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無口魔族ちゃんの初恋  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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オマケ 仲直りパンケーキ

このあともう一本、おまけ話を投稿します

そちらで完結!

 メリィは狼系の獣人であり、尻尾での感情表現もイヌ科よりであることが多いのだが、怒りなどいくつかの感情は猫っぽくあらわされるらしい。


 昼下がりのリビングで、メリィは尻尾をパタンパタンとソファの側面に叩きつけていた。


 普段通り表情は無いが、代わりに全身からムスッとした雰囲気を醸し出している。


 これに対し、ロイも何やら怒りを溜め込んでいるらしい。


 メリィの隣に座り込むロイは彼女にそっぽを向いて、不機嫌なしかめ面のまま黙々と本を読んでいた。


 しかし、目線がほとんど文字を追っていない辺り、ロイが読書に集中していないことは明白である。


 二人は絶賛喧嘩中なのだが、その原因は非常にくだらないものである。


『ロイ、ご飯作った後、いっぱい調理器具、放置した』


 連日、食器洗い係としての仕事を増やされたメリィがブスッと頬を膨らませて不貞腐れる。


『うるせぇな。メリィだって部屋に服脱ぎ散らかしてただろ。あれ、回収して洗って干して畳んだの俺だぞ』


『まだ、一回しかやってないもん。怒られたから改めたし。ロイの方が罪重い。あと、回収以外は元々ロイの分担だった』


『でも、それを言ったらメリィだってこの間、リビングでゴミ散らかしっぱなしにしただろ。しかも注意しても何回も』


『…………してない』


『嘘つけ!』


『……』


『メリィ、都合が悪くなると黙るの悪い癖だからな』


『……』


 互いに目どころか体の向きも合わせることが無いままで喧嘩を重ねていく。


 二人の間に流れる空気はみるみるうちに険悪になり、ロイは舌打ちをするとリビングを出て自室へと向かった。


 バタンと勢いよく閉められるドアにメリィの不機嫌も加速して、大振りの尻尾がバチンバチンとソファを叩くようになる。


 だが、厚手の白い布の奥から砂のように細かい埃が飛び出すとメリィは酷い目に遭ってソファを叩くのを止めた。


『鼻と目が痛痒い』


 何度もクシャミを繰り返したせいで粘液まみれになった鼻を拭い、涙がボロボロと零れる目元を指の腹で軽くこすった。


 埃が喉まで到達してしまったため、呼吸器全般に何とも言えない不快感を覚える。


 ただでさえイライラとしている時に体調不良が発生すると余計に悪感情が増した。


 洗面所で顔を洗い、うがいをして喉を清めるとメリィはイライラを増幅させたままリビングに戻ってきて、お気に入りのクッションを抱き締めたままソファの上に寝転がった。


 いつもはイライラとすると眠ってしまうのだが、今日はなかなか痒さの治まらない喉のせいで眠くなれない。


『……暇。お腹空いた』


 いがらっぽい喉も緩和され、鼻呼吸もできるようになった頃に思う。


 そもそもメリィは怒りをいつまでも保有できる性格ではないし、彼女には体調に感情を左右されがちな子供っぽい側面がある。


 そのため、おやつの時間が近づいてきて空腹を感じ始めると妙に寂しくなってしまい、食料やロイを求めて台所へのドアや、リビングと廊下を繋ぐドアをチラチラと見るようになってしまった。


『パンケーキ、焼く。ロイの分、どうしよう』


 おやつを作ることは確定として、喧嘩中の相手の分まで用意するか迷う。


『ロイも、お腹空いてたら可哀想だ。でも、喧嘩してるし……』


 弱くなってきてはいるが、怒りが消えたわけでもない。


 そんな中、ロイの分まで甘いパンケーキを焼いて「はいどうぞ」と差し出すのも少しシャクだ。


 しかし、同時に自分と同程度に腹を空かしやすいロイの胃袋を考えると、彼のことを無視することもできそうになかった。


『一人で食べても美味しくない。ロイがお願いしてくれたら、簡単に作れるのに』


 不貞腐れたまま、パッタパッタと尻尾を揺らして埃が舞わない程度にソファを叩く。


 そうして、しばし黙考していると静かにドアが開いてリビングにロイがやってきた。


『ロイだ!』


 意地を張るメリィはテレパシーでロイに言葉が聞こえてしまわないように気を張り、ソファの上で寝たふりを続けている。


 しかし、無を作り出す体全体とは対照的に尻尾はソワソワと忙しなく揺れていて、耳も時折、痙攣するようにピクピクッと動いていた。


『メリィ、寝てるかと思ってたけど起きてたんだな』


 勝手に感情と連動してしまう、どうにも制御の効かない尻尾にロイが呆れ笑いを浮かべる。


『今日は眠くなかったから寝なかった。代わりに、お腹空いた。おやつ作ろうと思ってた』


 メリィが恥ずかしそうにロイと目を合わせると、彼は目を丸くして、


『奇遇だな。俺も小腹が空いたからさ、何か作ろうと思ってたんだよ』


 と、ペタンコの腹を擦った。


 その仕草がなんだか愛らしく見えて、メリィの心臓がキュンと鳴る。


『これからアイスが乗ったパンケーキ作るけど、ロイも食べる?』


『いいな。俺、メリィが作るパンケーキ好きだよ』


『うん。ロイのアイス、イチゴので良い?』


『いいよ。ありがとう』


『ん』


 コクリと頷いたメリィが上機嫌に尻尾を揺らして台所の方へと向かう。


『メリィ』


 台所に入る直前、ロイに呼びかけられてメリィは彼の方を向いた。


『何?』


 首を傾げれば、少し言い難そうな態度でロイがソワソワと目線を動かす。


『いや、あのさ、今日は食器洗い、俺がやってやるよ』


『うん。ありがとう』


 コクリと頷いたメリィがベチンベチンとちぎれんばかりに尻尾を振って台所へ入り、早速パンケーキを焼き始める。


 泡立て器とボウルの鳴らすカチャカチャ音が止み、ジュワッとおいしい焼き音やふんわりとしたバターの香りがリビングに響き始めると、ロイもソワソワとした様子で台所に入った。


 それから美味しいパンケーキに舌鼓を打つ頃には、二人ともすっかりいつもの調子に戻っていた。

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