも何者かの視線を感じ、


マリオ「! (四囲を見回し)???」


小野「マリオ君…?」


マリオ「ぁ…いや、何でも…」


 仕事に戻り、ドローンを手に歩き出す。


マリオ「皆さーん、ここで記念写真、撮りましょう!」


 ドローンを置くと、慣れた手つきでコントローラを操作するマリオ。


男の子「ドローンだ!」


女の子「ドローンだ!」


 勢いよく上昇していくドローン。


男の子&女の子「わぁ…」


マリオ「あいつの方に向かって笑顔、お願いします。行きますよ、ワン、ツー、マ

ンマミーア!」


 笑顔で写真に納まる一同。


□ 熱帯雨林(早朝)


 森林とその中を流れる川の風景(俯瞰)。顔を出したばかりの朝陽が、美しい色に染め上げている。


□ マリオの家・全景(同)


 家もまた朝焼け色だ。


□ 同・マリオの部屋(同)


 もぬけの殻のベッドをポカン、と見ているマリオの父。


マリオの父「…ったく、休みの日に限って早起きか。…大丈夫かねぇ」


 20年前の家族写真の方を見る。亡き妻(マリオの母)の顔がアップになって、


マリオの父の声「(かぶって)マリア、ゴメンな…。ひとりでもちゃーんと育てるからって、おまえと約束したのになぁ…」


□ 熱帯雨林・中(同)


───をひとりで歩いているマリオ。


 マリオの操作で、高所、木々の間を縫うように飛んでいるドローン。


マリオ「キング…姿を見せてくれ…」


 見守る画像の中、何種類もの鳥や、小動物や昆虫、爬虫類などが横切ったり映

ったりする。だが、オウギワシの姿は一羽も映らない。


    ×    ×    ×


───ドローンが苔生した大木の上に置かれている。


 そのそばに座り、朝ごはん代わりのピラルクサンドにかぶりついているマリオ。


マリオ「うま! やっぱうまいわ、じっちゃんレシピのピラルクサンド」


    ×    ×    ×


───マリオの回想(6歳の頃)。


 同じ場所に祖父と並んで座り、同じようにピラルクサンドにかぶりついている幼いマリオ。


 祖父、そんなマリオを嬉しそうに見て、


祖父「うまいか」


幼いマリオ「うまい!」


祖父「そうかそうか…」


 そして眼を瞑りゆっくりと深呼吸する。


幼いマリオ「…?」


 祖父、深呼吸を終え、


祖父「うまい!」


幼いマリオ「じっちゃん何も食べてないじゃん」


祖父「空気がうまいんや」


幼いマリオ「空気が…?」


祖父「ここの森はな、呼吸しとる。呼吸といっても人間のとは違うで。悪い空気を吸って、上手い空気を吐き出してくれとるんや」


幼いマリオ「わるい空気をすってうまい空気をはきだして…」


祖父「すごいやろ? 森が地球を生かしてくれとるんやで。ありがたいやろ? 大切にせなあかんで。ほら、森にありがとう、や」


幼いマリオ「(四囲の森に向かって)ありがとう」


祖父「ええ子やな、ヨシヨシ(撫で撫で)」


幼いマリオ「(空を見上げ)キング!」


 その場に立ち上がり、


幼いマリオ「キングー! ここだよー!!」


 瞳キラキラ大はしゃぎ!


