Episode 079「スターダストメモリー」
脚本:平野靖士
登場人物:
ヨシムラ(宇宙飛行士)
ナガハマ ウミ(女性宇宙飛行士)
MIRU (ロボット・ミル)
カレン (ヨシムラの娘)
サンダース(宇宙飛行士)
ジャクソン(ヨシムラの上司)
SDKの声(AIコンピュータ)
ナレーション
□ バタフライエフェクトのイメージ
草原で蜜を吸っていた一匹の蝶が羽ばたいて飛びあがると、近くで草を食んでいた草食動物が驚いて飛び跳ね、それをきっかけに離れていた場所で眠っていた肉食動物が目覚めて、草食動物に狙いを定めて動き出す。
その動きに気づいた草食動物たちが一斉に逃げ出すが、反対側からも肉食動物たちが現れ、パニックになった大勢の草食動物たちは円を描くよう土煙をあげて狂走していく。円状の土煙が上空へ舞い上がり、上昇気流となり、海を渡りながら巨大な積乱雲に成長し、大陸へ上陸して大地に竜巻を巻き起こしていく。
ナレーション「ブラジルの小さな蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすか?これをバタフライエフェクトと言う」
□ 宇宙空間
ナレーション「(続けて)些細な出来事が連鎖して、世の中に大きな影響を与え、歴史さえ変えるかもしれない。そんな事件はいつでも起きている。宇宙空間でも、小さな蝶のようなスペースデブリが事件を起こした」
地球周回軌道上を小さなスペースデブリが群れをなして飛んでいる。そこへ小石のような隕石が飛来してきてデブリの一つに衝突。衝突されたデブリの軌道が変わり、人工衛星へ向かっていく。
小さなデブリは衛星に衝突。電気系統が小さくスパークし、制動制禦が狂って衛星は噴射しはじめ、奇妙な回転をしながらその場から転がるように飛び去る。衛星は猛烈な勢いで小型宇宙作業艇へ向かっている。
作業艇の操縦席に、窓外を見て、目を見開き驚愕している女性宇宙飛行士 (ヨシムラ・カレン)の姿。 彼女を狙うかのようにぶっ飛んでくる衛星。衝突し、破裂して四散する小型作業艇!カレンは宇宙空間へ放り出される(首から小さな物――お守り袋だがここでははっきり見せない)――が離れていく。深遠の闇へ消えていくカレン――
ナレーション「不運の連鎖は一人の女性宇宙飛行士を帰らぬ人にした……それから一〇年」
彼女が消えた宇宙空間は何事もなかったかのように静かで、地球の向こうから眩い太陽が現れてくる。そこに人影が幻影のように現れる(MIRUの影だがはっきりとはわからない)。神々しく見えるその幻影の後光が、虹を放射状に描いたデザイン画に変化して ―
□ 国際宇宙ステーション
ヨシムラの個室モニターに虹のデザイン画をロゴマークにしたニュースサイトの映像が映っている。画面の英字ニュースには各地の紛争の危機や異常気象などの動画が映っている。
画面を見ているわけでもない初老の宇宙飛行士ヨシムラが、二日酔いの頭を抱えている。
ヨシムラ「くそっ……」
着信音がして、モニターが通信に切り替わり、管制室の若い宇宙飛行士サンダースが画面に映る。
サンダース「ヨシムラさん、起きてます?」
ヨシムラ「あん……? なんだ?」
サンダース「なんだじゃないですよ。時間スよ」
ヨシムラ「わかってる。いま行く」
サンダース「今日から一緒の新人。若い女性ですよ。嬉しいでしょ」
ヨシムラ「新人……?」
サンダース「聞いてませんか? 昨日のシャトルで到着して、今日から着任って報告がいきなり来たんですけど。彼女、自分から志願したそうですよ。物好きスよね」
ヨシムラ「なにが?」
サンダース「あ、いえ、なんでもないッス」
サンダースを睨むヨシムラの顔の近くに、無重力でウォッカのミニボトルが浮遊してくる。
サンダース「まさか二日酔い?」
