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無口魔族ちゃんの初恋  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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とっても激しい甘えん坊

 メリィたちが帰宅してから数日後。


 想いが通じて遠慮が薄くなったのか、元から甘えん坊だったメリィが、最近は特に激しくなってスキンシップ等を増加させている。


 今もソファで寝ころぶロイの上に覆いかぶさって、ブンブンと尻尾を振っていた。


『ソファは流石に止めとけって。狭いし体も痛くなるだろ。掃除も面倒くせーし』


 ロイが首筋にワフワフと鼻先を埋め、服の中に手を滑らせてスベスベとイヤらしく腹を撫でてくるメリィを睨みつけた。


 しかし、無表情ながらも鼻息が荒いメリィは、

『嫌。今が良い。止まれない』

 と、言葉の通り制御が利かない状態になっていて、ブンブンと首を横に振った。


 断固拒否をしたメリィがロイの胸元のボタンを強制的に開けていく。


 そうしてはだけさせた胸にキスをすると、そのまま、あむあむと甘噛みをした。


『おいしい、あまい、すき』


 鎖骨の少し下をチュッと吸うと興奮がさらに強まって、バタバタと耳を暴れさせ、プロペラのような騒音を出す。

 メリィは正しくケダモノになっていた。


『お前、サキュバスか何かなんじゃねーの?』


 連日激しいメリィに苦言を呈すると、彼女が心外だとでも言わんばかりに顔をしかめる。


『違う。サキュバスは相手、誰でもいいし、対象者が死ぬまでやるから違う。というか、魔族だから当たり前かもだけど、アイツらは殺すのが目的。死の間際に絞り切るようにして出す精力がウマいらしい。カスカスになった肉体も骨煎餅みたいでウマいらしい。キモい。あと大体、特殊性癖持ち。碌でもない。アイツらと一緒は嫌』


 通称サキュバスと呼ばれるのは女性の淫魔であり、れっきとした魔族だ。


 男性の淫魔は基本的にインキュバスと呼ばれている。


 どちらとも捕食対象である人間の性的欲求を湧きあがらせるような美しい容姿をしており、それをダシに使って相手を閨に誘う。


 そうしてコトに及び、対象から精を搾り取るのだが、行為中の恍惚とした態度に反して淫魔たちが人間相手に性的欲求を満たすことはない。


 淫魔系の魔族が満たしているのは、あくまでも食欲であり、人間相手の性行為は全て食事に該当する行為であるため、そこに性的快感を覚えるのはあり得てはならないことなのだという。


 元々、魔族の中でも特に人間やハーフ、人間と婚姻を結ぶ魔族を見下している淫魔一族だが、こうした理由から内部に人間と恋愛をする者が現れると毎回、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。


 人間の方は見つかり次第処刑。


 恋をしてしまった淫魔は少なくとも一族からの追放、強い迫害を受け、酷い場合には存在していけなかった「失敗作」として処刑されてしまうのだとか。


 思想も強く魔族至上主義が強い一族であるため、メリィは淫魔系の魔族が苦手である。


 ムッとしてキツい口調になるメリィに対し、ロイも不機嫌な表情になると、

『だってお前、歴代ペットにヤラシイことばっかしてたじゃねえか。エレメールから聞いてるんだからな!』

 と、声を荒げた。


 実はメリィからのペット扱い云々に関して誤解が解け切れていないままであるロイは、未だにエレメールの嘘を信じていて、メリィの過去のペット遍歴や自分の扱いについて不満を持っている。