祖父「お、おい滑るぞ、飛ぶのやめぇ、ほら」


 森の中まで降下してくるキング。近くの木の枝に止まり、マリオと祖父を王者の風格で見下ろす。


幼いマリオ「ボク、ずっとずっとまってたんだよ! ね、じっちゃん、まってたよ

ね!」


祖父「わかった、わかったから少し落ち着け」


キング「キィァ───ッ!」


幼いマリオ「(真似して)きぃぁぁぁぁぁッ!」


キング「キィァ───ッ!」


幼いマリオ「きぃぁぁぁぁぁッ!」


    ×    ×    ×


───戻って、


 眼を瞑り、ゆっくり深呼吸するマリオ。やがて眼を開け、


マリオ「うまい!」


 にっこり笑うと森へと呟く。


マリオ「ありがとな」


□ ドローンが映している映像


───を見ながら歩いてるマリオ。


マリオ(モノローグ)「キング、おまえみたいな森の王者が、そう簡単に絶滅するわけない…。おまえはどこかで生きてる…俺は信じてるからな!!」


 と、突然映像に人間の男たちが映り込む。ハッと我に返るマリオ。


マリオ「!?」


 その辺りだけ木々が伐採され、大きな穴が掘られた金の違法採掘場だ。そばには、採掘物から金を抽出する為の工場のような建物もある。


マリオ「金の採掘場…!? ここ、採掘禁止地域のはずだけど…」


 刹那、マリオに気づく男たち。


男A「何だおまえ?」


 皆がマリオの方を向く。


男B「(気づき)ドローン!?」


男A「撮影してるのか!?」


マリオ「ぁ…いえ、その…」


男B「ヤバいぞ、俺たちのことバラされたら」


マリオ「(小声)マンマ・ミーア」


 素早くドローンを操作する。


男A「追え!」


 ダッと逃げ出すマリオ。落ちてきたドローンをキャッチし、全速力で木々の中を逃げていく。


 すぐに追ってくる男たち。手に手に銃などを握りしめている。


 必死に逃げるマリオ。


 追う男たち。


 逃げるマリオ。


 男たち、追いながら銃を撃つ。


 次々とマリオを掠めるように飛び交う銃弾。


マリオ「ヤバいヤバいヤバいヤバい…」


男A「……」


 銃から、背負っていたランチャーに持ち替えるやマリオに狙いを定める。照準内に捉えられるマリオの後ろ姿。


男A「…」


 トリガーが引かれようという瞬間、


オウギワシの声「キィァ───ッ!」


マリオ「!!(思わず立ち止まる)」


 超スピードで空から舞い降りてくる一羽の巨大なオウギワシ(俯瞰)。


男A「(見て驚愕)なッ!?」


マリオ「キング!!」


 鋭い翼で男Aに体当たりするオウギワシ。


男A「わぁッ!(吹っ飛び倒れる)」


男B「う、撃てッ!」


 一斉にオウギワシに銃を放つ男たち。が、オウギワシは身軽な動きで弾丸を避けつつ飛んで、


オウギワシ「キィァ───ッ!」


 鉤爪でリュックを掴むや、マリオを大空へ連れ去っていく。


マリオ「おわッ! とと…」


 眼下に広がる採掘現場の全景───


マリオ「あいつら、こんなに森を傷つけて…」


オウギワシ「(も眼下を見ている)……」


 広げた翼が5メートルはありそうなオウギワシだ。


マリオ「(オウギワシを見て)……」


□ 森の中・苔生した大木の上


───にマリオを下ろすオウギワシ。


マリオ「……」


 そのまま降りることなく、飛び上がろうとするオウギワシ。


マリオ「待ってくれ!」


 言葉がわかったかのように羽ばたくのをやめ、大木の上に着地するオウギワシ。


マリオ「君は…誰?」


オウギワシ「…」


マリオ「はじめはキングかと思ったけど、そうじゃない。猛禽類最大のオウギワシとはいえさすがに大きすぎる。ありえない」


オウギワシ「…」


マリオ「(ふいに微笑み)ありがとう」


オウギワシ「…」


マリオ「おかげで助かった。君は命の恩人だよ」


オウギワシ「…」


マリオ「もう一度訊く…君は、誰…?」


オウギワシ「…」


 次の瞬間、覚悟を決めたように、


オウギワシ「キィァ───ッ!」


 マリオの目の前でオウギワシが一体のロボットの姿にメタモルフォーゼする。


 翼がロボットの背中に連なる重機等のアタッチメントへ…筋肉質な世界最大猛禽類の身体は、シャープな金属のボディへ…


マリオ「!!!」


 そして現れるMIRUの全貌。


マリオ「ロボット…!?!?」


MIRU「───俺は…『MIRU』」


マリオ「『MIRU』…?」


MIRU「……」


マリオ「俺はマリオ」


MIRU「……」


 次の瞬間空へ飛び立つ。


マリオ「あッ!」


 凄まじいスピードで空に飛び込み姿を消すMIRU。


マリオ「MIRU! ちょっ待ってくれ!!!」


 叫び声が虚しく空に吸い込まれていく。


□ マリオの部屋(深夜)