ヨシムラ「(ミニボトルをサッと隠し)そんなわけないだろ。五分で行くとその新人に伝えとけ」
と、もう一本のボトルが浮いてきて、慌てて掴み取り、ニヤリと笑いかけてモニターを切る。
鏡で顔を見て、息を確かめ、デオドラントのスプレーをふきかけるヨシムラ。
□ 同・通路
――無重力の中、やってくるヨシムラ。少しフラついており、曲がり角で壁に頭をぶつけたりしている。
ヨシムラ「痛て……くっそう……それにしても……!」
□ ヨシムラの回想
ヨシムラ「引退しろだって!?」
ステーションの通信室で、ディスプレイに映るスーツ姿の上司ジャクソンにヨシムラは怒っている。
ジャクソン「おい。興奮するなよ」
ヨシムラ「興奮するな。冗談じゃない。スペースデブリはちっとも減ってないじゃないですか。だいたい、俺がいなきゃ、ここの仕事は回りませんよ」
ジャクソン「いや、君がいなければそこの仕事が機能しないわけじゃなくなってるんだ。君だって気づいてるだろ」
ヨシムラ「……まさかコンピュータにとって代わらせるんですか?」
ジャクソン「そのまさかだ。AIが君の仕事を覚えてしまった。いや、もはやそれ以上のことまで出来る。今後、スペースデブリの除去作業は機械に任せる」
ヨシムラ「人はもういらない?」
ジャクソン「いや。もちろん監視はつける。ただ君のようなベテランはもういらないってことだ」
ヨシムラ「……」
ジャクソン「この一〇年、君はよくやってくれた。我が社のシステムが進化したのも君のお蔭だ。そろそろ地上に降りて、こっちで定住したらどうだ。すぐに隠居しろとは言わない。こっちで後進の育成の仕事だってある」
ヨシムラ「イヤです! 引退なんて。機械任せにするなんて、賛成できません。デブリの除去は繊細なんです。機械だけじゃ無理だ」
ジャクソン「それに関しては一〇〇パーセント信頼できるとのテスト結果がでてる。心配は無用だ」
ヨシムラ「俺は信用できません。まだまだ俺は働けます。地上に降りるつもりはありません」
ジャクソン「ヨシムラ。これは決定事項なんだ。今更ゴネても変更はない」
ヨシムラ「……」
□ 宇宙ステーション・通路
ヨシムラ(モノローグ)「……チッ。俺は俺が育てた機械に追い出されるってことか……」
ヨシムラ、作業艇ドッキングボートへ向かっていく。
□ 同・作業艇ドッキングボート
入ってきたヨシムラ、宇宙服を着衣し、作業艇(SDK)のコックピットへ進入していく。
□ SDK・コックピット
二人乗りのスペースデブリ除去艇である。ヨシムラが乗り込んでくると、すでに若い女性宇宙飛行士ウミが、副操縦席に座っており、発進前のチェックをしていた。
ウミ「あっ。おはようございます!」
ヨシムラ「ああ……」
ウミ「初めまして。本日付けでこのスペースデブリ除去艇に着任しましたナガハマ ウミです。よろしくお願いしまーす!」
ヨシムラ「ヨシムラだ。よろしくな」
ウミ「会社からは副操縦士と言われていますが、仕事の引き継ぎを指示されてます」
ヨシムラ「引き継ぎ? チッ。手回しがいいな」
操縦席の計器盤の端に、古びた写真――笑顔のカレンが映っている。ヨシムラ、ウミが気づいていない様子なのを見て、写真を剥がして隠す。
ヨシムラ「発進準備は?」
ウミ「チェック完了です。再チェックお願いします」
ヨシムラ「ボートに聞いてみろ」
ウミ「え?」
ヨシムラ「こいつの名前はSDKだ」
ウミ「は、はい。SDK、発進準備チェックは?」
コンソールの各装置のランプが点滅。
SDKの声「オールチェック・コンプリート」
ヨシムラ「だそうだ」
ウミ「いいんですか? 訓練では必ず人がチェックしろと教わりましたけど」
ヨシムラ「その訓練、いつ受けた?」
ウミ「去年です」
ヨシムラ「だろうな。発進するぞ」
