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冬の王と春呼ぶ少女  作者: 高瀬あずみ


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8/8

8.吹雪の王を諫め、ふたりで家に帰ること。

メーリヒ:ゲルトたちの住む街

アッフェンバル:辺境伯家。当主はディートヘルム(婿養子。南の公爵家の三男)。妻はエルメンガルド(家付き娘)息子はクリスティアン。

ヴォルケンシュタイン:侯爵家。当主はヒルデブレスト。兄はエグモント。


 わたしたちが連れて来られたのは、お城の塔のひとつだった。その天辺の部屋には屋根はあっても壁がない。つまり、ほぼ外。寒い。ただ、見晴らしはとても良かった。空は重く、今にも雪が降りそうだけれど。


 部屋の中央に、吹雪のかたまりがあった。丁度、人ひとりを覆うくらいの。

 それを手で示して、侯爵があっさりと言い放った。

「これがスキルを暴走させ、権能を歪ませている兄だ。当然、こちらの話なぞ通じない」


「これじゃ、僕が話しかけても無理みたいですが」

 カミルが困ったように眉を寄せる。だから、わたしは繋いだカミルの手に力を込めた。こんな顔させたくない。


「そのためにわたしがスキルを貰ったんだと思うよ? ね、守護さま?」

『ああ、きっとそのためだろう。友よ、今一度使ってみせよ』

「うん!」


 カミルの氷を無効にしたから、もうどうすれば良いかは分かっている。この吹雪はわたしの呼ぶ春でおいはらわなきゃいけない。自分の中のスキルの中のスキルを意識して。吹雪へと手を伸ばした。


「ここに春を。吹雪からの解放を」


 カミルの氷を、そして今、この小さな吹雪を。追いやるために必要だった、わたしのふたつめのスキル。それは『春呼び』という名前で、わたしが触れた部分を春にする。凍らない春。吹雪かなない春。穏やかな春。あたたかな春。


 何かがごっそりと抜け落ちてか、吸い取られた気がする。カミルを起こす時は夢中でどうだったかは覚えていないけれど、足に力が入らなくなって、立っていられなくなった。

 すかさずカミル――では無理だったのでグリフォンが支えてくれる。

『よくやった、友よ』


 視線を吹雪があったところに向けると、侯爵よりも年上の男の人がまだ夢の中にいるみたいなぼんやりした顔でつっ立っていた。



「ゲルトよ、感謝する。

 兄上、ヒルデブレストです。そしてあなたの息子のカミルを紹介いたします」

 侯爵がカミルの両肩に後ろから手を置いて、吹雪から解放されたばかりの人に向かって話しかけた。その人の視線がまず侯爵に、そしてカミルへと落ちる。

「ヒルド……? 濃い血縁を感じる子供……?」

「はじめまして、父さん? フリーダの息子、カミルです」


 三人が並んでいると、たしかにとても似ていて。カミルの髪はフリーダおばさんと同じだけれど、瞳の色は三人一緒でお揃いの暗い蒼だった。


「フリーダの? わたしの……息子?」

「そうです、兄上。フリーダ義姉上はこの子を産み育てていたとか。亡くなっていたのいうのはどうやら間違いで、今はメーリヒにお住まいだそうです」

「生きて……? フリーダが?」


 『鳥の友』よりも『春呼び』はとても私を疲れさせた。兄弟のやりとりを眺めている間、私の背はグリフォンで暖かいけれど、それでも塔の上はいっそう風が冷たくて。凍えそうな風を顔に受けてくしゃみが出た。


「ゲルト! 風邪ひいたんじゃない? 大丈夫? 叔父さん、父さん、先に中に入りますよ」

「ああ、兄上も解放されたことだ。いつまでもこんなところにいる必要はないな。ほら、兄上も」

 グリフォンにわたしはまた乗せられ、全員で先程までいた侯爵の私室まで引き返した。




 暖かい部屋で、改めて温かい飲み物が振る舞われて。胃の中からじんわりと温まって、ようやく落ち着く。

 長椅子に横たわらされて毛皮で包まれているカミルのお父さんも顔色が良くなった。そして目がずっとカミルを追っている。スキルはもう暴走していない。心は閉ざされていない。普通ならば初対面の十歳の子供が自分の息子と言われてすぐ信じるのは難しいだろうけれど、貴族の血のせいか、それはあっさり受け入れたようなんだけど、視線が離せないみたいだった。


 ただ申し訳ないけれど、カミルは実の父親じゃなくて、ずっとわたしの方を見ていて、まったく反応してあげていないんだけどね!



 そこで簡易の親族会議になって、カミルのお父さん、エグモントおじさんからヒルドおじさん――侯爵のこと――に指輪が渡されて、正式に爵位が譲られた。その指輪が当主の証で、持ち主が領地の権能を使えるようになるんだって。



 エグモントおじさんは、自分の持っていたスキルを使い切ってしまって、失った状態らしい。身体もすっかり弱って、回復は厳しいみたい。それに、自分が恐慌状態に陥ったことで周囲にどれほど被害を与えたかを知って、自ら爵位を手放したって。まあ? 王様がもうヒルドおじさんにって命令しちゃってるんだけど。でも体力も本当になさそうだし、領主として働くのも無理っぽいから順当?