 ノートパソコンをパタン、と閉じるマリオ。


マリオ「出てこねぇ───ッ!!」


 そのまま突っ伏し、


マリオ「あいつのこと、どこかで誰かがポストしてるかもってったけど、欠片もひっかからない…」


    ×    ×    ×


 脳裏に鮮やかに蘇るMIRUの姿と声。


MIRU「───俺は…『MIRU』」


    ×    ×    ×


 パソコンを離れ、ベッドに仰向けに倒れこむマリオ。


マリオ(モノローグ)「MIRUって一体何者なんだ? なぜ俺を助けてくれた? あいつがいなければ俺、今頃この世にいなかった…。なぜ俺は今生きている? MIRUが助けてくれたからだろ。それはわかってる。だから、なぜMIRUは助けてくれた? まさか、あいつは神なのか? だから森の守り神であるオウギワシの姿に変身して現れたのか? いや、あいつ=神は飛躍しすぎだろう…」 


 頭の中がぐるぐるぐるぐる───


マリオ、突然ガバッと起き上がり叫ぶ。


マリオ「なーんもわからねぇ───!!!」


□ 父の部屋(同・深夜)


 ひとりで寝ていた父親がビクンと動く。


□ マリオの部屋(同・深夜)


 マリオ、自棄になって、


マリオ「もーやめやめ! わからないことをいつまでも考えても仕方ない。とりあえず、俺にできることから……」


 ノートパソコンを、今度はベッドの上に持ち込み、検索サイトを開く。


マリオ「森林保護…団体…と」


 エンターを押す。


 検索される様々な情報。続いて地図を開くマリオ。地図上に、森林保護団の場所が示される。その上に書かれた『RAIN FOREST PROTECTION』の文字。


□ 森・中(次の日)


 昨日マリオを追いかけた男たちのうち何人かが、木を違法伐採している。そこへ様子を見にくる男A。


男A「おいおい、まだこれしか進んでないのか? 急いで新しい現場を作って金を移さねぇと…ボスが怒り狂うぞ」


男B「仕方ねぇだろ、これっぽっちの人数じゃ…(仲間たちに)なぁ」


 頷く仲間たち。


男A「そういう時は頭を使うんだよ、頭を」


 周りを見渡し、


男A「あるじゃないか、いーものが」


 キャンプなどで使うより大きめのハンディガスバーナーを見つけ手に取る。


男A「一本一本切ってるから時間をくうんだ。これを使えば…」


 スイッチON。ハンディバーナーから噴き出す炎。


□ 『RAIN FOREST PROTECTION』と書かれた建物・全景


大きな敷地の中に立つ、どこか未来的な研究施設を思わせる建物だ。


□ 同・中


 大きなスクリーンと最新機器や計器が整った研究室───。


 と、マリオと入ってくる職員のクララ・シルヴァ。ここの制服姿だ。


クララ「本当に助かります、デブリットさん。『金』の違法採掘の情報はなかなかここまで届かなくて…。あなたの勇気に感謝します」


マリオ「勇気とかほんと、そんなんじゃなくて…」


クララ「クララです。クララ・シルヴァ」


マリオ「シルヴァ…さん」


 クララ、スクリーンに歩み寄り、


クララ「ここ、『RAIN FOREST PROTECTION』では『人工衛星画像を用いて違法な採掘や伐採などの犯罪行為を監視したり、野生生物 の密猟や密漁を防いだりしているの」