ウミ「あの。航路設定は?」
ヨシムラ「そいつもボートが知ってる。SDK、発進だ」
SDK「ラジャー」
SDKが管制室へ発進を報告し、管制コンピュータから発進のための技術的なメカ同士の応答があって――
□ 宇宙・地球周回軌道上
国際宇宙ステーションから、機体にSDKと名前を描かれたスペースデブリ除去艇が切り離され、バーニアを噴射して飛行しはじめる。
* * *
いくつかの人工衛星とすれ違い、SDKは逆噴射して停止する。
□ SDK・コックピット
SDKの声「SD遭遇予想地点到着です」
ウミ、窓外を見るが、なにも見えない。横ではヨシムラが居眠りしている。
* * *
宇宙空間――(以後、宇宙空間とコックピットのカットバック)SDKはハッチを開いて、作業アームを展開させていく。
* * *
コックピット――
ウミ「ヨシムラさん。ヨシムラさん」
ウミ、ヨシムラを起こす。
ヨシムラ「ん……? なんだ?」
ウミ「着きましたよ」
ヨシムラ「そうか。もう少し寝かせろ」
ウミ「ちょ、ちょっと! 起きてください」
ヨシムラ「なんだよ。俺は眠いんだ」
ウミ「真面目にしてください!」
ヨシムラ「なんなんだ?」
ウミ「私はヨシムラさんの仕事を覚えて、引き継がなきゃいけないんです。寝ないで教えてください」
ヨシムラ「教えることなんてなにもない」
ウミ「はあ?」
ヨシムラ「会社から言われなかったか? 今後、仕事は全部機械がやってくれるって。人は機械がやってくれることを見てりゃいいんだ」
ウミ「そんな」
ヨシムラ「それが現実だ。会社も機械を一〇〇パー信頼していいと言ってる」
ウミ「ヨシムラさんって、そんな人だったんですか?」
ヨシムラ「なにが?」
ウミ「もっと厳しい人だって聞いてました」
ヨシムラ「誰に?」
ウミ「いろんな人に」
ヨシムラ「ふーん。俺のクソオヤジ伝説を聞いてきたわけだ」
ウミ「え? クソオヤジなんですか?」
ヨシムラ「ん? お前、知らずに志願してきたのか?」
ウミ「はい」
ヨシムラ「若い奴らは、俺を若い子をたぶらかすクソ老害宇宙飛行士だとか言ってる。融通のきかない加齢臭くさいオヤジと一緒だぞ。それでいいのか?」
ウミ「知ってます」
ヨシムラ「は?」
ウミ「ヨシムラさんは、若い女性飛行士を照れ隠しでからかうって話。それに加齢臭っていうよりコロン臭いです。つけ過ぎ。あら? アルコールの臭いも?」
ヨシムラ「えっ?」
慌てて自分の臭いを確かめるヨシムラ。
ウミ「やだ。カワイイ!」
ヨシムラ「?」
ウミ「ウフッ」
ヨシムラ「うっ」
逆にからかわれてタジタジのヨシムラ。と、警告音がして、SDKの声「ターゲット接近。ポイント××××。レベル3」
* * *
宇宙空間――
数十個のスペースデブリ(以下、デブリ)が飛んでくる。
* * *
コックピット――
ディスプレイの照準器にデブリの軌跡が表示され、ロックオンされる。
SDKの声「ターゲット捕捉。除去作業に入ります」
ウミ、ヨシムラを見る。ヨシムラは『まあ見てろ』という感じでニヤリとなり、シートを倒してやる気なく寝そべる。
* * *
宇宙空間――
SDK、噴射と逆噴射を繰り返し、待機位置を調整し、アームを延ばして捕獲網を大きく広げる。数個のデブリの群れは、次々と捕獲網に飛び込んで捕獲される。
SDKの声「全デブリ捕獲。回収開始」
捕獲されたデブリ、SDKの格納部に回収されていく。
* * *
コックピット――
ヨシムラ「な」
ウミ「見てるだけ? ホントに?」
ヨシムラ「会社はそれでいいと言ってる」
ウミ「そうなんだ……」
ヨシムラ「そのうち人もいらなくなる」
ウミ「え? じゃあ私どうなるんです?」
ヨシムラ「知るか。いまから転職考えとくんだな」