 しかし、急にペットなど言い出されても何のことか分からないメリィは無表情なままコテンと首を傾げた。


『何それ。私、ペット飼ったこと無いよ?』


『前まで、俺はペットって位置づけだったんじゃねえの?』


『ロイがペットだったことはないよ。初めて見た時から、ずっと好き! だから拾った! 今は思う存分甘えられて幸せ!』


 ピョコピョコと元気に耳を動かすメリィに対し、『ふ~ん』と相槌を打つロイは少し口角を上げている。


 まだ、わだかまりは残っているものの、だいぶ機嫌を戻したようだ。


 しかし、どことなく嬉しそうなロイに対してメリィの方は未だに話がよく分かっていないままだ。


 ロイから改めて詳しい事情を聞くと、話を聞き終えた後にメリィは唖然として、それから、みるみるうちに怒りを溜め込み始めた。


『エレメール、許さない』


 誤解は解けても、エレメールのせいで、ただでさえ難しかったロイとの恋愛が更に困難になったかと思うと簡単には許せないようだ。


 メリィは耳も尻尾もピンと張って、珍しく目つきを鋭くしている。


 ロイの衣服を掴む手もギュッと握り込まれていた。


 だが、ロイとしては誤解が解けた時点で更に上機嫌になっており、エレメールに関しても、

『まあ、俺としてはどうでもいいけどな。妹とられて嫉妬なんて、可愛いじゃん』

 と、言い放って笑うなど、かなりの余裕を見せていた。


 ドヤッとした表情のロイにメリィが両目をパチパチと瞬かせる。


『ロイ、大人だ』


『まあな。というかお前、その話だと、この間のが初めてだったんだよな。あんなに激しくして大丈夫だったのかよ。痛くなかったのか?』


 眉尻を下げ、心配そうにメリィの顔を見つめるが、彼女は非常にあっさりとした様子でフルフルと首を横に振った。


『魔族は痛みに強いし頑丈だし、怪我もすぐに治る。だから、初めてが痛いって話はあんまり聞かない。でも、そのつもりで人間のお嫁さんをもらった魔族が無茶させ過ぎて、蛇蝎のごとく嫌われた話は聞いた。あ、あの、ロイ、ここ、大丈夫?』


『大丈夫だから、そんな顔して触るな。あ、いや、やっぱ大丈夫じゃねぇ』


 大丈夫だと答えれば待ったなしでメリィが襲い掛かってくる。


 たまには本でも読んでソファに寝転がるだけの、のんびりとした夜を過ごしたいロイは過激なメリィの手をシッシと追い払うと、雑に嘘をついた。


 近くのテーブルに載った本に手を伸ばすロイに対し、メリィがハタハタと不機嫌に尻尾を振り始める。


『今、大丈夫っていったのに。それに、成人男性はスケベが好きって書いてあった』

『もういらねぇんだから、あの本は捨てちまえよ』


 未だに対人間用の指南書を愛読するメリィに呆れを感じる。


 本を読むくらいならば直接、自分に話を聞けばいいと思うのだが、メリィが言うには、そうもいかないらしい。


 だが、本を捨てると実際にどのような不都合が生じるのは未明のママである。


『本は捨てない。大事。でも、ロイだって途中からノリノリになるのに。ロイは、ああいうの嫌いなの?』


『嫌いじゃねえけど、激しいって話だよ。言っとくけど、体力ある若者をへばらせるほど毎晩やるって相当だからな! このスケベ!』


 体の節々から鈍い痛みを感じる。


 ロイは怒りを込めて下からギッとメリィを睨みつけたが、少し詰った程度では開き直った心を持つ彼女に、かすり傷すら与えられない。


『別にいいよ。自覚あるから。だって、魔族は生殖能力低いし、赤ちゃん欲しいし。だから、ロイ……』


 熱い吐息を口元から溢して、メリィが既に大きく開けていた上着のボタンに手をかける。

 ロイは可愛い見た目に反してイヤらしいメリィの手をガシッと掴んで止めた。


『まだヤるって言ってねーぞ。大体、赤ちゃんはまあ、俺も欲しいけどよ。でも、メリィのおかげで寿命伸びたんだし、ゆっくりつくりゃいいだろ。生殖能力が低いって言っても、メリィはハーフだから魔族が作ろうとするよりは確率だって上がるんだろうからさ』


 ロイの言葉はぐうの音も出せないほどに正論である。


 メリィはしばらく押し黙った後、言い訳をすることを諦め、


『スケベしたい!!』

 と、持ち前の開き直りを見せてロイにガバッと覆い被さった。


 ギュッとロイの体を抱き締め、露出した彼の胸板にスベスベの頬をすり寄せている辺り、襲うというよりも甘えるがメインになっているらしい。


 しかし、ロイは知っている。


 意外と無害でかわいいからと言って放置をしていると、段々に興奮し始めたメリィに手を出されて、気がつけば取り返しのつかない段階まで進んでしまうということを。


 それでも、あんまりにもメリィが尻尾を振って喜ぶから、ロイは一瞬このまま流されてやろうかと思ったが、


「たまには叱らないと永遠に求められてしまうぞ! シッカリしろ!」


 と、己に叱咤激励の言葉をかけ、心を鬼にしてポコッとメリィの頭にチョップをした。


『俺は度を越したスケベは嫌いです。知りません』


『急に敬語になった! なんで!? 怒るとそうなるの!?』


 観音開きのように開いた上着の胸元を手で手繰り寄せて胸を仕舞い込み、クルリと体ごと向きを変えてメリィから身を守る。


 それからメリィの言葉は一切無視をして、思考が聞こえないふりをした。


 テレパシーの魔法は互いに思考を読み合う能力ではなく、伝えたい言葉を送り合う能力であるため、ロイの側に思考を伝える意思がなければメリィは何も受け取ることができない。