 スクリーンの前の椅子に座り、機器を操作するクララ。スクリーンに次々現れる画像を目を丸くして見つめるマリオ。


マリオ「すげぇ…。森林保護団体の施設がこんなに進んでるなんて…」


クララ「森林保護は地球の生命に関わる仕事だもの。何より優先されてしかるべきだって私は思っているわ。保護の為の新法の成立を国に働きかけたりもしてるの」


 一瞬真剣なまなざしをマリオに向け、


クララ「ただ待ってるだけじゃ、守れないから」


 クララの熱さに一瞬言葉を失うマリオ。


クララ「それじゃ、あなたが昨日見たという違法採掘現場がどこか特定しましょう」


マリオ「は、はい」


 その時、大きく響く非常事態を知らせるサイレン音。


クララ&他の職員たち「!」


 途端に室内が慌ただしくなる。


マリオ「な、なになになに!?」


クララ「(テキパキ)今のは山火事が起きたことを知らせるサイレンなの」


 言いながら熱帯雨林の人工衛星画像を大映しにする。その中に一か所小さな赤い点が見える。


クララ「まだ燃え始めたばかりみたい…」


 その場所に画面をズームさせるクララ。見ていたマリオ、ハッとなって、


マリオ「ここ…昨日俺が見た採掘現場の近くです!」


クララ「確かですか? この画像、はじめて見た人にはわかりにくいのだけど…」


マリオ「俺、ツアーガイドやってるんです、熱帯雨林専門の…」


 画像を確かめながら、


マリオ「ここが川の中州でこうきてこう…間違いありません!」


□ 山火事・現場


 瞬く間に燃え広がっていく炎───男たちは既に逃げたらしく姿はない。


□ 研究室


───に戻って。


 繰り返される緊迫したアナウンス。


アナウンス「山火事発生、MDN―H出動願います。MDN―H出動願います…」


クララ「ごめんなさい、デブリットさん。後ほど必ず連絡しますので」


マリオ「(逡巡)ぁ…」


 急ぎ立ち上がるクララ。


マリオ「(思わず声が出る)待ってください!」


クララ「?」


マリオ「一緒に行かせてください」


クララ「でも…」


マリオ「俺、子供の頃からずっと森で遊んでて」


 脳裏を過る、森とその中を滑空するキングの姿 (イメージ)。


マリオ「今も毎日のように歩いています…」


 炎に包まれていくイメージの森。


マリオ「失いたくないんです…」 


───キングに迫る森の炎。


マリオ「『森』を…」


クララ「(逡巡)…」


マリオ「それに…」


 真剣なまなざしで、


マリオ「『待ってるだけじゃ守れない』…んですよね?」


クララ「───わかったわ。来て」


□ 同・屋上


───から飛び上がるMDN―H。操縦しているのはクララで、


クララ「飛ばすわよ!」


 超スピードで飛ぶMDNーH。


マリオ「うぁぁぁぁ………」


□ 空 


燃えている森の上空から、消火薬品を撒きつつ飛ぶMDNーH。薬品の力で弱まる炎。


マリオ「(希望)やった…」


 だが、炎は再び勢いを増してしまう。燃え上がる炎、炎、炎、炎───


マリオ「クッ…炎が強すぎる…」


 と、突然旋回するMDNーH。


マリオ「わッ!」


クララ「給水します!」


マリオ「給水?」


クララ「このヘリは自己給水ポンプを搭載してるの。とにかく、応援が来るまで被害を最小限に防がないと…」


マリオ「それなら北西方向に飛んでください。その辺りが一番水深が深いんです。それに、ヘリが発着するのにちょうどいい大きな中洲があります!」


クララ「(微笑み)さすがツアーガイドね」


□ 川の真ん中にある中洲


 着地し、給水しているMDN―H。クララを手伝っているマリオ。


□ 山火事