 で、本当はフリーダおばさんに会いたくて仕方ないけれど、これだけのやらかしをした自分には会う資格がないって言ってるみたい。スキルの暴走で生命力も削り切っているから、自力でメーリヒまで行けそうにないんだけど。戻ったら、フリーダおばさんには事情を話すし、それからどうするかはおばさん次第じゃないかな。


 カミルも呼ばれて、親子で少し話したみたいだけど、笑顔で首を振っていた。わたしには分かる。おじさん、カミルに切り捨てられちゃったな。カミル、当たりは誰にでも柔らかいんだけど、受け入れられない相手はきっぱり切るんだよね。フリーダおばさん、女手ひとつで苦労してきたわけで。それを見て育ったカミルとしては許せないんだろうな。しかも、おじさんのせいで結果、さらわれることになって、更にわたしまでこんな遠くまで来ることになってしまったことに怒ってる。顔には出ないんだけど、目がね、そう言ってる。まあ仕方ないかな?



 それからエグモントおじさんはそのまま寝付いてしまった。カミルはお見舞いにも行きたがらなかったけど、わたしはメーリヒでのカミルとフリーダおばさんの話をしてあげたり。わたしのカミルがいかに素敵かを誰かに話したかったし、言いたいことだけ言って、わたしはすっきり楽しかったけれど!



「兄が正気に戻って、侯爵の権能も私に移った。もう領境に吹雪の壁はないだろう。これから権能を使って領地全体を整え直さねばならない。カミル、私をこのまま手伝って、将来侯爵を継いでくれないか?」

 ちゃんと名目ともに侯爵になったヒルドおじさんが、カミルにそんな打診をしてきた。

「嫌ですよ。それは叔父さんが自分の子供に継がせればいい」

「私はまだ独身なんだが」


 一緒に聞いていたわたしが思わず口を挟む。

「アッフェンバルのディートヘルムさまと同じ歳なんでしょう? だったら、これから結婚してお父さんになったって変じゃないわ」

 お子さまのクリストハルトさまだってまだ小さかったし、カミルと似ていてかっこいいヒルドおじさんなら、きっと女性にもてると思う。ちょっと領地が寒くて人が少なくて寂しいかもしれないけれど。


 聞いた話だと、夏場ならばこの領都の港から船を出して王都と行き来することもできるそうだし、それなら日にちもそんなに掛からないんだって。今回、王都から陸路になったのは、海が凍って船が使えない冬だからそう。でなければ内陸のメーリヒを通ることもなかったし、カミルを見つけて連れ帰ることもなかったかも。


 一応、カミルの誘拐に関してはわたしたちに謝罪はされた。偉い貴族は庶民に謝ったりしないものらしいけれど、カミルは甥でわたしは恩人だからって。


「僕はゲルトと結婚して、二人で宿を継ぐので、叔父さんはがんばって」

 笑顔で提案を拒否したカミルにとって、いきなり攫われはしたけれど、ヒルド叔父さんはまだエグモントおじさんよりかは受け入れられるみたいだった。




 本当ならばグリフォンが送ってくれるって言うから、すぐにも帰りたかったんだけど、マイスターに戻ったら簡単にここまで来られないだろうから、ここでしか見られないものを見てからにしなさいと、滞在は少し伸びた。


 そのひとつがオーロラだった。権能が移って、夜空が晴れ渡って。そうして空いっぱいにきらきら輝く幾重にもひらめく沢山の色で飾られたカーテン。この領都くらい北でないと見られないっていう風景は、たしかに見ておくべきものだと思った。何より、カミルと一緒に眺められて、一生忘れられない記憶に残るだろう。


 もうひとつは昼間――といってもほとんど夜みたいに暗いんだけど――に見せられた。お城の前の広場。それにだけ雪も積もっていなければ凍ってもいない緑の大木。グリフォンが神木と教えてくれた樹。権能が移って使えるようになったヒルドおじさんの最初の仕事。それが木に向かって何かすると、次々に枝に蕾が付いて、そうして花が咲いた。八重の氷の薔薇。侯爵家の紋章になってたやつ。本当は薔薇じゃないんだって。でも薔薇によく似てるから、氷の薔薇ってそのまま呼ばれているらしい。


 この薔薇を咲かせることができるのは侯爵家の当主だけで、花を採ることができるのは侯爵家の血縁だけだそう。血の薄い分家の人たちも手伝って花を採って、そうしてこの花は領民に配られる。

 この薔薇を家に飾っておくと、厳しいこの地の冬でも凍死者が出ないとか。エグモントおじさんがおかしくなって、去年は薔薇が配られなかった。だから領民は逃げ出したってこともあるみたい。まずは領都に残った者のところへ。そして踏みとどまっていた領民のところへとこれから届けられることになる。氷の薔薇が再び配られるようになったと伝われば、逃げ出した領民の大半が戻って来るだろうって。他領での暮らしは、よくしてもらっても辛い。悪い状況だと仕事も住む家もなくて、それこそ山賊になるしかなかったり。そうなる前に慣れ親しんだ生活に戻れるならば、その方が多分幸せ。


