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冬の王と春呼ぶ少女  作者: 高瀬あずみ


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1/8

1.さらわれたカミルを追ってゲルトが旅立ちを決めたこと。

「雪の女王」のオマージュだったんですが、何か違うものになったような。

童話風なので、わざと漢字を開いていることがあります。

独白部分が年齢よりもしっかり感じられるかもしれませんが、女の子って十歳でも中身それなりに大人ということで。


一回三千字から五千字まで全八話。毎日二話ずつ更新予定。完結済み。



 わたしの大切なカミルが、わたしの大好きなカミルが、さらわれてしまった。

 幼馴染で一番仲の良い男の子。

 わたしたちは小雪のちらつく寒い日に、それでも外で遊んでいた。どうしてあの日、家の中にいなかったのだろう。そうすればカミルが目をつけられることもなかったはずなのに。


 わたしの手の届かない遠くへと連れ去られたカミル。でもわたしが諦める理由なんて、ひとつもない。

 まだ十歳の子供だからって関係ない。子供だって恋くらいする。

 だから―――必ず、わたしが取り戻してみせる。わたしの愛しいカミルを。






 いきなり現れた立派な馬車から降りて来た人が、あっという間にカミルを掴んで馬車に放り込んで、そのまま去って行く。びっくりしたけど咄嗟に馬車の飾りにしがみついたのは自分を褒めたい。でも、指の力だけでは身体をずっと支えきれずに、街を囲む塀の手前で、あえなく私は振り落とされた。街中で馬車がそれほど速度を上げていなかったのと、冬場でもこもこ着込んでいたせいで怪我はない。

 身体を地面から起こした時には、カミルを乗せた馬車はもう見えなくなっていて、わたしは一旦、家へと帰ることにした。



 わたしたちが住んでいるのは、国で二番目に大きいと言われる街、メーリヒ。いくつもの街道が通っていて、人と物が行き交う、商売の盛んな街だ。街の中の道は大通りも裏の小道も全部が石畳。そこに四階建てから五階建ての家がびっしり建っていて、緑は少ない。その分、街を囲む塀の外には、農村地区が広がっているけれど、あまり行くこともなかった。


 うちは下町に近い場所で小さな宿屋をやっている。一階の食堂で料理を出し、二階から四階が客室。家族の住むのは屋根裏だ。父さんの作る料理はおいしいし、母さんが整える部屋は居心地が良いと評判の宿。いつだって宿泊客が途切れないから、恵まれている宿だろう。


 部屋数は少ないとはいえ、そこそこ人気の宿だし、食堂も忙しい。両親だけでは手が回らないから、人も雇っている。そのうちの一人がフリーダおばさんで、カミルのお母さんだ。


 どういう経緯でフリーダおばさんがうちを手伝うことになったのかは知らない。でも、物心つく頃にはもう、わたしの側にはカミルがいて、わたしたちは一緒に育った。カミルにはお父さんがいないから、朝、おばさんと一緒に家に来て、それからわたしとずっと過ごす。お昼ご飯も晩ご飯も一緒に食べて、眠くなった頃におばさんと帰っていくのを見送るのだ。


 ずっとそんな風だったから、わたしたちは誰よりも近しい存在だった。わたしのおしゃべりや、思いつく遊びに付き合ってくれる、カミルは穏やかでおとなしい男の子だ。近所の男の子たちのように走り回ったり、棒を振り回したりせず、喧嘩もしないし、いじわるもしない。わたしと一緒にいる方がいいと、いつも言ってくれる。


 ただカミルは特別きれいな男の子で。ミルキーブロンドの髪に暗い蒼の瞳。下手な女の子よりよっぽど可愛い。茶金の髪に緑の瞳のわたしでは、正直カミルの可愛さには太刀打ちできるわけもなく。「お前ら男と女、逆だろー」とか揶揄ってくる奴らを殴りに行くのは、もっぱらわたしの方だった。でもそんなわたしでも、カミルは可愛いと言ってくれるし! ずっと一緒だって言ってくれたし!




 戻った宿の中はいつもと違って閑散としていた。食堂の営業はしていないみたいで、宿の受付に母さんの姿もない。かすかに聞こえる話声を辿って食堂に入ると、泣き崩れるフリーダおばさんを慰める両親を見つけた。


「ごめんなさい。追いつけなかったの」

 わたしがそう言って食堂に入っていくと、テーブルに臥せっていたおばさんも顔を上げる。

「ゲルトちゃんは無事だったのね」

「うん。カミルしかいらなかったみたい」


 わたしたちが遊んでいたのは宿の前の道だ。行き交う人も多く、当然、カミルが連れ去られたところを見ていた人もいたはずだ。その誰かがおばさんに知らせたのだろう。カミルは目立つから、近所の人は皆知ってる。


 目と鼻が真っ赤で、ずっと泣いていただろうに、おばさんは、やっぱりきれいな人だった。

「フリーダさん、カミルの父親に連絡したらどうだい」

 母さんの提案に、むしろわたしがびっくりした。カミルのお父さんの話なんてこれまで聞いたことなかったから。

「いいえ。知らせたりできません。私は逃げたし、カミルが生まれたことさえあちらは知らないんです」


 宿の娘なんてやっていると、耳年増なんてものにもなってしまう。男と女には色々あるって知ってる。

 多分、おばさんはちゃんと結婚してない。今でもきれいで、品があって、でもどこかいつも寂しそうで。カミルといる時はそれでも笑っていたけれど。結婚を申し込む人も何人もいたみたい。でもおばさんは決してそれに頷かなかった。


「だが、どうやらカミルを攫ったのは貴族のようだ。俺たちではどうしようもない」

 父さんの言葉で新事実が発覚した。あいつはお貴族さまだったのか!