 再び山火事の上から水を撒くMDN―H。が、この水量では焼け石に水でしかない。


マリオ「ダメか…」


クララ「諦めちゃダメ」


 再び向きを変えるヘリコプター。


クララ「もう一度給水を…」


 眼下…先程より広い範囲が燃え盛る炎に包まれている。


マリオ「(ショック)……」


 脳裏を過る、キングと毎日会っていた幼い頃の森の姿───


マリオ「(同)…守り神の森が……」


 炎、炎、炎…から目を離せなくなる。


マリオ「大切な…キングの……」


 ついに炎に吞み込まれてしまうキング。絶望の思いの中声を限りに叫ぶマリオ。


マリオ「助けてくれ、MIRU───ッ!!!」


□ 空


───遮る煙のベールを切り裂き、舞い降りてくるMIRU。


 ヘリの横に並び浮かぶ。驚くクララ。


MIRU「俺に乗れ、マリオ」


クララ「しゃ…しゃべった???」


 安全ベルトを外し始めるマリオ。


クララ「デブリットさん、何を…」


マリオ「うまく説明できないけど、俺は大丈夫です! MIRUが一緒なら」


クララ「まさか…知り合いなの…?」


マリオ「みたいなもんです。あなたは早く安全なところへ移動してください!」


 そう言うと、MIRUに飛び乗るマリオ。


クララ「ちょっと!!」


 マリオ、操縦桿か何かのようにMIRUのアタッチメントにつかまり、


マリオ「MIRU、山火事を消したいんだ。どうすればいい?」


MIRU「おまえの考えは?」


マリオ「とにかく大量の水が必要だ」


MIRU「了解」


 超スピードで飛行開始するMIRU。


マリオ「わぁぁぁぁ───ッ!!!」


 吹っ飛ばされないよう、必死にMIRUにしがみつく。


 眼下の景色が飛ぶように流れる。


マリオ「速ッ…」


 と、今度は突如急降下するMIRU。


マリオ「わ、わわわぁぁぁ~~~ッ…」 


 そのままの勢いで川に飛び込むMIRU。


 派手な水柱が立ち昇る。


 弾みで水中に放りだされてしまうマリオ。


    ×    ×    ×


───川・中。


 何とか態勢を立て直そうとジタバタしているマリオ。と、次の瞬間下方からMIRUがマリオを乗せ浮上していく。


 やがて川面に浮かび上がってくるふたり。


マリオ「ぷは~ッ……」


 呼吸を整えるマリオ。


マリオ「(MIRUを見て)!!」


 なんと、MIRUはアタッチメントの一部をスクリューのように使い、超スピードで川を突き進んでいる。


マリオ「すげぇ…」


 それだけではない。MIRUは別のアタッチメントを利用し、移動しながら水を集め、集めた水を後方、宙に浮かび上がらせながら移動している。(※水をゼリー状にして運んでいる)


マリオ「ど、どうなってるんだ!?」


MIRU「…」


 どんどん水量が増し巨大化していく水のゼリー。近づいてくる山火事の現場立ち込める煙で見えなくなる周囲の視界。


マリオ「ごほッごほッ…」


MIRU「マリオ、俺が『今だ』と言ったら、少しの間、息をとめていてくれ」


マリオ「わ、わかった…ごほっ」


 さらにスピードを増すMIRU。


MIRU「…今だ!」


 川面から空へと飛び立つMIRU。マリオを乗せ、凄まじい大きさの水を従えての大大大……々ジャンプ!!


マリオ「(息を止め)!!!」


 華麗なジャンプで山火事を飛び越えるMIRU。そしてタイミングを計り、


MIRU「!!」


 水をゼリー状から元へと戻し、山火事へと落下させる。


 山火事の炎に落下していく水、水、水………!!!!! 


 まるで爆弾が落下したかのように、凄まじい煙と炎が立ち昇り、空を焦がす。が、その時MIRUはすでに山火事上空を通過し終えている。立ち込める煙の中から微かに鎮火した森が見える。


