少子高齢化或いはタイムトラベラーたちの会話
今日日、この国では少子高齢化が問題視されている。それは何故だろう? 人口が減ることで国力が落ちるからだろうか? しかしながら移民で賄うこともできるし、この国より人口の少ない国はいくらでもありそれなりにやってはいる。この国の全人口に対する労働人口が減るからだろうか? しかしながらこれも移民で賄うことができるし、機械化AI化によって労働人口が少なくてもやっていけるようになるだろう。年金も自国通貨を持つこの国では国債を発行すれば金は出せるはずだ。厳密には違いはあるもののソシャゲの運営が石(ソシャゲでありがちな通貨のようなもの)を無限に配れるのと同じようなものだ。彼らは無限に石が湧く採掘場を持っているようなもので自国通貨を持つ国も理論上は同じようなものなのだから。但し限度はあるが。
そもそも、或統計によれば、この国の女性の3割くらいは子供を持つ気がないらしい。人権主義のこの国では彼女らにその意に反して子供を産んでもらうことはかえって人権侵害であろう。そして子供を産む気がない女性が子供を産むことがない社会はそうでない社会より人権の面では健全であろう。また、不妊症の女性もいる。これらも加味すると所謂人口維持に必要とされる合計特殊出生率は2.08とされているがこの国の現在のそれは1.30くらいなので到底実現不可能であろう。また、3割は子を持つ気がないので産む人は約四割り増しの2.91人ほど産まなくては少子化する。つまりは何をしたところでこの国の少子化は所詮避けられないわけである。
であるからして人口や経済を維持したければ大人しく移民や労働の機械化AI化に頼る他はないのではないではないか?世界的には人口は増え続けている。人口というものは一国で抱えきれる数に限度がある。需要と供給に基づく雇用に限りがあるからである。それ故に恐らくは放っておいてもこの国の外国人労働者の数は増え続けるであろう。少子高齢化問題は実は問題ではないのではないだろうか?
と巻物に筆で書きながら富士山を下っていると登ってくるラテン系の男に声を掛けられた。
「富士山下りながら歩き巻物ってあなた色々舐めすぎですよ。死にたいのですか?」
ラテン語であった。今では口語言語ではないのに何故だろう。肺から響く低音ボイスであった。この国の人間からはほとんど聞いたことのない声質であった。
「何処の人ですか?」
「ローマ帝国。」
「ああ。タイムトラベラーの方ですか。今どき珍しくはないですが、なぜここに?」
「観光ですよ。このようなオリエントの最果ての果てにこのような国があったのには驚きました。」
「まあそうですよね。私も弥生時代にはローマ帝国のことは知る由もありませんでしたから。我々は天竺つまりはインドを西の果てと考えていましたから。(Shirankedo)」
「今はすごい時代ですね。世界の概念も全地球ひいては大宇宙に広がり世界中の人々が世界中の国々を飛行機や自動車などで行き交う。考えられませんでした。」
「私もです。時の流れは素晴らしい。そうは思いませんか?」
「ええ。しかし時に残酷でもあります。私の国は観光客が来すぎて困っていますよ。」
「あなたの国ほどではありませんが私の国も困り始めているみたいです。」
「観光客である私もあなたたちの国にとってはある意味加害者ですか?」
「そんなことはないですよ。観光客がいるお陰で経済が潤う側面もあるのですから。あまりそのように考えないで下さいませ。」
「そうですか。わかりました。あなたはよく話がわかる人に見えます。私はあなたと話せて楽しかったです。では気をつけて良い下山を。」
「はい。あなたもお気をつけて良い登山を。」
終