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無口魔族ちゃんの初恋  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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18/31

自立したいメリィちゃん

 金も手に入れば、後は日が暮れるまで遊ぶのみだろう。


 メリィが好んでよく訪れていたカフェや定食屋を巡り、本来ならば人通りが多いはずなのに妙に空いている道を闊歩する。


 そして、歩き疲れたら見た目重視の少し面白いクレープやこってりとジャンキーな揚げ物の串を休憩がてらに食べて、少しだけ空いた胃の隙間をギチッと埋める。


 服屋なんかも見て回り、

『ロイに服を選んでもらった! そして、ロイの服も買った! カッコいいヤツ! ロイを私色に染め上げる!!』

 と尻尾を振るメリィはご機嫌だ。


 ロイの方も初めての都会に目を回しながらも最新と銘を打たれた奇抜なファッションや流行に刺激を受け、ワクワクと心臓を鳴らし続けている。


 二人で楽しくデート兼、観光を進めた二人は日が傾きかけてきた頃に土産物屋へと足を運んだ。


 観光客向けにベリスロートクッキーや町の兵士が来ている制服の模型、近くの村の農作物や畜産品を使った伝統料理が売られている土産物屋は見ているだけで心が弾む。


 もはや本当にベリスロートの土産として相応しいのかよく分からなくなる商品も多数存在し、謎のマスコットキャラクターのTシャツなんかも売っていたが、その訳の分からなさも含めて土産物屋を眺めるのは楽しかった。


「色々あって面白いな。俺はパンに塗るおかずジャムシリーズ、『厚切り豚のニンニクラード炒め』を買おうかと思うんだけど、メリィは……どんなラインナップなんだ?」


 瓶を抱えて嬉しそうに笑うロイだったが、可愛い狼のぬいぐるみや綺麗な髪飾り、そして謎のマスコットキャラTシャツやパワーストーンの数珠など、ゴチャゴチャとしたジャンルの商品を大量に籠に詰めるメリィを見て、目を丸くした。


『両親とエレメールにお土産。特にお父さんとお母さんには普段仕送りをもらってるから、たくさんプレゼントしておく』


「そっか、偉いな」


 ニッと笑うロイにメリィがフルフルと首を横に振る。


『偉くない。この年で仕送りをもらってるのは変だ。お父さんとお母さんがポックリしてしまったら生活が今より地味な感じになるし、大変になる。何よりいい歳だから、自立したい。でも、魔族の里に住んでないし、魔族のお金を稼ぐ手段がないから難しい』


 メリィは未だに両親から仕送りを貰っていることを、かなり気にしている。


 そのため、メモを見せながらしょんぼりと両耳を垂れ下げると力なく尻尾を振った。


「なるほどな。でも、それに関しては別に、無理やり魔族の金を稼いで生活する必要はないんじゃないか?」


 何気なく発したロイの言葉にメリィがギョッと目を丸くする。


 珍しく表情にまで感情が出ているメリィにロイの方も内心で驚きつつ、


「だって、メリィは代わりに人間の金を稼げるだろ? 少し手間だが、自分でここまで下りてきて必要なもの買ったりして、生計を立てればいいんじゃないか」


 と、丁寧に説明し直してやれば、無表情に戻って目をパチパチとさせていた彼女が、


『その考えはなかった』


 と、返してきた。


 耳と尻尾がピンと張っていて、どうやら本気で驚いているらしい。


 実は、魔族の真っ当な働き口として魔族郵便という職業が存在しているのだが、人間の入り込める都市には、これの出張店まで存在している。


 魔族郵便は通常、魔族間の荷物や手紙のやり取りを助けるサービスを展開しているのだが、出張店では都市で売っている商品を魔族の元へ届ける業務も担っていた。


 魔族郵便で業務に当たる魔族は羽持ちが基本であるため運ぶ範囲も幅広く、メリィの家も対象内となっている。


 というか、普段からメリィの自宅へ仕送りを届けているのも魔族郵便の配達員だ。


 また、サービスの対価である商品代と配達料は、出張店を通した場合のみ人間と魔族の通貨のどちらでも使用することが可能であるため、ベリスロートの魔族郵便ならばメリィでも利用することができる。


 そのためメリィは、ロイが話したように自力でベリスロートと自宅を行き来して必要なものを買い集め、生活するという手法をとることもできれば、今まで両親にやってもらっていたことを自力で行うという方法も選択できるのだ。


 メリィは薬草を売却するという方法によって人間用のお金を稼ぐことができたが、魔族としてのルールにより人間の町に入り込んで住むことはできなかったため、勝手に自分はどちらの世界にも属せないのだと思い込んでいた。


 だが、各種システムを利用すれば十分に自立することが可能なのだと、メリィはロイの言葉でようやく気がついた。


『魔族郵便と自力の買い出し、どっちを選ぶにしても薬草をとったり、売ったりしなきゃいけない頻度は増える。でも、こっちに来る機会が増えたら、ロイも喜ぶと思う。それに、商品に野獣の毛皮とかを加えて仕事を増やせば、お手伝いをしてくれるロイも忙しくなって、暇とか考えなくなるかもしれない』


 実行しない内から結果を知ることはできないが、観光時の物価を見てもメリィの自立生活は実現できそうである。


『早速、お父さんたちに手紙を送って、仕送りいらないっていう』


 フンフン! とやる気を出したメリィが近くにあったレターセットを引っ掴む。


 彼女は非常にやる気だ。


 このまま放っておいたら会計後すぐさま手紙を作成し、魔族郵便へ直行してしまいかねない。


「待て、待て! それは急ぎ過ぎだろ! まずは意向を伝えて、徐々にやり方を切り替えて、本当に行けそうだったら実行するんだよ! こういうのは! どうするんだ、思ったよりも人間側の物価が高かったり、配達料がえげつなかったりしたら!」


『確かに!』


 ガシッとロイに両肩を掴まれてハッとするメリィはかなり危なっかしい。


 だが、それでも彼女は自立できるのだと思うとホクホクと浮かれて優雅に尻尾を振っていた。


「なんというか、まあ、お前は危なっかしいけど良い子だよ」


 呆れたロイに頭をポンポンと撫でられ、ついでに耳の付け根を揉みこまれて、メリィは気持ちが良さそうに目を細める。


『ロイもお金稼ぎ、手伝ってね』


「分かってるよ。俺だっていつまでもエレメールにヒモヒモペットとか言われたくねぇしな。お金の配分とか、使い方とか、後で改めて考えるぞ」


 ワフワフとロイに抱きついて上機嫌だったメリィだが、ロイの言葉を聞いてカチリと固まる。


 心なしかモフモフの尻尾がしおれだした。


「どうしたんだ?」


『お金、難しいからロイが考えて?』


 メリィが無表情のまま耳をへたらせてロイの顔を見上げれば、彼がバシッと彼女のモチモチな頬を摘まんだ。


「駄目だ。俺が悪い奴で、ベラベラ適当なこと喋ってお金を毟る様なやつだったらどうするんだよ。ちゃんと生活費とそれぞれの小遣いと雑費と貯金で分けるの。自立するってのはそう言うこと何だからな」


『頭痛い……』


 モチモチと抓られた頬よりも少し熱くなる頭の方に痛みを感じるらしく、メリィが両手で頭部を覆う。

 そうすると、守られていない額をロイがポフッと軽くチョップした。

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