「それでも、頼ることはできないんです」

 おばさんのすすり泣きだけが食堂に響く。それを聞いて、またわたしの中で怒りが燃え上がった。


「父さん、母さん。今からわたしって子供はいなくなったことにして。わたし、カミルを取り戻してくる!」


 それがどれほど無謀なことか、まだ子供のわたしでも知っている。わたしたちは平民で。貴族には逆らえない。貴族からすれば、わたしたちなんて粉雪よりも簡単に吹き飛ばせるくらいのもの。でも大人がその立場で動けないのなら、一体誰がカミルを助けてくれる? そんなの、わたししかいないじゃない。


「ゲルトちゃん、それはとても難しいことよ」

 カミルがいなくなったことが誰よりも辛いはずのフリーダおばさんが、それでもわたしを気遣ってくれた。

「でも、動けるのはわたしだけでしょ? だからわたしが行く」


「いやゲルト、馬鹿なこと言ってるんじゃない。子供のお前に何ができるっていうんだ」

 父さんは反対の模様。うん、普通ならそうだね。でもわたしは行かなきゃいけないの。

「……あんたは近所の子供の誰より度胸があるし、色々と小器用だ。他の誰にできなくても、あんたならやれるかもしれない」

 意外なことに母さんからの援護が入った。というか、そんな風にわたしのこと思ってたんだ?

「カミルがいなくなっただけじゃなくて、ゲルトちゃんまでいなくなることはないのよ。危ないわ」


 うん。きっと危ないことは沢山あるだろう。でも。

「カミルがいなかったら、わたしの幸せなんてないよ?」

 わたしの半身。まだわたしたちは子供だけれど。小さくてもわたしは女だから。カミルが大切な気持ちは誰にも負けない。だからわたしはカミルを絶対に取り戻すと決めたんだ。



 結局、母さんが味方してくれたから、わたしはカミルを探しに行ける事になった。我が家で一番の権力者は母さんなのだ。


「でもゲルト、宛はあるのかい?」

「街外れまで馬車にしがみついてたから方向は分かるよ」

 ぎりぎりまでがんばって馬車にしがみついていたから、街にいくつかある門のどれから出て行ったかの予測もつく。

「方向だけじゃどうしようもないだろう。行くだけ無駄だ」

 旅用の保存食を持ってきてくれた父さんは、まだわたしを出立させまいと思っているらしい。

「大丈夫。ふたりとも忘れてない? わたしにはスキルがあるもん」



 スキル―――それは子供が神さまからもらう贈り物。九歳になった子供はみんな神殿へ行く。そうしたら生活魔法が使えるようになる。便利だよね、生活魔法。そして一部の子供たちがそれ以外にもらうのがスキル。王様の子供でももらえない場合もあるし、平民がもらってしまうこともある。

 与えられるスキルはみんな違って、何の役にたつのか分からないのもあるんだって。でも神さまがその子が必要としているものをくれるって聞いてる。実はわたしもカミルもその珍しいスキル持ちなのだ。ずいぶん珍しいからってお祝いもされた。もしかしたら、この時のために与えられたのかもしれない。


「だから。わたしならきっと、カミルを見つけられる。そのためのスキルだと思う」



 季節は真冬。まだまだ冬は終わらない。雪だって毎日じゃないけど結構降る。しかも一年で一番寒い時期。こんな季節に旅に出るなんて、自分のことじゃなかったら馬鹿だと思う。お仕事の人は仕方ないけどね。


 分厚いマントの上から母さんが編んだマフラーをぐるぐる巻いてくれた。手袋も、帽子も忘れない。荷物はなるべく少なくしたけど、それでも旅をするとなるとそれなりの量になる。いざとなったら、持ってる小銭と水筒と保存食だけで飛び出すつもりだったけれど、なんとフリーダおばさんがマジックバッグを貸してくれた!


「そんなに入るものじゃないんだけれど」

 と、おばさんは言ったけれど、普通の人が普通に買えるものじゃないってくらい、知っていた。だって宿だから、色々なお客さんがくる。そのお客さんたちがよく欲しがっていたから。見た目よりも沢山入る、不思議なかばん。でも作れるのは国に仕える偉い魔法使いだけで、数が作れないから販売は紹介制なんだって。それを持ってるフリーダおばさんって……ってちょっと考えたけど、詮索なんてしてる場合じゃないからありがたく借りることにした。おかげで諦めていた小鍋も持っていけるよ。それに必ず返す、って思えるから。必ず帰って来るから、二人で。




 カミルがさらわれた翌朝、まだ日が昇りきる前。いつもならベッドで熟睡してる時間だけど、ゆっくり寝ている気分にもなれないから、まだ暗い中、わたしはひとり出発した。


「誰かに聞かれたら、ゲルトは家出して戻って来ない、って言っといて!」

 近所の人たちにはきっと、カミルを追いかけて行ったって分かるだろうけれど、嘘は言ってない。自分から家を出て行くのには違いないもの。家出した娘が何かしでかしても、もう関係ないって証言してもらえたら、きっと貴族相手にどうこうしたって家族に迷惑かけない、といいな。


 暖かい家への未練を断ち切って。家でぬくぬくしているより、カミルの方がずっと大事だから。いきなり冷たい風に押されて、めげそうにもなったけれど、わたしはそうして旅立ったのだ。


本日は二話更新。

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― 新着の感想 ―
わぁい! 新年早々、高瀬あずみ先生の新作だー ちょっと読むのが遅くなってしまいましたが、いじましく行動力のあるゲルトちゃんがこれからどうなるのか、ワクワクしながら読ませて頂きます^_^
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