 何も話しかけて来なくなったロイに異常を感じたメリィが、

『ねえ、ロイ、聞こえる? ロイ?』

 と、何度も問いかけてくるようになった。


 耳はヘタっていて、尻尾も不安そうに忙しなく揺れている。


 消え入りそうなほど細くなった声で何度も名前を呼ばれるとロイの良心が揺さぶられ、ついメリィに声をかけてしまいたくなるが、彼は我慢して無視を続けた。


 いつ、どのタイミングで声をかけるかロイが迷っていると、その間に彼に無視をされているのではなく、相思相愛でなくなったがためにテレパシーを使えなくなったのだと勘違いをしたメリィが、軽くパニックになった。


『ロイに嫌われちゃった。どうしよう、どうしよう。ロイに嫌いって言われるの、嫌。理由、探さなくちゃ』


 慌ててロイから降り、本棚を漁って例の書物を引っ張り出す。

 それから急いでページをめくると、熱心に紙面を追い始めた。


『人間にはプラトニックがいる……プラトニック?』


『ちょっと違う』


 見当違いの項目を読むメリィにロイが苦笑いを浮かべる。


 ロイの「なんだかなぁ」という生ぬるい視線を受けるメリィは、彼の態度に気がつかないままで黙々と本を読み続け、数十ページ単位で紙面を往復すると、ようやく、


『注意! 魔族と人間の体力差。意外なトラブルの原因がここに!? パートナーの元気が無くなったら読むコラム』


 という正解のページを見つけ出したのだが、


『関係ない気がする。ロイは元気。他のコラム探そう』


 と、あっさり該当部分を読み飛ばしてしまった。


 これにはロイも、

『違わねーよ!!』

 と、渾身のツッコミを入れてしまい、これがうっかりメリィにまで伝わってしまう。


 ロイは思わず言葉を発していない口元を抑えたが、これに対してメリィは大慌てで彼の表情を確認するとパァッと目を輝かせた。


 急いでロイの元に帰ってくると、ムギュッと彼の背中に抱き着く。


『良かった。ロイの声、聞こえる。ロイ、私、ロイのこと好き。ロイも私のこと好き?』


『まあ』


『好き?』


『好きだよ』


 仕方がなく返事をすれば、メリィの尻尾がちぎれんばかりに振り回される。


『ロイ、ロイ、こっち向いて。もう、襲わないからこっち向いて』


 ポフポフと背中を叩けば、ロイが半信半疑な鋭い目つきをしたままメリィの方に体を向けた。


 ロイは崩されていた衣服もキッチリ着直していて、少なくともすぐには襲われないだろう格好をしている。


『ロイ、ここ開けて、抱っこ』


 メリィがポフポフとロイの腕を叩いた。


『本当に襲わないって約束するんだな』


『する。本当は我慢できる。テレパシー、通じるまで襲わなかったのが証拠。開けて。入れて』


 カリカリとゲージを引っ掻いたり、編み目の間に鼻を突っ込んだりして脱走を試みる犬のように、メリィが激しく催促をする。


 ロイが疑いの姿勢を崩さないままに両腕を開くと、そこにメリィがそこにスッポリと収まって丸くなり、胸元に軽く頭を押し付けた。


『ロイに嫌われたの、ビックリした。すぐに好きになってくれたの、嬉しい』


 猫がゴロゴロと喉を鳴らすが如くロイの腕の中でリラックスしているメリィだが、彼女の発言を聞いたロイは苦笑いである。


『メリィ、もしかしてさっきのやつ、まだ誤解してるのか? 一瞬でも俺がメリィを嫌いになったと本気で思ったのか? ちげぇぞ。ちょっと叱ろうと思って無視をしてただけだ』


 頭やモフモフの耳を優しく撫でながら種明かしをすれば、メリィが電流でも走らせたかのように尻尾をピンとさせる。


『なんで、そんな嘘ついたの?』


 信じられないとばかりに目を丸くするメリィにロイが半笑いになってポリポリと頬を掻く。


『いや、俺は単純に無視したつもりだったんだ。でも、変な勘違いしてるみたいだったから、まあ、良い薬かと思って放置した。ちょっとした小競り合いでテレパシーすら使えなくなるほど嫌いになるわけないだろ。その程度だったら、最初から使えてねーよ、テレパシー』