ウミ「そんなぁ……あーあ。私もやる気なくなった……」
と、シートを倒して、ヨシムラと同じように寝そべる。
ウミ「もうちょっと緊張感のある仕事だと思ったんだけど」
SDKの声「回収作業完了。次地点へ移動します」
ヨシムラ「(急にシートを起こし)おい、何してる!? 次へ行くぞ!移動準備!」
ウミ「え!? は、はい!」
ウミ、慌ててシートを起こそうとするが、焦って起こせない。
ウミ「あれ? なんで?」
ヨシムラ、ウミのシートを起こしてやる。
ヨシムラ「なにやってんだ」
ウミ「す、すみません。移動準備できました……あれ?」
すでにSDKは移動を始めていた。
ヨシムラ「ハハハ。別に起きなくてもよかったんだ。ちょっとは緊張したか?」
ウミ「ヒド~い。からかったんですね」
* * *
宇宙空間――
移動していくSDK。
* * *
コックピット――
ウミ「ヨシムラさん。娘のカレンさんもこんな風にからかってたんですか?」
ヨシムラ「なんだと?」
ウミ「私と同じぐらいの歳だったはずです。一〇年前、亡くなったんですよね。スペースデブリのせいで」
ヨシムラ「……」
* * *
〈回想のフラッシュバック〉
デブリが静止衛星に衝突。スパークする制動装置。回転しながらへ突っ込んでくる衛星を驚愕の目で見ている作業艇内のカレン。
衛星と衝突した作業艇が破裂し、カレンが宇宙空間へ投げ出されていく。
* * *
ヨシムラ「……(ウミを睨む)お前」
ウミ「怒りました?」
ヨシムラ「どうして娘の話しをする?」
ウミ「ヨシムラさんは元々宇宙飛行士だったんですよね。カレンさんはそんなお父さんに憧れて、宇宙飛行士になった」
ヨシムラ「……」
* * *
〈回想のインサート〉
宇宙服を来た若きヨシムラが、幼い娘カレンを抱いて微笑んでいる。カレンの無邪気な笑顔。成長したカレンの家族写真や高校生活、大学卒業などがカットバックして、宇宙飛行士訓練生になったカレンの笑顔。
そして、発射台のシャトルを背景にした宇宙服姿のカレンにペンダントにしたお守りの小袋を見せ、首にかけてやるヨシムラ。ヨシムラの目に映る、宇宙飛行士カレンの自信に溢れた笑顔と生気に満ちたその 姿。
* * *
ヨシムラ「……」
ウミ「そんなお嬢さんの事故があって、スペースデブリ除去に志願したって聞きました」
ヨシムラ「だったらなんだ?」
ウミ「このボートの名前です。SDK。SDはスペースデブリ? じゃあKは何です?」
ヨシムラ「……」
ウミ「カレンさんのKでしょ。SDもスペースデブリじゃなくて、日本語でサがしダす(探し出す)ですよね」
ヨシムラ「!」
* * *
宇宙空間――
SDK、再び静止状態になって、作業アームを展開していく。
* * *
コックピット――
ヨシムラ「なんで知ってる?」
ウミ「そんなこと、どうでもいいでしょ。ヨシムラさんはカレンさんを探すために、スペースデブリの掃除人になったんですよね?」
ヨシムラ「……」
ウミ「だからでしょ? 妥協を許さない掃除人だったと聞いています」
* * *
宇宙空間――
デブリの群れが飛んでくる。その中に大きめのデブリもある。
ウミの声「若い飛行士たちに、人の目とデータの再確認が大事だ。機械任せにするなって、厳しく言ってたって」
SDKのアームが伸び、捕獲網が広がる。
ウミの声「なのに、いまは機械任せにしときゃいいって」
ヨシムラの声「そういう時代になっちまったんだ。上のお墨付きもある」
* * *
コックピット――
ウミ「本気ですか? ヨシムラさん、カレンさんを見つけなくていいんですか?」
ヨシムラ「……」
窓外の宇宙を瞶めるヨシムラ。
ヨシムラ「……お前が言うように、俺はこの一〇年、カレンを、いやカレンの遺品を探してた」
* * *
宇宙空間――