MIRU「消えた…!!」


 その瞬間、スクリューを格納し、航行形態からいつもの飛行形態に戻るMIRU。弾みで落ちそうになるマリオ。


マリオ「っとっと…」


 が、何とか、背中にしがみつく。

マリオ「……ふぅ」


マリオを背に乗せたまま、大きく旋回して飛ぶMIRU。


 そんなMIRUを見て───


───オウギワシMIRUを思い出すマリオ。


 マリオ「(微笑み)ありがとう、MIRU。また君に助けられたよ…」


MIRU「……」


マリオ「ねぇMIRU、本当に君、何者なんだ? 昨日は神様なのか? って思ったけど、今はそうじゃないと思う。だからって何かわかったわけじゃないんだけど…」


MIRU「俺は…全ての時を未ル者…そして、人と共に未来を創ル者…」


マリオ「未来を創ル…」


MIRU「俺は…おまえの未来に賭けた…」


マリオ「俺の…未来…!?」


MIRU「───今にわかる」


マリオ「何だよ、それ」


MIRU「……」


マリオ「ま、いいや。MIRUはMIRUだ」


MIRU「俺は俺…」


マリオ「そ、俺は俺、俺も俺」


MIRU「……」


 ふと、未来を覗き視るMIRU。そして微かに笑みを浮かべる。


マリオ「ぁ・・・MIRU、もしかして今何か見た?」


MIRU「───蝶のはばたきを……」


マリオ「蝶のはばたき…」


□ 熱帯雨林・全景


テロップ『数年後───』


□ 同・森の中


 森林保護団体職員となって数年経ったマリオがひとりで歩き、視察している。通信機から流れるクララの声。


クララの声「どう? マリオ。何か変わったことは?」


マリオ「ないねクララ。今日の森は平和そのもの…。あちこちでヘラクレスが闘っている以外は」


クララの声「平和だねぇ」


マリオ「あ、そういえばもうひとつ…」


クララの声「なになに?」


マリオ「カワイルカが赤ちゃんと泳いでた。今日見た三つの群れ全部でね」


クララの声「ちょっとそれ、すごい変化じゃない! 早く教えてよね!!」


マリオ「わりぃわりぃ」


クララの声「増えたねぇ、カワイルカ」


マリオ「ヘラクレスやアクティオンもな」


 その時!


オウギワシの声「キィァ───ッ!」


マリオ「!!」


 声のする空を見上げるマリオ。一羽のオウギワシがゆっくり・・・旋回しなが

ら降下してくる。


 一瞬、オウギワシにイメージのMIRUがダブり重なる。


マリオ「!?」


    ×    ×    ×


 脳裏にフラッシュする、MIRUとの別れの瞬間(数年前)。


MIRU「私についての記憶を消去する。君からも、MDN―Hのパイロットからも」


 MIRUに触れられた途端訪れた闇───


    ×    ×    ×


マリオ「(茫然)なんだ今の???」


オウギワシの声「キィァ───ッ!」


 再び空を見上げるマリオ。今やハッキリ見えるキングの姿───


 満面笑顔になるマリオ。幼い頃の面影が笑顔に浮かぶ。


マリオ、両腕を思いっきりオウギワシの方へと伸ばし、


マリオ「(大声で)おかえり、キング! 俺、ずっとずっと待ってたんだぞ!」


キング「キィァ───ッ!」


マリオに応えて鳴くキングで───


           ( END )


【TVアニメ『未ル わたしのみらい』について】

5つのスタジオがオムニバス形式でお送りする新作オリジナルアニメ『未ル わたしのみらい』。

ロボットと人間の出会いを描く物語。


Episode 101「The King of the Forest」

https://miru-anime.com/episode101/


公式サイト:https://www.miru-anime.com/

公式X:https://x.com/miruanime_info(@miruanime_info)

公式note:https://note.com/miruanime_info


【放送情報】

2025年4月2日(水)よりTV放送開始!!!

MBS:毎週水曜26:30〜

TOKYO MX:毎週木曜22:00〜


【キャンペーン情報】

脚本の公開を記念し、『未ル』公式Xでは脚本感想投稿キャンペーンを実施します!

公開された脚本をお読みいただき、対象の投稿に引用リポストで感想文を投稿すると、抽選で1名様にEpisode 926「待ってて、今行く」のキャラクターデザインを担当する西位輝実さん直筆のアイルの色紙をプレゼント!


キャンペーン概要については下記のURLをご覧ください。

https://yanmar.com/jp/about/campaign/2025/03/miru/01/

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