 ハッキリ断言してやれば、メリィがホッと胸の撫で下ろす。


『良かった、本当に。私、ロイに嫌われるのは嫌だから。ねえ、ロイ、ロイはああいうの嫌だったの? ロイが嫌なことをするのも嫌だから、どうしてもって言うなら、改める。たまには、好きしたいけど』


『いや、別に嫌いじゃねーよ。ただ、さっきの本にも書いてあっただろ。魔族と人間じゃ体のあらゆる部分が違うんだよ。毎日、何回も相手できないの、人間は。しないとは言わないけど、頻度を落としてくれって話だよ。それならまあ、応じるし』


 照れた様子のロイが少し恥ずかしそうに目を背ける。

 これに対し、頻度を落とせと頼まれたメリィは真剣な表情で頭を悩ませた。


『……もしかして、一日一回?』


『まあ、それならセーフとする』


『今日、もうできない』


 くぅん、と情けない鳴き声を上げそうなほど落ち込んだメリィが弱ったままロイの分厚い体を抱き締める。


 一食ぬかれた犬のような姿は少し可哀想だが、同時に何だかかわいらしくて、ロイは優しく彼女の頭を撫でた。


『もっと撫でて、慰めて』


『慰めてってお前、一応いっとくと、メリィが悪くて怒られてるんだからな?』


『なら、慰めなくてもいい。でも、たくさん撫でるのは、やって!』


『仕方がない奴だな』


 要求の激しいメリィに従っていると、垂れていた耳が少しずつ持ち上がっていくのが見える。


 どうやら撫でられて気分が上向きになり始めたようだ。


 ロイは単純だな、と笑みを溢した。


『意外と大人しいな』


 なんだかんだ言って耳をまっすぐ上に伸ばし、ワフワフと尻尾を振り始める頃には湧きあがる欲求を抑えられなくなって、覆い被さってくるんじゃないかと考えていたロイだ。


 メリィの予想外な忍耐強さに少し驚いていた。


『それにしても、こういうの、なんか久しぶりだな』


 ただ甘えるメリィを撫でるだけという時間に懐かしさを感じて、ロイは気分良くメリィを撫で続けた。


 だが、どういうわけか途中からは望んだはずの大人しいメリィに物足りなさを感じるようになってしまった。


 つい、メリィの口元や手の行き先、みぞおち付近に押し付けられた胸や絡みつけられた柔らかくて白い足が気になって、ロイはソワソワと身じろぎを始めた。


『ロイ? どうしたの?』


 気配に聡いメリィがロイの顔を覗き込んで首を傾げる。


 しかし、今さらメリィとの穏やかな時間に飽きてしまい、刺激がほしくなったとは言い出せなくなったロイが、数秒の黙考の後に、何でもない、とだけ呟く。


 そして、その代わりに、ロイは、

『メリィ、静かにできたから褒めてやる』

 と笑うと、メリィの頬にキスをし、そのまま尻尾の付け根をモフモフとし始めた。


 付き合う前にもしていた、穏やかで健全ぎみなイチャイチャと大きく変わらないはずのロイの行動だが、何故かメリィはほんのりと頬を染めるとワタワタと慌てだした。


『ロイ、褒めるなら撫でて』


『撫でてるだろ。好きなんだろ、耳とか尻尾の付け根を揉まれて撫でられるの』


『そうだけど、ロイ、まって、ロイ! や! 我慢できなくなる! ロイに叱られるの嫌!』


 ペチンと尻尾で叩いてもロイの指先はひるまず、メリィのモフモフ尻尾を怪しく撫で続けるばかりだ。


 心臓の動きが早くなり、身に溜まる何かが爆発しそうになったメリィは丸く体を縮めて全身に力を込めると、ギュッと歯を食いしばって誘惑に耐えた。


 しかし、モフモフな耳の先をチュッと軽くキスされたり、甘噛みされたりすると力が抜け、ふとした瞬間に襲いそうになる。


『ロイ、やめて、ロイ~!!』


 両手で耳を隠し、ビチビチと跳ねる鮮魚のように尻尾を暴れさせる。


 メリィの理性がだいぶ崩壊してチラチラとロイの方を物欲しそうに見ては首を振るようになった所で、彼が、


『メリィ、好きにしてもいいぞ』


 と、割と上から目線に許可を出す。


 するとメリィは溜め込んでいたものを吐きだすようにロイにじゃれついて、激しく甘えだした。


 静かなリビングの糖度が増していき、多種多様な物音で騒がしくなる。


『もう、安易にメリィを煽るのはやめよう』


 数時間後、一睡もできずに満身創痍で早朝を迎えたロイが、激しく尻尾を振り続けるメリィにカプカプと肩を甘噛みされながら窓から差し込む朝日を眺めた。

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