SDKへ飛んでくるデブリ群。
ヨシムラの声「カレンの何かが見つかる。そう思ってスペースデブリを掃除した」
デブリ群の行く先には捕獲網。
ヨシムラの声「しかし、見つからなかった。デブリは除去しても除去しても、どこかで新しいデブリが発生する」
網へ飛び込んでいくデブリ群。
ヨシムラの声「娘の遺品はその中に紛れ込んで、いまも地球を周回しているかもしれんがそれでいい。この宇宙が娘の墓だと思えばな」
小さなデブリがSDKのアームの角に微かに接触して軌道が変わる。
* * *
コックピット――
瞬間、ガシッと艇が揺れる。
ヨシムラ「……ん? さっきからSDKの声がしないぞ?」
ウミ「あっ!」
* * *
宇宙空間――
小さなデブリ、大きめのデブリに接触。大きめのデブリの軌道が変わる。
ウミの声「さっき、やる気なくしてシートを倒した時、SDKの音声を全部切ったの忘れてた!」
大きめのデブリ、網の横をすり抜け、遠ざかっていく。
* * *
コックピット――
ヨシムラ「なに?」
刹那、噴射音がする。
二人「!?」
* * *
宇宙空間――
逆噴射で艇尾を前にして発進するSDK。
* * *
コックピット――
ヨシムラ、慌てて、SDKの音声機能等を復活させると、機器が明滅して警報音が鳴り、
SDKの声「デブリ捕獲ミス。追跡中です」
ヨシムラ「なんだと!」
SDKの声「進行方向に気象衛星××××××。衝突確率はレベル5」
ヨシムラ「レベル5……回避不可能」
ウミ「そんな!」
ヨシムラがヘルメットを装着しだす。
ウミ「どうするんです?」
ヨシムラ「逃がした魚をとっ捕まえる」
ウミ「どうやって?」
ヨシムラ「フライフィッシングだ」
ウミ「え?」
ヘルメットを固定するヨシムラ。 ウミも慌ててヘルメットに手を伸ばす。
* * *
宇宙空間――
飛んで行くデブリを、艇尾を前にしたSDKが静かに追尾してくる(デブリの方が速い)。SDKの格納部のハッチが開き、作業アームのある荷台部に宇宙服のヨシムラが出てくる。
ヨシムラ、艇尾に装備してあった銛撃ち銃(銛の先端は尖っておらずトリモチ式になっている)を動かし、照準器をセットしていく。
* * *
コックピット――
操縦席でモニターに映るヨシムラの様子 を不安げに見ているウミ。
* * *
宇宙空間――
銛撃ち器の照準を飛んで行くデブリに合わせようとしているヨシムラ。飛ぶデブリの前方に小さく人工衛星が見えてくる。
照準器にデブリが捉えられるが、デブリの方が速く、どんどん遠ざかっていく。
ヨシムラ「ん? どうしたスピードを上げろ!」
SDKの声「燃料不足です」
ヨシムラ「馬鹿野郎! 何言ってる!」
SDKの声「これ以上燃料消費をすると、ステーションに戻れません」
ヨシムラ「そんなの関係ねえ!! ウミ! ボートを手動に切り換えろ!」
ウミの声「いいんですか?」
SDKの声「警告します。本社の許可なく手動操縦への切り替えは社則に反する行為です」
ヨシムラ「いいから急げ! デブリを追うんだ!」
* * *
コックピット――
ウミ、操縦パネルを切り換えていく。 警告を続けていたSDKの声が消えていき、ウミは噴射ボタンを押す。
* * *
宇宙空間――
SDKが噴射してスピードを上げる。デブリは衛星にドンドン近づいている。
ヨシムラが再び銛撃ち器の照準にデブリ を捉えようとしている。照準器の中にデブリが近づくが,その先に見えていた衛星も急接近している。
ヨシムラ「くっ!」
ようやくデブリが照準にロックオンされる。と、同時にトリガーを引くヨシムラ。トリモチ銛が発射され、ケーブルを曳きながらデブリへ飛んで行く。
トリモチ銛がデブリに追いついたと同時にデブリは衛星に接触。
ガシュ!(宇宙に音はないが……)