 氷の薔薇は普通の花と違って、冬中咲いたままで、でも春になると溶けて消える。次の初冬にまた新しく配られるのを待つ。それがこの地の暗い冬の希望。


 カミルもまた、氷の薔薇を枝から折り取ってわたしに捧げてくれた。ただし、特別製。カミルのスキルで溶けない氷でうっすらと包まれているから。その薔薇をわたしの髪に刺して、ご満悦なカミルだ。わたしの金茶の髪の上に何本も刺そうとするので、途中で止めた。

「似合うのに」

 と、少し膨れるカミル。たしかに鏡で見ると氷の薔薇をいくつも髪に飾ったわたしの姿は、きらきら効果増量で、ちょっと氷の妖精ぽく見えないこともなかった。カミル以外の侯爵家の皆さんとかグリフォン、お城の侍女さんたちには可愛いと好評だったけれど、それは身内贔屓的な何かじゃないかという疑惑。

 あと、残念ながら普通の宿屋の娘で、物語のお姫さまみたいに暮らせないわたしには、沢山あっても困ってしまう。なんとか交渉して髪には一輪だけ飾られた。他は、お土産にしよう。




『では、子供たち、我の背に乗るがよい。まずはアッフェンバルに寄って報告をし、それからお前たちの街まで送るとしよう』


 沢山の挨拶と、沢山のお土産を持たされて、わたしとカミルはグリフォンに乗って、空の旅人になった。どこまでも広がる空が、繋がっているのにゆっくりと明るさを増していくのを二人で眺めた。


 世界はどこまでも広くて、わたしたちはとても小さい。知らない場所や知らない人の方が多い。でも知らないところで誰かが生きて生活しているのだと、カミルを追う旅が教えてくれた。


 旅の途中で友だちとして助けてくれた沢山の鳥たちのこと。準備をして挑まなければ牙を剥いて来る冬の厳しさのこと。一夜の宿を貸してくれた親切な人たちのこと。油断していたら攫われそうな気しかしなかった町の人たちのこと。仕事は仕事と、運んではくれたけれど一切の助言もなく引き返して行った馬車の御者のこと。一生縁がないと思っていたのに、何故か縁のできてしまったふたつの貴族家のこと。

 それらはこれからわたしたちが共に大きくなって、本物の家族になってからも繰り返し語り続けることになるだろう。


 でもその前に。


 わたしとカミルは家に帰るのだ。ずっとずっと幸せに暮らすために。

「ただいま」

 と、笑顔で告げながら。



2025年の1月の、応募も終わる頃に「冬の童話祭」に気が付きました。どう考えても間に合いません。でも参加したいと思ったので、途中まで書いて寝かせていたものです。いやこの話、冬じゃないと書く気になれなかったんで。


あまり「童話」を意識せずに書きましたので、ハイファンタジーとどこが違うかと問われたら微妙。応募規定の童話の定義が「幼年、児童に向けた内容の読み物」ということでした。幼年はまあかなり小さい子ですが、児童って法律的には十八歳未満になるので、別に普通に書いてもいいよね、となりました。なんとなく小学生向きかと思っていたのは内緒。そして小学生であっても、それなりの難易度のものでも読めた自分の経験もあって、こうなりました。残酷描写もない。ついでに面倒なので悪人もいません。


カミルのスキルは『氷結』。ヒルデブレストは『氷雪』。エグモントは『吹雪』。侯爵家の血筋は代々、雪か氷関係のスキル持ちです。これは北の果ての領地を治めるため。代々の侯爵は『冬の王』と領民から呼ばれています。


ゲルトが二重スキルになったのは、『鳥の友』がないと北まで辿り着けず、『春呼び』がないとカミルもエグモントも解放できないから。スキルは必要とする人の子に天が与えるものだから。

スキルをすべての人が持っていないのは、天から「なくても問題ない」と判断されているせいです。


子供の頃から『雪の女王』が好きで、ついでにゲルタからカイへの気持ちって恋よね!? と幼心にときめいたので。名前はドイツ語系に変更したんですが、カイとカミルはともかく、ゲルダとゲルトでは変わらんではないかという名前になりましたが、これは貴族名をつける時にゲルトルードとしたかったからです。


その他の設定、裏話についてはまた活動報告にて。うちの活動報告はボリュームたっぷりですので、よろしければどうぞ。好き勝手書いてます。

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― 新着の感想 ―
とても素敵なお話でした。 ハッピーエンド大好き、数々の美しい描写もゲルトとカミルの仲睦まじい様子も凄くエモかったです。 三万字越えの完結、お疲れ様でした。
童話ジャンル投稿にハイファン的ツッコミ入れるのはどうかと思いますが。それはそれって事で。 侯爵家の血筋は視野が狭く思い込みの強いポンコツ仕様だったりしそう。 カミルは執着しても周囲から認められてるから…
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