トリモチはデブリごと衛星にへばりついてしまい、デブリは衛星の電気系統を破壊してスパークさせている。
ヨシムラ「なにィ!?」
トリモチ銛が曳くケーブルで衛星と繋がってしまうSDK。
ヨシムラ「ボートを停めろ!」
SDK、静止するために逆噴射。が、衛星は電気系統の異常で、ジェット燃料を噴射して異常なマヌーバを起こす。
ヨシムラ「いかん! マヌーバを起こしやがった」
ウミの声「衛星が降下しはじめて、こっちも引っ張られてます」
ヨシムラ「逆に引っ張り返して、衛星を回収するんだ!」
* * *
コックピット――
ウミ、操縦装置を操作。
* * *
宇宙空間――
地球へ落ちるように近づこうとする衛星とケーブルで繋がったSDK、噴射を繰り返して、ケーブルを巻き取りながら衛星を近づけようとする。
ヨシムラ「よし。いいぞ」
が、衛星は別箇所の噴射を起こし、別方向へ移動しだす。
ヨシムラ「!?」
あっと言う間に衛星は、SDKのアームにケーブルを引っ掛かけてしまう。刹那、SDKが回転。ヨシムラは荷台から放り出されて、アームに衝突し、伸びた命綱が衝撃で外れてしまう!
宇宙に飛んで行きかけるヨシムラ、衛星に手をかけて、なんとか助かる。 その時、目の前の浮遊物に気づく。
カレンのお守りのペンダントだ。
ヨシムラ「!」
ヨシムラ、お守りを掴み取り、確かめる。
ヨシムラ「……」
* * *
〈回想のインサート〉
宇宙服のカレンにお守りペンダントを渡そうとしているヨシムラ。
カレン「なにそれ? お守り? パパったら」
ヨシムラ「ああ。気休めかもしれんが、つけてけ」
ヨシムラ、カレンの首にかけてやる。
カレン「ありがと。あたし、パパみたいに、りっぱな宇宙飛行士になるからね」
笑顔のカレン。
* * *
ヨシムラ「……カレン」
お守りを握りしめるヨシムラ。
ウミの声「ヨシムラさん! 制御できません! 燃料切れです!」
ハッとなったヨシムラ、自分がしがみついている衛星に繋がったケーブルを、アームに絡ませたSDKが、回転しながら地球へ降下している状況に気づく。
ヨシムラ「くっ。ウミ! コックピットを切り離して脱出しろ! そうすれば救助隊がきてくれる」
ウミの声「ヨシムラさんは?」
ヨシムラ「俺のことは気にするな。このままだと大気圏突入で、お前まで燃え尽きる!」
ウミの声「いえ。ヨシムラさんを見捨てては行けません!」
ヨシムラ「馬鹿野郎! お前まで巻き添えにできないんだよ! さっさと脱出しろ!」
その時、ヨシムラの視界に宇宙服の人影が入る。
ヨシムラ「?」
カレンの声「パパ。ダメ、死んじゃ」
ヨシムラ「カレン?」
ヨシムラ、幻覚を見せているのかと、手の中のお守りを確かめる。
近づいた宇宙服からウミの声「ヨシムラさん」
ヨシムラ「ウミ? お前、何しに!?」
ウミ「すみません。計算違いでした。ヨシムラさんが全部機械に任せても大丈夫だと強く仰られてたので。でも、こういう事態になったのは私の責任です。あとは私に任せてください」
ウミの全身が光を放ち、モーフィングしてロボットの正体(以下・MIRU)を現わしてくる。
ヨシムラ「なっ!?」
MIRU「私に掴まって」
ヨシムラ「あ、ああ……」
MIRU、ヨシムラを抱えて、宙へ浮かび、背中に作業アーム(これからの作業に必要な工具が装備されている)を何本か伸ばし、作業アームを駆使して、SDKのアームに絡んだケーブルと衛星を切り離し、作業アームを使ってSDKの姿勢を制禦して静止させる。
ヨシムラをSDKのハッチの中へ入れたMIRU、離れていく衛星を追いかけ、作業アームで捕獲して、SDKの方へ牽引してくる。
そして、ケーブルでSDKの荷台に固定していくMIRU。そんなMIRUをハッチの中にいたヨシムラがじっと見ている。
作業を終えて、背中のアームをひっこめ、ヨシムラに近づいてくるMIRU、神々しく光り輝いて女性飛行士のウミに変身する。
ヨシムラ「お前、なんなんだ? 神様か?」
ウミ「いいえ。私はMIRU。ヨシムラさん、バタフライエフェクトをご存じですか?」
ヨシムラ「バタフライエフェクト?」
ウミ「人は生きているだけで、少なからず未来に影響を与えています。もちろん、それにはいい影響も悪い影響もあります」
ヨシムラ「だから?」
ウミ「今後、世界はますます、貴方がいう機械、AIが全盛になるでしょう。でも、貴方のようなクソオヤジ、あ、失礼。頑固親父もこの世界には必要です」
ヨシムラ「クソオヤジが未来にいい影響を与えるのか?」
ウミ「ええ。私はそれを伝えにきただけです」
と、去ろうとするウミ。
ヨシムラ「ちょっと待ってくれ。これは偶然か?」
ヨシムラ、手の中のお守りを見せる。
ヨシムラ「娘は、カレンはいま天国にいるのか?」
ウミ「私は神ではありません。だけど、カレンさんが天国にいるとすれば、その天国は貴方の心の中にあるのではないでしょうか」
ウミは再びMIRUの姿に戻り、宇宙空間に消えていく。
ヨシムラ「……」
* * *
コックピット――
ヨシムラ、操縦席へ座り、ヘルメットを外す。
ヨシムラ「(深く息をつく)……」
パネルがランプを明滅させている。ヨシムラが操作すると、SDKが復活する。
SDKの声「キャプテン・ヨシムラ。貴方は許可なく私を遮断し、社則二五条a項に反して操縦機能を手動に切り換え……」
ヨシムラ「(SDKの機能をブチッと切り)何が社則だ。俺はそんなことを教えてないぞ。バカ野郎」
と、通信装置を操作する。サンダースがディスプレイに現れる。
サンダース「ヨシムラさん!? あっ、ヨシムラさん!無事ッスか!?」
ヨシムラ「ああ。一応な……」
サンダース「なにがあったんです? 一人で出かけて、突然、システムを切っちまうし」
ヨシムラ「ん? 一人で出かけた?」
サンダース「ええ。新人の女の子、置いてかれたって泣いてたッスよ」
ヨシムラ「……」
サンダース「ヨシムラさん、大丈夫ッスか?」
ヨシムラ「あ、いや。それより燃料切れだ。牽引をよこしてくれ」
サンダース「ええ!? ホントに何があったんです?」
ヨシムラ「報告はあとだ。とにかく、頼む」
通信を切ったヨシムラ、隠したはずのカレンの写真が、窓に貼ってあるのに気づく。微笑んでいる写真の中のカレン。ヨシムラ、お守りを握りしめ、胸をさする。
ヨシムラ「……」
そして、窓外の宇宙空間を見やり、
ヨシムラ「ふっ。これからもクソオヤジが必要か……仕方ない。鬼教官にでもなって、若い奴をビシビシ鍛えてやるか」
□ 宇宙空間
浮遊するSDK。
ヨシムラの声「よーし、やる気が出てきたぞ! 早く迎えに来やがれ!」
美しい地球がそこにある――。
――エンド
【TVアニメ『未ル わたしのみらい』について】
5つのスタジオがオムニバス形式でお送りする新作オリジナルアニメ『未ル わたしのみらい』。
ロボットと人間の出会いを描く物語。
Episode 079「スターダストメモリー」
https://miru-anime.com/episode079/
公式サイト:https://www.miru-anime.com/
公式X:https://x.com/miruanime_info(@miruanime_info)
公式note:https://note.com/miruanime_info
【放送情報】
2025年4月2日(水)よりTV放送開始!!!
MBS:毎週水曜26:30〜
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